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番外編・祭
特別任務【九】
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「いやもう、苦しいわ切れるわ痛いわで散々だったな」
目を瞬かせた後、その目を驚きに見開く優士に口の端だけで笑い、止めていた足を動かして天野は言葉を綴って行く。
「で、泣きながらゆかりんの処へ行って、男同士のやり方を教えて貰ったんだ。治ったら仕切り直しだってみくちゃんに言ったら、ぎゃんぎゃん泣かれたよ」
当時を思い出して笑っているのか、優士の前を歩く天野の肩が小刻みに揺れている。
「え、あの…女性だと…思っていた…んですよね…?」
何処か楽しそうな天野に、優士はぐるぐると頭の中を巡っている思いを口にした。
女性だと思っていたから、求婚して結婚した。
その事から、天野の性的対象は女性である事は間違いが無い。
それが、押し倒されて実は男性だと知り、強姦されたと言ってもいい様な物なのに、何故、と。
「一目惚れだって言ったろ? 女だからとか、男だからとか関係無く、俺は、あのみくちゃんに惚れたんだ。…死なせたくないって思ったからな…」
最後の方はぼそっと呟く様に言われて、優士には聞き取る事が出来なかった。
「ま、みくちゃんの気持ちなんてお構いなしに、強引に結婚した様な物だったからなあ。手を出そうにもって感じだった訳だ。そうしたら、それでさ。いや、惚れ直すだろ? 俺みたいのを押し倒したいなんて思う程想ってくれるなんてさ」
天野が口にした様に、高梨や津山が時々熊だと口にする様に、天野の容姿は可愛いとは言い難い物だ。百九十超えの長身に、太い眉に四角い顎、細い目は穏やかに緩められては居るが、太い二の腕、丸太の様な脚、厚い胸板、はっきり言ってむさいの一言に尽きる。白い歯を見せて豪快に笑う姿も、愛嬌があると言えばそうなのだろうが、少なくとも優士は押し倒したい等とは思わない。まあ、それ以前に、瑞樹以外とどうこうなりたい気持ち等持ち合わせては居ないが。
「と、まあ、そんな訳で互いが経験者でも無い限り、そうそう最初から上手く行くもんでも無いって事だ。だから、そんな気にする事は無いし、他人の真似事ばかりしてもつまんないだろ? 参考にするなとは言わないが、お前らはお前ららしく行きゃあ良いんだよ、な?」
「…はあ…」
再び足を止めて後ろを振り返り、白い歯を見せながら笑う天野に頭を撫でられて、優士は何とも曖昧な返事を返す事しか出来なかった。
(…僕達らしく、か…)
自分と瑞樹は他人からどう見られているのだろうかと思いながら、山の中を歩く。
高梨と雪緒の様に、傍に居て、それが当たり前の事だと思われる様になりたい。
そうしているのが自然な事なのだと、そう思われたい。
果たして自分達はそうなれているのだろうか。
そうなりたいと思うのは、人真似でしかないのだろうか。
「ん? 車が増えて…ああ、杜川のおじさんが来たのか」
そんな事を考えていれば時間が過ぎるのもあっと云う間で。気が付けば、もう保養所まで戻って来ていた。何処をどう歩いたのか、さっぱり記憶に無いと優士は焦ったが、それは後の祭りと云う物だろう。
「って…朱雀の専用車じゃないですか…」
天野の言葉に、優士は文字通りに増えた車を見るが、それは杜川が愛用している三輪自動車では無く、朱雀が保有する、六人乗りで荷台に幌付きの四輪車だった。
歩を速めるでも無く、二人が車に近付いて行く。
すると、ドアがカチャリと開き杜川が降りて来るのが見えた。
「ご苦労さんだったね、さあさあ、降りた降りた」
そんな杜川の声がした後に、後部座席のドアが開き、そこから降りて来た二人の人物の姿を見た天野と優士は、声を出す事も忘れて目を見開いた。
「ふわ…もう夕方ですのに、お布団が干しっぱなしです。取り込みませんと」
茣蓙の上に並べられている布団を見て、頬に手をあてて切なげに目を細めるのは雪緒だ。
「うわ…凄い空気が澄んでいるな…本当に刺す様だ…」
雪緒が降りたのとは反対のドアから降りてぶるりと身体を震わせたのは、雪緒と星、瑠璃子の恩師であり、また瑠璃子の夫でもある菅原義之だ。
「…は…?」
「…え…?」
居る筈の無い二人が居る事に、二人の思考が追い付かない。
