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番外編・祭
特別任務【八】
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「だーかーらー、アタイと月兎は遊びで来てるの。アンタ達は仕事だろ? 食事の支度はアタイと月兎に任せてアンタ達は休んでなって」
「働かざる者食うべからず、ですからね。菅原様と白樺様はどうぞごゆるりと寛いでいて下さい」
高梨と瑞樹が保養所へと戻って来たら、厨房が何やら騒がしく、様子を見に来てみれば、みくと月兎と瑠璃子と亜矢が何やら揉めていた。
「どうした?」
「ああ、雪緒君のダンナ。聞いておくれよ。食事の支度はアタイと月兎の二人でするって言ってるのにさ…」
高梨が声を掛ければ、みくが困ったと云う様に右手で頭の後ろを掻きながら、軽く唇を尖らせて高梨を見て来た。
「私達は女子です。女子が食事の支度をするのは普通ですよね!? だから、私と亜矢ちゃんで作ろうとしたんですけど、みくさんに止められて…!」
「女のくせに飯も作れないのかって、言われたくないし!」
そんなみくの後ろから瑠璃子と亜矢が出て来て、高梨の前に立つ。
(こ…怖い…)
不機嫌そうな二人の様子に、高梨の隣に居た瑞樹が僅かに頬を引き攣らせて一歩後ろへと下がって、ちらりと高梨の背中を見る。
(…やっぱり、高梨隊長は凄いな…。思わず、俺、引いちゃったけど、びくともしないんだもんな。俺も、もっと歳を取ればこうなるのかな?)
と、瑞樹は思ったが、自分がその高梨を脅かせた事には気付いてはいないらしい。
「ですが、お二人とも竈での調理には慣れていないでしょう?」
(つ、強い…)
そして、自分より年下の月兎の動じない態度に、ちょっと凹んだ瑞樹だった。
「うっ!」
「そ、そこは教えてくれれば…っ…!」
月兎の冷静な指摘に、瑠璃子は言葉に詰まり、亜矢は食い下がる。水道も瓦斯も無いここの調理場には、ドンと立派な竈が鎮座していた。
みくも月兎も、里で散々竈を利用して来たから、竈での料理はお手の物である。
「成程な。まあ、せっかくみくと月兎が作ってくれると言うのだから、任せれば良い。何時もは勤務の後に家事をしているのだろう? たまに休んでも罰は当たらんし、俺達の中に女のくせにとか言う奴なぞ居ない。それに、慣れない調理場での作業で怪我をされて、仕事に支障が出ては困る。ここは慣れている二人に任せるのが吉だろう」
「う…」
「そうですけど…」
それぞれの言い分に耳を傾けてから発した、高梨のもっとも過ぎる言葉に、瑠璃子と亜矢は確かにその通りだと頭を下げるしかない。
ここへは仕事で来ているのだ。はっきりと言えば食事等二の次で、腹にさえ入れば良い物なのだ。新月の時の夕食が良い例である。それに心血注いで怪我でもして、肝心の妖の討伐が疎かになってしまっては、本末転倒もいい処だろう。
「はーいはい! てな訳で二人は休んだ休んだ。ああ、でも、どうしてもってぇんなら、食器を洗ってくれると助かるかな? ここの、ちょいちょい汚れてんだよね」
「そうですね。そうして貰えたら助かります」
みくが食器棚を指差して苦笑すれば、月兎がポンと笑顔で両手を叩く。
「あ、うん!」
「じゃあ、桶と盥を用意して来ますね!」
笑顔で瑠璃子が食器棚へと駆け寄り、亜矢もまた笑って勝手口から外へと出て行った。
笑顔を取り戻した二人を見て、瑞樹は、やはりみくも大人なんだな、と思った。
「ダンナ、ありがとうね」
「中々引き下がってくれないので、困ってました」
二人から礼を言われて、高梨は片手をひらひらと振る。
