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新しい世界の始まり

ボス部屋と固定パーティー結成

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「え・・ッ・・・リチェリー?!」


ハッとしてゼノンが視線でリチェリーを追いかけると彼女はもう魔方陣の上に立っていた。


「なぁーにー?」

「な、何でまた1人で先行してるんだ?!」

「目の前に財宝の山があるんだよー?行くでしょ?」


何言ってるの?当然でしょ?みたいなノリでリチェリーが答えた。
これにはゼノンはもう溜息しか出ない。何を言っても無駄なのだろう、猪突猛進なお転婆少女には。


「・・・・分かった、後悔するなよ?」

「ん?何に?私は常に前向きだよ?」


そういうリチェリーの足下の魔方陣が侵入者を感知し煌々と光り輝いていた。


『のぅ、何が起こるんじゃろうか?!ちょっとワクワクしておるよ』

(どうせ、厄介ごとだろうけどね・・・)

『冒険という感じで楽しいでは無いか?やはり人数は多い方が良いのぅ』

(・・・・確かに・・・)


この意見には多少賛同できる。1人で淡々とこなすより刺激もあり楽しいと思ってしまった。


「リチェリー!ちょっと止まれ!!」


光る魔方陣を抜け奥にいる黒い塊に接触しようとしているリチェリーの姿が眼に飛び込んできて思わずゼノンは叫んでいた。

もし魔方陣からとんでもない魔物が召喚されたとして、さらに黒い塊のボス?まで襲ってきたら挟み撃ちの上かなりの乱戦になる、危険だと瞬時に悟ったのだが、数刻遅かったようだ。

リチェリーの手は黒い塊に触れていた。


「・・・・・ぅえーぇー何これ・・・」


怪訝そうに表情を歪めて自分の手が触れている黒い塊を見ている。


「・・・・・マジかよ・・・」


素直に今の感情が口から出た。

驚きすぎると人は頭が白紙になるらしい。罠の線とか黒い物体とか考えていたはずなのに・・・。


『おー・・・新種かのぅ?』


黒い塊がゆっくり動いて、リチェリーに視線を向けた次の瞬間。


「!!」


危険を察知したゼノンは体が勝手に動いていた。本人の意識を超えて。

宙に舞っていたのは鮮血、そして腐敗と分解された自分の左腕だった。


「ゼノン!!?」


遅れて気づいたリチェリーは自分を庇うように立ちすくむゼノンを見てその表情を曇らせ青い顔をし、やがてはその目には大粒の涙を溜めていた。


「ッぐぅぁぁッ・・・・油断するなって・・・」


肘から下の左腕を失いボタボタと止めどなく流れ落ちる鮮血、痛みに耐え必死に斬られた左腕を押さえるゼノン。

黒い塊は大きな皮膜に覆われた4枚の翼を持った1つ目玉の魔物だった。その1つめの魔物の尻尾が鋭い刃物が付いた鞭の用にしなる。


『ゼノン!大丈夫か?!痛覚抑制と止血はしたぞ・・・・しかしその腕は・・・』

(分かってる・・・再生は無理なんだろう・・・?いいよ、目の前で命が失われずに済んだ・・・)

『・・・・格好いい台詞を・・それはその娘に直接後で言ってやるが良いわ』

(まずは、無事に此処を出られたら・・・・だな)

「あ・・・あぁぁ・・・ゼノン・・・私は・・・・」

「リチェリー!しっかりしろ!死にたいのか?!」


リチェリーの肩を右手で掴んで叫ぶ。
足手まといを連れて逃げ回る程余裕はない、魔方陣も何かを召喚してきたら本当に打つ手もなく此処で命を落とすかもしれない。幸いまだ光っているだけで何かが出てくる様子はなかった。


「・・・・ッごめん・・・私・・・戦う・・・・」

「あいつの尻尾・・・触ると不味い・・・」


先ほどの斬られた自分の左腕を見る限り、触れた肉を腐らせ、分解してしまうらしい。
現に切断された腕はその原型はおろか跡形も無く、塵のような砂が少し残っているだけだった。

