黒が正義です

三冬月マヨ

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いち

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 我は夢を見ていた。
 真っ白な光が辺りを包んでいて、どちらが上なのか、どちらが下かも解らぬふわふわとした世界に居た。

『そんな訳で、君の代わりを召喚したからね』

 そんなふわふわの世界で、我の目の前でふよふよと漂う真っ白な光-神-が我にそう告げて来た。

「我が魔王と生まれて百有余年、我が不満だと申すのか」

『だって、君、弱いし。魔力は歴代のどの魔王よりもあるのに、君、弱いし。だから、君を鍛えるのも兼ねてね』

 あんまりな言い様である。我の戦いぶりを見ていないのに、どの口がそれを言うのか。

『………って、そのつもりだったんだけどね…』

「何だ? 何ぞあったのか?」

『…魔王は嫌だって…。…やられ役筆頭の魔王は嫌だって言って、勇者になっちゃった。近い内に乗り込んで来ると思うから、頑張って勇者を説得して魔王にチェンジさせてね。じゃあ、テヘペロ』

「待…っ…!!」

 手を伸ばした処で、その消えて行く光を捉える事は出来ずに、我はただ呆然とするしか無かったのである。

 ◇

「見つけたぞ魔王! 俺の肉欲ハーレムの為に死ね!」

「ああ、勇者様ったら、素直なんだからあ」

「次は誰を虜にするつもりなのやら」

「そこは嘘でも、世界平和の為って言って欲しかった…」

 我は玉座の陰から、震えてそれを見ていた。何、この人間怖い。
 部下から人間約四名、一人は男で残りは女が、この魔王城に向かって魔の森を爆進中と、魔の森に配置した臣下達から報告を受けたのが、三十分程前。魔の森には様々な仕掛けが施してあって、ただの人間がそんな短時間で抜けられる物では無い。これまでにも愚かな人間が、何度も我の元に来ようとしたが、総て魔の森の中で散って行っている。
 そう。
 つまりは。
 我は戦った事が無いのである。
 臣下達との訓練はしているが、実戦経験は皆無なのである。
 しかし、我は魔王である。
 魔王であるからには、この勇者と名乗る男を倒さねばならぬのだが…。

「お前が魔王だな! そのふてぶてしい面に、頭に二本の角! ズルズルの長い紫色の髪に真っ黒ローブ! ゲームに出て来るヤツそっくりだな、おい!」

「軽々しく魔王と呼ぶな! 様を付けよ!!」

 ブーモ、頑張れ。頑張って魔王を演じ切ってくれ。謁見の間に一行が現れたと思ったら、ブーモ以外は皆一瞬で天井を突き破り、空の彼方へと飛ばされてしまった。勇者が持つ、その光輝く聖剣をぽっきりと折ってくれ。いや、もう何て処に聖剣を隠し持っておるのだ、あやつは? いきなり股間の布を寛げたと思ったら、そこが光輝いて、胸の高さまで伸びるとか凶悪過ぎないか? 我、そんな物で斬られたくは無い。と云うか斬れるのか? 撲殺の間違いでは無いか? 神よ、貴様は何て危険な人間を召喚したのだ? こやつが魔王になんてなったら、世界の破滅ぞ? 我が、我ら闇の物が生まれたのは、人間が人間同士で争わない様に、常に人類の驚異であれ、と、そうであったな? それなのに。何故、こうなった? 神も耄碌するのか? 人類どころか、魔族の驚異がここにおるぞ? 今からでもチェンジした方が良いと思うぞ、のう?

