寝癖と塩と金平糖

三冬月マヨ

文字の大きさ
85 / 125
番外編・祭

特別任務【九】

しおりを挟む
「いやもう、苦しいわ切れるわ痛いわで散々だったな」

 目を瞬かせた後、その目を驚きに見開く優士ゆうじに口の端だけで笑い、止めていた足を動かして天野は言葉を綴って行く。

「で、泣きながらゆかりんの処へ行って、男同士のやり方を教えて貰ったんだ。治ったら仕切り直しだってみくちゃんに言ったら、ぎゃんぎゃん泣かれたよ」

 当時を思い出して笑っているのか、優士の前を歩く天野の肩が小刻みに揺れている。

「え、あの…女性だと…思っていた…んですよね…?」

 何処か楽しそうな天野に、優士はぐるぐると頭の中を巡っている思いを口にした。
 女性だと思っていたから、求婚して結婚した。
 その事から、天野の性的対象は女性である事は間違いが無い。
 それが、押し倒されて実は男性だと知り、強姦されたと言ってもいい様な物なのに、何故、と。

「一目惚れだって言ったろ? 女だからとか、男だからとか関係無く、俺は、あのみくちゃんに惚れたんだ。…死なせたくないって思ったからな…」

 最後の方はぼそっと呟く様に言われて、優士には聞き取る事が出来なかった。

「ま、みくちゃんの気持ちなんてお構いなしに、強引に結婚した様な物だったからなあ。手を出そうにもって感じだった訳だ。そうしたら、それでさ。いや、惚れ直すだろ? 俺みたいのを押し倒したいなんて思う程想ってくれるなんてさ」

 天野が口にした様に、高梨や津山が時々熊だと口にする様に、天野の容姿は可愛いとは言い難い物だ。百九十超えの長身に、太い眉に四角い顎、細い目は穏やかに緩められては居るが、太い二の腕、丸太の様な脚、厚い胸板、はっきり言ってむさいの一言に尽きる。白い歯を見せて豪快に笑う姿も、愛嬌があると言えばそうなのだろうが、少なくとも優士は押し倒したい等とは思わない。まあ、それ以前に、瑞樹みずき以外とどうこうなりたい気持ち等持ち合わせては居ないが。

「と、まあ、そんな訳で互いが経験者でも無い限り、そうそう最初から上手く行くもんでも無いって事だ。だから、そんな気にする事は無いし、他人の真似事ばかりしてもつまんないだろ? 参考にするなとは言わないが、お前らはお前ららしく行きゃあ良いんだよ、な?」

「…はあ…」

 再び足を止めて後ろを振り返り、白い歯を見せながら笑う天野に頭を撫でられて、優士は何とも曖昧な返事を返す事しか出来なかった。

(…僕達らしく、か…)

 自分と瑞樹は他人からどう見られているのだろうかと思いながら、山の中を歩く。
 高梨と雪緒ゆきおの様に、傍に居て、それが当たり前の事だと思われる様になりたい。
 そうしているのが自然な事なのだと、そう思われたい。
 果たして自分達はそうなれているのだろうか。
 そうなりたいと思うのは、人真似でしかないのだろうか。

「ん? 車が増えて…ああ、杜川のおじさんが来たのか」

 そんな事を考えていれば時間が過ぎるのもあっと云う間で。気が付けば、もう保養所まで戻って来ていた。何処をどう歩いたのか、さっぱり記憶に無いと優士は焦ったが、それは後の祭りと云う物だろう。

「って…朱雀の専用車じゃないですか…」

 天野の言葉に、優士は文字通りに増えた車を見るが、それは杜川が愛用している三輪自動車では無く、朱雀が保有する、六人乗りで荷台に幌付きの四輪車だった。
 歩を速めるでも無く、二人が車に近付いて行く。
 すると、ドアがカチャリと開き杜川が降りて来るのが見えた。

「ご苦労さんだったね、さあさあ、降りた降りた」

 そんな杜川の声がした後に、後部座席のドアが開き、そこから降りて来た二人の人物の姿を見た天野と優士は、声を出す事も忘れて目を見開いた。

「ふわ…もう夕方ですのに、お布団が干しっぱなしです。取り込みませんと」

 茣蓙の上に並べられている布団を見て、頬に手をあてて切なげに目を細めるのは雪緒だ。

「うわ…凄い空気が澄んでいるな…本当に刺す様だ…」

 雪緒が降りたのとは反対のドアから降りてぶるりと身体を震わせたのは、雪緒とせい瑠璃子るりこの恩師であり、また瑠璃子の夫でもある菅原義之よしゆきだ。

「…は…?」

「…え…?」

 居る筈の無い二人が居る事に、二人の思考が追い付かない。

「おおーっ! 来たかーっ!!」

 そんな賑やかな声に背後を振り返れば、熊を担いで走ってくる元気な星の姿が見えた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

処理中です...