攻略されていたのは、俺

三冬月マヨ

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番外編

告白【5】

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 今は自販機で百円で缶コーヒーは買えないとか…いや、買える自販機もあるが…未成年の喫煙はいけませんとか、シェリーって酒? とかと、頭の中で親父が歌っていた時に思った事が、ぐるぐると廻っていた。

 今、先輩は何て言った?

『君に恋心を持っている』

 確かに、そう聞こえた。
 いや、間違いなく、空耳でなく、俺の目を真っ直ぐと見て、先輩はそう俺に告げた。恋愛感情だと。

「…は…っ…」

 何時の間にか息を詰めていたみたいで、俺はそれを吐き出す。
 膝の上に置いていた、プルプル震える拳を更に握り締めて、俺は脳内で亜崎の十七の夜を歌い出した。
 落ち着け、落ち着け、俺。
 正直、椅子を蹴り飛ばして逃げ出したいが、我慢しろ。
 
 隙…じゃなくて好き?
 先輩が俺を?
 何で?
 俺、先輩に好かれる様な事をしたか?
 だって、今の先輩は…メゴロウに頼まれて俺を構っていた先輩じゃ、ない。
 当て馬? 汚れ役? …と言って良いのか解らないが、俺達の為にあれこれしてくれた先輩ではない。
 あの巻き戻った時間で、俺が食堂に居る先輩に協力を求めて声を掛けた…それだけの関係しか、ない。
 ああ、いや…けど、とうもろこしが好きなのは変わらなくて、戻る前の時間と同じく園芸部に顔を出していた…。メゴロウは、それを先輩が俺を好きだから…って、確かに言っていたが…事ある毎に言っていたが…俺は笑って、そんな事はないって言って来た。メゴロウは俺が好きだから、そう見えるんだろうって。メゴロウの気にしすぎ、メゴロウの欲目だって。
 だって、俺の何処に人に好かれる要素がある? 
 俺は…前世を思い出す前の…私…は、人を遠ざけていた。
 どうせ、消えるのだからって、深入りしない様に、思い出を残さない様に。
 前世を思い出してからは、俺は自分が生きたいが為だけにメゴロウに取り入った。
 そんな、最低な人間だ。
 それなのに、メゴロウは俺を好きでいてくれてる。
 俺しか要らないと言ってくれる。
 俺の為に、辛い孤独を味わったのに、それでも。
 俺を諦めれば楽になれたのに、それをしなかった。
 ただ、ただ、俺の為に狂気とも言える時間の中を過ごして来た。
 時間を巻き戻す事は出来るけど、時間を進める事は出来ない。いや、個人の肉体の時間なら出来る。ウーパールーパーにやった様に。けど、大きな…未来の時間へは進めないって言っていた。それは、未来は幾重にも分かれているからだと思う。ゲームだって、リセットすればその時間に戻れるが、そこから先の未来へ飛ばす事は出来ない。だって、やり直す為にリセットしたのだから。だから、メゴロウは…戻る度に、凡そ二年の歳月を過ごして来た訳で…俺のルートに入るのに、ストレートに行っても三十年、か…? あ、いや、ハーレムルートの後だから…三十六年…? …とにかく、長い…永い時間を繰り返して来た。
 それは、本当に狂気の沙汰だ。
 ゲームなら一度起きたイベントはスキップ出来るが、現実はそうはいかない。楽しいイベントも、辛いイベントも…何度も経験して…。何度も、何度も…気が狂ってもおかしくない…。
 でも。
 メゴロウは…それでも繰り返して来た…。
 俺の為に。
 俺を好きになった為に…。
 それを知らない人達の中で…。

「…使うと良い…」

「…え? あ、れ…?」

 苦しそうな先輩の声と共に、そっと青と白のチェックのハンカチを目の前に差し出されて、俺は何時の間にか泣いている事に気付いた。

「…ありがとうございます…」

 ポタポタと、俺の目から涙が落ちて行く。
 白樺かなんかは知らないが、木目調のテーブルに落ちて広がって行く。
 何で泣くんだ俺。
 泣くのは俺じゃ、ない。
 泣くのはメゴロウだろう?
 辛い時間を繰り返して来たのは、俺じゃない。
 俺に泣く権利なんかない。
 てか、何で先輩の前で泣くんだよ、俺は。
 引っ込め涙。

 膝の上に置いていた右手を動かして、そのハンカチを取ろうとした瞬間。
 その指先すれすれに、銀色のフォークが突き刺さっているのが見えた。
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