109 / 141
おまけ
危機編・09※
しおりを挟む
いや、頭を抱えている場合じゃない。
小さければ、つぶらな瞳が可愛いなんて言っていられるが、こんなハイエースサイズの図体で丸い目を向けられても怖いだけだ。ましてや、人を食うネズミなんて。
そんな事を思う俺の視線の先で、マウスが首を振り、それを投げ付けて来た。
頭が変形し、右腕が失くなり、腹が抉られ、内蔵を食い千切られたマバチの身体が、ドンッと音を立てて温室のガラスに当たり、赤い血の筋を垂らしながら地面へと落ちて行く。
「…う…」
メゴロウのお蔭で多少の免疫は出来ている物の、やはり、気分の良い物では無い。
再び込み上げて来た吐き気に、俺は口元を覆った。
そのメゴロウは、場慣れしていると云うか何と云うか、顎に手をあてて、何やら考え込んでいる様子だった。
バンッ!!
とした音が温室内に響き、逸していた視線を目の前のマウスへと戻せば、マウスは両前足で、バンバンと温室のガラスを叩いていた。
「うわ…」
おいおい、このガラス割られるんじゃないか? そうしたら、俺達はどうなる? マバチの様に食われるのか? 冗談じゃないぞ!
「…腹を空かせているみたいだな」
リバースしきったらしい先輩が、口元を腕で拭い、立ち上がりながら言った。
「いや、そんな落ち着いている場合じゃないでしょう?」
「取り敢えず、食べ物はあるからさ、そこの天窓から投げて、で、それに食い付いている間に、俺達は逃げる。どう?」
なるほど。天窓は高いが、テーブルに乗れば、何とかなりそだし、そこらに実ってる物を手当たり次第にもいで投げれば、いける、か?
てか、王子様のくせにタフいな。
「あ…」
と、ゴンベ王子の言葉に納得しかけた処で、メゴロウが声を上げた。
「…もう一匹居たのか…」
「あー…マウスだもんね…一匹って事はないか…」
嫌な予感がしつつ、バンバンガラスを叩くマウスの後ろを見れば、二匹、いや、三匹、いや、五匹!? わらわらと巨大マウスが、ガラスを叩く音に釣られる様に、こちらへと近付いて来るのが見えた。
「う、わ…」
しかも、その白い身体の所々に赤い斑点が見えると云う…。
おいおい…本当に何をしてくれてるんだ? 薬物学サークルの皆さんよ…。
「…ケタロウ様…あれ…」
更には、メゴロウに腕を引っ張られ、彼が指差す方を見れば、地面に落ちていたマバチが立ち上がろうとしている処だった。
「…は…?」
え…?
あれ…?
マバチは…死んだ…んだよ、な?
何で、動いているんだ…?
頭は変形してるし、耳から、鼻から、口から血やらなんやら出して居るし、食われた腹からは内蔵が飛び出ているのに…?
「…え? マバチ君、生きてる、の?」
いや!?
良く見て!?
目、白目剥いているよね!?
「マバチ君を助けなきゃ!」
お前の目は節穴かっ!?
「待てっ!!」
俺がそう叫ぶより早く、先輩がゴンベ王子の腕を掴んで止めた。
「え?」
そんな、メゴロウの驚きの声が聞こえた気がする。が、それと同時に、俺達は見た。ヨロヨロと、ゆらゆらと立ち上がったマバチが、信じられないぐらいの速さで、巨大マウスの腹に食い付く様を。
空いた天窓から、巨大マウスの叫び声が入りこんで来る。
耳を塞ぎたくなる絶叫だ。
マバチ…あいつ、どれだけ頑丈な顎をしているんだ?
