攻略されていたのは、俺

三冬月マヨ

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おまけ

危機編・02

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 そよそよとした風が吹き、俺の身体を撫でて行く。
 僅かに温もりを孕むそれは、間違いなく春の訪れを告げていた。
 いた筈なのだが。

「…あつい…」

 俺は着ていた春物のコートを脱いで、シャツの袖を捲った。隣に立つメゴロウも、春物の淡い桜色のセーターを脱いで、その下に着ていた長袖のTシャツの袖を捲っている。

「…凄いですね…温室って、こんなに…父さん達、大丈夫かな…」

「いや…普通は、ここまでは暑くない筈だよ…」

 心配そうに眉を寄せたメゴロウの頭を俺は撫でた。
 俺達は今、大学部にある園芸サークルの温室に来ていた。
 大学部の建物内の様子を一通り見て、カフェで昼を食べて、腹ごなしに来たのだが。
 何だ、この暑さは。これじゃあ、メゴロウが心配するのも無理は無い。
 メゴロウのおかげで、ニキタが金を持ち出す事が無くなり、メゴロウの両親は、その金で温室を作った。年中ブルーベリーを収穫出来る様にだ。先刻のメゴロウの発言は、その温室で作業をする両親を心配しての物だ。

「そうですよね、ありがとうございます。それにしても…こんな真夏並みの暑さで、何を育てているんでしょう?」

「…ラフレシアとか…暑い地方でしか咲かない花を中心に育てているのかも知れないね…」

 温室に入った瞬間から、額に汗が滲み、背中や脇も汗を掻き、歩く度にそれが流れて来る。
 いや、もう、この暑さなら、バナナやパイナップルやマンゴーやココナッツがあっても驚かないぞ、俺は。
 春休みとは云え、植物を育てているからには、サークルのメンバーが誰かしらは居る筈なのだが。苺狩りなんかで見るビニールハウスよりも広いからか、人の姿が見当たらない。

「…って…これ、とうもろこしでは…?」

「…これ…苺…?」

 もわもわとした暑さをそれなりに我慢が出来る様になって、周りを見る余裕が出来たのか、俺達はそれに気付いた。
 俺とメゴロウが並んで歩く右手には、にょっきりと伸びたとうもろこしが。左手には、わさわさと茂った緑の合間から、赤い実が姿を覗かせていた。

「…え…園芸サークルでは…?」

 ぽそりと呟いた俺の口の端がひくひくと震えているのが解る。
 いや、俺達も園芸部と言いながら、菜園をやっていたが。いたが! 何で、温室が菜園になってんだよ!? ビニールハウスにしろよ!
 ああ、うん。俺達は、今回も園芸部を作った。
 メゴロウが来る前に、ウーパールーパーや学園長、他の教師数名を片付けたおかげで、俺と生徒会長はそれなりに仲良くなって、申請した時には快く受け付けてくれた。…とうもろこしを強請られたが。どんだけ好きなんだよ、あいつ。ま、前回の時と同じく、生徒会長はちょくちょく園芸部に顔を出し、活動に勤しみ、出来た採れたての野菜を食べて…いや、もう、あいつ部員でいいんじゃね? と、メゴロウや双子達と何度話した事か。
 生徒会長も大学部へと進んだが、高等部とは違い広いし、人数も多いから会う事は無いだろうな。

「…ケタロウ様…っ…! あそこ、誰かが倒れています!」

 そんな思い出に耽っていたら、メゴロウの切羽詰まったような声が直ぐ隣から上がった。
 
「え?」

 メゴロウが指差す方を見れば、地面を這う葉の上に、確かに倒れている人物が見えた。
 慌てて俺達は走り出す。
 この暑さだ。恐らくは熱中症で倒れたに違いない。
 近付いて行けば、その人物は俯せに倒れていて、首には白いタオルを巻いていて、白い半袖のTシャツに…下は…おい…あれ…もんぺか…? マジか…。そして、黒いゴム長…おい…何だ、その完璧スタイルは。園芸サークルだよな!? ってか、髪長いな!? 髪の毛青いな!? 横に落ちてる眼鏡には、とってもデジャヴを感じるな!? 顔を見るまでも無く、俺は叫んでいた。

「トイセ会長!!」
 
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