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新しい世界の始まり

召喚と採取討伐クエスト

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晴れて即席パーティーが固定パーティーへとなり、リチェリーとゼノンは2人で冒険者ギルドの依頼ボードを眺めていた。


「うーん・・・採取クエストとかしつつ討伐クエストも熟せたらレベルも上がって一石三鳥だよねぇ?」


リチェリーがそんな事を呟きながらジッと依頼ボードを見つめ続けている。


「・・・・そんなに都合良くは無いだろう」


世の中そんなに甘くは無いのだ。・・・無いはずなのだ。

暫くしてリチェリーが、小さく“あッ”と声を漏らした。

何事だろう?と側に行くとリチェリーの目の前に並んで張ってある2枚の依頼。

眠香草の採取と、デビルグリズリーの討伐。

どちらも此処ガルゼットから東へ行った草原と森の広がった地域に生息している。

デビルグリズリーの居る森には60~75位のレベルの魔物が生息してるから、レベル上げにも丁度良い。


「あったね・・・」

「たまたまだろうけど・・・」

「早速受けてくるね」


リチェリーは2枚の依頼の紙をボードから剥がし受付のカウンターへ持って行った。


「こちらの依頼ですね、パーティー名“白銀の疾風”様・・・受託しました。宜しくお願いします。」


受付を終え、リチェリーはゼノンの元へ駆け寄ってきた。


「そんなに遠くない場所だし、今から行ったら夕方には完了できるね」

「早速行くか?装備作成はどうする?」

「前みたいにヘドロとかは無いはずだから、装備作成は良い素材揃ってからで良いよ」

「分かった」


ガルゼットを出て東へ道なりに街道を歩く。


「そのうち乗り物・・・欲しいかもねぇ」

「そうだな・・・」


ゆっくり徒歩で歩くのも良いが、急ぎの依頼などだった場合たどり着くまでに時間が掛かってしまう。


「その辺の魔物・・・ティム出来たら早そうだけどね・・・」


リチェリーが空を仰ぎながら呟いた。


『成る程・・・ティムか・・・乗り物となる使い魔を得られれば良いのだろう?』

(ん?さきからティムとか使い魔とか・・・何だ?)

『何も“野生の魔物”を使い魔として契約せずとも・・・もっと簡単な方法があるのじゃ』


魔法書の少女が言う。


『召喚じゃ!主の魔力にて創造を加えて・・・呼び出せば良い!』


何やら物騒な事をサラリと織り交ぜた気がする。


(創造で召喚?夜鎖神みたいに?)

『いかにも!生き物も作成可能じゃ!!野生より簡単に従順なペットが手に入るのじゃ!』


何やら少女は楽しそうに力説していた。


(陸を速く走れて、それでいて戦力になるような強さをもち・・・格好いいのがいいな)

『ふむふむ。やる気がでたであろう?早速召喚してみるのじゃ!魔方陣は我が記してやろう!』

「「!!」」


リチェリーとゼノンの歩いていた前に突然赤と白い光の線が複雑に幾重にも描かれていく。


「な、何突然?!!」


リチェリーは槍を構えて臨戦態勢に入っていた。


「大丈夫だ・・・多分・・・」

「え?ええ?」


訳が分からず困惑するリチェリー。


『さぁ準備は整った、これは扉じゃ、主の魔力を持って開くが良い、その力に応える者が顕現する』

(呪文とかは?)

『不要じゃ、ただ魔力を流し、“来い”と命じれば良い、2度目からはその名を持って呼べばいいだけだしのぅ』

(名前?)

『名を付けることで実体を持てるのじゃ、我も名があれば・・・この体も実体を与えられるのだが・・・?』

(・・・・考えておきます・・・)


そこには魔法書でありながら意思を持つ、透けた体の小さな少女が苦笑して居た。

光る魔方陣の前にしゃがみこみ、魔力を宿した右手でその魔方陣に触れる。

一気に体の魔力が吸い取られるような脱力感が体を襲った。


「来い!!」

「え・・・そんな適当な召喚ある?!!」


リチェリーは口をポカンと開けて驚いていた。

ゼノンの声と魔力に反応して魔方陣は更に輝きを増し、視界を真っ白に染め上げた。


「!!」

『ほう、新種じゃのぅ、炎虎といったところかのう?』


光が収まり瞼を開くと魔方陣の上には白い毛並みの虎がいた。


「え・・・?なに・・・」


リチェリーは唖然としていた。

ただの虎じゃない、手足の先と尻尾に煌めく青い炎を纏わせていたのだ。


『汝が我を呼びし主であるか?』


ゼノンは静かに頷いた。


「君の力を貸して欲しい・・・・名は・・・・煉火・・“レンカ”!」

『承知した、我が主よ・・・』

「・・俺は、ゼノン、宜しくなレンカ」


今ゼノンとリチェリーはレンカの背に乗り、街道を疾走している。


(は・・・速すぎる・・風圧が・・・痛いッそして息が・・・苦しい!)


前にゼノン、後ろにリチェリーが乗り、必然的に前にいるゼノンが一身に風を受けているのである・・・。


『情けないのぅ・・・』


少女は呆れた様に呟いた。

暫くすると目的の森についた。

徒歩1時間程の距離を10分くらいで着いてしまうとは。

息を切らしているのはゼノンだけだ。走ったレンカもリチェリーも普段通り。


「どうして、ゼノンが息を切らしてるの?」


リチェリーの問いにゼノンは苦笑しか返せなかった。


(どうしてだろうな・・・それは俺も聞きたい・・・・ッ)

「レンカ・・・次はもう少し速度落としてくれ・・・」


そういうゼノンの髪は風を受けてボサボサに乱れていた。


『!ッ申し訳ありません、主よ・・・気が付かず・・・』

「いや、次から・・・マジで・・・頼む・・・」


レンカはションボリしながら静かに頷いた。


『我はいかがしましょう?小さくもなれますが・・・戻った方が良いでしょうか?』


そう言いながらレンカの虎の巨体は見る見ると縮み、小さなぬいぐるみサイズで意外にも愛くるしい姿になっていた。


「!!」


真っ先に反応したのはリチェリーだった。
 目にも止まらぬ早さですぐさま駆け寄りレンカを抱き上げ、自分の腕の中へ。


「リ、リチェリー?」

「わ、私が、抱っこしておくよ!大丈夫!」

「・・・・・お・・・おう・・・」


眠香草の採取と、デビルグリズリーの討伐。

森の中を散策して直ぐに眠香草はみつけた。特徴的な白い綿毛の様な花が咲いた草だ。

茎から必要な分採取してアイテムボックスに仕舞うゼノンの横で、リチェリーはレンカと楽しそうにじゃれていた。

あのもふもふを見ていれば触ってもふりたくもなる。


「ふわっふわぁ~手触りヤバいわぁ~」


リチェリーからそんな声が時折聞こえてくる。


「・・・・・」

(俺だってまだもふってないのに・・・・)

『なんじゃ、男の嫉妬は醜いぞ、』

(・・・・ふわふわもこもこ・・・)

『・・・・重傷じゃな・・・・あんな毛むくじゃらが良いのかのぅ?』


そんな穏やかな時間を過ごしていて、此処が70代のレベルの魔物が出る森であることもすっかり頭の隅に忘れ去っていた。


『む、囲まれておる』

「!!」

『主よ・・・!!』


レンカはリチェリーの腕の中でキリッとした表情をしたが、その愛くるしさは微塵も変わってなかった。


「討伐対象だ!」


デビルグリズリーが4体ゼノン達を取り囲んでいた。




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