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攻略されていたのは、俺
【終】
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「…ああ、うん、頼んだよ。…じゃあ、土曜日に一度帰るよ。あと…春休みにも…」
『うおおおおおおっ!! 何故、今、旦那様と奥様は旅行で留守に』
耳が壊れる。
俺は無言で電話を切った。
メゴロウの調査を頼んだ時も、こうだったよな…と、俺は遠い目をした。
今、俺が電話をしていた相手は、執事のセヴァ・スチャンだ。長い事、家に勤めてくれているから、家族の様な…爺ちゃんの様なものだな。
「…っと」
遠い目をしている場合じゃない。お次は…。
どうやら、俺は無事(?)に死んだらしい。
本当に、どうしてこうなった。トホホ過ぎる。メゴロウに再会したら、滾々と説教しないとな。
そんな事を思いながら食堂へと入れば、どよっとしたざわめきが広がった。
うん、まあ、覚悟はしていたけどな。
入学から、約一年間、寮の食堂には顔を出さなかった俺だ。何事かと思うだろう。だが、ここで周囲のどよめきにビビって逃げ出す訳にはいかない。
「…居た」
この、ざわめきが広がる中で、視線をちらりと寄越しただけで、顔色一つ変えずに、食事を続ける男が。
メゴロウが言った通りに、彼の周りに座る者は居ないし、一緒に食事を摂る者もいない。
…まあ、一人だからと言って、それを気にする奴じゃないけどな。
「…お食事中、失礼します」
彼の座るテーブルの正面に立って、俺はテーブルの空いたスペースを軽く指先で叩いた。
「何だ?」
無愛想に、眼鏡を冷たく光らせて聞いて来るが、こんなのは、彼のパフォーマンスだ。実際は噴き出したり、動揺したりする事があると、俺は知っている。実は、めちゃくちゃ懐が広い事も。
「私は、ウ・ケタロウと申します。折り入って、トイセ新生徒会長にお話があるのですが、食後に私の部屋で、コーヒーを飲む時間を取って戴けますか?」
そう言って、メゴロウに怖くないと言われた、自称王子様スマイルを浮かべれば、生徒会長は思い切り顔を逸し、食堂内では悲鳴が上がり、厨房からは、ガチャガチャと賑やかな音が聞こえた。
…何でだ…。
…怖くない筈では…?
…メゴロウに騙されたのか…?
…泣いても良いかな…?
いや、泣いている場合じゃない。
俺が戻って来たのは、まだ一年生の三月の頭だった。生徒会長もまだ二年生で、生徒会長になったばかりだ。春休みに入る前に、ウーパールーパーを…学園の膿を掃き出してやる。その為に、執事にウーパールーパーと学園長の身辺調査を頼んだんだからな。後は、生徒会長の協力を仰ぐだけだ。
憂いの無い、楽しい学園生活を過ごさせてやるからな。期待してろよな。
◇
土曜日になって実家へ帰れば、執事を筆頭に…使用人全員に『生きて再び会えるなんて』と、号泣された。
…いや…まあ…確かに俺も悪かったけどさ…うん…。
サロンで両親が待ってると言われて行けば…やはり両親にも泣かれた…。
いや、もう、何の拷問だよ、これ…。
とにかく、出されたスコーンには目もくれずに、俺は紅茶を軽く飲んで、喉を湿らせてから口を開いた。
「ご報告が遅くなり申し訳ございません。…私、ウ・ケタロウは女神ガディシス様から天啓を受けました。つきましては、それに関しまして…私に、この家を、家業を継ぐ事が出来ない事をお詫び申し上げます」
目を丸くする二人に、人払いをしてから、俺は話した。
いずれ出逢うメゴロウの事。何時か訪れる災厄の事。
メゴロウの話をした時に、二人は顔を見合わせたが、俺は構わず話を続ける。
「これは、私が独自で調べた事なのですが…セ・メゴロウの兄君…」
「あの、ケタロウ? 良いかしら?」
「はい?」
「ドイ・ナカの町のセ家と言ったわよね?」
「ええ」
な、何だ?
そういや先刻メゴロウの話をした時に、二人顔を見合わせたな?
仮にも、女神様の天啓を無視しろとか言うんじゃないだろうな?