「礼なぞ要らん。お前達が来なければ、俺達で外で炊き出しをしていた処だ。竈は俺も使った事はないからな、助かる。人手が欲しければ手伝うが」
高梨の手伝いと云う言葉に、今度はみくが笑いながらひらひらと片手を振る。
「ああ、要らない要らない。食器洗いは今、二人に頼んだし、米砥ぎは若い兄サンに頼んだし」
「お野菜等の皮剥きも頼んでありますし…井戸周りは凄い事になっているのではないでしょうか…」
「…何時の間に…」
みくと月兎の言葉に、高梨は舌を巻くしか無かった。
「ま、そんな訳だからさ、囲炉裏ででも寛いでいてよ。あ、火は入れてあったっけ? 火鉢の用意も…」
「ああ、じゃあそれは俺達がやろう。行くぞ橘」
「あ、はい」
顎に指をあてて、考える様にするみくに高梨は軽く右手を上げて制して、瑞樹を連れて厨房を後にした。
囲炉裏に火を入れれば、何せ六つもあるのだ。建物内はそれなりに暖かくなるだろう。後は寝泊まりする各々の部屋に火鉢を置けば、万全だろう。
建物の修繕は、ベニヤを打ち付けるだけだが、それなりに終わっていそうだった。これならば、問題無く雨風を凌げる事だろう。
◇
「…いや…だからさ…惚れた者同士が二人で居たら、自然とそうなるもんだろ…」
カサカサとパキパキとした音を立てながら、天野と優士は山の中を歩いていた。高梨に指示された通りに探索を終えて、保養所へと戻っている最中なのだが。
「それが、そうならないから相談しているんです。俺としては、早々に瑞樹の失敗を修正させて自信をつけさせてやりたいのに。このままでは、不能になってしまうのではないかと。天野副隊長とみくさんの最初の時はどうだったんですか? 普段はどういう風にしているんですか?」
(たーすけてくれー…)
と、天野はガクリと肩を落とし、その後ろを歩く優士からのビシビシとした塩な目線を浴びながら、何処か遠くを見ながら歩いて居た。
(…いや…もうさ…真面目な奴程、拗らせたらヤバいもんなあ…。…ゆかりんの石頭砕くのに、ゆずっぺ苦労してたからなあ~…)
はあ~と、長く重い息を吐きながら、天野はもう、どうとでもなれと思いながら口を開く。
「…俺さあ…最初の時、みくちゃんに押し倒されたんだ…」
「それは、みくさんが挿入する側だからですよね。別段報告する様な事では無いかと思いますが」
「…女だと思ってた…」
「…は…?」
「一目惚れして、その場で求婚して返事貰って結婚した。で、中々手を出さない俺に、みくちゃんが業を煮やして、俺を押し倒してペロリと頂かれた」
そこで足を止めて後ろを振り返れば、何時もの塩では無く驚きに目を瞬かせる優士が居て、天野は軽く肩を竦めて見せた。
「働かざる者食うべからず、ですからね。菅原様と白樺様はどうぞごゆるりと寛いでいて下さい」
高梨と瑞樹が保養所へと戻って来たら、厨房が何やら騒がしく、様子を見に来てみれば、みくと月兎と瑠璃子と亜矢が何やら揉めていた。
「どうした?」
「ああ、雪緒君のダンナ。聞いておくれよ。食事の支度はアタイと月兎の二人でするって言ってるのにさ…」
高梨が声を掛ければ、みくが困ったと云う様に右手で頭の後ろを掻きながら、軽く唇を尖らせて高梨を見て来た。
「私達は女子です。女子が食事の支度をするのは普通ですよね!? だから、私と亜矢ちゃんで作ろうとしたんですけど、みくさんに止められて…!」
「女のくせに飯も作れないのかって、言われたくないし!」
そんなみくの後ろから瑠璃子と亜矢が出て来て、高梨の前に立つ。
(こ…怖い…)
不機嫌そうな二人の様子に、高梨の隣に居た瑞樹が僅かに頬を引き攣らせて一歩後ろへと下がって、ちらりと高梨の背中を見る。
(…やっぱり、高梨隊長は凄いな…。思わず、俺、引いちゃったけど、びくともしないんだもんな。俺も、もっと歳を取ればこうなるのかな?)
