攻略されていたのは、俺

三冬月マヨ

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攻略されていたのは、俺

【33】

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「まあ、彼等の手も借りて、ウーパールーパーの協力者が、学園長だと知る事が出来た訳だ。二人が愛人関係だと云う事もな」

 …マジか…。
 ウーパールーパー、男なら…ヤれるなら誰でも良いのか…。年齢差幾つだよ? てか、そんなバックがあるなら、そりゃあやりたい放題だわな。あんな風に高圧的にもなる訳だ。

「また、他にもアレに協力的な者がいるかも知れないと、俺との遣り取りを録音した物を流して、キヤク殿が用意してくれた人間と、リオに様子を見て貰っていた」

 ん?

「…リオ…?」

 何だか聞き覚えがある様な名前に、俺は首を傾げる。

「生徒会会計の、ミド・リオだ」

 …………そう言えば…デシオやらロリンとかって名前も…聞いた気がするな…。

「…あの…差支えが無ければ…生徒会の方々の、容姿とお名前を聞いても?」

 何か嫌な予感がするが、てか、確信に近いが…聞いておかなければならないだろう。

「ああ、君になら構わないだろう。まず、既に俺の部屋で出会った書記の名前が、ツイ・ピンタ。会計が緑色の髪が特徴のミド・リオ。副生徒会長が、ウーパールーパーの隣に居た長い黒髪が自慢のナ・デシオ。赤い髪に胸部が特徴的な者が雑用の、オサ・ロリンだ。…頭を抱えてどうした? …彼等も、君が言うゲームでは…」

 はい。
 その通りでございます。
 通りで見覚えがある筈だよっ!!
 生徒会長だけじゃなく、ヒロイン全員性転換してたよ!!
 ヒロインが見当たらない訳だよ!
 元からヒロイン居ないじゃんっ!!
 微妙に名前違ってるけど、男にデシコとか、ピンコ、リヌ、ロリリは無いよな!
 何だよこれ!?
 何考えているんだよ、田中サン!?

 …まあ…でも…。
 …これで、生徒会長の言う事も間違いではないと、確信出来た様な物だな。
 田中サンに纏わる都市伝説に、田中サンが書いて来た作品達…。キャラデザからムービーまで手掛けた会社…。何より、デフォルトのキャラの名前…。
 …ああ…きっと、隠し攻略キャラが判明した時…SNSは大いに炎上したんだろうなあ…。俺、頑なに見なかったからなあ…。

 …でも…。

 頭を抱えていた手を離して、俺はくすりと笑う。

 …知らない方が…ロマンティック…だからな…?

 本当に、人生なんて何が起こるのか解らない。
 一寸先は闇だなんて、良く言った物だ。
 だが、だからこそ面白い。
 何度も迷って、躓いて、間違って、そうして生きて行くんだ。
 それこそ、人生そのものがゲームの様に。

「…随分と吹っ切れた顔をしている…死の淵を彷徨って、悟りでも開いたのか?」

 俺は修行僧かよ。
 てか、死の縁って、生徒会長もめちゃくちゃ具合悪そうだったじゃないか。

「いえ、思い出しただけですよ…。それよりも、トイセ会長の方こそ、お身体をご自愛下さい。具合が宜しくないのに、あの様な行為は慎むべきです」

「………………………………悟りを開いた訳では無く、開き直っただけか? まあ、良い」

 だからっ! その間は何だよ!?
 可哀想な子を見る様な目で見るの止めてもらえませんかね!?
 泣きたくなるから!!

「…ウーパールーパーのそんな実態を知って、放置している訳には行かないからな。誰が、何時、あれの毒牙に掛かるのか、それを待つ気もなければ、犠牲者を出す気も無い。だから、俺は種を蒔いた。俺が、あれに気があるらしいと云う噂を、あれの耳に入る処で、生徒会役員達に吹聴させた。先日、君と買い物へ出る事も、あれの耳に入る様にした。案の定、あれはノコノコやって来て、自分に気があるらしい男に恥をかかされた訳だ。さぞかし腸が煮えくり返った事だろうな」

 喉の奥でクツクツと笑う生徒会長の顔を俺は呆然と見る。

 …マジか…。
 そう云えば、種を蒔いたとか言っていたな…野菜の種じゃなく、そう云う意味での種か…。
 てか、街でウーパールーパーと会ったのは、偶然じゃ無かったって事か…。

「それで、キヤク殿に頼んでいた媚薬が届いた事で、俺達はあれに最後の追い込みをかけた」

「…びやく…」

 具合が悪かったんじゃなくて…薬で発情してたって事か? 凄いな、そこまでするか生徒会長…。

「それを飲んで救護室へ行けば、あれは面白い具合に乗っかって来た」

 …あー…想像つくわー…したくないけど…。

「間違いで飲まされたのだと言えば、恥ずかしがらなくて良いとか、素直じゃないとか言い出してな…今、思い出しても鳥肌が立つ。まあ、俺は貞操帯を身に着けていたから、行為に及ぶ事は無かったが。あの時のあれの顔は見物だったな。救護室には、朝から室内には、ピンタが。窓の外には、デシオ、ロリン、リオが張り込んでいて、一部始終録画や録音をしていた。それが流れた時のあれの憤りは、やはり見事な物だった。俺を殴り付けようとした処を、デシオに取り押さえられ…後は、そうだな…君が見た通りだ」

「…自らを囮にですか…。…それは…メゴロウも、当然知っていたのでしょうね…」

 …だから、メゴロウは迷わず救護室まで走って行った訳だ…。
 …知らなかったのは、俺だけ…か…。
 何か…何だか寂しいな…。

「勘違いしないで欲しいが、決して君をないがしろにした訳ではない。君を想っての事だ」

 生徒会長の言葉に、俺の肩がピクリと震えたのが解った。
 まさか、メゴロウが言った"未来で襲われる生徒"が誰なのか知っているのか?
 メゴロウは、それが誰だか話したのか?
 ああ、いや…話さなくても…俺の様子を見て居れば解るか…街では、かなりみっともない姿を晒したしな…。

「…いえ…。…お気遣い…ありがとうございます…」

 悪いのは、弱い俺だ。
 俺が弱いから、メゴロウも生徒会長も、今回の事を話さなかったのだろう。
 けど、それでも。
 やっぱり。

「…寂しい物ですね…」
 
 こんな俺なんかじゃ、何の力にもなれない事は解っている。
 解ってはいるが、せめて話だけでもしてくれても良いじゃないか。
 メゴロウは、刺されるかも知れなかったんだぞ?

 俯いて、布団の上に置いていた手をぎゅっと握り締める。

「…そんな顔をしないでくれ」

 その手に影が落ちて、生徒会長の困った様な聞こえた。

「…トイセ会長…?」

 顔を上げれば、何時の間にか立ち上がった生徒会長が、困った様な顔をして笑って俺を見ていた。
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