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1章~石版の伝承~
8.~結界の儀式と陰謀~
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朝から何やら外が騒がしく、麻衣は瞼を擦りながら辺りを見回す。
ベッドのすぐ横を見るとまだジンがスヤスヤと静かな寝息を立てていた。
麻衣はジンの腕を枕に熟睡してしまっていた。
コンコン
控えめなノックの後静かに扉が開いた。
「ッ!…」
ベッドの上に正座して固まる麻衣に寝ぼけたジンが再びその細い体を腕に抱きしめた。
部屋に入ってきた者は、ジンの側近のゼアルだったが、ベッドの上の2人を見るなり青ざめた顔をして固まってしまっている。
「…これには、事情が!」
麻衣は必死に弁解するが今のこの状況で何を言っても無駄なのだろう。
「……お、邪魔をしまた…失礼…します」
ゼアルは静かに扉を閉め部屋を出て行ってしまった。
今度は麻衣が青ざめる番だった。へんなとこ見られた…あの顔絶対誤解してる。
「ちょっと!ジン!!」
抵抗しながらジンを起こそうと揺すって見た。
「…ぅ‥ん?」
「起きて!!」
ゴンッ
鈍い音が辺りに響いた。
「あ…」
「…‥乱暴な起こし方だ…・」
ベットの上の棚の角にぶつけてまだ痛む後頭部を擦りながら腕の中にいる麻衣を見据えた。
「うぅ…ごめんなさい…」
苦笑してから静かに起き上がりジンは肌蹴たローブを脱いで服を着替え始まった。
「!ちょ!ッちょっと待って!」
「…?」
ジンの細く白い肌があらわになる。
無駄な肉もついてなくて…腰から上のラインも美しい曲をえがいている。
「人前で脱がないでくれる?!」
「…気にしないが?」
「こっちが気にする!」
頬を赤くして顔を隠すように両手で覆って俯きながら言う麻衣にジンは静かに近付く。
「…‥純粋だな‥そんな反応されたら、穢したくなる…」
「?!」
麻衣は両手首を掴まれてベッドに押し倒されてしまった。麻衣の上に馬のりしたジンはジッと麻衣を見据える。深紅の双眸が怪しい光を放っていた。
「…ジン?…」
怯えたような目をジンに向けたが、ジンは気にした素振りを見せずに麻衣の頬に口付けして、唇を徐々に滑らせ首を優しく舐め、肌蹴た麻衣の服を剥いで現れた鎖骨から胸にかけてそっと唇を滑らせていく。
「ひゃ…ぁッ」
ゾクッと背筋が震えた。あらわになった肌に外気の冷たい風が吹き付けたからだけではない。
「…ジ、ン‥やぁ‥だ‥やめ…ッ」
触れられたところは蕩けてしまいそうに熱を帯びていて熱い。
目に涙いっぱいに溜めて拒絶する麻衣に、ジンは動きを止め暫し麻衣を見据えてから、ふっと笑い拘束していた麻衣の両手首を離し麻衣の上から退けた。
「…‥」
「…‥」
重苦しい沈黙が静寂となって2人を襲う。
ジンは無言で部屋を出て何処かへ行ってしまった。1人残された麻衣は呆然としながら暫く固まっていた。
「王」
「…ゼアルか、何だ」
「…部屋でその…」
言い難そうに語尾を濁すゼアルにジンは苦笑して”見ていたのか”と呟いた。
「…抱いたのですか?」
「…‥いや、…拒絶された‥」
「正気ですか?人間を抱こうなど…ッ」
本当に人の気を逆撫でするのがうまいな…内心ぼやき、深紅の瞳をゼアルに向けた。
「目だけでは足らず、今度はその舌を引き千切られたいらしいな?」
「…ッ」
狂気を宿した深紅の双眸はゼアルを見つめただけで蝕んでいく。
「どうか…おやめ、ください…」
必死で許しを請うゼアルに気が失せたのかジンはその場を離れまた何処かへ向かう。
暫く歩いていると呼び止める声が聞こえた。
「王?何をしておられるのですか?」
振り返り声の主を見つめてからジンは僅かに微笑んだ。
「…ライド戻っていたのか」
