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花火
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ちろちろと蝋燭の小さな炎が揺れています。
細やかに吹く風は、夜になりましても未だ熱を持って僕達の身体を撫でて行きます。
お庭に咲いています向日葵は、今は静かにその傍らに居ます僕達をそっと見下ろしていました。
「よし! つぎはこれな! ヘビ花火!」
「ふわ! 何ですか、この黒い物は!」
星様が取り出した黒くて丸い物に、僕は目を瞬かせました。
今日僕は、お屋敷のお庭で星様と二人で花火をしています。
「んっふっふっ! 親父殿がおすすめだって、持たせてくれたんだ! 見たら驚くぞって!」
「ふわあ?」
そう白い歯を見せて笑いながら、蠟燭を乗せてありますお皿を手に取り、ちろちろと燃えます炎を蛇花火へと星様は近付けて行きます。
「…あんのクソ親父…」
縁側に座りまして晩酌をしながら、花火に興じます僕達を見て居ました旦那様が、何やらぼそりと呟きましたが、僕には良く聞き取れませんでした。
「おおおおおおおおっ!?」
「ふわあああああああ!?」
何故ならば、それは直ぐにあげられました、星様と僕の驚きの声に掻き消されてしまったからです。
何と! 何とですよ! 掌の真ん中にすっぽりと収まります大きさだったそれが、みるみると大きく太く伸びて来たからです! あれ程小さかったのにも関わらずです! これは一体どう云う仕組みなのでしょうか? もくもくとした煙を纏いながら、うねうねと動く様子は確かに蛇と言えるのかも知れません。…ですが…。
「ん~? ヘビじゃなく、うんこだな、これ」
「う…いえ、せめて炭にしましょう…」
火の勢いが無くなりましたそれは、途中からぽきりぽきりと折れていまして、ぱっとした見た目は炭の様に見えました。
「ん! じゃあ、次はこれな! ネズミ花火! これも驚くって親父殿が言ってたぞ!」
桶に汲んでいたお水を手で掬い、ぱしゃぱしゃと燃え尽きた蛇花火に掛けていましたら、星様が着物の袖からまあるいわっかを幾つか取り出しました。ひいふうみい…全部で五つありますね。これはどの様な物なのでしょうか?
「おいっ! 待て星!」
それを見た旦那様が慌てて立ち上がり、僕達の方へと近付いて来ますが、それよりも星様が五つの鼠花火に火を点ける方が先でした。
「おおぉおおおおおおおぉおおおおおおぉっ!?」
火が点きましたと同時に、それはしゅおおおおおっとした音を立てまして、驚きました星様が花火を持っていた手を離して、お庭のあちこちへとばら撒いてしまったのです。
「ふえええぇえええええええええええぇぇぇえっぇぇ!?」
◇
「この馬鹿がっ!!」
「あだっ!!」
ごつんっと、星様の頭に旦那様の拳が落ちました。うぅ、痛そうです。
あの後、ただ驚いています僕達を他所に縦横無尽に動き回ります鼠花火達を、旦那様がお水の入った桶を手に沈めて下さったのです。驚きました。あの様な花火もあるのですね。本来ならば、あれは一つ一つ楽しむ物だと旦那様が仰いました。
「どんな物か知らなかったのだから、仕方が無いと云えば仕方が無いが、火の点いた物を投げる奴があるか。次からは気をつけるんだな」
「う、わかった。ごめん…」
「解ったのなら良い、そら」
しょんぼりと肩を落とします星様に、旦那様が苦笑しながら、長くて細い物を一本渡しました。
「雪緒も」
そして僕にも。
「こちらは?」
ただの長細いこよりの様に見えますそれに、僕は首を傾げて旦那様に尋ねました。
「線香花火だ。花火の締めはこいつと決まっている。ほら、水の入った桶の上でやるんだ」
旦那様も線香花火を手にしまして、三人でぐるりとお水の入った桶を囲んで立ちます。
「…ふわ…」
それは、とても静かな花火でした。
ぱちぱちと小さく弾けて、直ぐに小さな火の塊になって、ぽちゃんと桶に汲んであります水の中へと落ちて行きました。
「んん~?」
不満そうな星様の声が耳に届きます。
「…これはな、花火の余韻を楽しむ物だ。まあ、お前に侘び寂びを理解しろだなんて、まだ無理な話か」
「むう? おいらバカにされたのか?」
口の端を軽く上げて笑います旦那様の言葉に、星様が頬を膨らませ唇を尖らせました。
「ふえ? えぇと…きっとこれは大人の嗜みなのだと僕は思います。ですから、今は理解出来なくても問題ないかと思います」
「ん! そっか!」
僕の言葉を聞いていました旦那様の肩が小刻みに震えていますが、肌寒いのでしょうか?
