スレイヴイーター

鬼畜姫

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沈黙の聖女

偽りの愛を求めた聖女

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「マリア様、そんな言葉をおっしゃらないでください!」

 聖女付きの――幼さが残る少年騎士が叫びました。

 夜、わたくしの寝室に立ち入れる者は、護衛としての役目を担う彼一人。
 彼しか選ぶことができない理由もありましたが、守り守られるという主従関係は想いを強くするようで――。

 彼となら問題ないと勘違いしてしまったのです。

 思えば――知り合った町の娘が結婚するのだと知った時、どうしようもない不安に駆られてしまったのが原因のようです。

 二十歳を過ぎてしまったからでしょうか。

 聖女としての己の限界を垣間見てしまったのです。

 お腹に宿した命を目の当たりにして――それが私よりも若い少女なのですから。
 年上の結婚を祝福してきた今までと同じ気持ちではいられません。

 私にはもう訪れない幸せなのですね、と。

『彼ったら年上なのに甘えん坊さんなんですよ』

 そんな言葉を聞いて、正気でいられるのが不思議なくらいでした。
 シスターでしたら辞めてしまえば結婚は可能でしょう。
 しかし、その上の聖女となると話は変わってきます。

 次の世代へと聖なる魔法を伝えていく者として、シスターであり続ける定めなのです。

 拒否権はありません。

 それが神のご意志だと誰もが信じておりますから。

 ええ、私もそれで構わないと思っていました。
 しかし、子供は残せなくても愛することを我慢していくことには限界だったのです。

 せめて、人肌同士が触れ合う温もりを――。
 彼なら一夜の過ちを黙っていてくれるでしょう。
 そう思ってしまったのです。

「私を愛してくださらないのですか?」

 少年騎士に私は尋ねました。

「お慕いしております。ですが、マリア様は神にお仕えする身。騎士である私があなた様の身体を汚すわけにはまいりません」

「騎士として頑張っているあなたが汚れているなど――思ったことは一度もありませんよ。これが人として正しい姿ではありませんか」

 私は彼を抱き締めました。

 間違っておりますか?

 愛することとはこういうことでしょう?

 これが汚れていると言うのであれば、世界とは汚れて醜いものだと認めなければいけないのですよ?

 私はそんな風に思いたくありません。
 神がこの火照りを認めておられないのであれば、私たちは罪を犯す為に生まれてきたも同然ではありませんか。

 そんな我慢を何故、シスターだけに強いるのですか?

 いくら男神を崇めているとはいえ、聖騎士の方は結婚できるだなんて、あんまりです。

 だから――。

「マ……マリアさまが淫魔に取り付かれたっ!」

 これからも清く乙女であろうとする為に必要な儀式だと割り切ってほしかった。
 しかし、そんな気持ちが届くことはなく、少年騎士は私を押し倒し、教皇に告白したのです。

 あの少年騎士の私を軽蔑した顔は、一生忘れることはないでしょう。

 聖女の名を汚した私は声を封じられて国外追放。
 その時に国境線での戦に巻き込まれ、こうして奴隷となりました。

 愛とは何なのでしょう。

 慈愛の手を差し伸べてきたと私は勘違いしていたのでしょうか。

 やはり、世界とは全てが汚れていて醜いものなのでしょうか。

 私が望むのは、『愛』だと信じてきた汚らわしい行為を経験して、自分も汚れているのだと証明すること。
 それが叶えば、こんな歪んだ世界に未練などありません。
 なのに、私は娼館に落ちるどころか、性欲処理の捌け口にもなれずに生き長らえてしまっています。

 御主人様、どうか私に変な期待を持たせないでください。
 ポーションなんて作るよりも、私は娼婦の仕事がお似合いなのですから。

 そう、偽りの汚れた愛を――。
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