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新しい世界の始まり

獣族の街ガルゼット

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 龍族の天空島ドラリオスから1番近い街は獣族の街だった。
 空に浮いてるドラリオスは常に移動していると言うから、たまたま上を通過している地上にあったのが、此処獣族の街ガルゼットだった。

 荒削りな石畳みの通路、街を囲む岩の塀。
しかし、行き交う人々の表情は皆生き生きとしている。

人族もいれば、他の種族も大勢居る。冒険者に人気の高い街らしい。

最近近くの“湿地の泥沼”に新しくダンジョンと呼ばれる未開の地が出現したらしい。

中ランクから高ランクの魔物が出現する其所は多くの冒険者達からの関心も高かった。


そうつまり、宿屋は何処も満室なのだ。

野宿は覚悟しなければいけない。


 取り敢えず冒険者ギルドによって何か手頃な依頼が無いか探してみよう。

大通りを適当に歩いていると見慣れたギルドの看板が目に付いた。剣と盾のマークだから初心者でもすぐに分かる。

建物は木材で作られた大きめのログハウスのようだった。
ゼノンは静かに中へ入る。

中はディアリスとは比べられないほど人が大勢いて、喧騒だった。


酒をあおる者、大声で話す体の大きな者、いくつかのパーティだろうか、徒党を組んでいる者達で室内は賑わっていた。

新たに入ってきたゼノンに一瞬視線が集まるが、すぐに興味の視線は離れていく。

ゼノンも気にせず依頼書が張られた掲示板の前へ歩みを進めた。


「へぇ~・・・素人っぽいのに、お兄さんB級なのねぇ~、どう?暇なら一緒にクエストいかなぁ~い?」


魔法使いだろうか、ローブを纏った金髪の女性がゼノンの腕にある銀色の腕輪をみてそう口にした。


「・・・・・・」


どう答えたら良いのかゼノンは迷ったので、とりあえず聞き流すことにした。


「なぁ~にぃ?つれないわねぇ~」


正直人と話すのは苦手だ・・・。無闇に話しかけないで欲しい、これが本心だ。


「おいおい、人の連れを無視とは・・・良い度胸だなぁ?小僧!」


望んでも居ない厄介な事が起きるし、対処の仕方もしらないし、成るべく目立ちたくないのだ。

ガタリと席を乱暴に立ちゼノンの前に立つ大男。


(・・・・どうしょう?!!あわわわ・・・・これどうしょう!!)


内心では心臓が口から飛びでそうなほど慌てているが、表情は焦った様子を見せずにゼノンは男を見上げていた。

大男の手が伸びゼノンに殴りかかってきた。


(あれ・・・?何か凄いゆっくりに見える?これなら・・)


殴りかかってきた男の力を利用し、いなすようにゼノンは相手の手に触れクルリと身を捻るように返す。


「え?!」


次の瞬間大きな音を立てて大男は床に背中から倒れていた。


「・・・・・」


床に転がっている男もその場に居た回りも唖然としていた。
それはゼノンも同じで、そこまで力を入れていないのに、あんな大男が軽く転がるとは思っていなかった。


「嘘だろう?あいつ・・・Cランクの怪力のバロンだろ?」


静まりかえった室内が再びザワザワと騒がしくなった。


「あんな非力そうな少年が?!」

「今何をしたんだ?!」

「あいつ何者だ?!」


再び浴びせられる視線にゼノンは戸惑いながらもポーカーフェイスを保ったまま、当初の目的の依頼書がある掲示板まえに足を進めた。

皆道を空けてくれたのですんなりと辿り着けた。


『うむ、ゼノンはいい男じゃ、だらしない顔をしたら勿体ないのじゃ、ポーカーフェイスを貫くのが良いのぅ』


天空島ドラリオスをでてから、少女にそんなことを言われたので。
臆病な自分を内面に隠して成るべく表情にでないように務めている。


「・・・・・」

(うーん・・・何が良いかなぁ)


ふと目に付いたのは、素材の採取。

しかもそれは今手持ちに結構沢山ある品だ。

推奨レベル270以上 Sランク以上のクエストだ。

内容は、天空島ドラリオスからの龍光石の採取。数は3こ。

依頼主は・・・獣族の王・・・。


(王様直々・・・?!Sランク依頼って凄いなぁ・・・)


それを見ていると、ゼノンの視線の先にある依頼書に気付いたのか横に居た狐耳の女性が口を開いた。


「やめときなよ?それは無理難関クエストだよ、命がいくつあっても足りないよ」

「そうなのか?」

「そうだよ、まず270レベルとか・・・そもそも無理だろうし、レベルがあったとしても・・・龍の島に入るには試練があるんだ、龍に勝つなんて無理だよ?ダンジョンボスより格上だもん」

「・・・・・」


手持ちに50個以上龍光石あるんだけど・・・・。

しかしこの喧騒と視線の中でそんな物出したら・・・・どうなるか・・・

答えは一つ。

かなり目立つ!!

取り敢えず、別の依頼書も見てみることにしようと、ゼノンが移動して視線を動かしていると。


「・・・これとかどう?」


女性が1枚の紙をゼノンの前に広げる。
Bランク以上パーティー推奨、湿地の泥沼ダンジョンの探索。


「・・・・ダンジョンか・・・」

「そうそう、新しく出来たところで、まだお宝とか残ってそうだしさ」


(・・・ん?・・・そもそもパーティー推奨って・・・僕ソロだけど・・・)


「先に見つけた人に所有権あるし、お得だと思うんだよね・・・どうかな?」

「いいんじゃないかな?」

「お!、よし、決まりね?! 私はリチェリー宜しくね」


握手を求めて女性が手を差し出してきた。


(・・・・えーとこれは・・・取り敢えず恥かかせちゃダメだよな・・・)


差し出された手を取り握手する。


「ゼノンだ・・・」

「ゼノンね、宜しく~早速だけどパーティー名はどうしよう?」


臨時でのパーティーで狩りやダンジョンに行くときは届け出が必要らしい。

勿論固定パーティになれば、届け出は最初の結成時だけで済むのだが。


(ん・・・・パーティー組むのもう決定事項なんだ・・・コミュニケーション力高いな・・・この子)


「ん~・・・“白銀の疾風“とかで良いかな?お互い髪の色とか銀色だしさ?」


にっこり微笑むリチェリー。

もう流れに任せるのが良いだろう。ゼノンは肯定を示すように静かに頷いた。

リチェリーは嬉しそうにカウンターへ足を運び、依頼の受付とパーティーを結成させてゼノンの元へ戻ってきた。


「取り敢えず、もう日も暮れちゃうし、ダンジョンへは明日の朝って事で、いいかな?」

「分かった」

「・・・ところでゼノンはいつこの街に?」

「え?」


急に別の話を振られゼノンは一瞬焦った。


「いや、此処結構今人多いじゃない?到着してすぐだとさ、今日泊まるところもないんじゃないかって思ってさ」


ズバリ当てられた。


「・・・・今日は野宿する予定だった・・・」

「やっぱり!明日からダンジョンに潜るんだから、しっかり休まないと!」


(今から行ってももう何処もあいてないだろうし・・・どうしようかな・・・)


「と言うことで、私が泊まっている宿に一緒に行こう」

「え?」


(部屋あいてるのかな?)


取り敢えず、リチェリーの後を着いていくゼノン。

途中で早めの夕飯を済ませ宿に到着した頃には陽は傾き夕暮れとなっていた。


「さ、着いたよ。」


宿は綺麗な木造2階建て。

中も清潔で、小さなカウンターと右奥の方に階段がある。


「ただいまぁ」

「ああ、おかえりー、リチェリー・・・・ってその人は?」


宿のカウンターに居た女性が親しげに話しかけてきていた。

リチェリーの方も普通に親しそうに話をしている姿は客と言うよりもっと親しそうだ。


「新しくパーティーを組むことにしたゼノン君です!宿泊まるとこ無いって言うから連れてきた!」

「ああ・・・今は何処も一杯だもんねぇ・・・しかし・・・うちも・・・埋まってしまって部屋は開いてないよ?」

「えー・・・・んー・・・・・」


リチェリーは困った表情をしながらゼノンを凝視し口を開いた。


「ゼノンは、口かたい方かな?」

「ん?」


(そもそも内緒話きいても話す相手いないけど・・・・?!)


あまりのリチェリーの重圧に静かに頷くゼノン。


「そう、ならいいわね。大丈夫」

「?」

「リチェリー・・・相手は異性だけど・・・本当に良いの?あったばかりなんだろう?」

「大丈夫、なんかそんな気がする!」


2人はそんな会話をしているが、ゼノンは理解できずに置いてけぼり状態だった。


「ということで、今日は私の泊まっている部屋にお泊まりです!」

「は?!」


腕をガッシリと固定されたゼノンは連行されるようにリチェリーの部屋に連れて行かれた。


(何処にそんな力あるんだ?!全く振り解けないんだけど?!)


「お・・・おぃ・・・流石に不味いだろう?!」

「んー?ゼノンは女性に慣れてないの?いきなり襲う程飢えてるとか?」


狐耳がピコピコ動く。


「そう言う問題じゃなくて・・・・・!」

「もう、仕方ないなぁ」


リチェリーはクスクス笑いながらも変化する。


「!!」


銀色の狐の姿になったリチェリーは着ていた服をそのまま脱ぎ散らかした。


「これならいいでしょう?さ、疲れたから寝よー」


1つしかないベッドに潜り込む銀狐ことリチェリー。


「・・・・・・」


たしかに狐の姿なら・・・大丈夫だ。


(大丈夫って何がだ・・・)


自分に突っ込みを入れつつ、装備を外し軽装の寝間着に着替えて狐に背を向ける形で眠りについた。
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