『…そうしようと思ったんだけどね、ブラック社畜から解放されたって、喜んでて…還りたいって気持ちが1ミクロンも無くて…返還出来ないの…』

「神のうんこたれ~っ!!」

 何処からか聞こえて来た、神の余りにもあんまりな言い分に、我はつい玉座の陰から飛び出して、破壊されてすっかりと見えてしまっている青空に向かって叫んでいた。

「なっ!?」

「は!?」

「あ!?」

「え!?」

「魔王様! 危険ですから、出て来ては駄目だって言ったじゃないですかっ! めっ、ですよ!!」

 勇者達が目を見開いて驚き、ブーモが身を屈めて我の額をデコピンして来た。…痛い…。

「ま、おう…?」

「あのおチビさんが…? 白いレース付きのシャツに、黒の七分丈のズボンをサスペンダーで吊してる姿のおチビさんが…? どう頑張って見ても、十代半ばにしか見えないのに…魔王…?」

「憎たらしい程の天使の輪を輝かせた見事な黒髪…目の色は魔族の証の金色だけど…え、これが魔王…?」

「…腰まであるのに…枝毛…無さそう…羊の様な二本角が可愛い…けど、これが、魔王…?」

 何故か皆が我を呆然とした様な面持ちで見ているが、我は魔王なり!

「左様! 我が魔王である! この者は、我の配下なり! 我はどうなっても良いから、この者だけでも見逃せよ!!」

「魔王様! 何時も言っているでしょう! どうなっても良いな…ごファッ!?」

 ブーモがまたも我にデコピンをしようとした処で、ブーモが我の目の前から消えた。いや、何か目の前を白い光が奔ったのだ。

「…ふうぅぅぅ…。何度もデコピンくれようとしてんじゃねぇよ、金魚のフンが」

 勇者が白く光る聖剣を左右に振りながら、空を見て呟いていた。我に背中を向けて。因みに空を見れば、段々と点になるブーモらしき物が見えた。

「ブーモに何をするっ!!」

 遠い目をしてブーモを見送っている場合では無かったのだ! おのれ、勇者め! 我の力でボコボコにしてやるのだ!!

 ぽこぽこぽこ。

 我の全身の力を籠めて、勇者の腰を砕いてやっているのに、こやつビクともしないだと!? 流石は勇者と云うべきか…っ…!! しかし、これしきでめげる我では無いのだ!!

 ぽこぽこぽこぽかぽこぽこぽこ。

「ははは。くすぐったいな、おい」

 我の攻撃に勇者は腰骨を砕く事無く、黒い目を細めて身体を屈めて我の頭を撫でて来た。
 
「うぬっ!? 気安く触れるでないっ!!」

「あ、ずるい、私も頭撫でたい」

「同じく」

「角触りたい」

 頭にある勇者の手を払い除けて叫べば、女共が我を囲み、それぞれ手を伸ばして来る。
 我の半分処か四分の一も生きて居ないくせに、何故に皆、我より背が高いのか。解せぬ。

「はっ!!」

「あ?」

「れ?」

「え?」

 しかし女共の手が我の髪や角に触れる前に、勇者が聖剣を振って女共を空へと飛ばして行った。

「…お…お主…何をしておるのだ? あやつらはお主の仲間であろう?」

「あん…? 俺の、魔王に…手を…出そうと…する、奴は…仲間じゃねーよ…」

 訳が解らずに勇者を見上げて指差して言えば、勇者は両手で聖剣を上下に擦りながら息を乱れさせて言って来た。聖剣が更に眩い光を放ちながら、一回り程大きくなった様に見える。更には切っ先から、白く光る雫が溢れて来ている。
 何とおぞましく凶悪な聖剣なのだろうか。勇者とは皆こうなのだろうか? 我もそれでお空へと飛ばされてしまうのか? 自慢では無いが、我は軽いので、先に飛ばされた皆よりも遥か遠くへと飛ばされる事は間違いないであろう。ああ、百有余年生きて来て、初めて対峙した勇者がこうも凶悪な奴だとは思いもよらなんだ…。自らの手で我を倒したいが為に、仲間に邪魔をされぬ様に空へと飛ばしてしまうとは…本当に勇者とは恐ろしい…。

「そ、そうであるか…。この様な事は初めてなので、どうかあまり痛みの無いよう所望する…。…飛ばされた皆は命は無事なのであろうか? ブーモは我の数少ない臣下の一人なのだ…。ブーモが居なければ、誰が我に服を着せてくれるのだ? 誰が我にご飯を食べさせてくれるのだ? 誰が我を風呂に入れてくれるのだ? 誰が我と添い寝してくれるのだ? 誰が我の髪を梳かして…って、ぷるぷる震えておるぞ? はっ!? 今になって、我の渾身の一撃、いや、二撃、いやさ、数々の攻撃が効いて来たのか!? そうさの! 我は魔王なり! 魔王が勇者に敗北するなぞあってはならぬ事! さあ、我に平伏すが良いっ!!」

「…ブ…帰還…」

 バンッと右掌を我に恐れをなして、震えて床に跪く勇者へと向けて叫ぶと、勇者はポツリと何かを呟いた。

「~~~~~あ~れ~!!」

 頭上からブーモの声が聞こえて来たと思ったら、ズドンッと音を立てて、ブーモが頭から床に刺さった。

「んなっ!? ブーモ! ブーモッ!! 無事か!?」

「…もがべにょぐべ…」

 我がブーモに声を掛ければ、モゴモゴとした声と同時に床から生えている脚がゆらゆらと揺れた。うむ。どうやら無事らしい。しかし、何故に? 何故にブーモがここに?

「今の魔王が居るのは、こいつのお陰なんだろ? なら、死なせる訳には行かないよな?」

 勇者が右手では聖剣を擦りながら、左手ではブーモの生えた脚をトントンと叩きながら我に向かってニヤリと笑う。

 うむ? もしや、勇者がわざわざブーモを呼び戻してくれたと、そう云う事なのか? うむ?

「…うむ…その通りであるが…。…お主、ブーモを呼び戻して何がしたいのだ?」

 ブーモが埋まってる床の欠片やら何やらを退かしながら、我は勇者に質問をする。

「…俺さ…男なんて興味が無かったんだけどさ…。…向こうは、そう云うのに偏見を持つものばかりだったし…腐の付く女子には人気だったけどさ…」

「うむ?」

 いきなり何の話ぞ? まあ、ブーモ発掘の邪魔をしない様だから、我は作業を続ける事にする。床板を剥がせば土が見えて来たから、我は素手で掘って行く。ブーモが窒息しない内に掘り起こさねば。

「…こっちの世界では、そんな偏見なんてないのな。…良い世界だぜ…」

「うむ。愛する者同士の邪魔は駄目だと神の教えだからの。逆に偏見とは何ぞ? お主の世界では愛する者に愛を囁く事が出来ぬのか? 不便な世界よの」

 お。ブーモの顎が見えて来たぞ。良し良し、待っておれ。すぐに新鮮な空気を吸わせてやろうぞ。

「そそ。不便な世界だったよ。だから、俺は今、俺をここに召喚した神様に猛烈に感謝してる。朝早くから出るのに、早出手当は付かないし、前泊しようものなら自腹だし、残業はリミット二十時間なのに、それを超えたら残業手当て付かないし、それなのに、毎日二時間残業だし。こっちは俺がちょっと何かするだけで、飯も宿もタダで提供してくれるし、寂しい一人寝とか無いし、いや、勇者になって良かったわ」

「そうであるか。それは良かった事だの」

 お。口が見えて来たぞ。あ、こら、今、口を開くと土やら埃やらが入るぞ。鼻の穴が出るまで待たれよ。

「で、ご褒美にこぉんなに可愛い魔王がついて来るんだもんな…」

「およ?」

 勇者の言葉と同時に、我の身体が宙に浮く。あ、いや、勇者が両手で我の腰を掴んで持ち上げたのだ。うむ。発掘の邪魔をするでない。

「…はあ~すげえ、するするの髪…良い匂いがする…」

 おい? 何故、我の髪に顔を押し付けるのだ? 何故、すりすりするのだ? 何故、髪の匂いを嗅ぐのだ?

