旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ

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くれえぷ

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「何か、甘い匂いがする」

 お目当ての物を購入しまして、後は百貨店を後にするだけと云う処で、せい様がお鼻をひくひくとさせて立ち止まりました。
 地下へと続く階段付近での事です。

「ゆきお、ちょっと行ってみよ、な?」

「ふえっ!?」

 購入しました、ぶりいふが入っています紙袋を持つ手とは反対の手を掴まれまして、僕は星様の後に付いて階段を降りて行きました。
 その階段の近くにそれはありました。
 お祭りの屋台の様な店構えのそこには『どすこいくれえぷ』と云う文字が書かれていました。

「…くれえぷ…」

「お。いらっしゃい。何にする?」

「なあ、すごく甘い匂いがするんだけど、美味いのか?」

 店員さんに、星様が目を輝かせて聞いています。
 ぴょこぴょこと、お馬さんの尻尾が揺れています。

「ああ、美味いぞ~。少しおまけするから、食ってみてくれよ。苺とバナナ、どれにする?」

 店員さんが器用に片目を瞑って、そう聞いて来ました。

「じゃあ、おいら、いちごな! ゆきおは?」

「ふえ!? あ、あの、では、ばななを戴けますでしょうか?」

「あいよ、ちょっと待ってろよ」

 そう言いまして、店員さんが目の前にあります鉄板に、お玉から掬った生地を乗せて伸ばして行きます。薄く、薄く。
 小麦粉をお水で溶いた物でしょうか?
 そうして焼き上がりましたそれに、生くりいむ、ばなな、仕上げにちょこれいとをかけて、くるくると巻いて、紙で包んで『ほらよ』と、僕に渡して下さいました。そして、また鉄板の上に生地を伸ばして行きます。

「ゆきお、食べて見てよ。おいらのもすぐに出来るみたいだし」

「は、はい」

「あ、そこのベンチ使って良いぞ~」

 店員さんのお言葉に、僕はお店の脇にありましたべんちへと、腰を降ろしました。
 そうして、一口くれえぷを齧ります。

「ふわ…もちっとしています…。生くりいむも、お口の中で溶けて行きます…。ばななとちょこれいとは、本当に合いますね…とても美味しいです」

「だろお!? 美味いんだよ、美味いんだけど、客が来ねえんだよなあ~。このままだと、今月で、店、畳むようかなあ~。はあ…」

 星様にくれえぷを渡しながら、店員さんが重い溜め息を零しました。

「ふえ…? これ程に美味しいのに…勿体無いです…」

「うお? いちごうまいな。いちごとチョコもうまいぞ!」

 僕の隣へと座りました星様が、目を丸くして笑いました。

「おうおう、ありがとよ」

 僕はまだ、二口目を齧った処ですのに、星様はもう半分以上も食べてしまわれました。相変わらず、凄い早さです。

「あ。ほら、ゆきお」

「ふえ?」

 星様が、残り僅かとなりました苺のくれえぷを、僕の方へと差し出して来ました。

「いちごも食べてみろ。うまいぞ!」

「あ、はい。では、星様はこちらのばななをどうぞ」

 苺のくれえぷを受け取りまして、代わりに僕のばななくれえぷを星様にお渡ししました。

「ありがとな!」

 星様は、真っ白な歯を見せて笑って、ばななくれえぷを受け取り、食べ始めました。
 僕も苺くれえぷを食べます。

「…ふわあ…」

 ほのかな苺の酸味と、甘い生くりいむにちょこれいと。
 こちらも、良い組み合わせですね。

「あ、全部たべちゃった。ごめん、ゆきお!」

「ああ、大丈夫ですよ。あまり食べますとお昼が入らなくなってしまいますから、丁度良かったです」

 そうです。
 その様な事になりましたら、旦那様が心配してしまいます。

「そっか。んじゃ、良かったのか?」

「はい。それに星様のお食べになるお姿は、見ていてとても気持ちの良い物ですから。では、そろそろ行きましょうか。あ、その前にお代を…」

 と、店員さんの方を見ましたら、何時の間にやらお店には長蛇の列が出来ていました。階段の上まで続いている様です。

「ふわ!? どう致しましょう!?」

「あー! 気にすんなーっ!! 良い宣伝になったから、その礼だ!!」

 慌てます僕に、店員さんが豪快に笑って手を振って下さいました。

「ありがとな、おっちゃん! また来るな!」

 星様が店員さんに笑顔で手を振って、それに応えていました。

「じゃ、行こ、ゆきお。帰ったら、親父殿に作ってあげよっと」

「ふわわ…」

 また星様に手を取られて、僕は歩き出しました。
 長蛇の列は、階段から更に長く、百貨店の外まで続いていました。
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