いや、無視した俺が言う事じゃないかも知れないが。
「いや、先日まで、ドイ・ナカの町に居てね、そこで美味しいブルーベリーを作っている…」
母の代わりに話す父の話を聞けば、二人は結婚記念日にドイ・ナカの町に旅行へ行っていたそうだ。うん、それは前世を思い出す前に、スチャンにメゴロウの事を調べて欲しいと、電話をした時に聞いて知っていた。いたが、何処へ行っているかまでは聞いていなかった。
のんびりしたいと行ったドイ・ナカの町で、ブルーベリーが評判の農園があると聞かされて向かった先が…マジか。あるのか、そんな偶然が。両親は、その美味しさに一目惚れして、商会で取り扱いたいと言ったが、そこまでの量は取れないと言われて、家で食べる分だけの契約をして前金で払い、更には拡大をと先行投資して来たと…え? 大丈夫か? 何か、頭に花が咲いてないか? って…あれ? じゃあ…もしかして…ニキタが持ち逃げした金って…?
「…それなら、話は早いですね…我がウ家とセ家の繋がりを、より強固な物にしましょう」
俺が自称王子様スマイルを浮かべれば、両親二人揃って、顔を両手で覆って泣き出してしまった。
おおおおおおおおいいいいいいいぃいいいいいっ!!
◇
何だかんだで賑やかな春休みを過ごし、新学期が始まり、ちらほらと話しもしてくれるクラスメイトが増えた頃、教師が一人の生徒を連れて教室に入って来た。黒い髪に、黒い瞳の平々凡々な少年を。
だが、俺は知って居る。彼の孤独を。彼の絶望を。彼が流した涙を。
緊張のせいか、右手と右脚が同時に出ているぞ、器用だな。
くすくすとした笑いが起こるが、俺は笑わない。
ただ、無言で、彼を…メゴロウを睨む様にして見る。
だって、逢えるとは思っていたが、やはり嬉しくて。
嬉しくて嬉しくて、泣いてしまいそうだったから。
名前を呼ばれて、俺は立ち上がり、机の間を縫って教壇へと歩いて行く。
一歩一歩、これまでの想いを噛み締める様に。
そして、メゴロウの前に立った。
「あ、あの…」
睨んだままの俺の耳に、メゴロウの心細そうな声が届く。
そこで、もう駄目だった。
そんなに不安そうにするなよ。
俺は大丈夫だって言っただろう?
ふっと口元を緩めて、俺は両手を広げる。
「お帰り、メゴロウ。待っていたよ」
その瞬間に、メゴロウの目が大きく見開かれ、教室内には黄色い悲鳴が響き渡って………時が止まった。
「ケタロウ様、ケタロウ様! 駄目です! あれは反則です! お仕置きです!!」
気が付いた時には、俺は床に倒れていた。
…下半身丸出しで。
そして、その剥き出しのちんこに、メゴロウがしゃぶりついていた。
――――――――何でっ!?
『うおおおおおおっ!! 何故、今、旦那様と奥様は旅行で留守に』
耳が壊れる。
俺は無言で電話を切った。
メゴロウの調査を頼んだ時も、こうだったよな…と、俺は遠い目をした。
今、俺が電話をしていた相手は、執事のセヴァ・スチャンだ。長い事、家に勤めてくれているから、家族の様な…爺ちゃんの様なものだな。
「…っと」
遠い目をしている場合じゃない。お次は…。
どうやら、俺は無事(?)に死んだらしい。
本当に、どうしてこうなった。トホホ過ぎる。メゴロウに再会したら、滾々と説教しないとな。
そんな事を思いながら食堂へと入れば、どよっとしたざわめきが広がった。
うん、まあ、覚悟はしていたけどな。
入学から、約一年間、寮の食堂には顔を出さなかった俺だ。何事かと思うだろう。だが、ここで周囲のどよめきにビビって逃げ出す訳にはいかない。
「…居た」
この、ざわめきが広がる中で、視線をちらりと寄越しただけで、顔色一つ変えずに、食事を続ける男が。
メゴロウが言った通りに、彼の周りに座る者は居ないし、一緒に食事を摂る者もいない。
…まあ、一人だからと言って、それを気にする奴じゃないけどな。
「…お食事中、失礼します」
彼の座るテーブルの正面に立って、俺はテーブルの空いたスペースを軽く指先で叩いた。
「何だ?」
無愛想に、眼鏡を冷たく光らせて聞いて来るが、こんなのは、彼のパフォーマンスだ。実際は噴き出したり、動揺したりする事があると、俺は知っている。実は、めちゃくちゃ懐が広い事も。
「私は、ウ・ケタロウと申します。折り入って、トイセ新生徒会長にお話があるのですが、食後に私の部屋で、コーヒーを飲む時間を取って戴けますか?」
そう言って、メゴロウに怖くないと言われた、自称王子様スマイルを浮かべれば、生徒会長は思い切り顔を逸し、食堂内では悲鳴が上がり、厨房からは、ガチャガチャと賑やかな音が聞こえた。
…何でだ…。
…怖くない筈では…?
…メゴロウに騙されたのか…?
