26 / 45
毒林檎は食べません
しおりを挟む
「よーし、皆に行き渡ったな? いいかー、間もなく仲間が増える。その為の歓迎会の出し物の本だ。学び舎…もとい学校は勉学だけじゃあない、楽しい場所だって理解して貰う為の物だ。俺達の組は、本を渡した通り、劇をやる事になった。誰に何をやって貰うかは、配った本を読み終えてから皆で決めるからな。ほら、読みなさい」
そう菅原先生に言われて僕達は一斉に配られた本の頁を捲りました。
あの日蝕の日から一年が経ちました。
もう間もなく学び舎は学校と云う名称に変わります。
これまでは限られた人しか通えませんでしたが、この秋からその門戸が誰にでも開かれる様になるのです。
その為に、あの日あちこち壊されてしまいました建物は、新しく増築もしました。多くの人を受け入れる為です。
それにしても劇…お芝居ですか…僕は観劇等には行った事が無いから詳しくは無いのですが、まあ、その心配は無用でしょうね。僕は裏方で何か出来る事を探しましょうね。
…そう思っていたのですが…。
「お姫様は雪緒しかいないだろ?」
…倫太郎様…お姫様は女の子ですよ…?
「雪のように白いんだろ? なら、ゆきおだな!」
…星様、僕はそこまで色白では無いと思うのですが…名前で決めていませんか?
「私、雪緒君のお姫様姿見たいな! 背も低いし、きっと似合うよ!」
…瑠璃子様…何故そうなるのですか…少しは伸びましたよ…。
「高梨がお姫様かあ…。まあ、意外性があって良いかもな、うん」
…菅原先生、腕を組んで納得しないで下さい…。
「いえ…あの、僕は衣装を…」
お芝居では様々な衣装が必要な筈です。
ですから、僕は衣装を縫いたいと思うのですがと言おうとしましたら、他のご学友の方々も僕がお姫様で良いと口々に言い出しました。
何故なのですか。
これは一体何の罰なのでしょうか?
◇
「雪緒。歓迎会で劇をやるそうだな? しかも劇中の主要人物だと聞いたぞ。何故言わなかった」
「ふぶっ!!」
その翌日の夕餉での事です。
旦那様の言葉に、僕は口に含んでいたお味噌汁を思わず噴き出してしまいました。
時々ではありますが、旦那様も口に含んだ物を噴き出す事があります。
成程、この様な衝撃を受けた時に噴き出していたのですね。
ですが、それ程の衝撃を受ける様な事がありましたでしょうか?
いえ、その様な分析は一旦置いておきましょう。
それよりも、です。
何故それを知っているのですか!?
驚いて固まってしまった僕の口元を対面に座ります旦那様が身を乗り出して、着物の袖で拭って下さりながら言います。
「今朝、司令に呼び出されて『星が王子様をやるんだよー。いやー、パパ鼻が高いよー。雪緒君も出るんだよー。あれえ? 聞いていないの~?』と、自慢気に言われたのだ。歓迎会は何時だ? その日が仕事でも、天野に押し付けて抜け出して来るし、何なら休暇を取る。お前の晴れ舞台だろう」
旦那様、えみちゃん様の物真似がお上手ですね? 旦那様が僕の代わりにお姫様をおやりになりませんか? ですが、えみちゃん様は僕がお姫様をやるとは言わなかったのですね? 星様の事ですから、僕がお姫様をやると云う事を話した筈です。
それよりも、さらりと不穏な事を言わないで下さい。
流石の天野様も怒りますよ?
いえ、その前にみくちゃん様が殴り込みに来ると思います。
「素人の集まりの劇ですよ? 玄人ならばともかく。その様な物で旦那様の貴重なお時間を割く訳には行きません」
僕なんかのお姫様姿なんて見せられる筈がありません。
瑠璃子様や由美子様が途轍もなく張り切っていましたが、その張り切りは無駄になってしまうと思うのです。男の僕にお姫様の姿等似合う筈もありませんのに。今から申し訳ないです。
◇
それでも時は過ぎて行く物でして。
菅原先生から渡された本を元に劇にしやすいように、皆でああでもないこうでもないと考え、手直しを加えたりしました。
「なんで知らない人から貰った物を疑いも無く食べるのかな。お姫様って馬鹿だよな」
とか。
「ゆきおならチョコで落ちるけどな!」
星様、待って下さい。
「王子様って、死体愛好家なのか? 眠ってる事にしないか?」
とか。
「お妃様だって大概よね。そりゃ若い子の方が良いに決まってるじゃない。張り合う処間違えているわよね」
等など、様々な意見が飛び交いました。
その様な意見を元に台本が出来上がりまして、毒林檎は眠り薬の入ったちょこれいとになりました。
他にも幾つかの変更点がありますが。
何故、ちょこれいとなのでしょう…確かに僕は好きですが…ですが、流石の僕でも知らない人からのちょこれいとは受け取って食べたりはしませんよ…多分…。
それにしても、こうして皆で意見を交わしながら一つの事を作り上げて行くのはとても楽しいですね。
秋から増えます新たなご学友の方々にも、この楽しさを知って欲しいです。
その為には劇を成功させなければなりませんね。
恥ずかしいとか、似合わないとか気にしている場合ではありません。
褌の紐を引き締めて頑張りましょう。
◇
そうして、当日。
劇が行われた講堂は割れんばかりの拍手と歓喜に包まれたのでした。
ご覧になられた方々が、皆、目に涙を浮かべていました。
皆様方、えみちゃん様の様に感激屋さん達ばかりなのでしょうか?
何はともあれ無事に終わって良かったです。
これで終わりだと思いましたが、何故か僕達が学び舎、いえ、学校を卒業するまで、その劇は何かがある毎に再演されたのでした。
その度に旦那様がむっすりとしていましたが、何故なのでしょうか?
――――――――おまけ――――――――
〇雪姫→雪緒
王子様→星(の王子様)
お妃様→倫太郎
鏡の精→瑠璃子
小人達→ご学友の方々
再演の理由→ちまちまと栗鼠の様にチョコを齧る雪緒姫が可愛かったのと、星の棒読みが受けたから。
そして旦那様はその度に余計な虫がつきやしないかとハラハラしてると(笑)
そう菅原先生に言われて僕達は一斉に配られた本の頁を捲りました。
あの日蝕の日から一年が経ちました。
もう間もなく学び舎は学校と云う名称に変わります。
これまでは限られた人しか通えませんでしたが、この秋からその門戸が誰にでも開かれる様になるのです。
その為に、あの日あちこち壊されてしまいました建物は、新しく増築もしました。多くの人を受け入れる為です。
それにしても劇…お芝居ですか…僕は観劇等には行った事が無いから詳しくは無いのですが、まあ、その心配は無用でしょうね。僕は裏方で何か出来る事を探しましょうね。
…そう思っていたのですが…。
「お姫様は雪緒しかいないだろ?」
…倫太郎様…お姫様は女の子ですよ…?
「雪のように白いんだろ? なら、ゆきおだな!」
…星様、僕はそこまで色白では無いと思うのですが…名前で決めていませんか?
「私、雪緒君のお姫様姿見たいな! 背も低いし、きっと似合うよ!」
…瑠璃子様…何故そうなるのですか…少しは伸びましたよ…。
「高梨がお姫様かあ…。まあ、意外性があって良いかもな、うん」
…菅原先生、腕を組んで納得しないで下さい…。
「いえ…あの、僕は衣装を…」
お芝居では様々な衣装が必要な筈です。
ですから、僕は衣装を縫いたいと思うのですがと言おうとしましたら、他のご学友の方々も僕がお姫様で良いと口々に言い出しました。
何故なのですか。
これは一体何の罰なのでしょうか?
◇
「雪緒。歓迎会で劇をやるそうだな? しかも劇中の主要人物だと聞いたぞ。何故言わなかった」
「ふぶっ!!」
その翌日の夕餉での事です。
旦那様の言葉に、僕は口に含んでいたお味噌汁を思わず噴き出してしまいました。
時々ではありますが、旦那様も口に含んだ物を噴き出す事があります。
成程、この様な衝撃を受けた時に噴き出していたのですね。
ですが、それ程の衝撃を受ける様な事がありましたでしょうか?