地面に倒れて、バタバタと暴れるマウスの腹を、マバチはただ、噛み付き、皮を噛みちぎり、そこから飛ぶ血に目もくれず、ただ、マウスの血肉を貪っていた。
俺達は、ただ、言葉なくそれを見ていた。
そして、マバチは巨大マウスから口を離して立ち上がり、バンッと巨大マウスの血で更に汚れてしまった温室のガラスを叩いた。
その音に、俺達全員の身体がビクリと揺れる。
バンバンと、何度も何度も叩く。気のせいかも知れないが、それはとても強く、温室全体を揺らしている様に思えた。
小さければ、つぶらな瞳が可愛いなんて言っていられるが、こんなハイエースサイズの図体で丸い目を向けられても怖いだけだ。ましてや、人を食うネズミなんて。
そんな事を思う俺の視線の先で、マウスが首を振り、それを投げ付けて来た。
頭が変形し、右腕が失くなり、腹が抉られ、内蔵を食い千切られたマバチの身体が、ドンッと音を立てて温室のガラスに当たり、赤い血の筋を垂らしながら地面へと落ちて行く。
「…う…」
メゴロウのお蔭で多少の免疫は出来ている物の、やはり、気分の良い物では無い。
再び込み上げて来た吐き気に、俺は口元を覆った。
そのメゴロウは、場慣れしていると云うか何と云うか、顎に手をあてて、何やら考え込んでいる様子だった。
バンッ!!
とした音が温室内に響き、逸していた視線を目の前のマウスへと戻せば、マウスは両前足で、バンバンと温室のガラスを叩いていた。
「うわ…」
おいおい、このガラス割られるんじゃないか? そうしたら、俺達はどうなる? マバチの様に食われるのか? 冗談じゃないぞ!
「…腹を空かせているみたいだな」
リバースしきったらしい先輩が、口元を腕で拭い、立ち上がりながら言った。
「いや、そんな落ち着いている場合じゃないでしょう?」
「取り敢えず、食べ物はあるからさ、そこの天窓から投げて、で、それに食い付いている間に、俺達は逃げる。どう?」
なるほど。天窓は高いが、テーブルに乗れば、何とかなりそだし、そこらに実ってる物を手当たり次第にもいで投げれば、いける、か?
てか、王子様のくせにタフいな。
「あ…」
と、ゴンベ王子の言葉に納得しかけた処で、メゴロウが声を上げた。
「…もう一匹居たのか…」
「あー…マウスだもんね…一匹って事はないか…」
嫌な予感がしつつ、バンバンガラスを叩くマウスの後ろを見れば、二匹、いや、三匹、いや、五匹!? わらわらと巨大マウスが、ガラスを叩く音に釣られる様に、こちらへと近付いて来るのが見えた。
「う、わ…」
しかも、その白い身体の所々に赤い斑点が見えると云う…。
おいおい…本当に何をしてくれてるんだ? 薬物学サークルの皆さんよ…。
「…ケタロウ様…あれ…」
更には、メゴロウに腕を引っ張られ、彼が指差す方を見れば、地面に落ちていたマバチが立ち上がろうとしている処だった。
「…は…?」
え…?
あれ…?
マバチは…死んだ…んだよ、な?
何で、動いているんだ…?
頭は変形してるし、耳から、鼻から、口から血やらなんやら出して居るし、食われた腹からは内蔵が飛び出ているのに…?
「…え? マバチ君、生きてる、の?」
いや!?
良く見て!?
目、白目剥いているよね!?
「マバチ君を助けなきゃ!」
お前の目は節穴かっ!?
「待てっ!!」
俺がそう叫ぶより早く、先輩がゴンベ王子の腕を掴んで止めた。
「え?」
そんな、メゴロウの驚きの声が聞こえた気がする。が、それと同時に、俺達は見た。ヨロヨロと、ゆらゆらと立ち上がったマバチが、信じられないぐらいの速さで、巨大マウスの腹に食い付く様を。
空いた天窓から、巨大マウスの叫び声が入りこんで来る。
耳を塞ぎたくなる絶叫だ。
マバチ…あいつ、どれだけ頑丈な顎をしているんだ?
地面に倒れて、バタバタと暴れるマウスの腹を、マバチはただ、噛み付き、皮を噛みちぎり、そこから飛ぶ血に目もくれず、ただ、マウスの血肉を貪っていた。
俺達は、ただ、言葉なくそれを見ていた。
そして、マバチは巨大マウスから口を離して立ち上がり、バンッと巨大マウスの血で更に汚れてしまった温室のガラスを叩いた。
その音に、俺達全員の身体がビクリと揺れる。
バンバンと、何度も何度も叩く。気のせいかも知れないが、それはとても強く、温室全体を揺らしている様に思えた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
131
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる