スレイヴイーター

鬼畜姫

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沈黙の聖女

世界を巻き込む大計画

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 気絶していた親友は夕刻に目が覚めた。
 そして現在の食事に至る。

 ちなみに、俺が訪問した時は決まって魚料理だ。
 領地で取れた旬の魚を食ってもらいたいっていう自慢もあるが、親友の焼き加減が上手すぎるのでついつい持ってきちまうんだよな。

 それはともかく――。

「まず始めに――俺たちは共通の問題に苦しめられてきたはずだ。それを確認したい」

「ひょれっひぇ、わひゃふぃもっふくぁ?」

 俺がようやく切り出すと、ベクティアが『それって、私もっすか?』と口の中に食べ物を入れたまま尋ねた。

 ちょっ、食いかけをこっちに飛ばすんじゃねえ!

 お前よぉ……、良いとこ出のお嬢様が聞いて呆れるぞ。
 ほら、そんなことする奴はここにいないだろ?

 俺は顔を引きつらせながら皆の顔を伺う。

 席順はホスト、ホステスに親友とマリアちゃんが当てられた以外は、彼らの両隣を自由に選択した。
 その結果、親友の両隣は貴族で、対面が奴隷という綺麗な形となったわけだが――。

 ローリエと絶華は『お前んところの奴隷教育どうなってんの?』みたいな嫌な顔をこっちに向けてくるしさぁ、助け船を求めて隣の親友に顔を向ければ、『君が悪い』と顔を背けてきやがった。

 ほら、マリアちゃんを見習えよ。
 ニコニコ笑いながらベクティアの口回りをナプキンで拭いてやってるじゃねえか。

 あ、でも『本当に教育しておられるのでしょうか?』といった疑いの眼差しは向けてくるのね。
 おーけぃ、まだ屈服の魔法で操ったことを許してないって感じだな。

 いや、本当に悪かったって……。

 気が付けば親友まで睨んでくるし。
 もう、マリアちゃんに魔法はかけねーよっ!

 何、この凶器の視線。
 全員の冷たい表情から、バチバチした敵意が見えてるんですけどっ!?

「俺はお前らの敵かっ!?」

 俺の叫びを聞いて、ローリエはポンと手を叩く。

「ふむ、共通の問題とはそういうことか」

 ローリエの言葉に皆は『なるほど!』という称賛の視線を彼女に送る。

「『そういうことか』じゃねーよ! それ、共通じゃねーし。俺をハブいているからな!?」

 俺の叫びに静まり返る一同。
 あの……、『だったら、そんなもん分かるかよ』みたいな視線やめてくれませんかね?

「あー、すまん。まぁ、確かに色々と強引だったのは全面的に俺が悪かった!」

 たえかねて立ち上がり、俺は深々と頭を下げる。
 そして、言葉を続けた。

 当然、真面目な話をするために、だ。

「さっきベクティアが『自分たちも共通の問題とやらに含まれているのか?』という質問をしたが、奴隷と一緒に会食をしているこの状況で察してくれていると思う」

「まあ、私の屋敷では有り得ない光景だな。貴様は奴隷を駒として扱わない。そう宣言したいのだろう?」

 ローリエが俺を弄るのをやめたので、俺も核心を晒していく。

「そうだ。率直に言うと、魔法によって生み出された格差社会の見直しを考えている。ならば、奴隷と一緒に解決したいと思っても不思議じゃないだろ?」

「なるほど。しかし、意外だな。てっきり君は『特別な魔法が使えて嬉しい』って思っているのかと」

「そこは間違っちゃいない。確かに嬉しいけど、俺だけ得をしてたら不公平だし、人に妬まれるような生き方は嫌なんだ」

「そうかい? 僕よりもマシだと思うけどな。貴族以外にだって友達も多いだろ?」

「そんなのは上辺だけだ。家族にだって、仲が良いと思っていた奴にだって、陰で悪口を言ってる奴はいたさ」

「っすね。御主人の屋敷にいると子供だと思って油断しているのか、その手の話ばっかり耳に入ってくるんすよね~」

 ベクティアがフォローしてくれたので、俺は「まあ、そういうことなんだよ」と冒頭を締め括る。

「で、君は僕を親友と認めてくれているみたいだけど、やっぱり特殊な魔法を使えるから僕に接触したのかい?」

「ぶっちゃけそうだ。『こいつは俺と似た苦労をしてる』って同情でさ。しかし、同時に監視して見極めていたんだ。お前が『魔法を悪用するクズ』になってしまうのかどうかってな」

「で、僕はお眼鏡にかなったわけだ」

「そういうことだな」

「しかしまあ、結局は私やマリアを操って従わせようとか、クズな手段を選ぶのは貴様の方だったがな」

「だから謝っただろ! お前は気が強すぎるから話を聞かねーしよお、親友は気が弱いから煽らなくちゃいけねーしよお。お前らを説得する為にクズを演じていたの!」

 俺の言い訳を聞いて、一同は『審議中』と言いたげな表情でヒソヒソと話し合っている。

 そこでおもむろに挙手をしたのはベクティアだった。

 よし、次のフォローも頼んだぜ!

 やはり俺の教育は間違っていなかった。
 そう確信して、俺が水を飲んだ時だった。

「いや、御主人様は十分にクズっすよ。べーたんのおっぱいを直接見て、『今日は成長したか~?』って、つつきながら毎日確認するんすからね」

「んふっ!」と変な声が出て、口の中の水を詰まらせる俺。
 それを見て、一同が再び冷ややかな視線を向けた。

 脇腹をつついただけだからギリギリセウトだろ!?
 いや、そもそもお前――全然嫌がってなかったじゃねーかっ!

 何で『許せねぇ』みたいな顔してんの?
 同調圧力に屈したの?
 本気で怖いんだけど止めてくれる?

「やはり、そもそもがクズだったな」

 ローリエの脳内審議は決したようだ。
 いや、一貫してこういう性格なのは分かりきっていた話だから、ベクティアのフォローがあっても手の平は返さなかっただろう。

「ローリエお嬢様。あまりそちらに近付き過ぎますと、お嬢様までクズを伝染される可能性が……」

『この御主人様にして、この奴隷あり』
 うん、ブレないよな。
 お前ら――。

「『ベクティアちゃんは平気ですか?』って? いやあ、確かに頭が少し悪くなった気もするっすね」

 ――って、マリアちゃんまで何を聞いてるんだ!?

「あのさ、話が進まないから止めにしない? それ」

「真面目な雰囲気を作らない御主人様が悪いっす」

「俺のせいかよっ!?」

 そういえば親友からのフォローがひとつもない。
 男性視点なら『クズっていうか、イタズラしちゃう気持ちも分かるよ』とかないわけ?

「親友、黙ってないで何とか――」

 俺がフリックへと助けを求めた時だった。
 奴の目は既に生気を失っていた。
 敗色濃厚だと悟ったのだろう。
 気配を圧し殺すように食事を続けていたのである。

「あ、これは旨い…………」じゃねーよ!

 女どもから集中砲火を浴びたくないからって、俺を犠牲にすんのはひどくね?

 知ってるんだからな。
 お前だって――。

「確か、魔法学校時代。『僕はエロに慣れるんだ!』とか言って、女子の水着を全焼させた奴がいたっけな。『燃やせば証拠は残らないぜ』とか何とか――」

 ごふっと咳き込み、食べ物を詰まらせる親友。

「ほう、その時に下着まで焼いたりしなかったか? 実際に水着泥棒が出たなんて騒ぎがあったが、私は下着まで盗まれてしまっていたようでな。おかげでそのまま授業を受けるはめになったのだが――」

「いや、そのですね…………。それには理由があってですね…………」

 女子たちからの痛い視線が親友を突き刺し、ダラダラと冷や汗を流させた。
 マリアちゃんですら口元を手で押さえ、『うわっ……、私の御主人様、クズ過ぎ……?』みたいな顔をしている。

 いいぞ。
 争え、争え……。

 俺は内心でほくそ笑む。

「ふむ、緊急の要件が出来た。オルソン侯爵、さっさと貴様の計画とやらの全容を語れ」

 ――って、あれ?
 この場で追求しないわけ?

「ひでぇ…………」

 俺の計画よりも下着ドロの真相解明が大事かよ。

 いや、まあ……脱線した話が戻ってきたのは有り難いが、何だか納得いかねえな。

 俺はため息をつきながらも本題を語り始めた。

「ええと、話を戻すぜ。魔法は世界の発展に大きく貢献してきたが、俺たちの生活を縛っている存在だ。そこまではオッケーかい?」

「貴族にも、魔法を使えない一般人にも、奴隷にも――等しく魔法には不満がある。それは理解した。で、『格差社会を見直したい』と貴様は言ったが、どこに平等を見いだすと言うのだ? まさか、単純に『魔法そのものを消す』などと夢物語を語るつもりはあるまい? 消したところで格差が埋まるわけでもあるまいし――」

「しかし、夢物語と言い切るには早過ぎるんじゃないか? 消せる可能性はあると思うぜ?」

「冗談だろう? 本気か?」

 さすがに茶化せなくなったのか、ローリエは目を丸くして驚いた。

「あくまでも計画の最終段階のひとつだ。消せる方法を発見して、消した方が平和になるなら選ぶ。それだけだ」

「『それだけだ』って、簡単に言い切れるほど生易しい問題じゃないだろ」

 親友もその規模に呆れたようで、『実現可能な話をしろ』と言いたげな表情でこちらを見ている。

 まあ、そう思うわな。
『平和の為に協力してくれ』と、漠然と言われた方がまだマシに思えるだろうさ。

「じゃあ逆に聞くが、何をもって難しいと判断したんだ?」

「え? そりゃあ……ねえ?」

 困った親友は助け船を女性陣に求める。
 すると、絶華の手がゆっくりと挙がった。

「では差し出がましいのですが、私から」

 そして、彼女の口から的確な理由が語られていく。

「オルソン侯爵の計画は夢うつつにしか聞こえません。夢物語ではないのかもしれませんが、現実的に捉えても米粒ほどの財宝を海から探し当てるようなものでしょう。魔法の歴史は人の歴史。その解明が難しいと思えないのであれば、七百年の歴史に名を残した偉人を軽んじるのと同じかと思われます」

「まあ、広い視野で見ればそうだな。しかし、視野の狭い奴が大成功を収める理由だって軽視してやいないか?」

「なるほど。広すぎると諦めたら0ですが、近くに財宝が落ちていると信じるバカでさえ可能性は0ではない。そうおっしゃるのですね?」

「前人未到ってそういうもんだろ? それに――」

 足元に置いていた袋をテーブルに乗せて、俺は不敵な笑みを浮かべながら告げた。

「財宝の地図が無いなんて、誰も言ってないんだせ?」
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