攻略されていたのは、俺

攻略されていたのは、俺

【36】

　メゴロウの両手が、俺の首に回った。
　メゴロウの親指が、俺の喉仏を圧し潰す。
　
「…メ、ゴ…」

「…僕が…悪い子だから…駄目なの…？」

　息が思うように出来なくて苦しいし、ベッドヘッドへと押し付けられた背中が痛い。
　片膝をベッドの上へと乗せて、俺の首を絞めるメゴロウの瞳に光は無くて、ただ虚ろだった。

「…いい子になろうとしたのに…。傍に居たら…我慢出来ないから…。…頼みたくなんてなかったけど…生徒会長しか、頼める人が居なかったから…学園では…一番、力のある人だし…彼が傍に居れば、誰もケタロウ様に近付かないって…」

　…我慢って、何が…？
　…我慢なんて…そんなの…。

「…メ、ゴ…」

　両手を動かして、俺の首を絞めるメゴロウの手首を掴むが、息が上手く出来ないせいか、頭痛がしてきて力が入らない。それは、ただ、添えるだけの物になる。

「…でも…彼が…ケタロウ様を好きになるなんて…」

　…は…？

「…ケタロウ様が…彼を好きになるなんて…っ…！！」

　はあああああああああっ！？
　誰が誰を好きだって！？
　何を勘違いしているんだ！？

　余りにあまりな発言に、目を見開けば、メゴロウの目尻に涙が浮かぶのが見えた。

　…ああ…泣くなよ…。
　お前の涙に弱いんだよ、俺は…。
　お前には、何時も笑顔で居て欲しいんだよ…。

　メゴロウの手を掴んでいた手を俺は離して、その二つの手を伸ばして、メゴロウの頬を包んで、苦しいが自称王子様スマイルを浮かべた。
　…生徒会長から、凶悪だとのお墨付きを貰ったからな。これで怯んでくれたら有り難いが。

「…君は…また…私を、殺す、のかい…？」

「…っ…！？」
　
　見開いたメゴロウの目から、ぽたりと涙が落ちた。俺の首を絞める手の力が弱くなる。

　そこまでっ！？
　
　ちょっと、いや、かなりショックを受けながらも、俺は言葉を続ける。

「…また…私に何も言わせないで…やり直すつもりなのかい…？」

「…ケ、タ…ロウ…さま…？」

　俺がそう言えば、メゴロウの手から完全に力が抜けて、首からするりと外れて、ベッドの上へと落ちた。

「ねえ、メゴロウ？　逃げないで聞いてくれないかい？」

　呆然と目を見開いたまま、涙を流すメゴロウに、俺は片手で首を擦りながら、もう一度ベッドを…俺の隣をポンポンと叩いた。

「……………」

　メゴロウは少し悩んだ物の、両膝をベッドの上へと乗せると、後ろ手で靴を脱いで、のろのろと俺の隣に並んで両膝を抱えた。

「…うん…話しにくいかな…？　私の脚の上に乗ってくれるかい？」

　これじゃ、横顔しか見れないじゃないか。横を向きながら話すのも辛い。

「ケッ！？　ケタロウ様っ！？」

　こら。
　ここは病院だぞ。
　大きな声を出すんじゃない。
　ああ、でも、個室だから、防音とかはしっかりしているのかな？

「君の顔を見て話したいんだ。嫌かい？」

　ぎょっと目を見開いて声を荒げるメゴロウに、俺は軽く首を傾げて言う。

「～～～～～～～っ！！」

　ずるい、って声が聞こえた気がするが、俺はスルーした。
　真面目な話をするんだし、顔を見ながら話した方が良いだろう？　長い話になるだろうから、楽な姿勢の方が良いし。

　ポンポンと、柔らかな布団を叩けば、おずおずと俺の脚の場所を確認しながら、メゴロウが膝立ちになって跨いだから、俺は両手をメゴロウの腰へ回して掴んで、ぐっと下へと引っ張った。そうすれば、ぽすんと、メゴロウの尻が布団越しに俺の脚へと乗った。

「ケ、タロウ様…っ…！！」

「うん？　しっかり腰を落ち着けた方が良いだろう？」

「ううぅ…」

　向かい合うメゴロウの顔は、ちょっと高い位置にあるが、横を向くよりは楽だ。

「ねえ、メゴロウ？　君が私に話していない事がある様に、私も、君に話していない事があるんだよ。聞いてくれるかい？」

　落ち着かせる様に、片手でメゴロウの腰から背中を撫でて、片手では、濡れた頬を撫でながら俺が言えば、メゴロウは小さく頷いた。

　…やっぱり…右の頬、腫れてるな…殴られたのか？　誰に？　まあ…これは後で聞く事にして、先に俺の話をしよう。
　俺に、前世の記憶がある事を。　
　ここが、その前世でプレイしたゲームの世界だと云う事を。
　そして、お前に殺された記憶がある事を。
　それから…そんなお前でも、俺が好きだと云う事を…。