星の守護龍 ~覚醒と混沌へのカウントダウン~

雪月 光

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1章~石版の伝承~

22.~常夜の森の獣達~

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城のもの以外は王の怪我などは知らされなくて、城下に住む民はいつもと変わらない日常を送っていた。
コンコン

「失礼します」

部屋に入ってきたライドは驚いたような表情でジンと麻衣を見据えた。

「…おはよう、ライド」

「”おはよう、ライド”、じゃありません!何をしているのですか?」

真っ先に飛び込んできたのは窓から身を乗り出す寸前のジンとその腕に抱えられて苦笑している麻衣の姿。

「あまり時間がないようなのでな、石版を集めに出発しようと…」

「……もう傷の具合はいいのですか?」

呆れた口調でため息交じりにライドが言った。

「もう大丈夫だ、心配かけたな」

「……全く、貴方という人は…ッ…」

「そう怒るな」

深い溜息を吐きながらライドは視線をジンに向け見据えた。

「何か用があったのだろう?」

促されるように話題を変えられライドは面白くなさそうに再び溜息を吐いて続けた。

「…はい、石版の新しい情報です、敵の罠かもしれませんが…」

「何処にある?」

「常夜の森です」

ジンは少し複雑な表情をした。厄介な場所なのだろうか?

「……危険なとこなの?」

「…厄介ではありますね…魔王の管轄外のエリアですし…」

ライドは複雑そうにいう。

「……」

「今回は、病み上がりですし、危険な橋は渡らないでおきますか?」

「ジン?」

「誰にものを言っている?ライド」

ニヤリと口元に笑みを浮かべているジンにライドは苦笑して”そうですね”と返した。

「ひっそりと人目を隠れて棲む種族がいたな…?」

「ヒューガウォルフですね…縄張り主張が強いうえ凶暴なので怒らせないように…」

「分かっている、後は任せたぞ」

「はい」

翼を羽ばたくと窓から一気に飛び出した。

「ヒューガウォルフって?」

「獣人だ…狼のような容姿で2足歩行をしている…」

「……」

獣人?行く前から不安になってくる。
羽根を羽ばたかせて30分くらいでジンは陸地に着陸した。魔力切れを防ぐために飛びながらもジンは器用に魔石をかじっていた。
目の前には大きな黒い森が口をあけて獲物が飛び込んでくるのを待っているかのように、広がっていた。

「此処なの?」

「ああ」

スタスタと森の中に足を踏み入れ、慌てて後ろを麻衣も追いかけた。
薄暗い森。
木が何か動いているような見られている様な変な感じ。

「…不気味…」

辺りをキョロキョロと見回しながらジンの後を必死に着いて行く。

『不気味とは失礼だね?』

「え」

『人間がこの森に何のようだい?』

ざわざわと木々がざわめき始めた。

「ジ、ジン!」

「…ヒューガウォルフの集落に行きたい」

更に木々がざわざわとざわめき出して、麻衣は思わず耳を塞いだ。葉の擦れるような音が大きすぎる。

『何の用か知らないけど、あそこには今行かないほうがいいと思うがね?』

「……何故だ?」

『狂気に満ちて共食いしているのさ』

「!!?」

麻衣は吃驚してジンの裾にしがみ付いた。

「多少なり知能があると聞いたが…ただの獣か?」

『もう、とめはしない。それは自分の目で確かめたらいい…導こう…奴らの下へ』

『奴らの下へ』

木々が叫びながら次々と移動して道を開けていく。

一本の道がジンたちの前に開かれた、まるで木々のトンネルのようだ。
怯えた麻衣がジンの裾を掴んだまま後ろを歩く。
進んでいくと木々が次第に減っていき開けた場所に出た。

「凄い…」

岩肌が見えた崖のような土地に、草と木で作っただろういくつかの小屋が建っている。
麻衣はふと空を見上げた、空から金色の粉のようなものが降り注いでいる。

「ねぇ、ジン…これ何?」

「…燐ぷん?」

金色の粉を手に取り観察していると2人の前に急に飛び出してきた数匹のヒューガウォルフ
…狼の顔に長い産毛が生えた
人の体…長い爪。

「な、何あれ…」

「ヒューガウォルフ…」

ガゥルルルルルッ

鋭い牙を剥き出して仲間同士で戦っていた。
この燐ぷんの所為なのだろうか…まともな奴はいないのか…2人は集落を更に奥へと足を踏み入れた。
辺りには喉もとから血を流して息絶えているヒューガウォルフが沢山倒れていて、どれも喉に鋭い爪痕があって…掻き毟った形跡があった。

「…惨いな…」

広場のようなところに出て、何かを探すようにジンは目を細めた。
むせ返るような血の臭い…おかしくなりそうだ…。
空から振る粉…辺りに散らばる死体と血の臭い…此処は完全に死に満ちていた。

「……長く居たら…やばいな」

口元を押さえて麻衣のほうに視線を向けた。
顔色が悪い麻衣の顔が見えて、ジンは溜息を吐いた。

「…私なら、大丈夫だよ?」

何かを悟ったのか麻衣はジンの目を見て無理やり笑顔を作り微笑んだ。

「大丈夫そうには見えないがな?」

無理に笑われると、見ているほうが余計に辛い。
大きな竜巻でも呼んで一掃するのもいいかもしれない。だけどそれをすると他のウォルフ達が集まってきて、敵と見なされそうだ。それも危険だ。

「まいったな…」

「ジン!右!」

「?!」

死角の右側からの攻撃が飛んできた。
麻衣のおかげでその攻撃を何とかかわし、敵を見据えた。
流石ヒューガウォルフ…素早さとパワーが並みの魔族以上だ。
片目では奴らの動きを目で追うのがやっとだ。

「きゃ!」

声に反応するように麻衣のほうを見ると、傷だらけのウォルフの手に捕まえられている麻衣の姿が見えた。

「……麻衣を離せッ!」

『動くな…こいつを八つ裂きにされたくなければ…』

「…多少の知能はあるようだな?……だが、2つ過ちを犯したな」

『何?過ちだと?』

ジンの左目が深紅色を帯びていく、口元は笑っているのに、目は冷たい光を孕んでいて、目にしたものを恐怖という色に染めていく。

「選んだ相手が俺だったことと…」

いいながら右手に魔力を集めていく。

「人質など取り、俺を怒らせたこと…地獄で詫びるがいいッ」

右手に集めた大きな紫電の光を纏ったまま、一気に敵目掛けて間合いをつめた。

『!!お前、何者だ?!』

『まってくれ魔王様…!』

別の声に反応して、ジンは右手を敵に当てる前に踏み止まり、声のほうに視線を向けた。
獣人というより、人間に近い。突然変異の種なのだろう…。

『その人たちは、悪くないんだ…』

長い耳を下に下げ、怯えたように俯きがちにいった。

「悪くない…だと?」

この状況でそんなことをぬかすとは…。
ビクッと身体を縮めて、尻尾を丸めて足の間に隠している。

『村がこんな状態だから…侵入者は…敵で排除しないと…』

「……村の状況などに興味はない、攻撃をされたから返しただけだ」

どうしてもきつい言い方になる、苛立ちが収まらない。
むせ返るような血の臭いと、狂気に満ちたものたちの闘気…。
麻衣を捕らえていたウォルフから闘気が消え穏やかな目になり、麻衣を解放した。
戦う気がないらしい。

「………」

紫電の魔力を押さえ込んでハーフウォルフに目を向けた。

『ありがとう…』

「無闇に命を狩るほど堕ちてはいない…」

「あの」

麻衣が口を挟んだ。

『?』

「この村に石版があるって聞いたんだけど…」

『…あんた達も石版を狙っているのか?』

「あんた達も?他にも誰か着たのか?!」

睨むようにハーフウォルフを見据えた。

『あぁ、黒いフードを被った人が…その人が村に来て去っていってから…こんなことに…』

「………遅かったか」

ボソリと呟き、溜息混じりに麻衣とハーフウォルフを見詰める。

『あ、あの…魔王様?』

「?」
先ほど麻衣を人質に取ったウォルフがオドオドして声をかけてきた。

『知らなかったとはいえ、ご無礼お許しを…』

「…気にするな、礼ならそいつに言え…止めなければ殺していた」

ジンが促す先にいたハーフフォルフに視線を向け、その者の名を呼んだ。

『ありがとう…ヴィル』

『…仲間だから…当然です』

『仲間…か…お前は今でもそう思っててくれてるんだな』

「……」

和むウォルフ達に、ジンは呆れたように溜息を吐く。
空振りに終わった…係わった以上この状況に目を閉じ帰る訳にはいかなそうだ…。

「で、狂気の原因は?」

『!この村を、助けてくださるのか!』

『この燐ぷんのような物が空から降ってきてからだ!皆おかしくなった』

ヴィルが忌々しいものでも吐き捨てるかのようにいった。

「こいつか…」

「ジン?」

「風で…吹き飛ばしてみよう…」

漆黒の羽根を広げ、空へと飛び立った。
何処からこの燐ぷんが流れてきているのか…不思議に思いながらも右手に周囲の魔力を取り込み集めていく。

「我が僕、風の守護のもと…その姿を現し、その力我が前に示せ…ッディオルム!」

集めた右手の魔力を空に掲げ天空に投げた。

『!!』

「おっきい…」

突然現れた巨大な鳥。黄色の嘴に薄い水色の羽毛と、長い尾羽、鋭い爪の生えたカギ爪。
風を身体に纏った美しい姿をしていた。
大きなその翼を左右に広げると更に巨大さが伝わる。

クァァァァアアアッー!!!

翼を羽ばたかせると強い風が集まり辺りの風を巻き込みはじめて、巨大な竜巻となった。
燐ぷんは巻き上げられ、吸った者達からも燐ぷんを吸い上げ消し去った。
血の臭いも大分薄くなった。

「燐ぷんの流れてくる先を見据えてディオルムと共に近付いた。

『!!』

巨大な鳥を見るなり、慌てた様子を見せたそれは、大きな蛾だ。

「お前が原因だな?」

『誰だあんた!』

「…引き裂け」

ジンは一言だけ発した。

クァァ!

鋭い爪の生えたカギ爪で蛾を掴み、その四肢を爪で引き裂いた。

「これで収まるだろう…」

そういってディオルムの大きな顔を撫でると、ディオルムは気持ちよさそうに目を閉じ咆哮した。

クァァァッ

「ありがとう…ディオルム」

ディオルムは風の中に再びその姿を消した。

「おかえり!ジン」

「ただいま…」

『ありがとうございました!このご恩忘れません!』

さっきの老いたウォルフが駆け寄り膝をついて言葉にした。

『魔王様!俺を…一緒に連れて行ってくれよ!』

「!」

ヴィルが目を輝かせてジンの前に跪いた。

『きっと、役に立って見せるから!恩返しもしたい!』

ジンは困ったように麻衣に視線を向けた。

「私は、いいと思うよ?」

「……しかたないな…だが、2人も担いで空は飛べない」

『!俺はいいよ!陸を走るッ空なんて怖くて…』

「そうか」

翼を広げ麻衣を抱きかかえた。

『必ず復興させます、その時には是非魔王様…お越しください!』

「ああ」

「じゃあねー!」

空へと飛び上がり翼をを羽ばたかせた。
陸地を追いかけてくるヴィルがいるから、速度も高度もあまり出せない。
石版という収穫はなかったが、心強い仲間が出来たから…全くの空振りという訳でもないのだろう。

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