「そら、まだあるぞ」
片手で口元を隠しながら、旦那様が着物の袖から新たな線香花火を取り出して僕達に渡して来ます。
僕と星様はそれを受け取りまして、また静かな花火を楽しんだのでした。
ぱちぱちと小さくはありますが、弾けますそれは、何処か夏の激しさを思わせまして、それがぽちゃんと水の中へ落ちて消えて行く様は、何処となく夏の終わりを予感させる物の様ですと、僕は思ったのでした。
――――――――おまけ――――――――
天野「ゆかりん、ゆかりん! これ、新しい花火だって! やろうぜ!」
紫 「このわっかが?」
天野「グルグル回るんだってよ! 一つじゃつまんないからさ!」
ドバッと一気に十個着火。
天野少年は、ひたすら紫少年に尻を蹴られたそうな。
細やかに吹く風は、夜になりましても未だ熱を持って僕達の身体を撫でて行きます。
お庭に咲いています向日葵は、今は静かにその傍らに居ます僕達をそっと見下ろしていました。
「よし! つぎはこれな! ヘビ花火!」
「ふわ! 何ですか、この黒い物は!」
星様が取り出した黒くて丸い物に、僕は目を瞬かせました。
今日僕は、お屋敷のお庭で星様と二人で花火をしています。
「んっふっふっ! 親父殿がおすすめだって、持たせてくれたんだ! 見たら驚くぞって!」
「ふわあ?」
そう白い歯を見せて笑いながら、蠟燭を乗せてありますお皿を手に取り、ちろちろと燃えます炎を蛇花火へと星様は近付けて行きます。
「…あんのクソ親父…」
縁側に座りまして晩酌をしながら、花火に興じます僕達を見て居ました旦那様が、何やらぼそりと呟きましたが、僕には良く聞き取れませんでした。
「おおおおおおおおっ!?」
「ふわあああああああ!?」
何故ならば、それは直ぐにあげられました、星様と僕の驚きの声に掻き消されてしまったからです。
何と! 何とですよ! 掌の真ん中にすっぽりと収まります大きさだったそれが、みるみると大きく太く伸びて来たからです! あれ程小さかったのにも関わらずです! これは一体どう云う仕組みなのでしょうか? もくもくとした煙を纏いながら、うねうねと動く様子は確かに蛇と言えるのかも知れません。…ですが…。
「ん~? ヘビじゃなく、うんこだな、これ」
「う…いえ、せめて炭にしましょう…」
火の勢いが無くなりましたそれは、途中からぽきりぽきりと折れていまして、ぱっとした見た目は炭の様に見えました。
「ん! じゃあ、次はこれな! ネズミ花火! これも驚くって親父殿が言ってたぞ!」
桶に汲んでいたお水を手で掬い、ぱしゃぱしゃと燃え尽きた蛇花火に掛けていましたら、星様が着物の袖からまあるいわっかを幾つか取り出しました。ひいふうみい…全部で五つありますね。これはどの様な物なのでしょうか?
「おいっ! 待て星!」
それを見た旦那様が慌てて立ち上がり、僕達の方へと近付いて来ますが、それよりも星様が五つの鼠花火に火を点ける方が先でした。
「おおぉおおおおおおおぉおおおおおおぉっ!?」
火が点きましたと同時に、それはしゅおおおおおっとした音を立てまして、驚きました星様が花火を持っていた手を離して、お庭のあちこちへとばら撒いてしまったのです。
「ふえええぇえええええええええええぇぇぇえっぇぇ!?」
◇
「この馬鹿がっ!!」
「あだっ!!」
ごつんっと、星様の頭に旦那様の拳が落ちました。うぅ、痛そうです。
あの後、ただ驚いています僕達を他所に縦横無尽に動き回ります鼠花火達を、旦那様がお水の入った桶を手に沈めて下さったのです。驚きました。あの様な花火もあるのですね。本来ならば、あれは一つ一つ楽しむ物だと旦那様が仰いました。
「どんな物か知らなかったのだから、仕方が無いと云えば仕方が無いが、火の点いた物を投げる奴があるか。次からは気をつけるんだな」
「う、わかった。ごめん…」
「解ったのなら良い、そら」
しょんぼりと肩を落とします星様に、旦那様が苦笑しながら、長くて細い物を一本渡しました。
「雪緒も」
そして僕にも。
「こちらは?」
ただの長細いこよりの様に見えますそれに、僕は首を傾げて旦那様に尋ねました。
「線香花火だ。花火の締めはこいつと決まっている。ほら、水の入った桶の上でやるんだ」
旦那様も線香花火を手にしまして、三人でぐるりとお水の入った桶を囲んで立ちます。
「…ふわ…」
それは、とても静かな花火でした。
ぱちぱちと小さく弾けて、直ぐに小さな火の塊になって、ぽちゃんと桶に汲んであります水の中へと落ちて行きました。
「んん~?」
不満そうな星様の声が耳に届きます。
「…これはな、花火の余韻を楽しむ物だ。まあ、お前に侘び寂びを理解しろだなんて、まだ無理な話か」
「むう? おいらバカにされたのか?」
口の端を軽く上げて笑います旦那様の言葉に、星様が頬を膨らませ唇を尖らせました。
「ふえ? えぇと…きっとこれは大人の嗜みなのだと僕は思います。ですから、今は理解出来なくても問題ないかと思います」
「ん! そっか!」
僕の言葉を聞いていました旦那様の肩が小刻みに震えていますが、肌寒いのでしょうか?
「そら、まだあるぞ」
片手で口元を隠しながら、旦那様が着物の袖から新たな線香花火を取り出して僕達に渡して来ます。
僕と星様はそれを受け取りまして、また静かな花火を楽しんだのでした。
ぱちぱちと小さくはありますが、弾けますそれは、何処か夏の激しさを思わせまして、それがぽちゃんと水の中へ落ちて消えて行く様は、何処となく夏の終わりを予感させる物の様ですと、僕は思ったのでした。
――――――――おまけ――――――――
天野「ゆかりん、ゆかりん! これ、新しい花火だって! やろうぜ!」
紫 「このわっかが?」
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