と、瑞樹は思ったが、自分がその高梨を脅かせた事には気付いてはいないらしい。
「ですが、お二人とも竈での調理には慣れていないでしょう?」
(つ、強い…)
そして、自分より年下の月兎の動じない態度に、ちょっと凹んだ瑞樹だった。
「うっ!」
「そ、そこは教えてくれれば…っ…!」
月兎の冷静な指摘に、瑠璃子は言葉に詰まり、亜矢は食い下がる。水道も瓦斯も無いここの調理場には、ドンと立派な竈が鎮座していた。
みくも月兎も、里で散々竈を利用して来たから、竈での料理はお手の物である。
「成程な。まあ、せっかくみくと月兎が作ってくれると言うのだから、任せれば良い。何時もは勤務の後に家事をしているのだろう? たまに休んでも罰は当たらんし、俺達の中に女のくせにとか言う奴なぞ居ない。それに、慣れない調理場での作業で怪我をされて、仕事に支障が出ては困る。ここは慣れている二人に任せるのが吉だろう」
「う…」
「そうですけど…」
それぞれの言い分に耳を傾けてから発した、高梨のもっとも過ぎる言葉に、瑠璃子と亜矢は確かにその通りだと頭を下げるしかない。
ここへは仕事で来ているのだ。はっきりと言えば食事等二の次で、腹にさえ入れば良い物なのだ。新月の時の夕食が良い例である。それに心血注いで怪我でもして、肝心の妖の討伐が疎かになってしまっては、本末転倒もいい処だろう。
「はーいはい! てな訳で二人は休んだ休んだ。ああ、でも、どうしてもってぇんなら、食器を洗ってくれると助かるかな? ここの、ちょいちょい汚れてんだよね」
「そうですね。そうして貰えたら助かります」
みくが食器棚を指差して苦笑すれば、月兎がポンと笑顔で両手を叩く。
「あ、うん!」
「じゃあ、桶と盥を用意して来ますね!」
笑顔で瑠璃子が食器棚へと駆け寄り、亜矢もまた笑って勝手口から外へと出て行った。
笑顔を取り戻した二人を見て、瑞樹は、やはりみくも大人なんだな、と思った。
「ダンナ、ありがとうね」
「中々引き下がってくれないので、困ってました」
二人から礼を言われて、高梨は片手をひらひらと振る。
「礼なぞ要らん。お前達が来なければ、俺達で外で炊き出しをしていた処だ。竈は俺も使った事はないからな、助かる。人手が欲しければ手伝うが」
高梨の手伝いと云う言葉に、今度はみくが笑いながらひらひらと片手を振る。
「ああ、要らない要らない。食器洗いは今、二人に頼んだし、米砥ぎは若い兄サンに頼んだし」
「お野菜等の皮剥きも頼んでありますし…井戸周りは凄い事になっているのではないでしょうか…」
「…何時の間に…」
みくと月兎の言葉に、高梨は舌を巻くしか無かった。
「ま、そんな訳だからさ、囲炉裏ででも寛いでいてよ。あ、火は入れてあったっけ? 火鉢の用意も…」
「ああ、じゃあそれは俺達がやろう。行くぞ橘」
「あ、はい」
顎に指をあてて、考える様にするみくに高梨は軽く右手を上げて制して、瑞樹を連れて厨房を後にした。
囲炉裏に火を入れれば、何せ六つもあるのだ。建物内はそれなりに暖かくなるだろう。後は寝泊まりする各々の部屋に火鉢を置けば、万全だろう。
建物の修繕は、ベニヤを打ち付けるだけだが、それなりに終わっていそうだった。これならば、問題無く雨風を凌げる事だろう。
◇
「…いや…だからさ…惚れた者同士が二人で居たら、自然とそうなるもんだろ…」
カサカサとパキパキとした音を立てながら、天野と優士は山の中を歩いていた。高梨に指示された通りに探索を終えて、保養所へと戻っている最中なのだが。
「それが、そうならないから相談しているんです。俺としては、早々に瑞樹の失敗を修正させて自信をつけさせてやりたいのに。このままでは、不能になってしまうのではないかと。天野副隊長とみくさんの最初の時はどうだったんですか? 普段はどういう風にしているんですか?」
(たーすけてくれー…)
と、天野はガクリと肩を落とし、その後ろを歩く優士からのビシビシとした塩な目線を浴びながら、何処か遠くを見ながら歩いて居た。
(…いや…もうさ…真面目な奴程、拗らせたらヤバいもんなあ…。…ゆかりんの石頭砕くのに、ゆずっぺ苦労してたからなあ~…)
はあ~と、長く重い息を吐きながら、天野はもう、どうとでもなれと思いながら口を開く。
「…俺さあ…最初の時、みくちゃんに押し倒されたんだ…」
「それは、みくさんが挿入する側だからですよね。別段報告する様な事では無いかと思いますが」
「…女だと思ってた…」
「…は…?」
「一目惚れして、その場で求婚して返事貰って結婚した。で、中々手を出さない俺に、みくちゃんが業を煮やして、俺を押し倒してペロリと頂かれた」
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