攻略されていたのは、俺

三冬月マヨ

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番外編

告白【4】

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 ひゅる~っと、冷たい風が吹く。
 まあ、俺も先輩もコート…いや、先輩のはガウンだが…を着たままだから、そんなに寒くは無い。
 は? 窓を閉めろって?
 いや、窓なんてここには無い。

「寒くはないか? 店内に戻るか?」

「いえ、大丈夫です。またあの様に騒がれては、お店に迷惑が掛かりますから…」

 だって、俺達は今、テラス店外に出てるから!
 この店、テラスあったのかよ!!
 通りからは見えない方に、テラスが設置してあるから気付かなかったよ!
 次にメゴロウとここに来る時は、テラス席をお願いしようそうしよう。
 いや、メゴロウ相手なら、俺の自称王子様スマイルは問題無いんだが、たまに先刻の店員の様に誤爆するんだよな…。その時も、やっぱり店内は阿鼻叫喚の地獄絵図になるから…俺は店内に居ない方が良いんだろうな。迷惑な客なら、それとなく追い帰したり、テラス席を勧めたりすると思うんだが、この店の人達優しいんだな。まあ、それもこれも腹一杯美味そうにメゴロウが食べるからだよな。メゴロウの食べる姿は可愛いからな。メゴロウ様様だな。

「…の事を考えているのか?」

「え?」

 向かいに座る先輩が、少しだけ不満を滲ませた様な声で聞いて来たから、俺は呆けてしまう。
 いや、だって先輩は何時もクール…いや…うん、マイペースで…巻き戻る前の時間の先輩は…咄嗟に反応出来ない事には赤面したりしたが…それ以外の事には、顔や声に出したりはしてなかった…筈…だよな? って…メゴロウ、か? …あれ? そう云えば、先輩ってメゴロウの事を名前で呼んだ事あったっけ? あれ?

「君のなかに彼が居る事は知って居る。君達を引き裂くつもりもない。だが、これだけは言わせて欲しい」

 な、何だ? 中って…メゴロウのちんこの事か? いや、今はインサートされてないぞ? されてたら、ここには居ないぞ? 何だ? ま、まさか、匂い…とか? 今日は先輩に会うから、昨夜はしてないし、大体、余程の事…燃えたり、萌え上がったりとか…が無い限りは休みの前の日にする様にしているし…。

「ウ・ケタロウ」

「は、はい…っ…!?」

 じっと、真っ直ぐと眼鏡の奥から鋭い瞳に睨まれて、俺はピンッと背筋を伸ばした。
 な、何だよ。睨むなよ。怖いだろう。眼鏡オブラート越しでも怖いぞ、その眼光。何だよ、今から俺、カツアゲでもされるのか? いや、先輩はそんな事はしないが…何だかそんな雰囲気がプンプンと漂って来ている。あれだ。こう、今から絞首台に向かう様な…それを告げられる様な…断罪される様な…そんな感じだ。
 何? 俺、やっぱり断罪される運命なのか?
 俺の断罪イベントは、ウーパールーパーと入れ替わったんじゃないのか?
 安心させて時間差で来るとか、そんなホラーやサスペンスの定番要らないから! 
 どう云う事なんですか、田中サン!?
 何処までがゲームのシナリオなんですかっ!?
 俺、泣いていいかな!?
 メゴロウに土産持って帰れないまま終わるのか!?
 メゴロウに不安な思いをさせたまま終わっていいのか!?

「好きだ」

「隙!?」

 俺に隙があるって?
 何だ? どんな隙だ?
 それが、この断罪に繋がったって事か?
 じわりと額に汗が浮かび上がって来る。
 膝の上に置いて握り締めた拳がプルプルと震え出す。
 やっぱり、アカデミックガウンを着ている先輩を見た瞬間に、ケツ捲って逃げれば良かった。呆けている場合じゃなかった。名前を呼ばれて、足を止めるんじゃ無かった。ああ、本当に隙だらけじゃないか。
 段々と顎が下がって行くのが解る。
 ごめんなメゴロウ。
 俺に隙があったばかりに…。

「…すまない…君がポンコツなのを忘れていた」

 なんて考えていたら、重く長い溜め息の後に疲れた様な声が聞こえた。

「いえ…気にしないで下さ…ん?」

 あれ? 今、何か物凄く失礼な事を言われなかったか?
 先輩の口から、らしくない単語が聞こえたぞ?
 それは、俺が何時も親父腐女神のガディシス様に言っている単語だぞ?
 
 そろそろと顔を上げれば、眼鏡を外して片手で顔を覆って高い秋の空を仰ぐ先輩が居た。
 
 …何か、何だか、物凄く心外と云うか不本意と云うか…いや…その、馴染みの姿に俺は安心した…。

「君に、遠回しに言っても伝わらない事は重々解っていたから、何も飾らずに言ったのだが、まさかそれすらも伝わらないとは…本当に君は面白い」

 先輩の顔が空から降りて来て、俺に向けられる。
 その目は、眼鏡オブラートがないのに、とても柔らかく優しく見えた。

「…は…?」

 そんな優しく包み込む様に見られて、俺は困惑した。

「まあ、それだけ彼を見ている…彼しか居ないと云う事か…」

 自嘲気味に笑う先輩に、俺はますます混乱する。誰か、俺にエ〇ナをかけてくれ。

「…あ、の…? 私は…断罪されるのでは…?」

 何だ?
 最後の情けなのか?
 そんな優しさは要らない。
 一気に止めを刺してくれ。

「断罪? 何がどうしてその思考に至ったのか興味があるが…まあ、その言葉を借りるのなら、今、現在進行形で断罪されているのは俺の方だろう」

「…は…?」

 先輩が断罪するんじゃなくて、されている?
 何で?

「俺は君に好意を抱いている。先輩や後輩、または友人。そう言った友愛ではなく、恋愛感情として。ウ・ケタロウ。俺は…君に恋心を持っている」

 ひゅるりと風が吹いて、地面に落ちていた色の付いた葉が、カサカサと流れて行くのが見えた。
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