敵の尻尾を避けつつ反撃の手を考える。


『敵の情報をスキャンした・・新種故時間が掛かった』

名前:ハイデビルアイ
種族:魔物
レベル:71
ランク:上級
HP:54000

尻尾は状態異常にさせる効果があり、状態異常には、腐敗、麻痺、毒など様々な効果があるが、1体につき1つの能力で、個体差がある。また鋭い鞭のように動くため本体と2匹の敵を相手にしていると錯覚するほど。


「・・・・・厄介だな」


相手の情報が透明なプレートとして目の前に表示され、ゼノンは眉をしかめた。
意外と素早いハイデビルアイ。弱点はその大きな目玉だろうけど・・・。1撃で当てられる自信が無い。


「リチェリー・・・ッ俺がアレを止めるから、弱点である目玉を叩けるか?」


「え・・・ッ」


突然作戦を言われ、戸惑う。まだ心の準備が出来ていないのだ。
また失敗して迷惑を掛けたらどうしょうと、その不安な気持ちが心と体を重くする。


敵の尻尾の攻撃を素早く避けつつ、ゼノンはリチェリーの返答を聞く前に離れて行ってしまった。
これは、やるしか無い。
今度こそ期待に応えたい。


『レベル差が少しあるからのぅ、ちょっときついかのう・・・』

(いつまでも躱し続けるのは限界があるかな・・・体力無いから・・)


内心苦笑しながら答えるゼノン。

キラリとリチェリーの持つ槍の刃が光った気がした。
きっと彼女ならやってくれるだろう、そう確信を持ちゼノンは敵の目を自分にだけ向けさせるように立ち回った。

夜鎖神で敵の翼を1枚きりとばすと、敵は激怒してゼノンに向かってきた。

怒りに身をまかせた敵ほどその動きは単調になり動きを読みやすいものだ。
ハイデビルアイは突進と尻尾を振り回すのみの単調な動きになっていた。

リチェリーの姿を隠しつつ、彼女の直線上に敵を誘き寄せながら、ゼノンは敵の攻撃を躱す。


「ゼノン屈んで!」

「!」


その声に即座に反応しゼノンは敵の前で屈む。
ゼノンの頭上を凄い早さで槍が駆け抜けていった。


「・・・・」


リチェリーが自らの武器を投擲したらしい。
外したら目も当てられないが、彼女なら大丈夫だろう。

的確に槍はハイデビルアイの大きな目玉に突き刺さっていた。
しかし苦痛に藻掻いているハイデビルアイの様子から、致命傷までには達して無いのだろう。


「浅かったみたい・・・ゼノン槍を押し込められる?」

「任せろ」


敵は苦痛と失った視界に尻尾を手当たり次第に振り回して暴れていた、リチェリーでは近付いたらやられてしまうというのを、2人は分かっていた。

素早くゼノンは敵の懐に飛び込み、突き刺さっている槍を更に奥へと力任せに押し込んだ。


『ギィャアアアアアアアアアアアッ』


しばらく暴れ回っていたハイデビルアイはピタリと動きを止めその場に崩れ落ちた。


「アイテム回収しないと・・・」


リチェリーはハイデビルアイから核、所謂人間達でいう心臓を取り出した。
片手サイズの大きな紫色の水晶のような石だった。


「大きい、これ上級の魔物だったのかも」

「・・・・」


確かに敵の情報プレートに上級って書いてあったな・・・。
そんなことを考えていてすっかり足下の魔方陣の事を忘れていたことに気付いた。


「これ何かの罠か、召喚陣かと思ったが・・・」

「何も起きないね?」


リチェリーは更に奥へと進み、財宝を手に取ろうとして慌てたように振り返った。

石柱の上のガーゴイルの2つの像の目玉が赤く光った気がしたのだ。


「連戦はきついねぇ」


リチェリーが言う、同意するようにゼノンは頷きながら、ガーゴイルの2つの像が動き出そうとする前に粉々に粉砕した。


「え・・・」

「なんだ?」

「いや、こういうのって登場するの待ってあげるんじゃ?」

「・・・・準備が出来るのを大人しく?襲われるのが分かっているのに?」

「う、うん・・・優しさ!」

「・・・・・よく分からないが、先手必勝って言葉がある」

「・・・あー・・・あるね・・・まぁ、いいっか」


再び財宝に向き直り、マイバックに財宝を適当に詰めるリチェリー。

流石にこれ全部は・・・・と思いながら財宝の山に目をやりふと目を引かれたものがありそれを手に取ってみた。


『ほぅ・・・・珍しい・・・』

(これは?)

『知らずに手に取ったか・・・なんとも・・・ゼノンは凄い力が眠っているやも知れんな』


少女がいう、真顔な所を見ると冗談で言っているのでは無いのだろう。
凄い力なんて、無いと思う。どれも与えられた物ばかりの借り物の力だ。


『招来神の玉』


どんな神を呼べるかはランダムらしいが、1度だけ強大な力を持つ神を召喚できるらしい。
他の金銀財宝はリチェリーに渡し、ゼノンはその玉をソッとアイテムボックスと通じるバックに入れた。


「もう持てないから、とりあえずこのくらいでいいや!少しは残しておかないと後から来た人が可哀想だものね?」


そう言いながらもリチェリーの手持ちのバックは張り裂けんばかりに膨らんでいるが。


「・・・・そうだな・・・」


苦笑しながらもゼノンは肯定の意思を示した。

まだ光っている魔方陣、気にはなるが、今は何も起こらないのだから気にするだけ無駄なのだろう。

2人は来た道を引き返す、再びリチェリーの表情が曇るのは言うまでも無い。

ヘドロの泥沼の道と異臭。汚れる靴と衣服。


「ねぇ、ゼノン・・・・どうして汚れるの?」

「・・・・適当なボスから手に入れた装備と手作りでは多少性能が違うのかもな」

「・・・多少?今多少って言った?!街に帰ったら私の分も装備造って欲しい!」

「素材さえあれば、別に良いけど・・・」

「約束よ?!絶対なんだからね?」


念を押すようにリチェリーが釘を刺してくる。
何をそんなに必死に・・・
そしてゼノンはふと思い出した。

リチェリーは一緒に冒険してくれる人を探していた、一時的にパーティーを組んでダンジョンへ探索はいったが、
これから先も一緒に冒険しようとは一言もお互いに言っていない事に。

リチェリーはこの探索依頼が終了したらゼノンは1人離れて行ってしまって、もう会えないような気がしていた。
だからなんとしても接点を、会う口実の切っ掛けが欲しかった。

高性能な装備が欲しいのも事実だったが。


湿地の泥沼ダンジョンを入り口まで戻り、沼地を歩いて戻れば街までは直ぐだ。
お互いに無言になり、何も話さないままダンジョン入り口まで戻り、もうすぐ街についてしまう。


「・・・・・ゼノン・・・あの・・・」

「?」

「私、凄い足手まといかもしれない・・・けど精一杯頑張るからッこのままパーティー継続させて欲しい!無理なお願いかも知れない・・・私の所為で・・・腕・・・・」


俯いたまま耳も尻尾も力なくションボリしているリチェリー。
必死で気持ちを言葉にした勇気ある行動に、誠意を見せなくては、とゼノンも思った。

俯いたまま立ち止まったリチェリーにゼノンはゆっくり近付いていく。
リチェリーは怒鳴られるのか殴られるのかとドキドキしながらゼノンの返答を黙って待った。

ゼノンはリチェリーの前まで来て立ち止まる。


「・・・・ッ・・・」


ギュッと目を瞑り覚悟を決めるリチェリー。

ゼノンの右手がフワリとリチェリーの頭の上に置かれ、優しくなでられた。


「ッ・・・ふぇ?」


殴られるのを覚悟していたからあまりの出来事にリチェリーは変な声が出た。


「リチェリーが無事で良かったと思っている・・・一緒に居れば退屈しなさそうだし・・・」

「え?えっと・・・それって」

「これからも宜しく」

「え・・・私の所為で怪我したのに・・・いいの?」

「リチェリーの命に比べたら腕の1本くらい安いだろ?」

「!!!」


ゼノンの突然の台詞にリチェリーは顔を真っ赤にしてその場に踞った。


「何それ・・・狡い・・・ッ」


これで即席パーティーが晴れて固定パーティーへとなった瞬間だった。



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ちょっと長くなってしまいましたが・・・。取り敢えず固定パーティー結成です(o´`o)
少しずつパーティーメンバーも増やしていきつつ、いずれは・・・取り敢えずコツコツですね。




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