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008 聖女と悪役令嬢と婚約者
しおりを挟む「――レーナッ!」
慌てた声が、部屋に響いた。
せわしなく医務室に入ってきたのは、言うまでもなくトラスだった。よっぽど私のことを気にかけていたのだろうか。その表情は真剣そのものだった。
「……よかった。無事で、本当によかった」
「…………そんなに、私が心配だったの?」
「――当然だろ。婚約者なんだから」
躊躇することなくそう言いきったトラスに、私は呆けたような顔を一瞬してしまった。婚約者。それは彼にとって、ずいぶんと大事なものらしい。
いつも私から厳しい言葉をかけられているというのに。彼は私を嫌うどころか、むしろその逆のようだった。
「……あの時。よく、私を見つけたわね。パーティーがあったはずなのに」
「きみがいなかったから、探しにいったんだ。……学園中を歩き回って、ようやくあそこに、ね」
「…………そう」
ずいぶんご苦労なことね。――今までの私だったら、そんなふうに口の悪い言葉でも返していたかもしれない。
けれども、もう悪役を演じるつもりはなかった。そんなものに、こだわる必要もないのだ。この先の未来は、すでにストーリーのない物語なのだ。あとは素直に、生きればいい。
「――以前に言ったわね。あなたは愛する人も守れない、と」
「……ああ。今は痛感しているよ。あと一歩、遅れていたら……」
「訂正をするわ」
私はトラスの顔を見上げて、しっかりと見据えた。窮地を救ってくれた婚約者に対して、私は言いなおさなければならない。心より、感謝と、そして――
「――あなただったら、愛する人を守れる。これからも……ね」
胸の奥から湧き上がる、愛情を込めて。
私はやさしく言葉を紡いで、穏やかなほほ笑みを浮かべてみせた。
Fin
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次作も楽しみにしています!
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