寝癖と塩と金平糖

三冬月マヨ

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番外編・祭

特別任務【七】

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 みく達が遠い目をしていた頃、せいは意気揚々と山の中を駆けずり回り、高梨達は地図を手に、山の中を探索していた。気になる箇所があれば、そこに印を付け、一言二言の文言を書き記して行く。山の隅々まで把握したい処もあるが、保養所からそう離れる必要は無いだろう。一般に開放した時に、その者達が行動するであろう範囲内の探索だけで良い。開放の時には、朱雀を常駐させる話だと云うから、細かな処はその者達に任せれば良いだろうと云うのが高梨の見解だ。
 今回は新月でもあるし、また、見慣れぬ者達の来訪にあやかしがどの様な反応を示すのかも気になる処である。
 篝火に興味を持って近付いて来るのか、或いは遠ざかって行くのか。
 この山に棲む妖達は、山の恵みを取りに来た人間を襲った事があるのか。または人里に降りて襲った事があるのか。無いのであれば、それは保護の対象になるのか。もっとも、保護の対象となる妖との遭遇率は低いのだが。
 
「…地割れあり。足元に注意っと」

 高梨に指示された通りに、瑞樹みずきが地図に注意点を書き記して行く。

「まあ、こんな処だろうな。実際に動くのは夜だ。深追いは禁物だ」

 視界の邪魔になりそうな枝を払いながら、高梨が探索の終わりを告げた。今頃、天野も同じ様に優士ゆうじに告げている事だろう。

「はい」

 そう返事をしてから、瑞樹は地図を畳んで胸にあるポケットへとしまい込むと同時に小さく息を吐いた。
 枯れた草や落ちている落ち葉等を踏み締めながら、そんな瑞樹の様子に高梨は軽く肩を竦めた。

「どうした? 疲れたか? ここまでの移動もあるから仕方がないが、明日は本番だ。今夜はゆっくりと休む事だな」

 まあ、ほぼほぼ星が壊した窓や壁が無事に修復出来ていればの話だが。と云う言葉を高梨は飲み込んだ。幸い屋根には被害が無かったから、それなりに雨風は凌げる筈だ。なるべく無事な部屋を瑠璃子と亜矢、そして経験の浅い瑞樹と優士に割り当てて、他は雑魚寝でも良いかと高梨が考えを巡らせていた時、瑞樹が口を開いた。

「ああ、いや…いえ…疲れはそうでもなくて…雪緒ゆきおさん心配じゃないのかなって…」

 ピクリと高梨の眉が動いたが、瑞樹は気付かずに言葉を続ける。

「…こんな何日も離れるのって、多分初めてですよね? 不安だと思うんですけど…」

 瑞樹に心配される必要等無いぐらいに、高梨の頭の中は雪緒への心配で一杯だ。

「子供じゃあるまいし、あいつは良い歳をした大人だ。あいつを何だと思っている」

 が、それを素直に口にする筈も無い。
 新月が終わったら、自分だけ早々に帰ろうか等と思っていたりもするが、それを口にする筈も無い。
 今夜は何時かの様に、自分の部屋で自分が使っている布団で休むのだろうか等と思っていたりもするが、当然それも口にする筈が無い。

「あ、すみません。そうですよね…けど…一人だと…」

「――――――――は…?」

 高梨は何か聞き捨てならない言葉を聞いた気がすると思った。思ったが、脳が理解を拒否している。

「ああああ! すみません! いや、あのっ! 雪緒さんが母さんって訳じゃなくて! 母さんの様な人って云うか、そんな雰囲気があって!! だって、雪緒さんって、こう、懐が大きいってか広いってか、何か、全部ふわって包み込んでくれる優しがあって、それが母さんみたいだなって…! あああああ、えっと、だから、そのっ…!!」

 わたわたと慌てふためく瑞樹のさまに、高梨は額を押さえて歩みを進めて行く。
 当然ではあるが、高梨が雪緒を息子だと思った事はあっても、母の様だと思った事は一度たりとも無い。
 あの人たらしは何をしてくれているのだと、高梨は額を押さえていた手を拳にしてグリグリと動かす。
 高梨の予定として。瑞樹と行動を共にしたのは、その動きを見る為であって、こうして頭を押さえる様な事に直面する為では無かった筈なのだ。時々、無理難題を押し付けて来る優士と二人きりになりたくないと云う思いがあったのも事実ではあるが。それが、何故、こうなってしまうのか。結局は二人共似た者同士と云う事なのかと、高梨は重い息を吐いた。

 そんな無理難題を押し付けられた天野はと云うと。

(…みくちゃん、助けて…っ…!)

「と、言う事で、俺としては二回目を期待しているのですが、部屋で二人きりで居ても中々そんな雰囲気にはならなくて。瑞樹の誕生日にと思っていたのですが、こう言った特別な機会に恵まれた事だし、何時もと違う状況ならば、幾ら瑞樹でもそう云った雰囲気に持ち込めると思うのですが、天野副隊長はこう云った場合どの様に動くのか、是非参考までに教えて戴きたいと思いまして」

(みくちゃあああああんんんんんんんっ!!)

 何処までも塩塩とした声と表情でつらつらと語る優士の隣を歩きながら、この寒空の下でだらだらと涙目で汗を流していた。
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