いえ、その様な分析は一旦置いておきましょう。
それよりも、です。
何故それを知っているのですか!?
驚いて固まってしまった僕の口元を対面に座ります旦那様が身を乗り出して、着物の袖で拭って下さりながら言います。
「今朝、司令に呼び出されて『星が王子様をやるんだよー。いやー、パパ鼻が高いよー。雪緒君も出るんだよー。あれえ? 聞いていないの~?』と、自慢気に言われたのだ。歓迎会は何時だ? その日が仕事でも、天野に押し付けて抜け出して来るし、何なら休暇を取る。お前の晴れ舞台だろう」
旦那様、えみちゃん様の物真似がお上手ですね? 旦那様が僕の代わりにお姫様をおやりになりませんか? ですが、えみちゃん様は僕がお姫様をやるとは言わなかったのですね? 星様の事ですから、僕がお姫様をやると云う事を話した筈です。
それよりも、さらりと不穏な事を言わないで下さい。
流石の天野様も怒りますよ?
いえ、その前にみくちゃん様が殴り込みに来ると思います。
「素人の集まりの劇ですよ? 玄人ならばともかく。その様な物で旦那様の貴重なお時間を割く訳には行きません」
僕なんかのお姫様姿なんて見せられる筈がありません。
瑠璃子様や由美子様が途轍もなく張り切っていましたが、その張り切りは無駄になってしまうと思うのです。男の僕にお姫様の姿等似合う筈もありませんのに。今から申し訳ないです。
◇
それでも時は過ぎて行く物でして。
菅原先生から渡された本を元に劇にしやすいように、皆でああでもないこうでもないと考え、手直しを加えたりしました。
「なんで知らない人から貰った物を疑いも無く食べるのかな。お姫様って馬鹿だよな」
とか。
「ゆきおならチョコで落ちるけどな!」
星様、待って下さい。
「王子様って、死体愛好家なのか? 眠ってる事にしないか?」
とか。
「お妃様だって大概よね。そりゃ若い子の方が良いに決まってるじゃない。張り合う処間違えているわよね」
等など、様々な意見が飛び交いました。
その様な意見を元に台本が出来上がりまして、毒林檎は眠り薬の入ったちょこれいとになりました。
他にも幾つかの変更点がありますが。
何故、ちょこれいとなのでしょう…確かに僕は好きですが…ですが、流石の僕でも知らない人からのちょこれいとは受け取って食べたりはしませんよ…多分…。
それにしても、こうして皆で意見を交わしながら一つの事を作り上げて行くのはとても楽しいですね。
秋から増えます新たなご学友の方々にも、この楽しさを知って欲しいです。
その為には劇を成功させなければなりませんね。
恥ずかしいとか、似合わないとか気にしている場合ではありません。
褌の紐を引き締めて頑張りましょう。
◇
そうして、当日。
劇が行われた講堂は割れんばかりの拍手と歓喜に包まれたのでした。
ご覧になられた方々が、皆、目に涙を浮かべていました。
皆様方、えみちゃん様の様に感激屋さん達ばかりなのでしょうか?
何はともあれ無事に終わって良かったです。
これで終わりだと思いましたが、何故か僕達が学び舎、いえ、学校を卒業するまで、その劇は何かがある毎に再演されたのでした。
その度に旦那様がむっすりとしていましたが、何故なのでしょうか?
――――――――おまけ――――――――
〇雪姫→雪緒
王子様→星(の王子様)
お妃様→倫太郎
鏡の精→瑠璃子
小人達→ご学友の方々
再演の理由→ちまちまと栗鼠の様にチョコを齧る雪緒姫が可愛かったのと、星の棒読みが受けたから。
そして旦那様はその度に余計な虫がつきやしないかとハラハラしてると(笑)
10
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜
明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。
その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。
ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。
しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。
そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。
婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと?
シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。
※小説家になろうにも掲載しております。
雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―
なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。
その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。
死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。
かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。
そして、孤独だったアシェル。
凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。
だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。
生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる