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番外編
告白【3】
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そして、テ・リヤアへと到着すれば先輩は既に来ていた。
通りに面した窓際のテーブル席でカップを傾けている姿は、自然と俺の目を引いた。
いや、俺だけじゃないな。
『え、うそ…』とか『え? 何かの撮影…?』とか『カッコ良いんだけど…』とか、俺の後ろを通り過ぎる人達…主に女の子…から、ちょっと残念そうな声が聞こえて来ていた。
…うん…。
いや…あの時はまだ高校生だったし? 先輩は生徒会長だったし? 生徒の模範となるべく動いていたのは解る。解るが…今は、その高等部を卒業してキャンパスライフを送っている訳だよな? てか、よくよく考えたら、先輩の私服姿って見た事が無かったな?
「…良し。見なかった事にして帰ろう…」
後で、急に頭と腹と腰と尻と目と耳と鼻と歯が痛くなったって言おう。
グッと右手で拳を作って、俺はテ・リヤアに背中を向けた。
何か、コンッてガラスを叩く音が聞こえたが、空耳だ。
天高く空耳肥ゆる秋って言うからな。
「ウ・ケタロウ!」
しかし、二、三歩進んだ処で、俺の名を呼ぶ声がはっきりと耳に届いた。
通りを行く人達の視線が俺に集まる。
背中には先輩と、恐らくは店内に居る人達の視線が刺さっている。
ううう…マジか…何で名前を呼ぶんだよ…。
聞こえないフリをして、スタスタと去ると云う手もあるが、生憎と俺は足を止めてしまった。声に反応して止まってしまった。
こうなったら、もう逃げられないし、店内に入るしかない。
と、後ろを振り返ったら、テ・リヤアの店員がちょこんと笑顔を浮かべて立っていた。
何時の間にっ!?
「ウ・ケタロウ様ですね? お連れ様が二時間前からお待ちですよ」
笑顔のまま、店員は右肘を身体に付けて、手を軽く肩までの高さに上げた。…あれだ。エレベーターガールがやる仕草だ。上へ参りますとか、下へ参りますとか、で、そのピシッと優雅に揃えられた五本の指先が示すのは、その後ろにある窓だ。いや、その開けられた窓の向こうで、こちらを見ながらカップを傾けている先輩の姿だった。
声が聞こえると思ったら窓を開けたのか。そうか。
…てか、どんだけの時間前行動だよおおおおおおおおっ!?
◇
「…お待たせしました…。ああ、ミルクティーをお願いします、ホットで」
店員に連れられて、俺は店内に入り、先輩が陣取るテーブル席の向かいへと腰を下ろす。ついでにミルクティーを注文した。
「待ってはいない。せっかくだから、昼食をここで摂っていただけだ」
あ、そなの?
それなら気にしなくて良いのか?
俺とメゴロウも、気が付いたらそれくらいの時間居るしな。
「君達が良く利用しているから、興味があった。…懐かしい味がしたな」
ん?
あれ? 先輩ここ初めてなのか?
懐かしいって…あれか…母さんの味がするとか、田舎料理が何処か懐かしいとか、そんな意味か?
それとも…。
ふっと口元を緩める先輩に、何だかちょっと胸が擽ったくなってしまった。
そんな事がある筈が無いと思いながら、そうだったら良いなって思ってしまった。
俺が夢に見ていた様に、失くした時間が朧気でも残っていたのなら…メゴロウは繰り返して来た時間で、完全に一人では…孤独では無かったって思えるから…。
ほんのちょっとでも良い。何処かで見た様な…何か知っている様な…そんなので良い。デジャヴって、もしかしたら、そんな失くした時間の思い出なのかも知れないな。
…まあ、そんなおセンチな感情は少し脇へ置いてだ。
「…お話の前に、私から訊いても良いですか?」
俺は先輩が着ている物を見て口を開いた。
「何だ?」
「…何故…アカデミックガウンを着ているのですか…?」
そう。
先輩は、真っ黒なアカデミックガウンを着ていた。
何で卒業式でもないのに、そんなの着ているんだよ…。角帽が無いだけ、まだマシなのかも知れないが、それは異様に人目を引くぞ…。
「ああ。大学部には制服が無いからな。だから、代わりになりそうな物を着ただけだ。俺達は歴史ある王立学園に通う者であり、常にそれを意識しなければならない。例え休みであろうと、それを忘れてはならない。我々はそれを誇りに思い、通いたくとも通えない者達の」
うわあ、デジャヴ。
何だ? もしかして先輩は卒業まで私服は着ないのか?
何時もサークル活動の時にしか会わないから…まさか、あのゴンゼの白シャツとかもんぺが私服…なんて事は無い…よな?
「お待たせしました」
そんな事は無いと言ってくれと思った時、店員が注文したミルクティーを持って来た。
「ありがとう」
先刻、外まで出て貰ってしまったからな。
だから、その詫びも籠めて俺は自称王子様スマイルを浮かべてお礼を言った。
「…っひゅっ!!」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!!!!」
そうしたら、店員は変な声を出した後に、ピキッて直立不動で固まってしまった。
更に、店内では声にならない叫び声があちらこちらから上がっていた。
「…君は笑わない方が良いな…」
先輩が片手で顔を隠して、天を仰いでいた。
うん、デジャヴだなっ!!
通りに面した窓際のテーブル席でカップを傾けている姿は、自然と俺の目を引いた。
いや、俺だけじゃないな。
『え、うそ…』とか『え? 何かの撮影…?』とか『カッコ良いんだけど…』とか、俺の後ろを通り過ぎる人達…主に女の子…から、ちょっと残念そうな声が聞こえて来ていた。
…うん…。
いや…あの時はまだ高校生だったし? 先輩は生徒会長だったし? 生徒の模範となるべく動いていたのは解る。解るが…今は、その高等部を卒業してキャンパスライフを送っている訳だよな? てか、よくよく考えたら、先輩の私服姿って見た事が無かったな?
「…良し。見なかった事にして帰ろう…」
後で、急に頭と腹と腰と尻と目と耳と鼻と歯が痛くなったって言おう。
グッと右手で拳を作って、俺はテ・リヤアに背中を向けた。
何か、コンッてガラスを叩く音が聞こえたが、空耳だ。
天高く空耳肥ゆる秋って言うからな。
「ウ・ケタロウ!」
しかし、二、三歩進んだ処で、俺の名を呼ぶ声がはっきりと耳に届いた。
通りを行く人達の視線が俺に集まる。
背中には先輩と、恐らくは店内に居る人達の視線が刺さっている。
ううう…マジか…何で名前を呼ぶんだよ…。
聞こえないフリをして、スタスタと去ると云う手もあるが、生憎と俺は足を止めてしまった。声に反応して止まってしまった。
こうなったら、もう逃げられないし、店内に入るしかない。
と、後ろを振り返ったら、テ・リヤアの店員がちょこんと笑顔を浮かべて立っていた。
何時の間にっ!?
「ウ・ケタロウ様ですね? お連れ様が二時間前からお待ちですよ」
笑顔のまま、店員は右肘を身体に付けて、手を軽く肩までの高さに上げた。…あれだ。エレベーターガールがやる仕草だ。上へ参りますとか、下へ参りますとか、で、そのピシッと優雅に揃えられた五本の指先が示すのは、その後ろにある窓だ。いや、その開けられた窓の向こうで、こちらを見ながらカップを傾けている先輩の姿だった。
声が聞こえると思ったら窓を開けたのか。そうか。
…てか、どんだけの時間前行動だよおおおおおおおおっ!?
◇
「…お待たせしました…。ああ、ミルクティーをお願いします、ホットで」
店員に連れられて、俺は店内に入り、先輩が陣取るテーブル席の向かいへと腰を下ろす。ついでにミルクティーを注文した。
「待ってはいない。せっかくだから、昼食をここで摂っていただけだ」
あ、そなの?
それなら気にしなくて良いのか?
俺とメゴロウも、気が付いたらそれくらいの時間居るしな。
「君達が良く利用しているから、興味があった。…懐かしい味がしたな」
ん?
あれ? 先輩ここ初めてなのか?
懐かしいって…あれか…母さんの味がするとか、田舎料理が何処か懐かしいとか、そんな意味か?
それとも…。
ふっと口元を緩める先輩に、何だかちょっと胸が擽ったくなってしまった。
そんな事がある筈が無いと思いながら、そうだったら良いなって思ってしまった。
俺が夢に見ていた様に、失くした時間が朧気でも残っていたのなら…メゴロウは繰り返して来た時間で、完全に一人では…孤独では無かったって思えるから…。
ほんのちょっとでも良い。何処かで見た様な…何か知っている様な…そんなので良い。デジャヴって、もしかしたら、そんな失くした時間の思い出なのかも知れないな。
…まあ、そんなおセンチな感情は少し脇へ置いてだ。
「…お話の前に、私から訊いても良いですか?」
俺は先輩が着ている物を見て口を開いた。
「何だ?」
「…何故…アカデミックガウンを着ているのですか…?」
そう。
先輩は、真っ黒なアカデミックガウンを着ていた。
何で卒業式でもないのに、そんなの着ているんだよ…。角帽が無いだけ、まだマシなのかも知れないが、それは異様に人目を引くぞ…。
「ああ。大学部には制服が無いからな。だから、代わりになりそうな物を着ただけだ。俺達は歴史ある王立学園に通う者であり、常にそれを意識しなければならない。例え休みであろうと、それを忘れてはならない。我々はそれを誇りに思い、通いたくとも通えない者達の」
うわあ、デジャヴ。
何だ? もしかして先輩は卒業まで私服は着ないのか?
何時もサークル活動の時にしか会わないから…まさか、あのゴンゼの白シャツとかもんぺが私服…なんて事は無い…よな?
「お待たせしました」
そんな事は無いと言ってくれと思った時、店員が注文したミルクティーを持って来た。
「ありがとう」
先刻、外まで出て貰ってしまったからな。
だから、その詫びも籠めて俺は自称王子様スマイルを浮かべてお礼を言った。
「…っひゅっ!!」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!!!!」
そうしたら、店員は変な声を出した後に、ピキッて直立不動で固まってしまった。
更に、店内では声にならない叫び声があちらこちらから上がっていた。
「…君は笑わない方が良いな…」
先輩が片手で顔を隠して、天を仰いでいた。
うん、デジャヴだなっ!!
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