旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ

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とあるデパガの奇跡

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 私は何時もの場所で何時もの様に、営業用の笑顔を浮かべてそこに座っていた。
 広い店内には色んな店子が入っていて、一見しただけでは何処に何があるのか解りにくい。
 その上、店子が入れ替わったりする。
 店子料が、売り上げを上回ったりするのだ。
 そうなると店子はやって行けず、この百貨店を後にして行く。
 そうなると。

『あれ? こないだ来た時は、あったのに? あの店は何処?』

 と、なったお客様が、この案内所へとやって来る。
 そんなお客様を体よく追いはら…いや、代わりとなりうる店子を教えるのが、この案内嬢たる私の役目だ。
 中には、女だからと見下して来る客、いや、お客様がいたりして、見えない様に中指を立てたりするのも日常茶飯事になっ、ごほん。
 まあ、見た目の優雅さとは裏腹な業務内容だったりするのだ、これが。
 そんな荒ん…いや、少々辟易とした日々を過ごしていたある日、その二人がやって来た。

「…天使…」

 ぽつりと、思わず声が零れた。
 二人の天使が、笑顔を浮かべてこちらへと真っ直ぐと歩いて来る。
 一人は薄い青い着物に、所謂坊ちゃんカットのほっそりとした小柄な天使。
 一人は濃紺の着物に、長く艶やかな黒髪を馬の尻尾の様に揺らして、まるで太陽の様に眩しい笑顔を浮かべている天使。同じく小柄だが、坊ちゃんカットの子よりは、肉付きが良い。

「お忙しい処を失礼します。男性用の下着を取り扱っている場所を知りたいのですが、教えて戴けますか?」

 高過ぎない、澄んだ声が私の鼓膜に響いた。

「ふんどし以外が欲しいんだ。教えてくれよ」

 こちらは、言葉遣いに難があるが、小首を傾げて上目遣いで聞いて来るのは狙ってやっているのか?
 これが天使では無く、何時もの様な傍若無人な客と云う名の悪魔ならば、迷いやがれと、店内地図を投げ付けていただろうが、今、目の前に居るのは愛らしく可愛い天使だ。

「はい。かしこまりました。店内は広く迷いやすいので、そちらの場所までご案内致します」

「ふわ!? そんなお手を煩わせる様な事は…」

 くっ、殺せ!

「連れてってもらお、ゆきお。ありがとな、おねーさん!」

 グッジョブ、お馬さんっ!
 そして、とっても爽やかな笑顔だわ。
 ゆきお、ゆきお君ね。どんな字を書くのだろうか?
 そして、お馬さんの名前は?

「はい。仕事ですので、気にする必要はございません。こちらです」

 私はこの仕事に就いて初めて、営業用では無い、心からの笑顔を浮かべて天使二人を案内した。
 素直に、私の後を付いて来る二人の会話に耳を傾けた処、お馬さんの名前は"せい"だと判明した。
 どんな字を書くのだろうか? 気になる処だが、それを聞くのはモラルに反する。
 そんな葛藤を抱えながら、目的地へと付いた。
 店員に二人を宜しく頼むと言えば、目を輝かせてこくこくと頷いていた。

「お忙しい中、ありがとうございました」

「またな、おねーさん」

 くっ!!
 仕事じゃなければ、二人共お持ち帰りしたいっ!!

 後ろ髪を引かれながら、定位置へと戻れば。

「ねーちゃん、こないだ来た時にあったアレがねーんだよ、アレが。アレが欲しいんだよ。アレは何処にあるんだよ? なあ?」

 アレアレ悪魔が待ち構えていた。
 私は悪魔に見えない位置で、そっと右手の中指を立てた。
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