星の守護龍 ~覚醒と混沌へのカウントダウン~

雪月 光

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2章~時の契約~

26.~リアンの失踪と至高の餌?~

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「結衣!外に何か変なのあった!」

真紀がそう騒ぎながら家の中へ入ってきた。

「変なの?」

「草みたいな、もじゃもじゃした奴・・・」

両手を使ってうねうね感をアピールする真紀。

「何それ・・・?」

目を細めて疑うように見つめる結衣。

「魔界の植物ではないでしょうか?」

ラディオスが口を開いた。

「魔界の?」

そういってリアンが会話に割り込んできた。
相変わらずジンはまだ眠っている。
リアンが言うには生命を維持、傷の修復をするのに起きて魔力を使うよりは眠ったままのほうが効率がいいとか。
魔石だけでは足らなかったようだ。それだけ内側に受けたダメージと言うのは中々治らずに危険なようだ。
流石魔界の王、魔王の攻撃だと考えざるを得なかった。

「変な植物どのあたりにあったの?ちょっと見てくるよ」

リアンが好奇心いっぱいの表情で真紀を見た。

「来る途中だから、あっちのほう」

窓から右側を示しながら言った。

「いってくるね、ジンを見ててね結衣」

「うん、いってらっしゃい」

窓から飛び出しリアンは真紀が言った方角へと羽根を羽ばたかせた。
暫く飛ぶと真紀が言ってたもじゃもじゃの草が見えてきた。
生い茂ったような濃い緑色の蔦の様な生物。

「・・・・」

じーっと目を凝らす。
特定の範囲にしか移動できないが、その蔦に触れたものや蔦が触れた物に寄生してどんどん繁殖エリアを増やしていた。
触った人間は触れたところから蔦が生えてきて絡まるように増殖して、蔦の塊に成り果てていった。
よく見ると増えるスピードが速いから分かりづらいが、前にあっただろう蔦の場所は蔦が枯れ茶色く変色していた。
つまり、誰も蔦に触れずに放って置いたらやがて自然に枯れて無害になるということだ。
しかし街の人には見えていないのか次々に蔦に触れ姿を蔦に変えていた。

「・・・被害拡大してる・・・何これ」

リアンが空から見下ろしながら呟いた。

『魔界の奥地に生息していた、”欄命”という寄生型の蔦だ』

「へぇ・・・」

丁寧に返されリアンが蔦に見入っていた。

「え?!」

そして驚いたように声のほうに視線を向けた。

『お前の力頂こうと思ってな』

「僕の力?!」

警戒するようにリアンは後ずさる。
どうしてこんな所に・・・。
ジンでも敵わなかった魔王が自分の目の前にいた。

「・・・・ッ」

リアンは意を決して羽根を大きく広げてその場を離脱しようとした。

『無駄な抵抗だ』

魔王が手を翳しただけで一瞬激しい赤い光が飛び散った。
次の瞬間には魔王の手はぐったりと横たわったリアンの姿があった。

『・・・これで餌には困らないな』

すぐにその場から魔王は消えた。
リアンが目を覚ますとそこは薄暗い部屋だった。
手足にはご丁寧に重鎖が取り付けてあった。
鳥篭のような檻・・・。

『目が覚めたか・・?』

「!!」

『さて・・・さっそく出してもらおうか・・・』

「嫌だ!!」

魔王相手にきっぱり即答するリアン。

『・・・大人しく従え』

流石に威圧感が半端ない。
それでもリアンは首を横に振る。

『従わないならそれでいい・・・・無理矢理こじ開けるだけだ』

「?!!」

お腹の辺りの魔神ガディとの契約印に触れた。
激しい激痛がリアンを襲う。

『これで常に扉は開いている』

リアンの前の空間に浮かび上がった紫色の魔法陣。

「やだ・・やめてょ・・・」

魔王の妖しく光る冷たい視線。
魔法陣の中に腕を容赦なく突っ込んだ。
途端に再び激しい激痛がリアンを襲った。

「うぁぁぁあああ・・・ッ」

涙のたまった目で魔王を見上げる。

『素直に従わなかった事をその苦痛を味わうたびに後悔するがいい』

魔法陣から腕を引っこ抜いた魔王の手にはいくつかの魔石が握られていた。
それを口に運びながら物でも見るような視線でリアンを満足げに見つめた。

「・・・・・」

ぐったりと俯いたままリアンは床の1点をただ見つめる。
魔王は用を終えたからか何も言わずに部屋を出て行った。

「・・・ジン・・・」
寂しそうに俯いたまま小さく呟いた。


▲結衣サイド▲

「リアン様子見に行ったまま帰ってこないね?」

真紀が言う。

「そういえば・・・どうしたんだろう?」

結衣もジンから視線をはずして真紀を見ながら言った。

「私、少し外見てこようか?」

真紀が心配して言ってくれた。

「ごめんね」

「いいって」

ラディオスも真紀と一緒に立ち上がった。

「ジン・・・まだ起きないの?」

ぼそりと小さく呟く。

「・・・寂しいよ?」

結衣は硬く閉じられた瞼を覆う銀色の長い髪に触れた。
いつの間にか結衣は寝てしまっていた。

「ぅ・・・・」

『おはよう?元魔王様?』

聞き覚えのあるあの声にジンはビクリと体を強張らせながらも半身を起こし結衣を庇うようにして声のほうに視線を向けた。

「どうして・・・・此処が・・?」

『人間と、あの時の奴が頻繁に出入りしているのを気付かないとでも?』

クスクスと笑う魔王。

「・・・・・」

『別に、何もしないさ・・・今はな』

「・・・・・・」

まだ動けないジンが大切そうに抱える結衣の姿に魔王は面白い玩具でも見つけたような視線を向けていた。

『それ、大切なんだ?』

「結衣には指一本触れさせない!」

『へぇ・・・そんな体の状態でそんなこというのか、面白いなお前』

そういう魔王の瞳は妖しい光を放っていた。

「・・・・」

体を動かそうとするたびにズキッと激しい痛みがジンを襲う。

『興味があるな・・・それほどお前を執着させるそれに・・・』

手を伸ばし結衣に触れようとした。

「触るな・・・!」

『まだ動けないんだろう?何も動けない奴の目の前で大切にしているその命を引き千切るなんて、つまんない事する気はねぇよ・・・?』

「・・・ッ・・」

『だが、柔らかそうで旨そうだな・・・』

そう言って再び結衣に手を伸ばす。

「やめろ・・ッ・・」

『邪魔だ、引っ込んでろ!!』

放たれた魔力の圧力だけで弱ったジンの体は軽く吹き飛ばされてしまった。
壁に背中を打ちつけ、ずるりと床に崩れたが視線は魔王と結衣から外さない。

『その辺に居る普通の・・・』

言いかけて魔王は結衣を凝視した。
これが人間?
威圧するような金色の目。

『やれやれ・・・魔王といえど、この体には触れないでもらおう・・・』

『何だ?!お前?』

『理由あってこの体を借りている、そしてやがては我の物になる』

「誰だ?!」

ジンもこれには驚いて叫んだ。

『我は、始祖の純血の吸血鬼フェルヴァ、この者は我が眷属だ』

フェルヴァが言う。
結衣の体で、結衣の顔でそんな事を楽しそうに言うフェルヴァ。

『・・・くくく・・・ますます興味が沸いた、人間が吸血鬼に堕ちたか・・・』

「結衣・・・・・」

『そうだ・・元魔王・・・名をお前の口から聞こう』

それが今回此処へ来た目的と言わんばかりに魔王が言った。

「・・・・・ジン」

抵抗も出来ない今の状態を考えて素直に答えた。

『俺は今日の所は帰る、また会おう』

そう言うなり魔王はその場から消えた。
残されたのはフェルヴァとジン。

「・・・・・どういう事だ・・聞かせてもらおうか?」

『結衣の契約者か・・・なら我には話す義務があるな・・』

事の経緯をフェルヴァが静かに語った。結衣の姿のままで・・。
直ぐに眷属に迎え入れなければ命を落としていたこと。
最後には自分の餌として自らの血を与えて表の世界から姿を消す気でいることも。

「主として、自らの血を与えることが最後の儀式なんだな?」

『ああ』

「・・・・・・結衣は誰にも渡さない・・」

『お前に支えられるのか?人から外れたものの心の闇を、救えるのか?』

「・・・・分からない、けど・・・ずっと傍に居たいとは思う」

フェルヴァはまっすぐ見据えてくるジンの瞳をしっかりと受け止めていた。
ずっと傍に・・・共に永久に近い時間を生きる者がそう口にした、それだけの強い意志を感じた。
先に観念したように小さくため息を吐いたのはフェルヴァだった。

『いいだろう・・この体はお前に返そう・・・』

「!」

『ただし1つ条件がある・・・』

「条件?」

『さっきから・・・耐えられずに居た・・・』

「?」

『この血の匂い・・甘く感覚を狂わせるようなそんな芳しい香り・・・』

うっとりするような目でジンを見据えるフェルヴァ。

「・・・・」

結衣の姿のままで壁に背を預けて動けずに居るジンにゆっくりと近づいていく。
ジンの白い首筋にそっと指を絡ませる。

「・・・条件って・・・・俺の血を飲ませろって事か?」

静かに言う。

『ああ、悪い条件でもないだろう?』

「・・・そうだな・・・」

はぁ・・・はぁ・・・
熱い吐息が首筋にかかる。
結衣の姿のままフェルヴァはジンの膝に手をつき白い首筋に牙を突き立てた。

『ん・・・・ぅん・・・』

深々と牙を突き立てられたのに不思議と痛みがない。

「・・・・」

ジンは黙ったまま結衣に視線を向けていた。
伏せ目がちな瞼、長い睫、結衣なのに丸で別人のような色気があった。

『はぁ・・・やはり甘く濃厚で1口で病み付きにさせるようだ・・・』

うっとりするように牙を抜いた後も傷口をペロリと舐めながら惜しそうに言った。

「・・・・・そうなのか?」

『極上級だ・・・無駄に垂れ流すような事はするな・・・もったいない』

「・・・・」

そうは言われても・・・怪我などを自分から受け体に傷をつける気など毛頭ない。不可抗力だ。

『まぁいい・・これで・・・結衣と我2人分の”餌”として証を刻ませてもらった』

「え・・?この1度だけじゃないのか?!」

『食事は毎日とるものだろう?違うのか?』

「・・・・」

『それにいいだろう・・?男同士より女の結衣の姿のほうが、魅力的にも絵的にも』

「・・・たしかに・・・・」

これには即答した。

『お前の力が及ばないときは微力ながら我も力を貸すつもりだ、結衣が完全に覚醒するそのときまでは』

「・・・すまない・・・助かる・・」

そういいながらジンは再び瞼を閉じ結衣に倒れ掛かった。

『ふむ・・・・少し無茶をさせすぎたか・・・今はゆっくり眠るがいい』

ジンの髪を優しく撫でその体を軽々抱えるとベットの上に横にならさせた。
フェルヴァも結衣の心の奥に引っ込むと結衣は静かに目を覚ました。

「起きた気がしたんだけど・・・夢かな?」

丁度部屋の扉が開いて真紀達が帰ってきた。

「リアンどこにも居なかった・・・」

「何かあったのでしょうか?」

そんな2人の報告だった。

「何処いったんだろう・・・リアン・・」

結衣は窓のほうに視線を向けながら呟いた。
日も更け外が暗くなると真紀たちは帰っていった。

「何だろう、あまりお腹がすかない・・」

そういいながらも食べないわけにはいかず、キッチンの方へ行きりんごを1つ手に取り1口サイズに包丁で切ってから口に運んだ。

「あれ?」

あまり美味しくないりんごだったのだろうか?
甘みが感じられない。これは・・・美味しくない・・・。

「変なの・・」

独り言を呟きながら部屋に戻って静かに眠るジンの傍へ腰を下ろした。

「眠り王子は姫のキスで起きるのかな?」

そんな事を呟く。
話し相手が居ないと言うのも寂しい。
突っ込みを入れてくれるだろうリアンも今は居ない。

「・・・・つまらないよ・・ジン」

ベットに顔を埋めながら結衣が言う。

くん・・・

「ん?」

甘い匂い。
何処から・・・?
美味しそうな甘くて刺激的な匂い。
一通り部屋の中はうろついてみた。

「ジンからする・・・?」

何か美味しいものでも隠し持っているのだろうか?
ジッとジンを見据える。
ふと気付く。
目を凝らすと血管がはっきり見える。

「何だろこれ・・」

目を擦りながら鏡を手に取り確認してみた。

「え・・・真っ赤・・・?!」

結衣は吃驚して鏡を落とした。
深紅の瞳が2つはっきり映っていた。

「・・・・・何これ・・・」

涙目でジンの方を見つめるがジンはまだ眠ったまま。

「あ、明日には治ってるかなぁ?」

充血か何かだと思い結衣は静かに眠りについた。

『え・・?』

気がつくと自分の意思に反して体が勝手に動いていた。
まだ硬く閉ざされた瞼、ジンは静かに眠っている。

『何してんの・・私?!』

「美味しそう・・・」

『何言ってんの・・?!』

次の瞬間ジンの首筋に牙を突き刺した。

『え・・私?・・何してんの・・・何これ?』

ゴクリと喉を伝う甘くて濃厚な甘美の果汁は気を狂わせる麻薬のようだ・・。

『何これ・・・フェルヴァ?!』

パニックになりながらも元凶だろう者の名を呼ぶ。答えてはくれないかもしれないけれど・・・。

『・・・呼んだ?』

眠そうな表情のフェルヴァが結衣の前に現れた。

『これ、私?何してんの?!』

結衣が言う”これ”が何のことか直ぐに察した。

『食事・・・』

一言で済ませた。

『食事って・・・ちょっとどういうこと?!私の体勝手に・・・』

あわてた様子の結衣に面白いものでも見るかのような視線を向けるフェルヴァ。

『・・・”餌”の証刻んだから・・・体が飢えを感じると意思とは別に飢えを満たそうと無意識に動く』

淡々と結衣の問いに答える。

『そんな・・・私そんなの望んでないし、空腹でもないのに・・・』

『・・・これから先、ずっと世話になると思うが?』

『・・・・?』

『他の食べ物では満足できなくなる、その味覚は他の何を食べても美味いとも感じなくなる』

『他の・・・』

『・・・”餌”以外の血でも飲んで飢えが満たされないこともないが・・・』

フェルヴァはそこまで言い黙った。

『・・?』

静かに続きを待つ。

『あれは極上品だ・・・傍にあるだけで狂わせるような甘く濃厚な香りと甘美の味・・・』

うっとりするような視線を結衣に向けて言う。

『・・・・・』

もうすでに味見したと言うことだ。

『結衣も1度自分の意思で飲んでみるといい、我の言っていることが直ぐに理解できるはずだ』

『・・・別に・・・私は・・・・・・』

やばくなったらトマトジュースでも飲んでごまかす気で居た。

『今、ジンは魔王との戦闘で瀕死なのに・・・こんな事したら・・・ずっと寝たままなんじゃ・・・』

不安を口にした。

『次第に再生すると思うが・・』

『どうしてそう言い切れるの?リアンもいなくて、魔石もないし、魔力もない此処で・・・どうやって・・・』

言っているうちに涙が溢れて来た。

『ただの魔族じゃないんだよ・・・力なくなったら消えちゃうよ・・・』

『・・・・?』

結衣の台詞にフェルヴァは少し眉をひそめた。

”ただの魔族じゃない”とは・・・?

フェルヴァはふとジンのほうに視線を向けた。

『!?』

まだ食事を続けている結衣の体が見えた。
いくらなんでも飲みすぎだ・・・。
瀕死の重体だと結衣が言っていた、その状態で吸血が長くなればなるほど命をすり減らす事になる。

『結衣!早く体の意思を奪え!』

慌てた様子のフェルヴァに結衣は驚いて俯いていた顔を上げた。

『え?!』

『飲みすぎだ、殺してしまうぞ?!』

『!!!』

『ど、どうしたらいいの?!!』

『自分の体だ、意識を強く持て!』

言われたとおりに意識を集中した。

「あ・・・」

突き刺さっていた牙を慌てて引き抜いた。
零れだす赤い血に思わず釘付けになってしまう。
甘い匂い、虫が蜜に誘われるように、抵抗など出来るはずもなかった。
ペロリと舐めとる。

「・・・・・甘い・・」

甘くて濃厚な甘美の果汁のような蕩ける味で、病み付きになりそうな。フェルヴァがあれ程言っていたのも納得できた。

「ジン・・大丈夫?」

ごほっと喉が鳴った。

「!」

黒に近い血の塊。

「・・・」

もうフェルヴァの声は聞こえなかった。

「まだ・・・治らないの?」

小さく呟き涙が零れた。
暖かい涙がジンの頬に落ちた。

「・・・泣いているのか?」

聞き取れるか取れないか位のか細い声だった。

「結衣?」

その声を聞いただけで結衣の目からぼろぼろと大粒の涙が零れ落ちる。

「ジン・・・ッ」

「泣くな・・笑って・・」

ジンの冷たい手、細い指先が結衣の頬にふれゆっくり涙を拭う。

「良かった・・・ずっと・・・起きないんじゃないかと・・・思って・・・」

泣きじゃくる結衣、酷い顔してるのも構わずに言う。

「勝手に、殺すなよ」

苦笑するジンに前ほど力強さは感じられなかったけれど、紛れもなくジンだった。
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