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2章~時の契約~
30.~覚醒と別れ~
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その日は酷く空が黒くて分厚い雲に覆われていた。
「雨降りそうね」
真紀が窓から顔を出して空を眺めていた。
「うん・・・」
「どうしたの?元気ないみたいだけど?」
「何か・・・胸騒ぎがするの・・・」
『闇夜の黒き十字架、暗黒の審判者、そは美しき闇、黒き光纏て、太陽を孕む真夜中の闇よ、鋼の杭を砕き、時を駆ける疾風となりて我が下へ!その不浄なる力を持って我が召喚に答え今此処へ現れよ!!』
魔方陣が光を帯びて黒い光が一気に辺りを包んだ。
学院の大規模魔法陣に追加した強力な術が掛けられた魔法陣の前で魔王が自らの血を代価に叫んだ。
「ジン?!」
ジンの足元に突如現れた黒い穴と浮かび上がった魔法陣をみて結衣は必死にジンの元へ駆け寄ろうとした。
「・・・結・・衣?」
まだ眠いのかぼんやりした瞳を結衣に向けていた。
「手を!!」
必死に伸ばす結衣。
慌てている結衣に戸惑いながらジンも腕を伸ばして結衣の手をとろうとした。
バチッ・・
見えない何かに弾かれて結衣は吹っ飛ばされた。
「結衣!!」
「う・・・」
どんどん黒い穴に引きずられる・・。
この感じは・・・・強制召喚・・・。
今あの召喚の術式を知る者は結衣の他には・・・・。
ああ・・・1人いた・・。
”魔王”となったあの少年だった者・・・。
「あ・・・」
結衣の目の前でジンは黒い魔法陣の中へと吸い込まれて穴は消えた。
「・・・・」
『ようこそ・・・鳥籠の中へ』
魔王が口にした。
「悪趣味だな・・」
『そんな悪態も今のうちだ』
「・・・・・」
ギッと魔王を睨み付けたまま見上げた。
「ほんとに呼べたんだねぇ・・・」
メディオが魔法陣の上に居るジンを見下ろしたまま口にしていた。
「・・・・」
「ジンー?僕は父に会いたいんだ・・呼んでくれる?」
「・・・・」
ジンは黙ったままフィっと目を逸らした。
「何・・その態度?僕はお前の兄だよ?!」
「何も知らない・・・知っててもお前達には従わない」
『・・・だ、そうだ・・・無理矢理引きずり出す方法しかないな?』
魔王が言う。
そういえば・・あの理事長の姿が見えないことに今気付いた。
「ああ、彼なら・・・」
『光龍の扉を抉じ開けて神木の森へ行っている』
「!!」
リアン・・・いくら神龍でもあの幼い体で神木の森への扉なんて開いたら・・・・。
「命はないだろうね?」
心を読み取りメディオが続けていった。
『ああ・・あの餌は残念ながら息を引き取った』
「・・・・お前達・・許さない・・・・」
深紅の瞳、溢れ出す膨大な魔力にもかかわらずに魔法陣も檻もびくともしてない。
それどころか溢れた魔力を吸い檻の強度も魔法陣の輝きも増していた。
「・・・・・ッ・・」
激しい眠気が襲ってきた。
左手で顔を抑え必死に眠気に耐える。
「どうした?ジンー?」
わざとらしいメディオにジンは何の反論もすることなくその場に崩れた。
「・・・ッ・・・」
こんな時にこんな所で・・・。
眠気に逆らうことも出来ずに静かに瞼を閉じた。
『こんな状況でよく寝れるな・・』
感心するように魔王はジンを見下ろしていた。
「もうすぐだ・・・もう直ぐ会える・・・ッ」
嬉しそうに静かな寝息を立てているジンを見下ろした。
苦しい・・・。
息が・・・出来ない・・。
必死で吸い込む空気は焼けるように熱くて喉が痛い・・。
もがく様に左手で喉を押さえたまま辺りを見回す。
薄暗い部屋。
人の気配もない。
「・・・ッぅ・・ぁ・・ッ・」
ボタボタと床に唾液が零れた。
『よぉ?まだ生きてるか?』
魔王がジンの目の前に立っていた。
「・・・」
肩でゼェゼェと荒い呼吸をしながら魔王を見上げた。
『契約主と隔離した、魔力のないこの世界の空気はどうだ?』
「・・・ッ・・ぅ・・・」
魔王だって・・・あの理事長が居ない今同じ状況のはずなのに・・・。
『俺は、自分を自分の魔力の膜で覆っているから・・・主が居なくても平気だ』
「・・・・」
それくらいなら自分にも出来る・・。
ただ今はあの傷を受けてから魔力の消耗が大きく、眠くなるというリスクがある。
こんな状況で眠ったら本当にもう起きることもなくなりそうだ。
『メディオなら今は出かけている』
聞いても居ない事を魔王が口にした。
「・・・・・」
苦しい・・。
体が動かない・・。
空ろな目で魔王を見上げていた。
『ああ・・美しい顔が台無しになっている・・』
苦笑しながら汗で張り付いた長い前髪に触れた。
払いのけるほどの力も残されては居なかった。
黙ったままされるがまま。
「・・・・」
▲結衣サイド▲
『結衣・・・1人で行く気なのか?』
「だって・・・これ以上真紀たちに迷惑掛けれないし・・・それに・・・」
言いかけて結衣は黙った。
『?』
「ジンのお父さんに頼まれてるもの!私が助けなきゃ!」
その意気込みにフェルヴァが苦笑した。
『なら・・・その半端な力では無駄死にに行くようなものだ』
「え・・」
やる気を一気に砕くような事をフェルヴァが口にした。
『最後の仕事だ・・結衣、我を喰らえ』
「え・・?」
『そうすれば一人前だ、本来の吸血鬼の力をその身に宿すことが出来る』
「そんなの・・・・無理だよ・・」
今まで散々助けられて助言されて、そんな人を喰らうなどと・・。
『大丈夫、一族はずっとそうして悲しい歴史を繰り返してきた・・・結衣頼む・・我を自由にすると思って・・』
「・・・・・・」
ぼろぼろと大粒の涙が結衣の目から零れ落ちた。
フェルヴァの優しさが痛いほどに伝わってきた。
結衣を助けるため、結衣の大切なものを守る為にその命を結衣の生きるための力とする為にくれるという。
本当は結衣をずっとそばに置いて餌にしようとしていた。ずっとそばにいるうちに情が沸いた。大切だと思ってしまった。・・・そういうことなのだろう、フェルヴァは内心で苦笑する。
『優しい人の子・・・我は忘れない、全て飲み干して一つになろう』
白い首を結衣に出しだした。
心優しい結衣、この子の為ならこの身全て捧げて・・・主の血肉となり力となろう・・。
「ごめん・・・フェルヴァ・・・」
白い首筋に牙を突き立てた。
痛くは・・・なかった。
フェルヴァは苦笑して結衣の頭を撫でた。
『これでいいのだ・・後のことは任せたぞ』
甘い蜂蜜のようなジンとはまた違った美味しい味。
ゴクリと喉を伝う。
全て飲み干すとフェルヴァの姿は結衣の前から消えていた。
ゆっくりと立ち上がり、結衣は窓から軽々と外へと飛び出した。
体が空気みたいに軽かった。屋根を伝い軽々と飛び越えていく。
目指すは学院。
そこにジンがいるはず。
自分でも驚くほど息も切らさず、早い時間で学院についていた。
「もうついた・・・」
深紅の目を凝らし、学院を見据えた。
些細な音さえも良く聞こえる。
「・・・・ジンは・・何処・・」
ある一部屋で目が留まった。
強い魔力を感じた。
荒い息遣いも。
「あそこ?」
3階の一番端のもう使われていない教室。
軽く屋上までジャンプで上がり、屋上の扉を手に掛けた。
ガチャリ・・
普通にあいた。怪力で壊したわけではないはず・・・
無用心だなあ・・。
闇に紛れる様にこっそりと中へ入る。
人の気配がない。
外から見えた教室の前へとたどり着いた。
ゆっくりと扉を開け中を覗き込んだ。
薄暗い部屋なのに日の光の下にあるかのようにはっきりと見えた。
「!!」
横たわるジンの姿が飛び込んできた。
他に辺りには誰も居ないようだ。
「ジン!!」
結衣の声・・・。
ぼんやりする視界の中に結衣の姿が見えた。
あの姿は夢か幻か?
そこまで強く望んだのだろうか・・・夢に出るほどに?
「ジン!!大丈夫?!」
「・・・・結・・衣?」
これは・・・本物?
「どう・・し・・・・て・・・此、処に・・・?」
1人でどうしてこんな危険なところに居るんだ?
声が出なくて思っていることの半分も口に出来ない・・。
横たわったまま驚いたように曇った緑色の瞳を揺らしていた。
「に、げ・・・・ろ」
「え?私ジンを助けに来たんだよ!?」
「・・・俺は・・・・」
ジンの左手が石の様に皹が入ってボロボロと砕けていた。砕けた破片は青白い光を纏って煌めいていた。
「え・・・ジン?」
「父が・・・・来る・・・結、衣・・・君は・・・逃げて・・・?」
「お父さんが助けてくれるんでしょ?!」
結衣が聞くとジンは静かに首を振った。
助けるんじゃない・・・逆鱗に触れてしまったから・・・全てを滅ぼして無に返す為に・・・。
神木の森以外きっと全て・・・消えてなくなる・・・。リセットされてしまう。
「私約束したの・・ジンのお父さんと!星の契約をして欲しいって、・・・貴方を頼まれたの!」
「・・・・・」
会ったのか・・・。
手を出さなかった・・・それどころか、星の契約を頼んだ・・・父は・・結衣を認めたということか。
それならまだ・・・助けられる・・・・・。
両手に収まるくらいの虹色に輝く丸い石を結衣に差し出した。
「これは?」
素直に受け取り石をまじまじと見つめた。光を反射し煌く石。
「星の核よ、我守護龍は・・結衣を主、”星”と認める・・・結衣その石に血を捧げ契約を・・・・・・再び出会うときの・・・・目印・・・」
再び出会うときの目印って・・・・それって・・・?
「私は、ジンの傍に居るからね?!」
ジンはにっこり微笑んだまま頷いただけだった。
ピシピシと小さな亀裂が入る音が静かな静寂を破る。
『おや・・・卵に皹がはいったようだ』
いつの間にか魔王が居た。
「もうすぐだ・・・もうすぐ!!」
メディオも興奮したように横たわるジンに視線を向けていた。
傍に居る結衣にはもう目もくれてない。
白い光がジンの中からふわりと出てきた。
「!!」
光の中から現れたのは銀色の長い髪、深い紫色の瞳、姿は目の色は違えどジンにそっくりだった。
『愚かな者どもめ・・・』
横たわるジンに1度だけ視線を向けた後直ぐに魔王とメディオに視線を向けた。
ゾクリとするほど冷たい狂気の瞳で。
『・・・予想以上だ・・・この力・・・』
「僕を覚えてますか?父さん」
メディオが言う。ジオテリアンは目を細めて吐き捨てるように言った。
『・・・・欠陥品の息子など私には居ない』
「また・・・僕を欠陥品呼ばわり・・・!!なら、そいつは、ジンも欠陥品だろぅ?!!」
『・・・・お前が壊した・・・私の大切な者たちを・・・ッ』
話が良く見えない。
メディオも息子に違いはないのだろう?
この扱いはおかしい・・。
『私から妻を奪っただけでは足りなかったのか・・・息子まで手に掛けるとは・・・ッ』
ジオテリアンが怒りをメディオに向けていた。
「だって・・・おかしいでしょ?!先に僕の母さんを捨てたのは父さん貴方だ!!」
『あれは、私など見ては居なかった・・・私の力にしか興味はなかったのだ・・・』
吐き捨てるように言う。
欲に駆られた魔性の女だと後で気づいた・・・。
心がボロボロでもう誰も愛さないと誓った、そんなときに出会ったのが純粋な心を持ったジンの母・・ティナだった。
力を隠して、接していたがいつの間にかティナに惹かれていた自分が居た。
力を使わなくてもジンが生まれて幸せに暮らしていたのに・・・。
メディオが全てをめちゃくちゃにした。
命尽きたティナは彼女の望みで全てを見守る輪廻を司る神木となり。ジオテリアンはジンに星の核を預け星の役目を与え、星の守護龍である己はジンの中で眠り、ジンをメディオが居ない時間と空間に飛ばした。
それなのに・・・・。
『その存在やはり邪魔だ・・・なかった事にしてやろう・・・』
過去も人の運命さえ書き換える力を持った創造主なら簡単にやってしまえる。
「そんな・・・こと・・・させない!!僕はッその力を手に入れる!!」
ジオテリアンに突進するメディオ。
『無駄だ・・・お前には扱えない』
「やってみなきゃ・・・わからないょ!」
足にしがみ付くメディオに煩わしそうに睨んだまま口にする。
『その穢い手で私に触れるな!!』
メディオの口元は笑っていた。
「捕まえた・・・」
『!!?』
黒い影のようなものが体から伸びジオテリアンの体を締め上げていく。
「その体とその力、全ていただく・・・」
『・・・ッ・・・』
影がジオテリアンの体を全て包み込んだ。
メディオとジオテリアンのやり取りに魔王も結衣も動けずに居た。
黙ったまま事の成り行きを見守るしか出来なかったのだ。
けど、あれほどの力の人ならきっとメディオを倒してくれると思っていた。
次の瞬間まで・・・。
影が全て消えるとそこに立っていたのはジオテリアンだけだった。
メディオの姿はなかった。
『随分弱っていたね・・・何に力を使ったんだろうね?』
凛としたジオテリアンの声でメディオのような口調・・・。
『メディオか?』
魔王が恐る恐る尋ねた。
『・・・そうだよ・・・様つけようよ?』
メディオは魔王を睨むように見つめてからそう口にした。
『え・・・』
『それにもう、君・・用済みだから消えろ』
そう言った途端魔王の体は光の粒子になってばらばらと崩れ始めた。
『何だこれは・・・どういうこと・・だ?!』
メディオはニヤリと口元に笑みを作ったまま魔王を見下ろしていた。
『此処に魔神をよんでやるよ・・・見たかったんだろう?』
「!・・・ッ」
人間界に魔界そのものである魔神を呼んだりなんかしたら・・・2つの世界が衝突して両方滅びかねない・・・。
『愚かな人間も、魔物も全て!!消えればいいよ・・・』
「・・・・ッ・・・」
いくら力をつけた結衣でも分かる。
今のメディオを止めるだけの力は自分にはない・・・。
けどこのまま世界が滅ぶのを黙ってみているしか出来ないのか・・・。
メディオは教室を出て外へと出て行った。
「結・・・・衣・・・」
「ジン!・・・ッどうしょう?!」
「・・・父が、乗っ取られた・・のは俺の、所為だ・・・・傷の・・・修復に・・・・ッ」
「!!」
会ったときに言っていた・・。精神は壊れないように眠るだけに修復したと・・・。あれの所為?
「俺が・・・救う・・・世、界・・・人達・・・」
ボロボロの体で必死に声を振り絞っている。
「全部は無理でも・・・・別の世界を創ってその空間に・・・移す」
「大丈夫なの?!」
いつの間にか魔法陣の効力は消えていた。
ヨロリと立ち上がりジンは空に居るメディオを見据えた。
「ごめん・・・父さん・・・」
小さく呟く。
メディオは空の上に浮いたままただ”魔神よ僕の下に来い!”と叫んだだけで、校庭に光で巨大な魔法陣が一瞬で浮かび上がった。
魔法陣が光を発し中からガディが姿を現した。
紫電の瞳をメディオに向けて。
『我を呼んだのは貴方か?』
『そう、僕だ・・・ともにこんな腐った世界を壊そう・・・!!』
『・・・・ジオテリアン・・・』
ガディはふと結衣とジンに視線を向けた。
ジンもだが、ガディ自身も一目で見て分かるほどに大分弱っていた。
召喚主があの方でなければ・・・背いて直ぐにでもジンを助けるのに・・・。
『・・・・本当に・・・君がそれを望むのか?親愛なる貴方が自分の息子の守ろうとしているこの世界を?』
ガディが言う。
『僕に逆らう気か?ガディ?』
『・・・・・・』
俯いたまま苦笑した。
これが本当にあの方か・・?
『ガディ!私を殺せ!!』
突然メディオがそんな事を言った。
『?!!』
吃驚したようにガディはメディオを見上げた。
『こんな・・・醜態お前には見られたくなかったな・・・・駄目な父親だと笑えばいい・・・』
下にいるジンに視線を向けたまま言った。
『ジオテリアン・・?』
『黙れ!!この体もこの力ももう僕のだ!!』
『ぐぅ・・・時間がない・・・・もぅ・・・・』
ジオテリアンの体が黒い闇に覆われて巨大な龍の姿になった。
『誰も僕の邪魔はさせない!!僕を殺せたとしてもこの世界は消滅する!!』
『・・・・』
魔神を呼び出した時点で滅亡へのカウントダウンは動き出している。
二つの世界の衝突は全ての消滅・・・魔神が命を絶てば魔界だけが消滅して人間界は救える。どちらにしても片方か両方が滅びる・・・。
『酷い選択を残したものだ・・・』
苦笑しながら巨大な龍を見上げて呟いた。
「ガディさん!」
『結衣・・・ジン』
「ガディ・・・・魔石・・あるか?」
『ん?そういうと思って一応持ってきた』
そういって差し出された1つの白い魔石をがりがりと齧って飲み込んだ。
「白いの始めてみた・・・」
『光の属性が混じっていてとても希少なんだ』
にっこり微笑んでガディが言う。
足りないけれど・・・文句言えるほど時間もない・・・。
「最悪の事を考えて、俺は人々の避難を優先させる・・・」
「うん・・・」
光に包まれるとジンの姿も大きな龍へと変化していた。
虹色に光る6枚の翼、銀色に輝く長い毛並み、金色の長い角、長い尻尾。
どれをとっても美しくて神々しかった。
『生命達をべつの次元に1度集めて新たに作った世界・・全てが混ざり合った異世界に移すしかないな・・・時間も力もそんなに持たないだろう・・』
「ジオテリアンさんのほうはどうするの?」
結衣が聞く。
『ああ・・・きっと彼が・・・何とかしてくれるよ』
信頼してる者同士何かあるのだろう・・。
今は暴走しているように見えるが、中からコントロールして時間をちゃんと稼いでくれている・・。
息子を信頼している証拠だ・・・。
黒い巨大な龍は全てを破壊し命を奪っていく。
白い光に包まれた白い龍は癒し命を救っていく。
人々は外へ出て空を見上げ2匹の巨龍をみた。天空からは別の世界が落ちてきていた。衝突は避けられないだろう。
白い龍を見た人々は白い光に包まれていく。
ジンは”自分の姿を見た者全て”を移動させる術を掛けていた。
ざわつく人々。
「何あれ・・?!」
空は黒くて分厚い雲に覆われて、大きな地震が地を激しく揺らした。
『世界が・・・・消える・・・』
ガディが呟く。
「グァォォォォォォンッ」
ジンが咆哮する。
人々は大きな音に吃驚して外へ出て空を見上げた。
そして光に包まれていく。
地面は大きく裂け建物や人々を飲み込んでいく。
裂けた地面からは赤いマグマが噴出した。
地上では大パニックになっていた。
メディオは暴れて多くの命を奪っていく。
「ジン・・」
結衣はジンを見上げた。
『結衣・・・君も友達と一緒に逃げた方がいい』
「私は、最後までジンと一緒に居ます」
『そうか・・・』
ガディは微笑みながら頷いた。
暗い空が歪んで魔界が徐々に地上に落ちてきた。
「結衣!これ何?!」
遠くの方から走ってきた真紀とラディオスが結衣とガディの前まで来た。
「真紀・・・説明してる時間がないの・・」
「え・・どういう事?」
「あの空に居る白い龍はジンなの」
「!!」
真紀とラディオスは思わず空のジンの姿を見つめた。
すると真紀とラディオスの体が白い光に包まれてふわりと空に浮かび上がった。
「な、何これ?!」
「大丈夫・・・・心配要らないから」
にっこり微笑んで結衣が言った。
「世界が・・・泣いている・・・」
ラディオスが悲しそうに言う。
「・・・・滅びるんですか・・・?」
『・・・今ジンが少しでも多くの命を救おうと頑張ってくれてる・・・・』
大勢の命を救う為に別の次元に移し更に新しく作った世界に移す作業・・・。
多分、いや確実に今のあの力では・・・底をつく。そしてその体は消滅してしまうだろう・・・。
『・・・・・・』
ガディは悲しそうにジンとジオテリアンを見上げた。
同時に大切な者が一度に居なくなってしまう・・・。
涙が込み上げた。
「ガディさん?」
結衣がガディを心配そうに覗き込んだ。
『・・・すまん・・・・勝手に涙が・・・止まらなくて・・・ッ』
ボロボロと涙が零れ落ちた。
結衣はジンを信じてここで待っているけれど・・・戻ってなどこれないのに・・・。
「結衣・・・直ぐ後を追いかけるから・・・先に行っててくれ」
ジンが結衣を見つめたまま口にした。
「ジン?」
「大丈夫・・・」
結衣の体も白い光に包まれた。
「ガディ・・貴方も」
『え・・・我は・・・ッ』
慌てたようにガディはジンを見上げた。今落ちてきている世界そのものの存在なのに・・。
一緒に見届けるつもりだった・・・。
建物が崩れ、地面の裂け目に飲み込まれていく。
見る見るうちに街は消滅した。
何もなくなった・・・。
崩れた瓦礫と更地になったさっきまで暮らしていた街並。
ガディの体も光に包まれ空へとふわりと浮いた。魔界という世界の楔から1度ガディを切り離した。
「移す・・・」
ジンの体が更に強い光を発して目の前が真っ白になったと思ったら直ぐに別の次元に飛ばされていた。
『此処は・・・』
「ガディさん・・・ジンは、本当に・・・」
結衣は言いかけて黙った。
何を聞きたいのだろう・・・・。
すぐ追いかけると・・言っていたのに私が信じないで誰が信じるのだ・・・。
『結衣?』
心配そうにガディが結衣を見つめていた。
「なんでもない・・」
無理矢理笑って笑顔をガディに見せた。
周りには沢山の人たち。
何が起きたのか分からずに戸惑う人たちが殆どだった。
『世界創造自体に凄い多くの力を消耗する・・・こんな多くの者を同時に移動なんて・・・』
ガディが呟く・・。結衣を不安にさせたいわけじゃない・・。
ただ、何も出来ない自分が悔しくて心に押し込んでおくことが出来なかった。
「大丈夫・・・きっと、ジンなら!」
まだ結衣は希望を捨ててないらしい。
頼もしいが、逆にそれが余計に苦しい。
再び光に覆われると今度は緑溢れる大地に立っていた。
「綺麗・・・」
光がキラキラと木々の葉を照らし木漏れ日が降り注いでいた。
其処にジンが現れた。
光に包まれた白銀の美しい龍。
「すまない・・・これだけしか・・・救えなかった・・・残存する世界と新しい世界を混ぜ合わせた・・・それしか出来なかった・・・」
その場に居た皆に言う。
皆ジンを見据えた。
ボロボロと体が光の粒子になって崩れていく美しい龍の姿。
「何もないが・・・此処から新たな一歩をはじめて・・・」
人は強い種だ・・何もないところからでもちゃんと立ち直れるのを知っている。
『ジン・・・彼は・・・どうなったのだ?』
ガディが口を開いた。
「父は、兄を道ずれに共に消滅した・・・」
俯いたまま悲しそうにそう口にした。
『・・・そうか・・・』
あの状況ではそうするしか方法なんてなかったのだろう。
「ジン!」
結衣が慌ててジンの元へと急いだ。
「結衣・・・すまない・・・・約束は守る・・・遅くなるかもしれない・・・待っていてくれるか?」
結衣は静かに頷いた。
目には大粒の涙をためたまま。
龍の姿から人型へと戻るが、体の崩壊は止まらない。
「必ず・・・戻るから・・・」
そう言い残すと同時にその体は光となって弾けて空に消えた。
「今の人が・・・私達を救ってくれた人?」
ざわざわとざわつく人々。
これは後々の書物や絵本となり伝説として後世ずっと語り継がれる。光の龍の化身が舞い降りて世界を救うと・・・。
『幻龍は何度も転生を繰り返す、故に不死なのだ・・・』
ガディが言う。
結衣は静かに頷いた。
そのうちひょっこり結衣の前に姿を現すその時まで待とう・・・。
遅くなるとはいっていたたけれど、結衣もまた時間という概念がない存在だ。
「雨降りそうね」
真紀が窓から顔を出して空を眺めていた。
「うん・・・」
「どうしたの?元気ないみたいだけど?」
「何か・・・胸騒ぎがするの・・・」
『闇夜の黒き十字架、暗黒の審判者、そは美しき闇、黒き光纏て、太陽を孕む真夜中の闇よ、鋼の杭を砕き、時を駆ける疾風となりて我が下へ!その不浄なる力を持って我が召喚に答え今此処へ現れよ!!』
魔方陣が光を帯びて黒い光が一気に辺りを包んだ。
学院の大規模魔法陣に追加した強力な術が掛けられた魔法陣の前で魔王が自らの血を代価に叫んだ。
「ジン?!」
ジンの足元に突如現れた黒い穴と浮かび上がった魔法陣をみて結衣は必死にジンの元へ駆け寄ろうとした。
「・・・結・・衣?」
まだ眠いのかぼんやりした瞳を結衣に向けていた。
「手を!!」
必死に伸ばす結衣。
慌てている結衣に戸惑いながらジンも腕を伸ばして結衣の手をとろうとした。
バチッ・・
見えない何かに弾かれて結衣は吹っ飛ばされた。
「結衣!!」
「う・・・」
どんどん黒い穴に引きずられる・・。
この感じは・・・・強制召喚・・・。
今あの召喚の術式を知る者は結衣の他には・・・・。
ああ・・・1人いた・・。
”魔王”となったあの少年だった者・・・。
「あ・・・」
結衣の目の前でジンは黒い魔法陣の中へと吸い込まれて穴は消えた。
「・・・・」
『ようこそ・・・鳥籠の中へ』
魔王が口にした。
「悪趣味だな・・」
『そんな悪態も今のうちだ』
「・・・・・」
ギッと魔王を睨み付けたまま見上げた。
「ほんとに呼べたんだねぇ・・・」
メディオが魔法陣の上に居るジンを見下ろしたまま口にしていた。
「・・・・」
「ジンー?僕は父に会いたいんだ・・呼んでくれる?」
「・・・・」
ジンは黙ったままフィっと目を逸らした。
「何・・その態度?僕はお前の兄だよ?!」
「何も知らない・・・知っててもお前達には従わない」
『・・・だ、そうだ・・・無理矢理引きずり出す方法しかないな?』
魔王が言う。
そういえば・・あの理事長の姿が見えないことに今気付いた。
「ああ、彼なら・・・」
『光龍の扉を抉じ開けて神木の森へ行っている』
「!!」
リアン・・・いくら神龍でもあの幼い体で神木の森への扉なんて開いたら・・・・。
「命はないだろうね?」
心を読み取りメディオが続けていった。
『ああ・・あの餌は残念ながら息を引き取った』
「・・・・お前達・・許さない・・・・」
深紅の瞳、溢れ出す膨大な魔力にもかかわらずに魔法陣も檻もびくともしてない。
それどころか溢れた魔力を吸い檻の強度も魔法陣の輝きも増していた。
「・・・・・ッ・・」
激しい眠気が襲ってきた。
左手で顔を抑え必死に眠気に耐える。
「どうした?ジンー?」
わざとらしいメディオにジンは何の反論もすることなくその場に崩れた。
「・・・ッ・・・」
こんな時にこんな所で・・・。
眠気に逆らうことも出来ずに静かに瞼を閉じた。
『こんな状況でよく寝れるな・・』
感心するように魔王はジンを見下ろしていた。
「もうすぐだ・・・もう直ぐ会える・・・ッ」
嬉しそうに静かな寝息を立てているジンを見下ろした。
苦しい・・・。
息が・・・出来ない・・。
必死で吸い込む空気は焼けるように熱くて喉が痛い・・。
もがく様に左手で喉を押さえたまま辺りを見回す。
薄暗い部屋。
人の気配もない。
「・・・ッぅ・・ぁ・・ッ・」
ボタボタと床に唾液が零れた。
『よぉ?まだ生きてるか?』
魔王がジンの目の前に立っていた。
「・・・」
肩でゼェゼェと荒い呼吸をしながら魔王を見上げた。
『契約主と隔離した、魔力のないこの世界の空気はどうだ?』
「・・・ッ・・ぅ・・・」
魔王だって・・・あの理事長が居ない今同じ状況のはずなのに・・・。
『俺は、自分を自分の魔力の膜で覆っているから・・・主が居なくても平気だ』
「・・・・」
それくらいなら自分にも出来る・・。
ただ今はあの傷を受けてから魔力の消耗が大きく、眠くなるというリスクがある。
こんな状況で眠ったら本当にもう起きることもなくなりそうだ。
『メディオなら今は出かけている』
聞いても居ない事を魔王が口にした。
「・・・・・」
苦しい・・。
体が動かない・・。
空ろな目で魔王を見上げていた。
『ああ・・美しい顔が台無しになっている・・』
苦笑しながら汗で張り付いた長い前髪に触れた。
払いのけるほどの力も残されては居なかった。
黙ったままされるがまま。
「・・・・」
▲結衣サイド▲
『結衣・・・1人で行く気なのか?』
「だって・・・これ以上真紀たちに迷惑掛けれないし・・・それに・・・」
言いかけて結衣は黙った。
『?』
「ジンのお父さんに頼まれてるもの!私が助けなきゃ!」
その意気込みにフェルヴァが苦笑した。
『なら・・・その半端な力では無駄死にに行くようなものだ』
「え・・」
やる気を一気に砕くような事をフェルヴァが口にした。
『最後の仕事だ・・結衣、我を喰らえ』
「え・・?」
『そうすれば一人前だ、本来の吸血鬼の力をその身に宿すことが出来る』
「そんなの・・・・無理だよ・・」
今まで散々助けられて助言されて、そんな人を喰らうなどと・・。
『大丈夫、一族はずっとそうして悲しい歴史を繰り返してきた・・・結衣頼む・・我を自由にすると思って・・』
「・・・・・・」
ぼろぼろと大粒の涙が結衣の目から零れ落ちた。
フェルヴァの優しさが痛いほどに伝わってきた。
結衣を助けるため、結衣の大切なものを守る為にその命を結衣の生きるための力とする為にくれるという。
本当は結衣をずっとそばに置いて餌にしようとしていた。ずっとそばにいるうちに情が沸いた。大切だと思ってしまった。・・・そういうことなのだろう、フェルヴァは内心で苦笑する。
『優しい人の子・・・我は忘れない、全て飲み干して一つになろう』
白い首を結衣に出しだした。
心優しい結衣、この子の為ならこの身全て捧げて・・・主の血肉となり力となろう・・。
「ごめん・・・フェルヴァ・・・」
白い首筋に牙を突き立てた。
痛くは・・・なかった。
フェルヴァは苦笑して結衣の頭を撫でた。
『これでいいのだ・・後のことは任せたぞ』
甘い蜂蜜のようなジンとはまた違った美味しい味。
ゴクリと喉を伝う。
全て飲み干すとフェルヴァの姿は結衣の前から消えていた。
ゆっくりと立ち上がり、結衣は窓から軽々と外へと飛び出した。
体が空気みたいに軽かった。屋根を伝い軽々と飛び越えていく。
目指すは学院。
そこにジンがいるはず。
自分でも驚くほど息も切らさず、早い時間で学院についていた。
「もうついた・・・」
深紅の目を凝らし、学院を見据えた。
些細な音さえも良く聞こえる。
「・・・・ジンは・・何処・・」
ある一部屋で目が留まった。
強い魔力を感じた。
荒い息遣いも。
「あそこ?」
3階の一番端のもう使われていない教室。
軽く屋上までジャンプで上がり、屋上の扉を手に掛けた。
ガチャリ・・
普通にあいた。怪力で壊したわけではないはず・・・
無用心だなあ・・。
闇に紛れる様にこっそりと中へ入る。
人の気配がない。
外から見えた教室の前へとたどり着いた。
ゆっくりと扉を開け中を覗き込んだ。
薄暗い部屋なのに日の光の下にあるかのようにはっきりと見えた。
「!!」
横たわるジンの姿が飛び込んできた。
他に辺りには誰も居ないようだ。
「ジン!!」
結衣の声・・・。
ぼんやりする視界の中に結衣の姿が見えた。
あの姿は夢か幻か?
そこまで強く望んだのだろうか・・・夢に出るほどに?
「ジン!!大丈夫?!」
「・・・・結・・衣?」
これは・・・本物?
「どう・・し・・・・て・・・此、処に・・・?」
1人でどうしてこんな危険なところに居るんだ?
声が出なくて思っていることの半分も口に出来ない・・。
横たわったまま驚いたように曇った緑色の瞳を揺らしていた。
「に、げ・・・・ろ」
「え?私ジンを助けに来たんだよ!?」
「・・・俺は・・・・」
ジンの左手が石の様に皹が入ってボロボロと砕けていた。砕けた破片は青白い光を纏って煌めいていた。
「え・・・ジン?」
「父が・・・・来る・・・結、衣・・・君は・・・逃げて・・・?」
「お父さんが助けてくれるんでしょ?!」
結衣が聞くとジンは静かに首を振った。
助けるんじゃない・・・逆鱗に触れてしまったから・・・全てを滅ぼして無に返す為に・・・。
神木の森以外きっと全て・・・消えてなくなる・・・。リセットされてしまう。
「私約束したの・・ジンのお父さんと!星の契約をして欲しいって、・・・貴方を頼まれたの!」
「・・・・・」
会ったのか・・・。
手を出さなかった・・・それどころか、星の契約を頼んだ・・・父は・・結衣を認めたということか。
それならまだ・・・助けられる・・・・・。
両手に収まるくらいの虹色に輝く丸い石を結衣に差し出した。
「これは?」
素直に受け取り石をまじまじと見つめた。光を反射し煌く石。
「星の核よ、我守護龍は・・結衣を主、”星”と認める・・・結衣その石に血を捧げ契約を・・・・・・再び出会うときの・・・・目印・・・」
再び出会うときの目印って・・・・それって・・・?
「私は、ジンの傍に居るからね?!」
ジンはにっこり微笑んだまま頷いただけだった。
ピシピシと小さな亀裂が入る音が静かな静寂を破る。
『おや・・・卵に皹がはいったようだ』
いつの間にか魔王が居た。
「もうすぐだ・・・もうすぐ!!」
メディオも興奮したように横たわるジンに視線を向けていた。
傍に居る結衣にはもう目もくれてない。
白い光がジンの中からふわりと出てきた。
「!!」
光の中から現れたのは銀色の長い髪、深い紫色の瞳、姿は目の色は違えどジンにそっくりだった。
『愚かな者どもめ・・・』
横たわるジンに1度だけ視線を向けた後直ぐに魔王とメディオに視線を向けた。
ゾクリとするほど冷たい狂気の瞳で。
『・・・予想以上だ・・・この力・・・』
「僕を覚えてますか?父さん」
メディオが言う。ジオテリアンは目を細めて吐き捨てるように言った。
『・・・・欠陥品の息子など私には居ない』
「また・・・僕を欠陥品呼ばわり・・・!!なら、そいつは、ジンも欠陥品だろぅ?!!」
『・・・・お前が壊した・・・私の大切な者たちを・・・ッ』
話が良く見えない。
メディオも息子に違いはないのだろう?
この扱いはおかしい・・。
『私から妻を奪っただけでは足りなかったのか・・・息子まで手に掛けるとは・・・ッ』
ジオテリアンが怒りをメディオに向けていた。
「だって・・・おかしいでしょ?!先に僕の母さんを捨てたのは父さん貴方だ!!」
『あれは、私など見ては居なかった・・・私の力にしか興味はなかったのだ・・・』
吐き捨てるように言う。
欲に駆られた魔性の女だと後で気づいた・・・。
心がボロボロでもう誰も愛さないと誓った、そんなときに出会ったのが純粋な心を持ったジンの母・・ティナだった。
力を隠して、接していたがいつの間にかティナに惹かれていた自分が居た。
力を使わなくてもジンが生まれて幸せに暮らしていたのに・・・。
メディオが全てをめちゃくちゃにした。
命尽きたティナは彼女の望みで全てを見守る輪廻を司る神木となり。ジオテリアンはジンに星の核を預け星の役目を与え、星の守護龍である己はジンの中で眠り、ジンをメディオが居ない時間と空間に飛ばした。
それなのに・・・・。
『その存在やはり邪魔だ・・・なかった事にしてやろう・・・』
過去も人の運命さえ書き換える力を持った創造主なら簡単にやってしまえる。
「そんな・・・こと・・・させない!!僕はッその力を手に入れる!!」
ジオテリアンに突進するメディオ。
『無駄だ・・・お前には扱えない』
「やってみなきゃ・・・わからないょ!」
足にしがみ付くメディオに煩わしそうに睨んだまま口にする。
『その穢い手で私に触れるな!!』
メディオの口元は笑っていた。
「捕まえた・・・」
『!!?』
黒い影のようなものが体から伸びジオテリアンの体を締め上げていく。
「その体とその力、全ていただく・・・」
『・・・ッ・・・』
影がジオテリアンの体を全て包み込んだ。
メディオとジオテリアンのやり取りに魔王も結衣も動けずに居た。
黙ったまま事の成り行きを見守るしか出来なかったのだ。
けど、あれほどの力の人ならきっとメディオを倒してくれると思っていた。
次の瞬間まで・・・。
影が全て消えるとそこに立っていたのはジオテリアンだけだった。
メディオの姿はなかった。
『随分弱っていたね・・・何に力を使ったんだろうね?』
凛としたジオテリアンの声でメディオのような口調・・・。
『メディオか?』
魔王が恐る恐る尋ねた。
『・・・そうだよ・・・様つけようよ?』
メディオは魔王を睨むように見つめてからそう口にした。
『え・・・』
『それにもう、君・・用済みだから消えろ』
そう言った途端魔王の体は光の粒子になってばらばらと崩れ始めた。
『何だこれは・・・どういうこと・・だ?!』
メディオはニヤリと口元に笑みを作ったまま魔王を見下ろしていた。
『此処に魔神をよんでやるよ・・・見たかったんだろう?』
「!・・・ッ」
人間界に魔界そのものである魔神を呼んだりなんかしたら・・・2つの世界が衝突して両方滅びかねない・・・。
『愚かな人間も、魔物も全て!!消えればいいよ・・・』
「・・・・ッ・・・」
いくら力をつけた結衣でも分かる。
今のメディオを止めるだけの力は自分にはない・・・。
けどこのまま世界が滅ぶのを黙ってみているしか出来ないのか・・・。
メディオは教室を出て外へと出て行った。
「結・・・・衣・・・」
「ジン!・・・ッどうしょう?!」
「・・・父が、乗っ取られた・・のは俺の、所為だ・・・・傷の・・・修復に・・・・ッ」
「!!」
会ったときに言っていた・・。精神は壊れないように眠るだけに修復したと・・・。あれの所為?
「俺が・・・救う・・・世、界・・・人達・・・」
ボロボロの体で必死に声を振り絞っている。
「全部は無理でも・・・・別の世界を創ってその空間に・・・移す」
「大丈夫なの?!」
いつの間にか魔法陣の効力は消えていた。
ヨロリと立ち上がりジンは空に居るメディオを見据えた。
「ごめん・・・父さん・・・」
小さく呟く。
メディオは空の上に浮いたままただ”魔神よ僕の下に来い!”と叫んだだけで、校庭に光で巨大な魔法陣が一瞬で浮かび上がった。
魔法陣が光を発し中からガディが姿を現した。
紫電の瞳をメディオに向けて。
『我を呼んだのは貴方か?』
『そう、僕だ・・・ともにこんな腐った世界を壊そう・・・!!』
『・・・・ジオテリアン・・・』
ガディはふと結衣とジンに視線を向けた。
ジンもだが、ガディ自身も一目で見て分かるほどに大分弱っていた。
召喚主があの方でなければ・・・背いて直ぐにでもジンを助けるのに・・・。
『・・・・本当に・・・君がそれを望むのか?親愛なる貴方が自分の息子の守ろうとしているこの世界を?』
ガディが言う。
『僕に逆らう気か?ガディ?』
『・・・・・・』
俯いたまま苦笑した。
これが本当にあの方か・・?
『ガディ!私を殺せ!!』
突然メディオがそんな事を言った。
『?!!』
吃驚したようにガディはメディオを見上げた。
『こんな・・・醜態お前には見られたくなかったな・・・・駄目な父親だと笑えばいい・・・』
下にいるジンに視線を向けたまま言った。
『ジオテリアン・・?』
『黙れ!!この体もこの力ももう僕のだ!!』
『ぐぅ・・・時間がない・・・・もぅ・・・・』
ジオテリアンの体が黒い闇に覆われて巨大な龍の姿になった。
『誰も僕の邪魔はさせない!!僕を殺せたとしてもこの世界は消滅する!!』
『・・・・』
魔神を呼び出した時点で滅亡へのカウントダウンは動き出している。
二つの世界の衝突は全ての消滅・・・魔神が命を絶てば魔界だけが消滅して人間界は救える。どちらにしても片方か両方が滅びる・・・。
『酷い選択を残したものだ・・・』
苦笑しながら巨大な龍を見上げて呟いた。
「ガディさん!」
『結衣・・・ジン』
「ガディ・・・・魔石・・あるか?」
『ん?そういうと思って一応持ってきた』
そういって差し出された1つの白い魔石をがりがりと齧って飲み込んだ。
「白いの始めてみた・・・」
『光の属性が混じっていてとても希少なんだ』
にっこり微笑んでガディが言う。
足りないけれど・・・文句言えるほど時間もない・・・。
「最悪の事を考えて、俺は人々の避難を優先させる・・・」
「うん・・・」
光に包まれるとジンの姿も大きな龍へと変化していた。
虹色に光る6枚の翼、銀色に輝く長い毛並み、金色の長い角、長い尻尾。
どれをとっても美しくて神々しかった。
『生命達をべつの次元に1度集めて新たに作った世界・・全てが混ざり合った異世界に移すしかないな・・・時間も力もそんなに持たないだろう・・』
「ジオテリアンさんのほうはどうするの?」
結衣が聞く。
『ああ・・・きっと彼が・・・何とかしてくれるよ』
信頼してる者同士何かあるのだろう・・。
今は暴走しているように見えるが、中からコントロールして時間をちゃんと稼いでくれている・・。
息子を信頼している証拠だ・・・。
黒い巨大な龍は全てを破壊し命を奪っていく。
白い光に包まれた白い龍は癒し命を救っていく。
人々は外へ出て空を見上げ2匹の巨龍をみた。天空からは別の世界が落ちてきていた。衝突は避けられないだろう。
白い龍を見た人々は白い光に包まれていく。
ジンは”自分の姿を見た者全て”を移動させる術を掛けていた。
ざわつく人々。
「何あれ・・?!」
空は黒くて分厚い雲に覆われて、大きな地震が地を激しく揺らした。
『世界が・・・・消える・・・』
ガディが呟く。
「グァォォォォォォンッ」
ジンが咆哮する。
人々は大きな音に吃驚して外へ出て空を見上げた。
そして光に包まれていく。
地面は大きく裂け建物や人々を飲み込んでいく。
裂けた地面からは赤いマグマが噴出した。
地上では大パニックになっていた。
メディオは暴れて多くの命を奪っていく。
「ジン・・」
結衣はジンを見上げた。
『結衣・・・君も友達と一緒に逃げた方がいい』
「私は、最後までジンと一緒に居ます」
『そうか・・・』
ガディは微笑みながら頷いた。
暗い空が歪んで魔界が徐々に地上に落ちてきた。
「結衣!これ何?!」
遠くの方から走ってきた真紀とラディオスが結衣とガディの前まで来た。
「真紀・・・説明してる時間がないの・・」
「え・・どういう事?」
「あの空に居る白い龍はジンなの」
「!!」
真紀とラディオスは思わず空のジンの姿を見つめた。
すると真紀とラディオスの体が白い光に包まれてふわりと空に浮かび上がった。
「な、何これ?!」
「大丈夫・・・・心配要らないから」
にっこり微笑んで結衣が言った。
「世界が・・・泣いている・・・」
ラディオスが悲しそうに言う。
「・・・・滅びるんですか・・・?」
『・・・今ジンが少しでも多くの命を救おうと頑張ってくれてる・・・・』
大勢の命を救う為に別の次元に移し更に新しく作った世界に移す作業・・・。
多分、いや確実に今のあの力では・・・底をつく。そしてその体は消滅してしまうだろう・・・。
『・・・・・・』
ガディは悲しそうにジンとジオテリアンを見上げた。
同時に大切な者が一度に居なくなってしまう・・・。
涙が込み上げた。
「ガディさん?」
結衣がガディを心配そうに覗き込んだ。
『・・・すまん・・・・勝手に涙が・・・止まらなくて・・・ッ』
ボロボロと涙が零れ落ちた。
結衣はジンを信じてここで待っているけれど・・・戻ってなどこれないのに・・・。
「結衣・・・直ぐ後を追いかけるから・・・先に行っててくれ」
ジンが結衣を見つめたまま口にした。
「ジン?」
「大丈夫・・・」
結衣の体も白い光に包まれた。
「ガディ・・貴方も」
『え・・・我は・・・ッ』
慌てたようにガディはジンを見上げた。今落ちてきている世界そのものの存在なのに・・。
一緒に見届けるつもりだった・・・。
建物が崩れ、地面の裂け目に飲み込まれていく。
見る見るうちに街は消滅した。
何もなくなった・・・。
崩れた瓦礫と更地になったさっきまで暮らしていた街並。
ガディの体も光に包まれ空へとふわりと浮いた。魔界という世界の楔から1度ガディを切り離した。
「移す・・・」
ジンの体が更に強い光を発して目の前が真っ白になったと思ったら直ぐに別の次元に飛ばされていた。
『此処は・・・』
「ガディさん・・・ジンは、本当に・・・」
結衣は言いかけて黙った。
何を聞きたいのだろう・・・・。
すぐ追いかけると・・言っていたのに私が信じないで誰が信じるのだ・・・。
『結衣?』
心配そうにガディが結衣を見つめていた。
「なんでもない・・」
無理矢理笑って笑顔をガディに見せた。
周りには沢山の人たち。
何が起きたのか分からずに戸惑う人たちが殆どだった。
『世界創造自体に凄い多くの力を消耗する・・・こんな多くの者を同時に移動なんて・・・』
ガディが呟く・・。結衣を不安にさせたいわけじゃない・・。
ただ、何も出来ない自分が悔しくて心に押し込んでおくことが出来なかった。
「大丈夫・・・きっと、ジンなら!」
まだ結衣は希望を捨ててないらしい。
頼もしいが、逆にそれが余計に苦しい。
再び光に覆われると今度は緑溢れる大地に立っていた。
「綺麗・・・」
光がキラキラと木々の葉を照らし木漏れ日が降り注いでいた。
其処にジンが現れた。
光に包まれた白銀の美しい龍。
「すまない・・・これだけしか・・・救えなかった・・・残存する世界と新しい世界を混ぜ合わせた・・・それしか出来なかった・・・」
その場に居た皆に言う。
皆ジンを見据えた。
ボロボロと体が光の粒子になって崩れていく美しい龍の姿。
「何もないが・・・此処から新たな一歩をはじめて・・・」
人は強い種だ・・何もないところからでもちゃんと立ち直れるのを知っている。
『ジン・・・彼は・・・どうなったのだ?』
ガディが口を開いた。
「父は、兄を道ずれに共に消滅した・・・」
俯いたまま悲しそうにそう口にした。
『・・・そうか・・・』
あの状況ではそうするしか方法なんてなかったのだろう。
「ジン!」
結衣が慌ててジンの元へと急いだ。
「結衣・・・すまない・・・・約束は守る・・・遅くなるかもしれない・・・待っていてくれるか?」
結衣は静かに頷いた。
目には大粒の涙をためたまま。
龍の姿から人型へと戻るが、体の崩壊は止まらない。
「必ず・・・戻るから・・・」
そう言い残すと同時にその体は光となって弾けて空に消えた。
「今の人が・・・私達を救ってくれた人?」
ざわざわとざわつく人々。
これは後々の書物や絵本となり伝説として後世ずっと語り継がれる。光の龍の化身が舞い降りて世界を救うと・・・。
『幻龍は何度も転生を繰り返す、故に不死なのだ・・・』
ガディが言う。
結衣は静かに頷いた。
そのうちひょっこり結衣の前に姿を現すその時まで待とう・・・。
遅くなるとはいっていたたけれど、結衣もまた時間という概念がない存在だ。
0
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