星の守護龍 ~覚醒と混沌へのカウントダウン~

雪月 光

文字の大きさ
63 / 66
2章~時の契約~

28.~狂乱の兄と永遠の傷~

しおりを挟む
「此処しか思い当たらないんだもん・・」

門の前に立ち結衣が呟いた。

『あっていると思うが・・・まだ覚醒もしてないその体では無謀ではないか?』

フェルヴァが言う。

「目は、良くなったのよ?」

視力のことを言っているようだった。

『・・・・・・』

呆れたように結衣を静かに見据えた。

『いずれ、身体能力もその辺の魔族たちを上回る・・・』

この状況で生きていられれば・・・。
視線を門の先の校庭へと向けた。
数人の魔族と魔獣たちが結衣とフェルヴァを今にも飛び掛りそうな表情で見据えていた。

「・・・・怖・・何あれ・・」

『結衣の持っているその袋に惹かれているんだと思うけれど・・・捨てる気はないのだろう?』

「勿論!」

折角ガディがジンの為にくれた魔石だ。

『では、まず良くなったと言ったその目でジンを探すのだ、時間は我が稼ごう』

「え・・・どうやって?」

『集中して、目を凝らし建物の方を見据えてごらん』

言われるままに目を凝らす。
血管が見えた時と同じあの感覚。
目が熱くなってぼんやりだが建物の中が透けて見えた。

「凄い!透視?!」

感激する結衣にフェルヴァは苦笑した。

『あの様子からすると、早く探さないと・・・・』

「わ、分かってる・・・」

更に集中して下から順に建物を見つめる。
校庭にいた魔族と魔獣たちはフェルヴァが相手をしてくれている。
目を必死で凝らす。目の奥が痛みに疼く感覚がした。
白い霧のように覆われて隠された部屋がいくつかある。

「あ・・・」

屋上に巨大な檻が見えた。
檻の中には傷ついて横たわるジンの姿が見えた。

「いた!フェルヴァ屋上!」

『・・・先に行ってくれ、我も後から追いかける』

頷き結衣は学院の中へ向かおうと走りかけたときフェルヴァが呼び止めた。

『結衣、中は危険だ、外から行け』

「え・・外ってどうやって・・・」

本気で困惑する結衣。

『何も考えずにジャンプするのだ、そろそろ脚力も現れているはず』

「・・・・」

疑うような眼差しを向けたまま結衣はその場で軽くぴょんと飛び跳ねた。

「え・・?!」

一瞬で校庭が小さく見えた。
そして直ぐにすたっと難なく着地すると、自分の体が信じられないとでも言うように両手と両足を凝視した。

『いけるか?』

もう1度聞く。
今度はしっかりと頷いた。
一気に建物の下に走ると足に力を入れてジャンプした。

スタッ・・

いい具合に屋上に着地した。

『・・・此処3階のはずだが・・・?』

呆れたような魔王の声。
結衣は視線を上げ檻とその前に立つ魔王を見据えた。

『1人でのこのこ来るとは・・・お前、死にたいわけ?』

「・・・・・ジンを返して」

『・・・嫌だと言ったら?お前に何が出来る?』

「・・・・・」

たとえ吸血鬼になったとしてもかなう相手ではないことは百も承知だ。
今のままで何が出来るとも思えない。

『・・・俺が出る幕でもないだろう?いい相手を用意してある』

そういって魔王が呼び出した姿に見覚えがあった。
尖った耳、長い尻尾、少し成長してても見間違えることはない。

「え・・・・何で・・・」

あの時分かれてから何があったのだろう。

『王狼族のジェロルドだ、彼なら少しはお前相手でも楽しませてくれるかな?』

「ジェロ・・・」

『直には殺しちゃだめだぜ?ゆっくりとだ・・・いいな?』

魔王はジェロの長い髪に触れながら言った。

「・・・・・」

抵抗もせずに無言のまま闘気の宿った瞳を結衣に向けていた。

「ジェロに何をしたの?!」

『・・・知り合いか?・・・・態度と口が悪く反抗的だったから、少し弄って・・・』

魔王はこめかみに人差し指を当てながら言った。

『犬らしく、首輪をつけただけさ』

「・・酷い・・・・」

『・・・・・そろそろお喋りもいいだろう?楽しませろよ?』

「ぐるっるぅううぅぅう・・・」

鋭い牙と長い爪。俊敏な動きをする体。獲物を逃がさない動体視力。
どれをとっても正直勝てる気がしない。
それどころか勝負にすらならないはずだ。

「!」

一気に間合いをつめて鋭い爪を結衣に向かって振り下ろす。
どうにかその1撃はぎりぎりで避けた結衣だが、体制を崩したのをジェロは見逃さなかった。
すぐに次の攻撃が結衣を捉えた。
柔らかい左腕に鋭い爪が深く食込んで、次の瞬間には勢いよく反対側に引き抜かれた。

「きゃああああッ!!」

肉が裂け夥しいほどの熱い血が流れ屋上を赤く染めた。
痛みに必死で耐えようと右手で抉られた左腕をギュッと押さえながらジェロに視線を向けた。
弱った獲物を前にするかのように余裕そうに爪についた鮮血を丁寧に舌で舐めとりながらギラギラと光る瞳を結衣に向けていた。
魔王が言ったように簡単には殺さない気だろう。
獲物が次第に弱っていく様を楽しむかのような視線と行動。

「・・・ジェロ・・・どうして?!私よ結衣よ?!分からないの?!!」

「・・・・・」

一方的にやられている結衣の姿につまらなさそうに魔王がジンの方へ歩み寄った。

『起きろよ、お前の大切にしている飼い主が犬に襲われてるぜ?』

檻の傍にしゃがみ込んだまま魔王が囁く。

「・・・ッ・・結・・・衣・・・?」

ぼやける視界、ジェロの攻撃を一方的に受けて傷ついていく結衣の姿が飛び込んできた。

「!!結衣!・・・魔王貴様・・・・ッ・・・今すぐ此処から出せ!」

ぎらつく深紅の双眸のジンの視線に魔王は静かに答える。

『どうしてさ、これからが面白くなるのに・・邪魔する気か?』

「・・・・・此処から出せッ・・・」

『出したところで、そんな体で何が出来ると言うんだ?』

「・・・・・」

『俺はお前の力も欲しいと思っている・・・元魔王という肩書きを失ったとしても普通の魔族ではないんだろ?此処でむざむざ殺されに行くのを分かってて出すわけないだろ?』

そう言う魔王。
目を見る限り本心のようだ。
何を言っても無駄のようだ、自力で此処を出て結衣を助けなければ・・・。
たとえジェロを殺すことになったとしても・・・。

「・・・・」

ジンは自分の左手に視線を向けた。
昔受けた治らない傷、中指に嵌めた指輪の高位魔石がなければとっくに壊死して腐り落ちていただろう左腕。
今この魔石があれば、この体の傷も修復でき、この檻も破壊出来るだろう。
ただ、再び傷が広がり左腕を失うかもしれないリスクもある。

「・・・・・・考えることなんてないな・・・」

小さく呟く。
腕1本より結衣のほうが大切だ、片腕の犠牲だけで守れるのなら・・・こんな腕1本くらいくれてやる。
指輪の高位魔石を外し口の中へ放り込んだ。

ゴクリ・・。

体にはみるみる力が漲り受けた傷も跡形もなく消えていった。

『な、何だその腕?!』

魔王がジンの左腕を見据えたまま言った。
体の傷の再生よりも目を引いたようだ。
次第に指先から赤黒く変わって行く左腕。
熱を帯びて締め付けられるような痛みはあるものの大して違和感はなかった。

「・・・・・」

愛刀を空間から取り出し右手に持ったまま黒くなった左手で檻に触れた。

『!』

檻が触れられたところから分解して粒子状になり空に散っていった。

「・・・使いようによっては便利かもしれないな・・・」

そう呟き、ジェロと結衣の方へ走った。

「ジェロお願い・・やめて!!」

受けた傷で服も破れ血で真っ赤に染まった結衣の姿。

「・・・ジェロお前、自分が何をしているか・・分かっているのか?!」

黒刀をジェロに向かって切りつけた。
刃は届かずに空を切っただけだったが、結衣の近くから距離を離すことは出来た。

「結衣、大丈夫か?」

「あ・・・私は・・・平気・・・ジンは?」

あの時のみえた傷もなく元気そうなジンに驚きながら結衣が聞いた。

「俺の心配はいい、傷はどうなんだ?」

結衣の腕を引っ張りひどく抉られて出血していた傷口に視線を向けた。

「・・・・・」

みるみる開いていた傷口が閉じ何事もなかったように塞がっていった。

「・・・・・無茶はするな・・・生きた心地がしなかった・・」

安堵の息を吐きながらジンが言った。

「ごめん・・・自分でも驚いてるの・・・凄い再生力・・・」

唖然とするように結衣が腕を見ながら呟く。

「・・・・傷跡が残らないようで安心した・・・」

残るようだったらジェロを肉の一片も残さずに消し去っていたかもしれない・・・。
刀を手に結衣を庇うように立ち上がった。

「覚悟はいいか?」

怒りを露にするジン。

「・・・・・」
何の感情も出さないままのジェロ。
ただ命令のまま戦うだけの魔王の玩具と化していた。

「憐れだな、あの時の黒狼がただ従うだけの飼い犬とは・・・ッ」

「・・・・」

『殺さぬ程度位には楽しませてくれよジェロルド?』

「がぅぅぅ・・・」

ジンを威嚇するように唸った。
無意識とはいえ、以前のジェロのような態度。

「・・・主従の楔の理を書き換えてやろう・・・」

ジンが呟く。

『・・書き換える・・・だと・・・?そんなことが・・・』

魔王がジンを凝視していた。
神でさえ不可能な世界の理を捻じ曲げるような禁忌の技だ・・。
まさか・・・神を超える存在なのか・・・?
複雑な呪文のようなものを詠うように唱えていく。
ジェロの攻撃を余裕で避けながら唱えている。

『・・・・・ジェロルドッその程度の力がお前の本気なのか?!』

「ぐるるぅぅう・・・・」

魔王の声に反応するように1度魔王の方に視線を向け直ぐにジンに向き直る。
黒い影にジェロの姿が溶けるように消えると巨大な黒狼の姿になっていた。
以前見たときよりも大きく、素早さも力も格段に上がっている。
目の前のいたはずの姿が瞬時に消えたのだ。

「?!」

慌ててジェロの姿を探すジン。

「ジン!上!!」

結衣が叫ぶ。

「?!!」

上を見上げるが強い陽の光に阻まれその姿を捉えることは出来なかった。

「ぐぁ・・・ッ!!」

巨大な狼の全体重をかけた強烈な一撃。
鋭い爪が体重をかけた分だけ腹に深く食い込んでいく。

「あ゛・・あぁぁ・・・ッ!!!」

激痛と巨体の重さで意識が朦朧としてきた。
この左手は触れたらきっと・・・・生きているものですら・・・僅かでも望みがないわけではない・・・。
右手でジェロの大きな鼻先を必死で押すが流石巨体だけあってビクともしない。

「ぐううううるるる・・・ぅぅぅ」

うっとうしそうにジェロは目を細めて鼻先を押すジンの右腕に喰らいついた。

「!!」

「ジン!!」

『へぇ、やるじゃないか・・』

楽しそうに魔王が笑みを浮かべたまま口にした。

「ジン!・・やめてジェロ!!!」

助けに入ろうとした結衣の前に別の影が現れてそれを止めた。

『結衣、・・・無茶だ・・!!』

引き止める人物に結衣は涙目で訴えるように視線を向けた。

「フェルヴァ・・・けど・・・あのままじゃ・・・」

『・・・・分が悪すぎる・・・魔王とあの黒狼相手では・・・』

「・・・・・・黙ってみてるしか出来ないの?」

『すまない・・・』

フェルヴァも自分の力が足らないことが悔しそうに俯いたまま呟いた。

『何やら面白いことになっているようだね・・・』

「!!?」

結衣は声の方を見て愕然とした。ただでさえ絶望的なこの状況で追い討ちをかけるような・・・。
魔界の別次元を破壊して回っていた者が其処にいたから。

『誰だ・・・お前・・・』

魔王が直ぐに反応した。

『僕?・・・説明がめんどくさいから、気にしなくていいよ』

口元に笑みを浮かべながら突如現れた黒衣を身にまとった男。

『答えになってないが・・・・』

魔王が面白くなさそうに男を睨み付けた。

『・・・めんどいなぁ・・・雑魚は引っ込んでてよ・・・』

『何だと・・?!』

男に掴み掛かる魔王。
黒衣の間から見えた深い漆黒色の瞳に僅かに狂気を宿したのが見えた。

『・・ッ・・・』

掴み掛かった手を離し魔王はただその場に立ち尽くした。

『ジェロルド・ヴァインズ、そのまま抑えておいてね?』

「ぐるる・・・」

知り得ないはずの真名を口にする。
ゆっくりとジンに歩み寄る男。

『やっと会えたね、オリジナルに』

「・・・・ッぅ゛ぐ・・・ッ」

ジンは視線だけを男に向け僅かに目を細めた。

誰だ・・・・?

『ああ、挨拶がまだだったねぇ・・・覚えなくてもいいけど・・君の兄のメディオだ』

にっこり微笑むメディオの口元。

「あ、・・・に?」

知らない・・・何も聞いてないし、記憶にもない・・・。

『うん・・・酷いよね・・・生まれて直ぐに捨てられたんだ・・父親に・・・それで・・文句の1つでも言おうと思って』

「・・・・父・・・に?」

必死で声を搾り出す。

『そう、父と・・・弟の君に』

「俺は・・・何も・・」

『ん・・・知らなかったんでしょ・・無知も同罪だよ?』

「・・・・ッ」

『ジェロルド、そのままその腕の骨粉々に噛み砕いていいよ』

「・・・ぇ・・ッ!」

「ぐるる・・・」

喰らいついていた腕に牙を深く食い込ませていく。骨が悲鳴を上げるように軋んでミシミシと音が響く。
次第に音も大きくなりバキッゴリッと鈍い音が静まり返った辺りに響いた。
鮮血が鋭く生えそろった牙の隙間からボタボタとジンの上に雨のように降り注ぐ。

「ぁ・・・ッあ゛ぁぁぁぁ・・・ッ!!」

押さえつけられていて体の自由もなく激痛にもがく事も許されずに悲痛な声だけを上げる。

『それでね、もう僕を忘れないようにその身に刻み込んであげようと思って、父を引きずり出す前にね?』

「ぐぅぁぁ・・ッ・・・」

『ねぇ・・聞いてる?』

「う゛ぅ・・・・ッ・・」

『まぁいいや・・・さっさと終わらせよう・・・』

「ッ・・ジンを、・・・殺す気・・なの?!」

結衣が震える体を制してやっとで声を出した。
メディオは瞳を僅かに細めて結衣に視線を向けた。

『もぅ殺さないよ・・・永遠に僕を忘れないように刻印を刻むだけ・・・』

にっこり微笑むメディオに結衣はそれ以上何も言えなかった。体も恐怖で動かない。

「・・・・・」

『ジェロルド、ジンをしっかり抑えていてね?』

男の手には黒い妖しい光を放つ短剣。

「な・・・にを・・・」

言いかけたジンにお構いなしにメディオはジンの胸に腕を突っ込んだ。傷つけることなく腕は水面にでも入れたかのようにすんなりと深く入っていった。

「・・ッ・・・ぁ?!」

ある一点でジンが大きく目を見開いたままの虚ろな目が視点が定まらないのか、大きく揺れた

苦しい・・。止めろ・・・。

『流石に大きいね』

そういってメディオは腕と一緒に手にしていたものを引きずり出す。
大きな紅い美しい結晶が握られてあった。それは僅かな光を反射させ煌き、その場にいた全ての者の視線を釘付けにする程の物だった。光を浴びた結晶の中で静かに揺らめく白い炎も幻想的に見えた。

『まさか・・それが魂石だというのか?!』

反応したのは魔王とフェルヴァ。

『綺麗だよねぇ、流石・・星の卵から孵った幻龍なだけはあるだろ?』

『!!!?』

伝説上の用語としてだけは聞いたことがあった・・。
魔神が魔界その物のように、星そのものだといわれている幻龍・・・世界や命を創る力を持つとされる・・。
一説では新たな星が誕生すると同時に生まれ星と共に生きるという。

『ああ・・・本当に・・綺麗過ぎて・・・・穢したくなるよねぇ・・』

狂気を孕んだ漆黒の瞳が深紅の結晶に視線を向ける。結晶に映る狂気を孕んだ漆黒の自分の瞳。
手にしていた黒い短剣を結晶に思い切り力任せに突き立てた。
普通ならそんな短剣にビクともせずに逆に刃物の方を砕くはずだった。
守護していたであろう次元の守り手を全て破壊され無防備になった結晶は簡単に短剣の刃を受け入れた。
深々と突き刺さった短剣を無理矢理下に引きおろしていく。

『お、おい・・・何を・・・そんなことしたら・・・・記憶や精神が壊れるんじゃ・・・』

流石に魔王が慌てて口を出した。

『煩い!!黙ってろよ・・僕が受けた傷はもっともっと深いんだよ・・・』

更に短剣を突き立て十字の傷を深く刻んだ。

『黒晶石の短剣だから・・・このけして癒えない傷が永遠に僕の存在を覚えていてくれる』

手にしていた深紅の結晶は受けた傷を修復しようとしているように中の白い炎が激しくゆらゆらと揺れていた。
傷口は黒く、裂かれた傷から白い炎が僅かずつに漏れ出しては消えていく。

『・・・・・』

その場にいる皆が動けずにいた。

『もうぃぃや・・返してあげるょ』

飽きたのかメディオはつまらなそうに手にしていた結晶を乱暴にジンに放り投げた。
中に吸い込まれるように消えた後ジンは目を見開いたまま体をビクリと動かし大きく息を吸った。

「・・・・ッ」

『僕と同じ欠陥を抱えた不良品になったんだ・・・気分はどうだぃ?可愛い弟?』

悪気もなさそうにくすくす笑いながら歓迎でもするかのように掌をジンに差し出しながら口にした。

「・・・・・ぁ・・・ッ・・グォア゛ァァァァ・・・ッ!!!」

空気を激しく振動させるような龍の悲痛そうな咆哮。

「ジン?!!」

『何て声だ・・・耳が・・・』

魔王が耳を押さえながら苦痛そうにジンを見据えていた。

「・・・・・・・ッ!!!」

声にすらならない声。
ジェロが銜えていた右腕を自ら引き千切ると、黒い左手でジェロに触れようとした。
咄嗟にジェロが危険を感じたのかジンの上から素早く飛びのく。

「・・・・」

荒く肩で呼吸をしヨロリと立ち上がった。
ボタボタと赤い血がみるみる地を赤く染めていく。ヨロヨロと俯いたまま歩き魔王やメディオの後ろの結衣がいる方に歩みを進める。

「ジン・・?」

結衣が名を呼ぶが反応がない。
引き千切られた右腕からは容赦なく熱と共に血が零れ落ちていく。

・・・ごほ・・・ッ
喉が鳴り赤黒い血が口から零れた。
煩わしそうに左手で自らの右腕に触れると、血は止まり千切れたところだけが塵のように消滅した。

『兄を無視するのかぃ?ジン?』

メディオがわざとらしくからかう様な口調で言う。

「・・・・」

一瞬だけ深紅の瞳をメディオに向けた。

「!・・・」

その瞳は深紅の色とは真逆の恐ろしく冷たい気を放っていて、それ以上メディオは声をかけられなかった。ジンは直ぐに視線を外して再びヨロヨロと歩き出す。
何だ・・・今の・・・一瞬見ただけのあの目に恐怖を感じた・・?握られた手には冷や汗がでていた。

『・・・・・理性の枷でも壊れたのか・・・?何だ今のあの・・・』

魔王は言いかけて黙った。

「ジン?!大丈夫?!」

駆け寄る結衣にフェルヴァが警告をはっした。

『結衣!その左手には触れるなよ?!』

「え?」

「・・・・結衣・・・」

ボロボロと涙が零れ落ちるジンの瞳はいつもの優しい翠色の目だった。

「大丈夫・・・ちゃんとガディさんから貰ってきたわ」

結衣が誇らしげに胸を張って言った。

『一先ず、此処から離れよう・・・』

フェルヴァが言う。

「私の家に?」

『あそこは敵にばれているから・・・別のところに・・・』

軽々とフェルヴァはジンを肩に担ぐと結衣と共に屋上から飛び降りた。
自分の家がだめなら・・親友の真紀の所に行くしかない。
真紀の家へと屋根を軽々とジャンプしながら向かった。

『・・・手に入れようとしてたのに・・逃げられてしまったな・・』

魔王が言う。

「あれを手に入れるのかぃ?もっと凄い強い人知ってるけど。どう?手を組まない?」

メディオが言う。

『もっと凄い強い・・?』

「そう、ジンと僕の父さ、今のこの世界そのものだ!法則も理も時間も人の運命さえも自由に出来る!!」

『ほう、それは凄いな・・・それで・・その方は今何処にいる?』

「・・・ジンの中で眠っていたよ、さっきまで」

メディオがサラリと重大な事を口にした。

『中・・?!』

「ん・・・さっきの魂石の中さ、あの傷で起きたから何れ表に出てくると思う」

『では・・あの咆哮は・・・』

「・・・あれは・・ジンのだょ、父のだったら今頃皆死んでるんじゃないかなぁ?」

それほど威力差があるということだろう。

『では最後のあの目は・・・』

「・・・・・うん・・・一瞬で凍りついたように動けなくなった・・・父の片鱗が表に出たんだ・・」

その強さに興奮するようにメディオが目を輝かせて語る。


『・・・・』

「ジンの体を・・あの器を壊したら否応なしに出てくると思うけど・・」

『器を・・?』

「此処には取って置きの魔法陣があるようだし更に術式を加えてから、その上に呼び出して全魔力を奪えば、簡単だよ」

『・・・・・・・・面白そうだ俺もその話に乗ってみよう』

暫く考える素振りを見せた後魔王も承諾した。

「そういうと思った」

嬉しそうに笑みを浮かべるメディオ。
ジェロをつれ3人は屋上を離れ理事長の東堂の下へと戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

最弱弓術士、全距離支配で最強へ

Y.
ファンタジー
「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」 剣と魔法が全てを決める世界において、弓は「射程は魔法に及ばず、威力は剣に劣る」不遇の武器と蔑まれていた。 若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。 リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。 風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。 弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。 そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。 「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」 孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。 しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。 最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

無属性魔法しか使えない少年冒険者!!

藤城満定
ファンタジー
「祝福の儀式」で授かった属性魔法は無属性魔法だった。無属性と書いてハズレや役立たずと読まれている属性魔法を極めて馬鹿にしてきた奴らの常識を覆して見返す「ざまあ」系ストーリー。  不定期投稿作品です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「やはり鍛えることは、大切だな」

イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」  その日、一つのお見合いがあった。  ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。  クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。  そして互いに挨拶を交わすその場にて。  ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。  けれども……――。 「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完】はしたないですけど言わせてください……ざまぁみろ!

咲貴
恋愛
招かれてもいないお茶会に現れた妹。 あぁ、貴女が着ているドレスは……。

処理中です...