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かき氷
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「暑い…」
俺は縁側で胡坐を掻いて、団扇を扇ぎながらぼそりと呟いた。
九月ももう目前だと言うのに、この狂った様な暑さは何なのだ?
風が吹けば少しは違うのだろうが、その風は微風程も吹いてはいない。
縁側に吊るされた風鈴は揺れる事無く、ただそこに在るだけだ。
「…暑い…」
「はい、旦那様」
そう再び呟いた時、俺の足元に水の入った桶が置かれた。
「こちらへ足を入れて下さい。少しは暑さも和らぎますよ」
何処か呆れた様な声を出して、雪緒は肩を竦めて見せた。
「…いや、お前、何を準備しているんだ?」
しかし、そんな雪緒の態度よりも気になる物があった。
庭にある井戸の傍には、大きな盥が。
そして、その脇には洗濯物を入れた籠が。
更には、その盥には洗濯板が立て掛けられていた。
「今日はこんなに良いお天気なのです。絶好のお洗濯日和ですよね」
朗らかに笑いながら、雪緒が着物の袖をたすき掛けをしていく。
「…いや…お前…洗濯機があるだろう…と云うか、その洗濯板はどうした?」
洗濯板が壊れたから、洗濯機を買ったのだ。
それなのに、何故、洗濯板がある?
「はい。洗濯機が壊れた時の事を考えまして、密かに購入しておりました」
…密かに、とは?
そもそも、そう簡単に壊れる物ではないだろうが。
何を笑顔で軽く胸を張って言っているんだ?
「…壊れたのか?」
いや、それならば言って来る筈だ。
「いいえ。壊れてはいません」
井戸の中に縄で吊るされた桶を落としながら雪緒は答える。
「それなら、何故」
「この様に暑い日は、お洗濯するに限ります。井戸のお水が冷たくて気持ち良いのです」
クラクラと目の前が揺れて、片手で軽く額を押さえた。
ザバリザバリと桶から盥へと水を移す音が庭に響く。
こいつには川で水遊びをするとか、そう云う発想は無いのか?
星を誘えば、あいつは喜んで飛び跳ねるだろう?
俺にはこうして水を汲んだ桶を差し出す癖に、自分がそうしようとは思わないのか?
洗濯機を回しながら、その水を入れた盥に足を入れるとかすれば良いだろうに。
…まあ、雪緒だからな…。
「…俺もやろう」
立ち上がり、縁側に用意されている突っ掛けに足を通して雪緒へと近付いて行く。
「え?」
「さっさと終わらせてかき氷を食いに行くぞ」
隣に並びその頭に手を置いて言えば、雪緒は目を瞬かせた。
「かき氷…」
呟いて、僅かに眉を寄せる雪緒に俺は続けて言う。
「ああ。相楽から聞いた。今のかき氷にはアイスクリームも入っているらしい。宇治金時と云うのがお薦めだそうだ」
「あいすくりんですか! でしたら、頭はきぃんとはしませんよね?」
「恐らくな」
一瞬にしてその頬を綻ばせる雪緒に俺は苦笑する。
暑い日のかき氷は美味い。だが、あの頭が痛くなるのが俺は苦手なのだ。それは雪緒も同じらしい。
しかし、アイスクリームの誘惑には勝てなかった様だ。
「楽しみです!」
「では、さっさと片付けるぞ」
「はい」
柔らかな髪をくしゃりと撫でてやれば、雪緒は眩しそうに目を細めてから頷いた。
◇
男二人で甘味処に居るのが余程珍しいのか、やたらと注目を集める中で、俺は無言で、雪緒は小さく唸りながら二本の指を使い、蟀谷を押さえていた。
…これも夏の風物詩なのだろう。
まだ、暑い日々は続きそうだと思いながら、未だ残る俺のアイスクリームをそっと雪緒の器へと移した。
☆★☆★☆★☆★☆★おまけ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
相楽「へえ~。かき氷って、今、そんなに種類があるんだあ~」
患者「若医師も、誰かいい人を連れて行って来なよ!」
◇
相楽 「って、訳で~、雪緒君を連れて行きたいんだけど~。キインとした頭を押さえる雪緒君、可愛いんだろうなあ~」
旦那様「断るっ!!」
俺は縁側で胡坐を掻いて、団扇を扇ぎながらぼそりと呟いた。
九月ももう目前だと言うのに、この狂った様な暑さは何なのだ?
風が吹けば少しは違うのだろうが、その風は微風程も吹いてはいない。
縁側に吊るされた風鈴は揺れる事無く、ただそこに在るだけだ。
「…暑い…」
「はい、旦那様」
そう再び呟いた時、俺の足元に水の入った桶が置かれた。
「こちらへ足を入れて下さい。少しは暑さも和らぎますよ」
何処か呆れた様な声を出して、雪緒は肩を竦めて見せた。
「…いや、お前、何を準備しているんだ?」
しかし、そんな雪緒の態度よりも気になる物があった。
庭にある井戸の傍には、大きな盥が。
そして、その脇には洗濯物を入れた籠が。
更には、その盥には洗濯板が立て掛けられていた。
「今日はこんなに良いお天気なのです。絶好のお洗濯日和ですよね」
朗らかに笑いながら、雪緒が着物の袖をたすき掛けをしていく。
「…いや…お前…洗濯機があるだろう…と云うか、その洗濯板はどうした?」
洗濯板が壊れたから、洗濯機を買ったのだ。
それなのに、何故、洗濯板がある?
「はい。洗濯機が壊れた時の事を考えまして、密かに購入しておりました」
…密かに、とは?
そもそも、そう簡単に壊れる物ではないだろうが。
何を笑顔で軽く胸を張って言っているんだ?
「…壊れたのか?」
いや、それならば言って来る筈だ。
「いいえ。壊れてはいません」
井戸の中に縄で吊るされた桶を落としながら雪緒は答える。
「それなら、何故」
「この様に暑い日は、お洗濯するに限ります。井戸のお水が冷たくて気持ち良いのです」
クラクラと目の前が揺れて、片手で軽く額を押さえた。
ザバリザバリと桶から盥へと水を移す音が庭に響く。
こいつには川で水遊びをするとか、そう云う発想は無いのか?
星を誘えば、あいつは喜んで飛び跳ねるだろう?
俺にはこうして水を汲んだ桶を差し出す癖に、自分がそうしようとは思わないのか?
洗濯機を回しながら、その水を入れた盥に足を入れるとかすれば良いだろうに。
…まあ、雪緒だからな…。
「…俺もやろう」
立ち上がり、縁側に用意されている突っ掛けに足を通して雪緒へと近付いて行く。
「え?」
「さっさと終わらせてかき氷を食いに行くぞ」
隣に並びその頭に手を置いて言えば、雪緒は目を瞬かせた。
「かき氷…」
呟いて、僅かに眉を寄せる雪緒に俺は続けて言う。
「ああ。相楽から聞いた。今のかき氷にはアイスクリームも入っているらしい。宇治金時と云うのがお薦めだそうだ」
「あいすくりんですか! でしたら、頭はきぃんとはしませんよね?」
「恐らくな」
一瞬にしてその頬を綻ばせる雪緒に俺は苦笑する。
暑い日のかき氷は美味い。だが、あの頭が痛くなるのが俺は苦手なのだ。それは雪緒も同じらしい。
しかし、アイスクリームの誘惑には勝てなかった様だ。
「楽しみです!」
「では、さっさと片付けるぞ」
「はい」
柔らかな髪をくしゃりと撫でてやれば、雪緒は眩しそうに目を細めてから頷いた。
◇
男二人で甘味処に居るのが余程珍しいのか、やたらと注目を集める中で、俺は無言で、雪緒は小さく唸りながら二本の指を使い、蟀谷を押さえていた。
…これも夏の風物詩なのだろう。
まだ、暑い日々は続きそうだと思いながら、未だ残る俺のアイスクリームをそっと雪緒の器へと移した。
☆★☆★☆★☆★☆★おまけ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
相楽「へえ~。かき氷って、今、そんなに種類があるんだあ~」
患者「若医師も、誰かいい人を連れて行って来なよ!」
◇
相楽 「って、訳で~、雪緒君を連れて行きたいんだけど~。キインとした頭を押さえる雪緒君、可愛いんだろうなあ~」
旦那様「断るっ!!」
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