「ええ、たった今」
王に忠誠を誓い、魂の盟約によって契りを結んだ王の片腕と呼ばれる四天王の1人だ。
中でもライドは心を許せる数少ない古くからの友だ。
「どうかしましたか?元気がないようですが?」
「…2人のときは敬語は止めろといったはずだ…」
ライドは苦笑してから”昔からの癖でなかなか直らないのですよ”と優しく微笑んだ。この屈託のない笑顔に何度救われたことか。
「王は何故城に?何かを求め旅に出たと聞いておりましたが…」
「…不穏な動きがあるから、と呼び戻された」
「そうだったのですか、確かに最近不当な者たちがこそこそと何やら企てているようですが…」
ライドは少し考えるように口元に手を当て考えながら口にした。
ライドの昔からの癖だ、何か考えるとき口元に手を当てる。
「何を探しておられたのですか?」
ライドになら話しても平気だろう…信用するに値する。
「各地に散った石版だ、1つでも強大な力を持っている」
「石版ですか、こちらでも探してみましょう」
「すまない、助かる」
ライドはふとジンを見据えてから付け足すようにいった。
「呼び戻されたということは、”あれ”をするのですね?」
「…ああ」
”あれ”といわれるのは数十年に1度行う儀式みたいなものだ。空へ舞い、古の封印を解き巨大な結界を張るというものだ。かなりの魔力を消費するが、威厳を示し士気を高めるには十分だ。
「では、準備をさせ夜にでも!」
嬉しそうにライドはジンに別れを告げ走っていった。
「…魔石でも食べてくるか…」
小さく呟き、城の裏の洞窟に足を踏み入れた。
中は暗い闇が支配しているが、1歩道を曲がると色とりどりに輝く高純度の魔石の結晶が所狭しと生えていた。
赤い結晶を1つ切り落とし小さく砕くとそれを口に運んだ。
何の味もしないが、周囲に存在する魔力が凝結した結晶なだけあって生命力が息づく。
魔力が生命の支えであり、力でもあるからこれが無いと命にかかわる。
その辺の魔族は魔石のような高価で希少なものは口に出来ないので周囲に流れている自然の魔力を呼吸と共に吸い込んで使っている。
この洞窟は魔王専用の餌場だ。
濃度の濃い魔力がたまり純粋な結晶を生み出す。他どこへ行ってもこんなに魔力の濃いところは存在しない。
洞窟の壁にもたれ掛かり手ごろな結晶に手を伸ばしてそれを口に運ぶ。
王の結界の儀式の話は瞬く間に広がって街中祭り状態になっていた。
洞窟を出て自分の部屋に戻ると麻衣の姿は流石にもうなかった。
衣服を着替え、皆が集まる広場が一望できる高台にその翼で舞い上がる。
姿を見るや皆歓喜の声を上げ、何も音が聞こえなくなる。
6枚の漆黒の翼を羽ばたかせ城の上空で静止し目を瞑る。
遠くのほうでまだ歓喜の声がする。
「…我、魔王が命じる、古よりの天空の戒めを解き我が力を持って守護なる盾を!」
ジンの周りに巨大な光に包まれた赤紫色の魔方陣が浮かび上がりそれは四方に広がり、2つに別れた。
1つは天空へ、1つは地上へ光の魔方陣を刻み広がっていく。
やがて大きな丸い結界が城とその付近の町直径100km圏内を囲った。
暫くすると結界は透けて目には見えなくなったが、そこにあるという実感だけが残る。
「…」
ほとんどの力を使いジンはふらつきながら城へ戻った。
眩暈がする。
「お疲れ様です、王、素晴らしかったです」
出会うもの全てがそう口にして跪く。
「…」
麻衣はどこだ?先から姿が見えない…
麻衣の部屋へ向かったが、戻った形跡もない。
「…」
俺の部屋に戻っているのだろうか?
ふらつく足取りで部屋へ向かった。
…居ない…
部屋を飛び出し、ティリルを探した。
「王?!どうなさいました?!」
「お前を探していた、…麻衣は…何処に?」
その問いにティリルは不思議そうにジンを見返した。
「さっきまで、王とご一緒にいらしたではないですか」
え…?
「……なッ‥に?」
戸惑ったような表情のティリルが嘘をついているとは思えない。
「王?顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?」
「…ああ…」
静かに頷きふらふらと再び自分の部屋に戻るとゼアルが部屋の中に立っていた。
「…ゼアル?」
霞む視界、ふらつく足取りで部屋の中に入り、ゼアルを見据える。
もう立っているのも限界だった。
「王…」
「…‥ッ」
足に力が入らず崩れかけたのをゼアルに支えられ、そのまま抱きかかえられたまま何かを差し出された。
「お食べください」
ゼアルはジンの口元に何かを近づけ食べるように指示をした。
「…ッそれ、は…?」
視界がぼやけてほとんど何も見えない。
「魔石です」
小さく砕かれた黒い魔石。邪悪な闇をたっぷりと吸った結晶。普通この世界には存在しない代物だ。
「…すま、ない…」
口を開け素直にそれを口に含み呑みこんだ。
相変わらず味もにおいもしない。ジンはそのままズルッと力なく崩れ意識を手放した。
ドクン…ッ
自分の心臓の鼓動だけが遠くのほうで聞こえる。
ゼアルは口元に笑みを浮かべ、ぐったりとしたジンをベッドに横にならさせ静かに部屋を出て行った。
可笑しくて仕方ないようにゼアルはクスクス笑う。
魔石は、取り込んだ者の体に溶け、命をつなぐ血となり肉となり骨となりそして力となる。
あの黒い結晶は逆に、魔力を奪い、外からの魔力をも遮断する。つまり命を徐々に蝕んでやがては…命を奪う。
こうも容易く王を始末できる機会が来るとは。
何日もジンはべッドの上で、高熱に襲われ魘された。
はぁ‥はぁ…はぁ…
汗で額に張り付く長い前髪をかき上げもせず、ただ高熱でぼんやりする視線を白い天井に向けているだけ。
体が重い…。熱い。ただ寝ているだけなのに、魔力が蒸発でもしていくかのような変な感覚。
「王」
「…ぁぁ、ライドか…」
生気のない瞳をライドにむけ僅かに微笑んだ。
「例のものは他の四天王にたのんであります」
「…?」
「それから、連れの少女のことですが…」
その言葉にピクリと反応しライドの手首を思わず掴んだ。握力が随分衰えている。
「…麻衣…麻衣は見つかった?」
ライドは静かに首を振った。
「そうか…」
掴んでいた手が離れ力なくベッドに埋もれた。
「引き続き捜索を続行します」
そういうなりベットを離れ扉に手をかけた。
「‥頼む」
「まかせてください」
そういい残しライドは部屋を出て行った。
こんな危険が多い世界で人間がましてや1人で出歩くなど、自殺行為のほかになんでもない。速く探してやらないと・・・。
ベッドのすぐ横を見るとまだジンがスヤスヤと静かな寝息を立てていた。
麻衣はジンの腕を枕に熟睡してしまっていた。
コンコン
控えめなノックの後静かに扉が開いた。
「ッ!…」
ベッドの上に正座して固まる麻衣に寝ぼけたジンが再びその細い体を腕に抱きしめた。
部屋に入ってきた者は、ジンの側近のゼアルだったが、ベッドの上の2人を見るなり青ざめた顔をして固まってしまっている。
「…これには、事情が!」
麻衣は必死に弁解するが今のこの状況で何を言っても無駄なのだろう。
「……お、邪魔をしまた…失礼…します」
ゼアルは静かに扉を閉め部屋を出て行ってしまった。
今度は麻衣が青ざめる番だった。へんなとこ見られた…あの顔絶対誤解してる。
「ちょっと!ジン!!」
抵抗しながらジンを起こそうと揺すって見た。
「…ぅ‥ん?」
「起きて!!」
ゴンッ
鈍い音が辺りに響いた。
「あ…」
「…‥乱暴な起こし方だ…・」
ベットの上の棚の角にぶつけてまだ痛む後頭部を擦りながら腕の中にいる麻衣を見据えた。
「うぅ…ごめんなさい…」
苦笑してから静かに起き上がりジンは肌蹴たローブを脱いで服を着替え始まった。
「!ちょ!ッちょっと待って!」
「…?」
ジンの細く白い肌があらわになる。
無駄な肉もついてなくて…腰から上のラインも美しい曲をえがいている。
「人前で脱がないでくれる?!」
「…気にしないが?」
「こっちが気にする!」
頬を赤くして顔を隠すように両手で覆って俯きながら言う麻衣にジンは静かに近付く。
「…‥純粋だな‥そんな反応されたら、穢したくなる…」
「?!」
麻衣は両手首を掴まれてベッドに押し倒されてしまった。麻衣の上に馬のりしたジンはジッと麻衣を見据える。深紅の双眸が怪しい光を放っていた。
「…ジン?…」
怯えたような目をジンに向けたが、ジンは気にした素振りを見せずに麻衣の頬に口付けして、唇を徐々に滑らせ首を優しく舐め、肌蹴た麻衣の服を剥いで現れた鎖骨から胸にかけてそっと唇を滑らせていく。
「ひゃ…ぁッ」
ゾクッと背筋が震えた。あらわになった肌に外気の冷たい風が吹き付けたからだけではない。
「…ジ、ン‥やぁ‥だ‥やめ…ッ」
触れられたところは蕩けてしまいそうに熱を帯びていて熱い。
目に涙いっぱいに溜めて拒絶する麻衣に、ジンは動きを止め暫し麻衣を見据えてから、ふっと笑い拘束していた麻衣の両手首を離し麻衣の上から退けた。
「…‥」
「…‥」
重苦しい沈黙が静寂となって2人を襲う。
ジンは無言で部屋を出て何処かへ行ってしまった。1人残された麻衣は呆然としながら暫く固まっていた。
「王」
「…ゼアルか、何だ」
「…部屋でその…」
言い難そうに語尾を濁すゼアルにジンは苦笑して”見ていたのか”と呟いた。
「…抱いたのですか?」
「…‥いや、…拒絶された‥」
「正気ですか?人間を抱こうなど…ッ」
本当に人の気を逆撫でするのがうまいな…内心ぼやき、深紅の瞳をゼアルに向けた。
「目だけでは足らず、今度はその舌を引き千切られたいらしいな?」
「…ッ」
狂気を宿した深紅の双眸はゼアルを見つめただけで蝕んでいく。
「どうか…おやめ、ください…」
必死で許しを請うゼアルに気が失せたのかジンはその場を離れまた何処かへ向かう。
暫く歩いていると呼び止める声が聞こえた。
「王?何をしておられるのですか?」
振り返り声の主を見つめてからジンは僅かに微笑んだ。
「…ライド戻っていたのか」
「ええ、たった今」
王に忠誠を誓い、魂の盟約によって契りを結んだ王の片腕と呼ばれる四天王の1人だ。
中でもライドは心を許せる数少ない古くからの友だ。
「どうかしましたか?元気がないようですが?」
「…2人のときは敬語は止めろといったはずだ…」
ライドは苦笑してから”昔からの癖でなかなか直らないのですよ”と優しく微笑んだ。この屈託のない笑顔に何度救われたことか。
「王は何故城に?何かを求め旅に出たと聞いておりましたが…」
「…不穏な動きがあるから、と呼び戻された」
「そうだったのですか、確かに最近不当な者たちがこそこそと何やら企てているようですが…」
ライドは少し考えるように口元に手を当て考えながら口にした。
ライドの昔からの癖だ、何か考えるとき口元に手を当てる。
「何を探しておられたのですか?」
ライドになら話しても平気だろう…信用するに値する。
「各地に散った石版だ、1つでも強大な力を持っている」
「石版ですか、こちらでも探してみましょう」
「すまない、助かる」
ライドはふとジンを見据えてから付け足すようにいった。
「呼び戻されたということは、”あれ”をするのですね?」
「…ああ」
”あれ”といわれるのは数十年に1度行う儀式みたいなものだ。空へ舞い、古の封印を解き巨大な結界を張るというものだ。かなりの魔力を消費するが、威厳を示し士気を高めるには十分だ。
「では、準備をさせ夜にでも!」
嬉しそうにライドはジンに別れを告げ走っていった。
「…魔石でも食べてくるか…」
小さく呟き、城の裏の洞窟に足を踏み入れた。
中は暗い闇が支配しているが、1歩道を曲がると色とりどりに輝く高純度の魔石の結晶が所狭しと生えていた。
赤い結晶を1つ切り落とし小さく砕くとそれを口に運んだ。
何の味もしないが、周囲に存在する魔力が凝結した結晶なだけあって生命力が息づく。
魔力が生命の支えであり、力でもあるからこれが無いと命にかかわる。
その辺の魔族は魔石のような高価で希少なものは口に出来ないので周囲に流れている自然の魔力を呼吸と共に吸い込んで使っている。
この洞窟は魔王専用の餌場だ。
濃度の濃い魔力がたまり純粋な結晶を生み出す。他どこへ行ってもこんなに魔力の濃いところは存在しない。
洞窟の壁にもたれ掛かり手ごろな結晶に手を伸ばしてそれを口に運ぶ。
王の結界の儀式の話は瞬く間に広がって街中祭り状態になっていた。
洞窟を出て自分の部屋に戻ると麻衣の姿は流石にもうなかった。
衣服を着替え、皆が集まる広場が一望できる高台にその翼で舞い上がる。
姿を見るや皆歓喜の声を上げ、何も音が聞こえなくなる。
6枚の漆黒の翼を羽ばたかせ城の上空で静止し目を瞑る。
遠くのほうでまだ歓喜の声がする。
「…我、魔王が命じる、古よりの天空の戒めを解き我が力を持って守護なる盾を!」
ジンの周りに巨大な光に包まれた赤紫色の魔方陣が浮かび上がりそれは四方に広がり、2つに別れた。
1つは天空へ、1つは地上へ光の魔方陣を刻み広がっていく。
やがて大きな丸い結界が城とその付近の町直径100km圏内を囲った。
暫くすると結界は透けて目には見えなくなったが、そこにあるという実感だけが残る。
「…」
ほとんどの力を使いジンはふらつきながら城へ戻った。
眩暈がする。
「お疲れ様です、王、素晴らしかったです」
出会うもの全てがそう口にして跪く。
「…」
麻衣はどこだ?先から姿が見えない…
麻衣の部屋へ向かったが、戻った形跡もない。
「…」
俺の部屋に戻っているのだろうか?
ふらつく足取りで部屋へ向かった。
…居ない…
部屋を飛び出し、ティリルを探した。
「王?!どうなさいました?!」
「お前を探していた、…麻衣は…何処に?」
その問いにティリルは不思議そうにジンを見返した。
「さっきまで、王とご一緒にいらしたではないですか」
え…?
「……なッ‥に?」
戸惑ったような表情のティリルが嘘をついているとは思えない。
「王?顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?」
「…ああ…」
静かに頷きふらふらと再び自分の部屋に戻るとゼアルが部屋の中に立っていた。
「…ゼアル?」
霞む視界、ふらつく足取りで部屋の中に入り、ゼアルを見据える。
もう立っているのも限界だった。
「王…」
「…‥ッ」
足に力が入らず崩れかけたのをゼアルに支えられ、そのまま抱きかかえられたまま何かを差し出された。
「お食べください」
ゼアルはジンの口元に何かを近づけ食べるように指示をした。
「…ッそれ、は…?」
視界がぼやけてほとんど何も見えない。
「魔石です」
小さく砕かれた黒い魔石。邪悪な闇をたっぷりと吸った結晶。普通この世界には存在しない代物だ。
「…すま、ない…」
口を開け素直にそれを口に含み呑みこんだ。
相変わらず味もにおいもしない。ジンはそのままズルッと力なく崩れ意識を手放した。
ドクン…ッ
自分の心臓の鼓動だけが遠くのほうで聞こえる。
ゼアルは口元に笑みを浮かべ、ぐったりとしたジンをベッドに横にならさせ静かに部屋を出て行った。
可笑しくて仕方ないようにゼアルはクスクス笑う。
魔石は、取り込んだ者の体に溶け、命をつなぐ血となり肉となり骨となりそして力となる。
あの黒い結晶は逆に、魔力を奪い、外からの魔力をも遮断する。つまり命を徐々に蝕んでやがては…命を奪う。
こうも容易く王を始末できる機会が来るとは。
何日もジンはべッドの上で、高熱に襲われ魘された。
はぁ‥はぁ…はぁ…
汗で額に張り付く長い前髪をかき上げもせず、ただ高熱でぼんやりする視線を白い天井に向けているだけ。
体が重い…。熱い。ただ寝ているだけなのに、魔力が蒸発でもしていくかのような変な感覚。
「王」
「…ぁぁ、ライドか…」
生気のない瞳をライドにむけ僅かに微笑んだ。
「例のものは他の四天王にたのんであります」
「…?」
「それから、連れの少女のことですが…」
その言葉にピクリと反応しライドの手首を思わず掴んだ。握力が随分衰えている。
「…麻衣…麻衣は見つかった?」
ライドは静かに首を振った。
「そうか…」
掴んでいた手が離れ力なくベッドに埋もれた。
「引き続き捜索を続行します」
そういうなりベットを離れ扉に手をかけた。
「‥頼む」
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