「おおーっ! 来たかーっ!!」
そんな賑やかな声に背後を振り返れば、熊を担いで走ってくる元気な星の姿が見えた。
目を瞬かせた後、その目を驚きに見開く優士に口の端だけで笑い、止めていた足を動かして天野は言葉を綴って行く。
「で、泣きながらゆかりんの処へ行って、男同士のやり方を教えて貰ったんだ。治ったら仕切り直しだってみくちゃんに言ったら、ぎゃんぎゃん泣かれたよ」
当時を思い出して笑っているのか、優士の前を歩く天野の肩が小刻みに揺れている。
「え、あの…女性だと…思っていた…んですよね…?」
何処か楽しそうな天野に、優士はぐるぐると頭の中を巡っている思いを口にした。
女性だと思っていたから、求婚して結婚した。
その事から、天野の性的対象は女性である事は間違いが無い。
それが、押し倒されて実は男性だと知り、強姦されたと言ってもいい様な物なのに、何故、と。
「一目惚れだって言ったろ? 女だからとか、男だからとか関係無く、俺は、あのみくちゃんに惚れたんだ。…死なせたくないって思ったからな…」
最後の方はぼそっと呟く様に言われて、優士には聞き取る事が出来なかった。
「ま、みくちゃんの気持ちなんてお構いなしに、強引に結婚した様な物だったからなあ。手を出そうにもって感じだった訳だ。そうしたら、それでさ。いや、惚れ直すだろ? 俺みたいのを押し倒したいなんて思う程想ってくれるなんてさ」
天野が口にした様に、高梨や津山が時々熊だと口にする様に、天野の容姿は可愛いとは言い難い物だ。百九十超えの長身に、太い眉に四角い顎、細い目は穏やかに緩められては居るが、太い二の腕、丸太の様な脚、厚い胸板、はっきり言ってむさいの一言に尽きる。白い歯を見せて豪快に笑う姿も、愛嬌があると言えばそうなのだろうが、少なくとも優士は押し倒したい等とは思わない。まあ、それ以前に、瑞樹以外とどうこうなりたい気持ち等持ち合わせては居ないが。
「と、まあ、そんな訳で互いが経験者でも無い限り、そうそう最初から上手く行くもんでも無いって事だ。だから、そんな気にする事は無いし、他人の真似事ばかりしてもつまんないだろ? 参考にするなとは言わないが、お前らはお前ららしく行きゃあ良いんだよ、な?」
「…はあ…」
再び足を止めて後ろを振り返り、白い歯を見せながら笑う天野に頭を撫でられて、優士は何とも曖昧な返事を返す事しか出来なかった。
(…僕達らしく、か…)
自分と瑞樹は他人からどう見られているのだろうかと思いながら、山の中を歩く。
高梨と雪緒の様に、傍に居て、それが当たり前の事だと思われる様になりたい。
そうしているのが自然な事なのだと、そう思われたい。
果たして自分達はそうなれているのだろうか。
そうなりたいと思うのは、人真似でしかないのだろうか。
「ん? 車が増えて…ああ、杜川のおじさんが来たのか」
そんな事を考えていれば時間が過ぎるのもあっと云う間で。気が付けば、もう保養所まで戻って来ていた。何処をどう歩いたのか、さっぱり記憶に無いと優士は焦ったが、それは後の祭りと云う物だろう。
「って…朱雀の専用車じゃないですか…」
天野の言葉に、優士は文字通りに増えた車を見るが、それは杜川が愛用している三輪自動車では無く、朱雀が保有する、六人乗りで荷台に幌付きの四輪車だった。
歩を速めるでも無く、二人が車に近付いて行く。
すると、ドアがカチャリと開き杜川が降りて来るのが見えた。
「ご苦労さんだったね、さあさあ、降りた降りた」
そんな杜川の声がした後に、後部座席のドアが開き、そこから降りて来た二人の人物の姿を見た天野と優士は、声を出す事も忘れて目を見開いた。
「ふわ…もう夕方ですのに、お布団が干しっぱなしです。取り込みませんと」
茣蓙の上に並べられている布団を見て、頬に手をあてて切なげに目を細めるのは雪緒だ。
「うわ…凄い空気が澄んでいるな…本当に刺す様だ…」
雪緒が降りたのとは反対のドアから降りてぶるりと身体を震わせたのは、雪緒と星、瑠璃子の恩師であり、また瑠璃子の夫でもある菅原義之だ。
「…は…?」
「…え…?」
居る筈の無い二人が居る事に、二人の思考が追い付かない。
「おおーっ! 来たかーっ!!」
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