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新しい世界の始まり

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 朝おきてゼノンとルーシャは1階の食堂で食事をしていた。

野菜沢山のサラダと、リンゴのような果実のフルーツの蜂蜜がけと、肉が入ったスープ。

肉は口に入れるとホロホロと優しく溶けてなくなった。


「旨い・・・」


舌鼓をうちながらゼノンは頬張る。

ルーシャも黙々と食べる。


「・・・本当に美味しいですね」


2人は食事を終えると、ティルに挨拶してから冒険者ギルドへと足を運んだ。

ザワザワと賑わう室内に足を踏み入れ、カウンターに向かう。


「あの・・・」


受付にはあのうさぎ耳のルミネがいた。


「あ・・・ゼノンさん!依頼受けてから5日も連絡がなくて心配してたんですよ!」


頬を少し膨らませて怒ってます!をアピールするルミネ。


(何これ、うさぎ・・・可愛いな・・・)


『・・・ゼノンよ・・・・』

魔術書の少女は何か言いかけてから黙った。


「新人に依頼をお願いした手前、長い間連絡が取れないと心配になるですよ」


もっともだと思う。依頼を斡旋して、帰らなくなった新人冒険者も数多くいるらしい。


「ご、ごめんなさい・・・」


此処は素直に謝るのがベストだ。


「無事だったからよしとしますです、それで・・・何があったのです?」


ざわつく室内で2人の会話に注意して耳を傾けていた者などこの中には居なかった。


「えっと、・・・・」


ゼノンの発言を聞いてルミネが叫ぶまでは。


「えええええええええ?!常闇の森に・・・新人冒険者なりたてが・・・・しかも1人で?!です?」


いつの間にか辺りは静まりかえっていた。


「・・・ちょ、・・ちょっと・・ま、待って下さい・・・ッと・・・・取り敢えず、上に報告してきます・・・」


ルミネはかなり慌てて席を立ち奥へと姿を消した。

カウンターで1人ゼノンが待っているが、周りの屈強な男達はざわつきはしたが誰もその場を動こうとはしなかった。


そんなに強そうにも見えない、この少年があの死の森を生還したという事実を完全には信じ切れていなかったが、もしそれが本当だとしたら・・・うかつに近付いたら命が危ないかもしれないと。誰もが感じていたからだ。


ルーシャには取り敢えずギルドに報告してから一度宿に戻るってくるから、それまで待っていてくれと伝えてあるので大丈夫だろう。あの姿で街中を歩いたら結構目立つだろうし。


暫くしてルミネが戻ってきた。


「ゼノンさん・・・上で、ギルドマスターたちがお待ちですので、来て貰っても良いです?」

「え?」


いきなりの偉い人たちへの謁見に少し戸惑いながらルミネの後ろを着いて歩く。


「そんなに、緊張しなくても大丈夫だとおもうです」

「は・・・はぁ・・・」


生返事を返すゼノン。

階段を上り奥の部屋の前でルミネが立ち止まり、扉を軽くノックする。


「あいている」


 若い女性の声がルミネのノックに返事をした。それを聞いてルミネが扉のノブに手を掛け扉を開く。


部屋はこじんまりとはしているが、整理整頓され好印象が持てる。執務室!といった感じの部屋だった。

奥にはテーブルと椅子、きっとギルドマスターが座るのだろう。机の上には整理された書類が置いてあった。

手前には客用の長いソファーと間を透明なガラスのようなテーブルを挟んで、奥にもう1脚ソファーが置かれ、そこに女性と男性の2人が座っていた。

女性は薄い緑がかった長い髪を肩の辺りで1つに束ね肩から下ろしていて、瞳も綺麗な翠色だった。そして目のやり場に困るような出で立ちだった。

一方の男性は図体も大きく、鍛えられた肉体がすぐに目を引く。力も強そうだったが、ゼノンの視線に気付いて、男はニコリと微笑んだ。短めの赤い髪に赤い瞳だった。


(あんなゴツい男の人に微笑まれても・・・)


内心そう思っていると、魔術書の少女も同感だと言わんばかりの意思が伝わってきた。


「いつまでそこに立っているつもりだ?此処に座りな」


女性の方がゼノンたちにソファーに座るようにと口を開いた。


「あ、あの・・・私はこの辺で・・・」


逃げようと回れ右をしたルミネの背に女性から更に追い打ちが掛けられた。


「何を言っている?ルミネ、君もそこに座るんだ、詳しく話をきこうじゃないか?」


有無を言わせない威圧感にルミネは耳を下げ渋々とそれに従った。


「・・・それで、詳しい話を聞きたいと思うが、まずはその前に」

「?」

「自己紹介がまだだったな」


女性が言う。


「私は此処、ディアリスのギルドマスターをしている・・・」

「え?」

女性がそこまで言ったところでゼノンが驚きの声で遮ってしまった。
気まずい空気。


「・・・・・すいません・・・・ギルドマスターさんはそちらの方かと・・・・」


勝手にそう思っていたことを素直に口にした。

強靱な肉体と筋肉をした筋肉達磨みたいなゴツい男性。ぱっと見だれでも綺麗な女性よりこっちが上だと思うだろう。


「ふむ、その反応は、もう慣れた・・・・・・まぁいい、私がギルドマスターである、ホーフェン・リジイだ」


私がギルドマスターである!を強調目に自己紹介をしたギルドマスターであるホーフェンは、次に自分の横に男に視線を向けた。


「こっちは、副ギルドマスターのリザエンだ」


紹介されたリザエンはぺこりと頭を下げた。

無口な人なのだろうか?怖くて近付きがたいかもしれない。


「・・・・こいつはこう見えて人見知りだ、気にしなくて良い」

「!」


驚きを正直隠せなかった。


(あんな体をして、人見知りって・・・・・乙女か!・・・・人は見かけによらないなぁ)