「魔王は俺が一から鍛えてやるからな…」

「…うむ? それは神が言っていた事か? お主は我を倒さなくて良いのか? お主は勇者であろう? 勇者は魔王と敵対する者であろう?」

「魔王がその方が良いなら、表向きは敵対してるフリをしてやるよ…」

「うむ?」

 …うむ? 何故、サスペンダーを外すのだ? それを外されるとズボンがずり落ちてしま、あ、落ちた。脚がスースーするぞ。風邪を引いてしまうではないか。あ、何故、下着を脱がす? 尻がスースーするではないか。腹も冷えるぞ。

「…はあ…可愛い尻だな…」

「…うむ…?」

 何故、尻を揉むのだ

「…っ、ま、おう様! 勇者の言いなりになってはいけませんっ!!」

 我が勇者に抱き上げられている間にも、モガモガと動いていたブーモが、両手を顔の脇に置いて、ズボッと顔を抜いて叫んで来た。あ、鼻血出てるし、頭から血も出てる。早く手当をせねば。

「おっと。お前は大人しくしてろよ? 俺と魔王の邪魔はするなよ? したら殺すからな?」

「ぐほうっ!?」

 ビュンッと、また白い光が奔ったと思ったら、それはブーモの身体に巻き付き、壁へと叩き付けて、そこへブーモを縫い付けてしまった。…何と…聖剣は伸縮自在の触手みたいな物なのか? そして、着脱可能であると…。

「血ぃ出たままじゃ可哀想だからな、治してやるよ」

 パチンと勇者が指を鳴らせば、聖剣がうねうねと動きながら、ブーモの頭や鼻周りをうぞうぞと這い回って行く。

「…っく…は、あ…ん…」

 白い光が淡く輝く度に出血は治まって行くが、ブーモの口からは得も言われぬ声が溢れる。
 …うむ…? 聖剣がブーモの着ているローブの中へ入ってゆくぞ? 見えぬ処も怪我をしておるのか?

「え、あ、ちょ…っ…!? …っく、殺せっ!!」

 ブーモのローブが捲られて、何本にも増えた聖剣がブーモの両脚を開いて行く。
 …うむぅ? あ、下着が破られた。
 うむ? ブーモの男根が勃起しておるの? 怪我の治療が余程気持ち良かったのだろうか? うむ? 聖剣が、ブーモの尻穴の縁をちょいちょいと突いて…切っ先から出ておるのは、何の液ぞ? 

「あ、あぁん…はいっ…くりゅぅ~っ!!」

「…勇者よ…ブーモに何をしておるのだ?」

「あ、悪い悪い。魔王には分身じゃなくて、ちゃんと俺の剣をあげるからな」

「うむ?」

「魔王の部屋は何処?」

「うむ? ここを出て左に…って、ブーモに問題は無いのか?」

「あっ、あっ、あぁん、らめぇ~っ!! お、ぐ…っ…!!」

 壁に張り付けられているブーモを見れば、身体を震わせ、白い首を晒して天を仰ぎ、聖剣に巻き付かれた男根から、ピュッピュッと白濁とした液を飛び散らせて居て、聖剣がツンツンしていた尻穴には、太い聖剣が生えていて、それがうごうごと蠢いていた。

「うむぅ…? これは、何の儀式ぞ? しかし、我は尻がスースーするのだ。ズボンを履かせてくれ」

「うんうん。魔王には俺の剣であったまってもらうからな!」

「うむ? 聖剣には身体を暖かくする効果があるのか? ならば、早う。腹が壊れてしまう」

「うんうん、優しくしてあげるからね!」

『…………………………おーい…おーい…あ、駄目だ…聞こえてない、ね? …まあ…魔王が殺される事は無さそうだから、良いかな? …鍛えるって言ってたし…うん…』

 なんて云う神の呟きは、我の耳には届かなかった。
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