…泣いても良いかな…?
いや、泣いている場合じゃない。
俺が戻って来たのは、まだ一年生の三月の頭だった。生徒会長もまだ二年生で、生徒会長になったばかりだ。春休みに入る前に、ウーパールーパーを…学園の膿を掃き出してやる。その為に、執事にウーパールーパーと学園長の身辺調査を頼んだんだからな。後は、生徒会長の協力を仰ぐだけだ。
憂いの無い、楽しい学園生活を過ごさせてやるからな。期待してろよな。
◇
土曜日になって実家へ帰れば、執事を筆頭に…使用人全員に『生きて再び会えるなんて』と、号泣された。
…いや…まあ…確かに俺も悪かったけどさ…うん…。
サロンで両親が待ってると言われて行けば…やはり両親にも泣かれた…。
いや、もう、何の拷問だよ、これ…。
とにかく、出されたスコーンには目もくれずに、俺は紅茶を軽く飲んで、喉を湿らせてから口を開いた。
「ご報告が遅くなり申し訳ございません。…私、ウ・ケタロウは女神ガディシス様から天啓を受けました。つきましては、それに関しまして…私に、この家を、家業を継ぐ事が出来ない事をお詫び申し上げます」
目を丸くする二人に、人払いをしてから、俺は話した。
いずれ出逢うメゴロウの事。何時か訪れる災厄の事。
メゴロウの話をした時に、二人は顔を見合わせたが、俺は構わず話を続ける。
「これは、私が独自で調べた事なのですが…セ・メゴロウの兄君…」
「あの、ケタロウ? 良いかしら?」
「はい?」
「ドイ・ナカの町のセ家と言ったわよね?」
「ええ」
な、何だ?
そういや先刻メゴロウの話をした時に、二人顔を見合わせたな?
仮にも、女神様の天啓を無視しろとか言うんじゃないだろうな?
いや、無視した俺が言う事じゃないかも知れないが。
「いや、先日まで、ドイ・ナカの町に居てね、そこで美味しいブルーベリーを作っている…」
母の代わりに話す父の話を聞けば、二人は結婚記念日にドイ・ナカの町に旅行へ行っていたそうだ。うん、それは前世を思い出す前に、スチャンにメゴロウの事を調べて欲しいと、電話をした時に聞いて知っていた。いたが、何処へ行っているかまでは聞いていなかった。
のんびりしたいと行ったドイ・ナカの町で、ブルーベリーが評判の農園があると聞かされて向かった先が…マジか。あるのか、そんな偶然が。両親は、その美味しさに一目惚れして、商会で取り扱いたいと言ったが、そこまでの量は取れないと言われて、家で食べる分だけの契約をして前金で払い、更には拡大をと先行投資して来たと…え? 大丈夫か? 何か、頭に花が咲いてないか? って…あれ? じゃあ…もしかして…ニキタが持ち逃げした金って…?
「…それなら、話は早いですね…我がウ家とセ家の繋がりを、より強固な物にしましょう」
俺が自称王子様スマイルを浮かべれば、両親二人揃って、顔を両手で覆って泣き出してしまった。
おおおおおおおおいいいいいいいぃいいいいいっ!!
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何だかんだで賑やかな春休みを過ごし、新学期が始まり、ちらほらと話しもしてくれるクラスメイトが増えた頃、教師が一人の生徒を連れて教室に入って来た。黒い髪に、黒い瞳の平々凡々な少年を。
だが、俺は知って居る。彼の孤独を。彼の絶望を。彼が流した涙を。
緊張のせいか、右手と右脚が同時に出ているぞ、器用だな。
くすくすとした笑いが起こるが、俺は笑わない。
ただ、無言で、彼を…メゴロウを睨む様にして見る。
だって、逢えるとは思っていたが、やはり嬉しくて。
嬉しくて嬉しくて、泣いてしまいそうだったから。
名前を呼ばれて、俺は立ち上がり、机の間を縫って教壇へと歩いて行く。
一歩一歩、これまでの想いを噛み締める様に。
そして、メゴロウの前に立った。
「あ、あの…」
睨んだままの俺の耳に、メゴロウの心細そうな声が届く。
そこで、もう駄目だった。
そんなに不安そうにするなよ。
俺は大丈夫だって言っただろう?
ふっと口元を緩めて、俺は両手を広げる。
「お帰り、メゴロウ。待っていたよ」
その瞬間に、メゴロウの目が大きく見開かれ、教室内には黄色い悲鳴が響き渡って………時が止まった。
「ケタロウ様、ケタロウ様! 駄目です! あれは反則です! お仕置きです!!」
気が付いた時には、俺は床に倒れていた。
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――――――――何でっ!?
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