心底そう思った。


「それで、詳しく報告して欲しいのだが・・・」

「はい、依頼主のペットを探す依頼でした」


写真をソッとテーブルに出した。個人情報だが、依頼を受ける側の管轄のトップになら大丈夫だろう。多分

小さな女の子と巨大な獣が写っている写真だ。


「・・・・・でかいな・・・」

「はい、この大きさの獣が隠れるには・・・と考えた結果・・・」

「・・・・・常闇の森か・・・」


ホーフェンの呟きにゼノンは静かに頷いた。

ホーフェンは写真から視線を外しゼノンを見据えた。


「それで、依頼の獣は見つかったのか?」

「はい、常闇の森の主様が案内してくれました」


素直に答えたのだが。


「「は?」」


二つの声が重なる。
ルミネとホーフェンのだ。


「いや、・・・いやいや・・・まて・・・ゼノン、あれは話の通じるようなモノじゃないだろう?!天災級の“神のような”魔物だと聞くぞ」

「え?天災級?」


頭にハテナを浮かべるゼノンにホーフェンは長い溜息を吐いた。


『ゼノン、魔物にもランクがあってじゃな、下からノーマル、下級、中級、上級、王級、災害級、天災級とあるのじゃ、まぁその上にもあるが、そうそう出会うことも無いじゃろう』


魔術書の少女が教えてくれてゼノンは、成る程、と納得した。


「一番ヤバいランクですね?」

「その通りだ、敵対していたら・・・一瞬でこの国自体が消し飛ぶレベルの、な」

「・・・・・」


話を聞いただけでゾッとした。一瞬で国が滅ぶレベルの強さを持っているとは。


「・・・・それで、何処まで探索を?」

「刃の葉がある森を越えて、・・・・最奥・・・ですかね?大きな木と湖があって綺麗なところでした」

「「なッ・・・・・・・・」」


再びハモる声。


「あわあわわ・・・おかしい・・あり得ない・・・・」


ルミネはあまりの事にブツブツと何かを呟きながら俯いて挙動不審者みたいになっていた。


「・・・・ふむ・・・・・ゼノン、君のギルドカードを拝見しても?」

「はい」


素直にカードを渡した。


「このカードはリアルタイムに常に更新しているから・・・実績もすぐに・・・」


そういってホーフェンがカードに視線を落とすと、黙ったまま固まった。


「・・・・・キラーグリズリー8・・・ファングラビット3・・・他多数・・討伐・・・」


名前:ゼノン
種族:鬼人族
レベル:67
職業:魔法剣士
ランク:G


「・・・・はぁ・・・ルミネ・・・」


ホーフェンが受け付け係のルミネに声を掛けるも、彼女は絶賛混乱中だ。


「ルミネ・・・聞こえないのか?ルミネ!!」

「はッ!!」


現実に無理矢理引き戻された彼女は体を強ばらせてギルドマスターの方を見つめた。


「・・・・・・取り敢えず、ゼノンの実力はランクGではおかしい、特例でランクをBにする、手続きを頼む」

「あ・・・・ぇっと・・・・はいです!」


ルミネはチラリとゼノンとホーフェンを交互に見つめた後ホーフェンからカードを受け取り部屋を後にした。

部屋の中には重苦しい沈黙が支配していた。

ホーフェンは難しい顔をして黙っているし、横にいるリザエンに至っては一言も声を発していない。


「「「・・・・・・」」」

「お待たせしました!」


慌てた様子で戻ってきたルミネの手には銀色に光る腕輪と銀色のギルドカードがあった。


「・・・おめでとう。ゼノン、君は今からBランク冒険者だ」

「え?」


Cに上がるのに試験があるとかいってなかっただろうか?色々すっ飛ばしている気がする。

ホーフェンが銀色のカードと銀の腕輪をゼノンに差し出していた。


「それだけの実力があるということだ・・・あの森の最奥までいき生還したのだから」

「どうして、本当に最奥まで行ったと・・・僕は口頭でしか言ってないですよね?」


どうして出会ったばかりの新人の言葉をまるまる信じれるのだろう?。


「・・・・・ゼノン、君はさっき、“大きな木と湖があって綺麗なところでした”と言ったな?」

「?・・はい・・・」

「昔AとSランク冒険者12人での3パーティーで探索に行ったことがあるんだよ」

「!」

「そこで見たこともないような美しい景色をみた、そして主に出会い・・・・パーティーは壊滅したが何とか数名は生き延びたんだよ」

「・・・・・・・」

「幻想的な場所だよなあ?あんな名前の森なのに」


苦痛そうに顔を歪めながらも必死で笑顔をつくりながら口にするホーフェン。


「・・・まさか・・・・そのパーティーに?」

「・・・ああ、最強とまで言われたパーティーだったがね・・・人の力なんて到底“神”には抗えないと知ったよ、引退してからはギルドを立ち上げ、育成に力を入れているんだ」


重く暗い話になってしまった。


「まぁ、そういうわけで、“ソロで”最奥までいける実力ならその辺が妥当だろう?さあ依頼主への報告に行ってきな」

「・・・はい」


ゼノンは部屋を後にして宿へ一旦戻った。
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