神様お願い

三冬月マヨ

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番外編

とある聖女の苦悩

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 初めて目にした彼は、とても光り輝いて見えた。
 それは、窓から差し込む陽の光のせいでなく。
 それは、窓の外の木々の葉の朝露のせいでなく。
 彼が。
 彼自身が、内から、内面から、心から輝いている様に見えた。

 聖女マリエル・アリーゼ。
 それが、今の私の名前だ。

『良いですか、マリエル。聖女は勇者と結ばれてなんぼです。その身に、勇者の子種を貰い、孕み、子を成すのです。その子は、将来勇者になるかも知れません』

『ラジャー!』

 先代聖女の母様の言葉に、私はピシッと敬礼を返す。
 任せて、母様。
 母様譲りのこの美貌と、この胸で、勇者を落としてみせるわ。
 勇者なんて言っても、所詮は男。
 それも、まだ20になったばかりの、ヤりたい盛りの男。
 ちょろい、ちょろいわ!
 セックスなんて、愛が無くても出来るのよ!
 前世で散々仕入れた知識(ただし、ゲームや小説や漫画)を、フルに活用させるわ!
 見てなさい、勇者!
 ひいひい言わせてあげるわ!

 なんて、思っていた時が私にもありました。

「…マリエル様、ご挨拶を…」

「…はっ!? あ、し、失礼致しましたわ。僭越ながら、聖女の名を冠しておりますマリエルと申します。以後、お見知りおきを」

 護衛の騎士にそっと耳打ちされて私は、慌てて着ている純白のローブの太腿辺りを掴み、腰を曲げた。

 な、何て事なのかしら!?
 この私が、勇者に見惚れるだなんて。
 見惚れるのは、勇者の筈なのに!!
 おかしいわ?
 おかしいわよね?
 この私が勇者に、男に見惚れるだなんて。
 前世でも、今世でも、私の恋愛対象は女性だ。
 その筈なのに。
 何で、こんなに胸がドキドキするのかしら?
 これが、誰も彼もを惹き付けると云う光の勇者の力だと云うの?
 有り得ない、有り得ないわ。
 しっかりするのよ!
 前世では、30で私は死んだ。
 今の私は、24歳。
 前世と今世を合わせて54歳だ。
 熟女の魅力を魅せつけてあげるわ!
 覚悟なさい!!

「…くっ…殺せ…!」

 勇者と行動を共にする様になって、ひと月が過ぎようとした頃、私はそれを見てしまった。
 草むらに埋もれる様にして、膝を抱えてぷるぷると身体を震わせて泣いている勇者の姿を。

 な、な、な、何て母性を刺激する子なのかしら!?
 普段は、あんなに俺様なのに!?
 何、この不意打ち!?
 思わず、女性騎士みたいな言葉を吐いてしまったわ!?
 トイレと口にして、戻って来ないからと不安になって探しに来てみたら…。
 何か、向こうの木の陰で、鼻を押さえている剣士の姿が見えるけれど…。
 駄目よ、駄目だわ、しっかりなさい、マリエル!
 恋に落ちては駄目よ?
 魔王との戦いで、勇者は命を落とすかも知れない。
 その前に、勇者から子種を貰ってトンズラこくんだから!

「…くっ…殺せ…っ…!!」

 露天風呂で、びっくりどっきりお色気作戦をしようとしたら…っ…!!
 な、何よ!? あの陰毛!?
 何で左右で色が違うのよ!?
 また、女性騎士みたいな言葉を吐いてしまったわよ!?
 あ、あれなのかしら?
 黄金比とか云う奴なのかしら?
 左右対称の完璧な身体。
 あの黒毛が何処から来たのかは謎だけれど…!!
 はっ!?
 完璧に見える勇者だけれど、実は闇を持っていたと、そう云う事なのかしら?
 そうだわ、きっとそうなのよ!!
 岩場の向こうで、鼻血を垂れ流している剣士の姿が見えるけれど、気にしたら駄目よ、マリエル!!

「…くっ…死んだ…!!」

 結局、ライザー君から子種を貰う事無く、最後の場まで来てしまった。
 それもこれも、この剣士が悪い。
 今にもライザー君を押し倒そうとするから、どうしても目を離せなかった。
 こんな奴に、ライザー君の処女を渡すなんて駄目、絶対。
 魔王は強かった。
 ライザー君も強かったけど、どう考えてもこちらの方が不利だ。
 ごめんね、ライザー君。
 私がもっと強ければ。
 もっと上手くバフやデバフを使いこなせていたのなら。
 魔王の目が、私を見た。
 あ、死ぬ。
 死ぬなら、せめてライザー君の腕の中で…そう思ってライザー君に走り寄ろうとしたら、クソ剣士に腕を掴まれた。
 こんの、クソ剣士があああああああっ!!
 最後の最後まで邪魔をしてくれやがってえええええええっ!!
 そして私は、女性騎士が吐かない様な言葉を吐いて意識を失った。

「…はっ…! ぅあ…ああ…っ…!!」

 ちょ…あの…これは何なのかしら?
 何だか、ライザー君の艶めかしい声が聞こえるわよ?
 それに、何だかぐちゅぐちゅとした音も。
 まさか、まさか、よね?
 身体は動かせないし、目も開けられないけれど。
 でも…あの…私を抱き締めて倒れている剣士の股間が、私のお腹にあたっているのだけど?
 何、こいつも私と同じく意識はあるけど動けない状態なの?
 と云うか、何で段々と硬くなって来ているのよ?

「…そら…しかと受け止めよ。零すでないぞ?」

 何ををををををををををををををををををっ!?
 止めて止めて。
 何をしているのよ!?
 可憐なライザー君に、変な事を教えないで!?
 それは、私が教える筈だったのよ!?
 って、ちょっと!!
 何だかお腹が湿って来たわよ!?
 信じられない、信じられないわーっ!!

 そうこうしている内に、ライザー君と魔王は姿を消した。
 聖剣と魔王の角を残して。
 勇者が死ぬと、聖剣は消えると云う話を聞いた事がある。
 でも、聖剣はここにある。
 私と剣士は、ライザー君が魔王と姿を消しただなんて事は話さないと決めた。
 ライザー君の不利になる様な事は避けたかった。
 ずっと頑張って来たライザー君だから。
 だから、きっとライザー君なら、勇者なら、こうするんじゃないかなと云う話をでっちあげて、その話を広めた。
 聖剣を神殿へと届け、私と剣士はライザー君を追う旅へと出た。
 クソ魔王から、ライザー君を取り戻す為に。
 待っていてね、ライザー君!
 ライザー君のチェリーは、私が貰うからね!
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