攻略されていたのは、俺

三冬月マヨ

文字の大きさ
141 / 141
番外編

告白【完】

しおりを挟む
「…ケタロウ様は…何の取柄も無い僕でも…好きで居てくれる…?」

 不安そうに、黒い瞳を揺らせるメゴロウに俺は目元を緩めて頷く。

「お前だから、好きなんだよ。俺の為にがむしゃらに頑張ってくれたお前も好きだし、俺の手から美味しそうに食べてくれるのも好きだし、俺の為にコーヒーを淹れてくれるのも好きだし、朝、俺の腕の中で目覚めて笑ってくれるのも好きだし、お前が育てた野菜も美味しくて好きだし…」

「わっ!?」

 言いながら、俺は両手を伸ばしてメゴロウの腕を掴み、身体を引き寄せた。
 倒れない様にと踏ん張ったメゴロウの片膝が、俺の脚の間に沈む。

「あ、危ないです!」

 近付いた焦るメゴロウの頬を、腕から離した両手で俺は包み込む。自由になったメゴロウの両手は、俺を挟む様にして、ソファーの背凭れに置かれた。

「うん、こんな風に慌てるお前も可愛くて好きだ。取柄だなんて、お前がお前らしく居る事。それ以外に何か必要か?」

 取柄なんて、それこそ俺には何もない。
 いや、笑顔が凶悪だと云うのは取柄になるのか?
 何の取柄も無くて、良い。
 ただ、お前が笑っていてくれたら、それで良い。
 何時か、お前が実家の農園を継いで、その隣に俺が居れば、それで良い。

「不思議な力なんて要らない。それが取柄だって言うなら、無くて良い。俺は…ただ、お前と先の解らない未来にドキドキしながら歩いて行きたい…それだけで良い…お前が俺の隣に居てくれたら、それで良いんだ」

「…ケタロウ様…」

 メゴロウの揺れる瞳から、ボロボロと涙が零れて俺の手の上を流れて行く。
 ごめんな、もっと早くに言ってやれば良かったな。
 俺がお前がその力を好ましく思っていない事は、帰り道の発言で気付いたんだろう。だから、メゴロウは視線を泳がせて、渋々と頷いた。きっと、怖かったんだと思う。その力があったから、俺を助ける事が出来た。その力が無ければ、自分はただの、何の取柄も無いガキだと思っているのかも知れない。そんな事は無い。お前が俺を好きになってくれたから、俺は、ここに居る。それで良いじゃないか。シンプルに行こうぜ?

「俺と、同じ時間を生きてくれ」

 顔を引き寄せて、ポロポロと涙を流す目尻に口付ければ、メゴロウは擽ったそうに笑って『はい』と、頷いた。

 ◇

「…そう言えば…」

 あれから夕食の時間になって、腿上げと泣いた事で腹に余裕の出来たメゴロウにご飯を食べさせて、部屋に戻ってのコーヒータイム中、隣に並んで座るメゴロウに、俺は気になっていた事を聞いた。

「先輩の誘いを受けた日、殿下は君に何を言ったんだい?」

 うん、やっぱり、この話し方の方が落ち着く。
 元の話し方に戻った俺に、メゴロウはちょっと残念そうな顔をした。
 ま、まあ、たまには、あの話し方をするから許して欲しい。

「…えっと…『男のけじめをつけるんだよ。黙って、送ってくれない? 君も、何時までもやきもきしたくないでしょ?』って…それから…『ついでに、トイセ君の泣き顔が見られるかも知れないよ?』って…」

 ゴンべ王子、鬼だな!?
 てか、それって、端から、メゴロウを巻き込んで覗き見する気満々だったって事だよな!?
 メゴロウも、そんな誘いにホイホイ乗るんじゃない!
 誰か知らない人にご飯奢るって言われて、その誘いに乗ったりしないよな?

「…あの…ごめんなさい…」

「いや…君が謝る事はないよ…悪いのは殿下だからね…」

 まあ、けど、それで俺は意外な事実を知ったし…メゴロウのもやもやも晴れたんなら、それはそれで良いけどさ…。…先輩には悪いと思うが、入学した時から好きだったと言われても、俺はやっぱり、先輩には友愛以上の想いは抱けない。その気持ちが嬉しかった事に、間違いは無い。だから、ありがとうってお礼を言った。もしかしたら、それは酷い言葉だったのかも知れない。
 けど、でも…。

「…君が好きだよ、メゴロウ」

 誰を傷付けても構わない。
 万人に好かれようだなんて思わない。
 俺は、ただ、メゴロウが好きだから。
 俺が好きなメゴロウが、俺を好きで居てくれるのなら、それで良い。

「はい、僕もです!」

 隣に並ぶメゴロウの左手を取って、その手の甲に口付けて言えば、メゴロウは顔を真っ赤にしたけど、それでも嬉しそうに笑ってくれた。
 だから、俺も笑う。

「ありがとう」

 会計の時に、ゴンべ王子が『店長を呼んで貰えるかな? 話があるんだ』って魅せた、本物の王子様スマイルを頭に浮かべて。
 軽く首を傾げて、少しだけ目を細めた上目遣いで、唇は緩やかに弧を描いていて…。

「…っ!! ケ、ケタロウ様は笑わないで下さいっ!! 皆、死にますっ!!」

 しかし、メゴロウは両手を俺の顔に押し付けて、そう叫んだ。

 何でっ!?
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

紘
2022.06.04

完結おめでとうございます!
面白い作品ありがとうございました!読んでいてとても楽しかったです。やっぱり終わってしまうと、まだ読んでいたいなぁって気持ちになってしまいます。それくらいとっても面白かったです!
新しい作品に出会えることを心待ちにしています!

2022.06.04 三冬月マヨ

紘様。

とても嬉しいお言葉ありがとうございます。
おまけを書く予定でいますので、その時に、また見て戴けたら嬉しいです(n*´ω`*n)

解除

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。