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天の川を越えて
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静かな夜のお庭にさらさらとした笹の葉の音が響きます。
「うぅん。見えませんね」
「昔から七夕の日は天気が悪いからな。雨でないだけマシだと思え」
縁側に腰掛けまして、雲に覆われた夜空を見上げます僕の耳に、隣に座ります旦那様の低い声が届きます。
笹団子をおつまみに旦那様は盃を傾けています。
それにしても、何やら身も蓋も無い言い様ですね。彦星様と織姫様が気の毒です。年に一回しか会えないのですから、お天気は良いに越した事はありませんのに。
はう、と軽く息を吐きまして、僕はまた夜空を見上げます。
僅かではありますが、吹く風が雲を流したのでしょうか。薄っすらと月の光が見えて来ました。ですが、天の川は厳しそうですね。
今日は七夕です。
星様が今朝『いっぱい願い事を書くんだぞ!』と、笹と短冊を持って来て下さいました。
お願い事と言われましても、咄嗟には思い浮かびません。参考までに星様は何をお願いするのですかとお聞きしましたら。
『ずっとぽかぽか!』
星様のそれは個性的過ぎて参考にはなりませんでした。
お庭に刺しました笹の葉がそよそよと吹く風に揺れています。それと一緒に何も書かれていない色取り取りの短冊も揺れています。
星様も、えみちゃん様とこうして夜空を見上げているのでしょうか? 天の川が見えなくて残念に思っていませんでしょうか? あのお日様の笑顔が曇ってしまうのは悲しいです。
はう、ともう一度溜め息を零しましたら、脇から旦那様の手が伸びて来まして、不意に鼻を摘ままれてしまいました。何故でしょう? あ、笹団子を食べていましたから、餡子の甘い匂いがしますね。
「天の川なんざ、夏の間は何時だって見られる。別に今日に拘る事はないだろう」
「そうなのですけれど、七夕ですよ? 彦星様と織姫様がお会いになられる日ですよ?」
何故でしょう? 旦那様の声が何処か不機嫌そうに聞こえますね? おつまみはまだありますよね? お酒もまだありますよね?
鼻を摘まみながら真っ直ぐと僕を見詰めます旦那様に僕は首を傾げます。
「他人の色恋より、自分の色恋の心配をしたらどうだ」
僕の鼻から手を離して、むすりと口を一文字に結びます旦那様に、僕は目を瞬かせました。
「…ふえ…?」
…僕の色恋…?
「…お前が…天の川を越えて会いたい相手は織姫なのか?」
更に首を傾げます僕に、旦那様は僅かに唇を尖らせてそう言いました。
「………ふぇ…? …え…えええええええええ!? そ、それはどう云う意味なのですか!?」
それは、もしかして、もしかしましたら…。
「解らないのなら、良い! もう寝るぞ!」
…やきもち…なのでしょうか…?
「ふええええ!? 待って下さい、旦那様!」
頬を赤くして、盃とおつまみを手に立ち上がり、ずんずんと茶の間へと歩いて行く旦那様の後を僕は慌てて追い掛けます。
さらさらと響きます笹の葉が揺れる音は、何処か笑い声の様にも聞こえました。
…ああ、そうですね。
僕のお願い事は、旦那様と何時までも笑顔で過ごす事でしょうか?
ずっとずっと、旦那様と笑い合えましたら、それに勝るものは何もないと思うのです。
取り敢えず今は、曲がってしまいました旦那様のお臍を直さなければいけませんね。
うぅん、どうしましょうか?
「うぅん。見えませんね」
「昔から七夕の日は天気が悪いからな。雨でないだけマシだと思え」
縁側に腰掛けまして、雲に覆われた夜空を見上げます僕の耳に、隣に座ります旦那様の低い声が届きます。
笹団子をおつまみに旦那様は盃を傾けています。
それにしても、何やら身も蓋も無い言い様ですね。彦星様と織姫様が気の毒です。年に一回しか会えないのですから、お天気は良いに越した事はありませんのに。
はう、と軽く息を吐きまして、僕はまた夜空を見上げます。
僅かではありますが、吹く風が雲を流したのでしょうか。薄っすらと月の光が見えて来ました。ですが、天の川は厳しそうですね。
今日は七夕です。
星様が今朝『いっぱい願い事を書くんだぞ!』と、笹と短冊を持って来て下さいました。
お願い事と言われましても、咄嗟には思い浮かびません。参考までに星様は何をお願いするのですかとお聞きしましたら。
『ずっとぽかぽか!』
星様のそれは個性的過ぎて参考にはなりませんでした。
お庭に刺しました笹の葉がそよそよと吹く風に揺れています。それと一緒に何も書かれていない色取り取りの短冊も揺れています。
星様も、えみちゃん様とこうして夜空を見上げているのでしょうか? 天の川が見えなくて残念に思っていませんでしょうか? あのお日様の笑顔が曇ってしまうのは悲しいです。
はう、ともう一度溜め息を零しましたら、脇から旦那様の手が伸びて来まして、不意に鼻を摘ままれてしまいました。何故でしょう? あ、笹団子を食べていましたから、餡子の甘い匂いがしますね。
「天の川なんざ、夏の間は何時だって見られる。別に今日に拘る事はないだろう」
「そうなのですけれど、七夕ですよ? 彦星様と織姫様がお会いになられる日ですよ?」
何故でしょう? 旦那様の声が何処か不機嫌そうに聞こえますね? おつまみはまだありますよね? お酒もまだありますよね?
鼻を摘まみながら真っ直ぐと僕を見詰めます旦那様に僕は首を傾げます。
「他人の色恋より、自分の色恋の心配をしたらどうだ」
僕の鼻から手を離して、むすりと口を一文字に結びます旦那様に、僕は目を瞬かせました。
「…ふえ…?」
…僕の色恋…?
「…お前が…天の川を越えて会いたい相手は織姫なのか?」
更に首を傾げます僕に、旦那様は僅かに唇を尖らせてそう言いました。
「………ふぇ…? …え…えええええええええ!? そ、それはどう云う意味なのですか!?」
それは、もしかして、もしかしましたら…。
「解らないのなら、良い! もう寝るぞ!」
…やきもち…なのでしょうか…?
「ふええええ!? 待って下さい、旦那様!」
頬を赤くして、盃とおつまみを手に立ち上がり、ずんずんと茶の間へと歩いて行く旦那様の後を僕は慌てて追い掛けます。
さらさらと響きます笹の葉が揺れる音は、何処か笑い声の様にも聞こえました。
…ああ、そうですね。
僕のお願い事は、旦那様と何時までも笑顔で過ごす事でしょうか?
ずっとずっと、旦那様と笑い合えましたら、それに勝るものは何もないと思うのです。
取り敢えず今は、曲がってしまいました旦那様のお臍を直さなければいけませんね。
うぅん、どうしましょうか?
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