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新しい世界の始まり

秘境とされる龍の里、天空島ドラリオス

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「え?」


緑に覆われた草原、空に浮いた島からは滝のように水が流れ、キラキラと輝いている。
足下ほどの草は高級な絨毯でも踏んでいるように柔らかかった。


「・・・・・・・何これ・・・」


空を自由に飛び回る大小様々な龍種。
緑の草を頬張る陸型の土龍。


『龍の里へ、ようこそ、普段は結界と幻惑の術によって隠されてるの』


ソラはゼノンがキョロキョロ辺りを見回して固まっているのを横目に口を開いた。


『・・・長が会いたがっていたから、案内するわ。こっち』


ソラに言われるままにゼノンは後ろを着いていく。

綺麗な水、青々とした草木。


(綺麗なところだね・・・)


暫く歩いていると大きな洞窟が見えてきた。


『この奥に、長がいるわ』

「ん?」

『この先は、貴方1人でいって』

(何だろう?)

「分かった・・・」


大きな洞窟の入り口が、巨大な龍の口のように感じられて不安しかないのだが。
平静を装いゼノンは1人洞窟の中へと足を踏み入れた。

ひんやりとした空気と、何処か重いような感じ。


『ふむ・・・ゼノンよ・・・これは・・・少し不味いかもしれないな・・・』

(何が??)

『感じぬか?この邪悪な・・・気のようなモノを』

「?」


ゼノンは静かに足を進める。薄暗いが、洞窟の中の鉱石だろうか、光っているので転ばずに済みそうである。


『龍光石と呼ばれる高級素材である貴重な鉱石じゃな』


洞窟の中は一本道で迷いようがなかった。

暫く歩くと、広い空洞に出て、ゼノンは自分の目を疑った。


「・・・・なッ?!」

『これは・・・・・』


少女も言葉を無くし、目の前の光景を見つめている。

白い光を纏う白龍が、幾重にも厳重に施された鎖でその身を縛られて、身動きの出来ないその体を魔方陣の上に横たえていたのだ。


「なんてことを?ソラさん達が?!」


慌てて駆け寄ろうとするゼノンを少女が止める。


『止まるのじゃ!!』

「え・・・」

『荒神になりかけておる、“マガツ”(闇)が浸食して・・・簡単に説明するならば呪いを受けておる』

「あ、らがみ・・・?呪い?・・・何でこんな・・・縛って?」

『自我を失い、タダの荒れ狂うモノに成り果てれば、見境なく命を貪る化け物になるのじゃ』

「・・・・・」


しかし先ほど、ソラさんは“長が会いたがっている“と言っていなかったか?
まだ自我があるのではないだろうか?


「・・・・・・きっと大丈夫・・・」

『・・・・・・・お主が望むのなら、我はもう何も言うまいよ』


ゼノンの声に反応してか、白龍は首を上げ、ゼノンを見据えた。

体には痛々しい傷跡、至る所が黒ずんだ体。


≪――人の声・・・随分久しく・・・――。≫


その姿に似つかわしくない程、弱々しい声がゼノンの耳に届いた。

白龍の蒼い瞳がまだ僅かな光を宿していた。
ゆっくりゼノンは白龍に近付く。


≪ああ・・・――来てはいけない――私は・・・≫

「!!」


白龍が急に暴れ出し、長い尻尾が洞窟の壁に叩きつけられる。


≪すまない、――体の自由すらままならないのだ。――≫

「・・・・」

(吃驚した・・・あれは・・・何とかなるのか?)

『・・・・触れることが出来れば、浸食した闇を払うすべもあるにはあるのじゃ』


そんな事を確認しているともの凄い音に反応して二つの足音が近付いてきた。


『これは何事です?!』

『我らが聖地を踏み荒らす事許しませんよ?』


白い髪を後ろで一つに束ねた若い20代くらいの男性と、赤い色をした肩くらいの髪の10代くらいの少女がゼノン達の前に現れた。


『貴方は・・・ソラが連れてきた者、ですね?何故此処に・・・』


男性は言いかけて何やら考えている素振りを見せた。
一方少女の方はいきなりの喧嘩腰で喚きだした。


『此処は、一般の者や部外者は立ち入り禁止です!!』

≪ああ・・・――2人ともその者は何もしていない・・・――大丈夫だ≫

『父様・・・・・・』

『龍王様、本当に大丈夫ですか?』


少女は白龍を“龍王様”と呼んだ。


「・・・・王様が“マガツ”に侵されて“荒神”になりかけたから、こんなことを?」


ゼノンが言うと2人はバッと視線を白龍からゼノンに移した。それはもうもの凄い早さで。


『・・・・何故・・・そこまで・・・一目見ただけで?』

『何者ですか?!この里の者にさえ内密なんですよ?!』

もの凄い警戒されたようだ。2人は鋭い爪を剥き出し、今にも飛びかかってきそうな勢いだ。


(どうしよう?)

『我に聞くのか・・・?うーむ・・・ならばそこの2人にも手伝って貰えば良いのではないかの?』

(手伝う?)

『暴れぬよう押さえておいて貰えば、触れることも出来よう?』

(・・・なんて説明するのさ?)

『それは、さくっと、龍王の呪いを解呪できるので協力してくれと・・・』

(えええええええ・・・・・・僕の首と胴別れたりしないかな?!)


『それは、知らぬ・・・まぁ・・・そのときは我が復活させてやるので、問題なかろう?』

(復活できるの?!・・・・ってそうじゃなくて・・・痛そうだから・・・拒否したい)

『贅沢じゃのぅ・・・・まぁ、言うだけ言うてみぃ、なるようになれじゃ』


「・・・・・もし、僕が、その龍王様の呪いを解呪出来るって言ったら・・・」


そこまで言うと2人の警戒する目つきが更に一瞬険しくなった。


『馬鹿な・・・この状態になりもう、400年は経っている、その間に色々試したんです!どれも効果が無かったんですよ?!』

『あり得ないです!!怪しい!そんなことを言いながら龍王様を手に掛ける気ですか?!』

(・・・本当に大丈夫なのか?やれますって言っておいて、いざ・・失敗とかマジで死ぬよ?)


『なんじゃ、ゼノンは我を信じておらぬのか?我は至高の・・・』

(分かっているけど・・・)

ゼノンは少女の台詞を遮って肯定はする。

少女は不服そうに頬を膨らませて何やら抗議していた。


『・・・ゼノンよ、お主が“強く望めば”それだけ強い力になるのじゃ、我はそういう“道具”なのでな』

(望み・・・強い想い・・・)


『もし、本当に・・・父様の・・・・・・・出来るのか?』

『!ッ珀影様?!騙されてはッ』


少女は驚いて隣に居る男性の腕に縋りついた。


『・・・しかし、もし本当だとしたら・・・私は父様を助けてやりたい・・・闇を背負う役目であのような姿になってしまったが・・・』

『・・・・・』


少女は黙ったままその手を離した。


『名乗ってすら居なかった、すまない・・・私は珀影、こちらが朱里』

「僕は、ゼノンです」

『ゼノン殿、早速だが先ほどの話・・・信じても良いのか?』

「はい、何とか出来るとかもしれません・・・2人にも協力をお願いしますが・・・」

『ありがたい、手伝えることなら何でも言って欲しい』

暴れないように押さえて欲しい事を伝えると、2人は人型を解除して龍となり、白龍を押さえ込むようにのしかかった。

いくら鬼人族とはいえ人とそう変わらない生身の体だ、多少頑丈とは言え、龍の寝返り、吐息、だけでも即死レベルになる。


『これで良いのか?ゼノン殿?』

「はい、お願いします」


ゼノンはゆっくりと白龍に近付いていく。


『ハイリカバリーじゃ、強く思うのだぞ?』

「ハイリ―・・・」

ゼノンが白龍の腕に触れて唱えようとしたときだった。


『な?!』

『え?!!!』

≪ぬうう・・・――すまない・・・ッ――お前達逃げ・・・――≫


白龍の体が次第に闇に呑まれていき、白く美しかった姿が黒い闇を孕んだ漆黒に変化していた。


『どういう事だ?!』

『やはり、部外者には無理だったのです!!』


朱里が叫ぶ。

白龍を縛っていた鎖や魔方陣がかつては白龍だった黒竜の力に耐えられずに千切れその効力を失っていった。自由になった黒龍はまだ洞窟内で暴れ回っている。

これがいつ洞窟の外へでてもおかしくはなかった、そして外へ出てしまったら大惨事になることも想像に難くない。


『手遅れ、と言うことですか?!』

(唱えきれなかった・・・・発動する前に・・・もう無理なのか?)

『まだじゃ、諦めるでない!情けないのぅ』


こちらの体勢を整える前に、黒龍は洞窟の外へと飛び出して行ってしまった。









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