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沈黙の聖女
醜い勝利を求める者
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フレデリック伯爵の限界を感じた私は、最後の一撃を叩き込む為に加速する。
しかし、彼はゆっくりと後ろに倒れ始めて――。
恐らく時間切れ。
追撃は不要だなと減速した時だった。
彼は一本杉に身体を当てると、それを蹴った反動で減速中の私に覆い被さってきた。
一本杉が蹴りの反動で折れ曲がる。
「なっ!?」
こちらは砂煙が舞うほどの減速中で、進行方向を曲げられない。
ちっ、一本杉の利用価値はこれか。
私が攻撃する前に倒れていたら接近はない。
攻撃開始と同時に倒れることによって、私の減速を誘ったのだ。
それでも距離はあったはずなのに、バカ力の反動で一気に0距離まで詰め寄った。
命を懸けない戦いと線引きしていたのは、私。
負けた振りまでして勝つなどと、醜い選択肢を選べないのも私か――。
プライドが捨てられないエルフの私。
森を愛し、たかが試合の勝利の為に木を破壊することを選べなかった。
なら彼はどうだ?
「あの一本杉を試合の為に倒してよかったのか?」
「ああ…………」
フレデリック伯爵は、遠くを見るような目で答える。
「子供の頃の色んな思い出がある。別館なんかの為に伐採するなって駄々をこねた時も。それがどうした…………。今を生きる為ならば――」
彼は最後の力を振り絞り、そして私の胸元で力尽きた。
自然に――。
そう、私の腕は彼を抱き締め、敗北を噛み締めていた。
「その醜さは、私にはマネできない。いや、もしかしたら出来るのだろうか? 森よりも、掟よりも大事なものが見つかれば…………」
「どうだ? こいつなら信用してみる気はないか?」
気が付けばオルソン侯爵が側に立ち、私に尋ねる。
「この試練が成功したら、貴様は計画を話すのだったな」
「ああ、ちょっと壮大過ぎて助けて欲しいんだわ」
「それは、本当にエルフの反乱を鎮められるものなのだろうな?」
「可能性はある。そこに活路を感じたら乗ってくれりゃいいさ」
「そうさせてもらおう。この勝負は私の負けでいい。異論はないな?」
「ああ、問題ない」
こうしてフレデリック伯爵の試練は決着し、私は彼を屋敷へと運んだ。
絶華とオルソン侯爵の申し出も断り、私は静かに彼の汚れた衣服を脱がしてベッドへと寝かせる。
私の変化に気が付いたのか、オルソン侯爵は未だにマリアの屈服を維持したままだ。
「憎らしいな。こんなにも愛は人を変えるのか…………」
外に出ることを嫌い、孤独を選んだ貴族。
薔薇や紅茶を嗜み、気品だって普段のフレデリック伯爵には感じられた。
その全てを賭けてでも成すべきことがあるのだと見せつけられて、自分の孤独さがより一層際立ったのを自覚させられて、私は嫉妬しているのだろう。
「私を見上げる者ではなく、隣にいてくれる存在がいてくれたら、か」
オルソン侯爵は知らないだろうな。
沢山の女子生徒に囲まれていた貴様を遠くから見ていた視線に。
一度でも勝てば、注目されるんじゃないかと期待して、ずっと二位止まりだった私は貴様だけをライバルと認めて――。
貴様はそう思っていないと気付かされて、勝手に男嫌いになっていったことなど。
結局、私は上を見上げていただけだった。
上に登りたくて、必死に食らい付いて、諦めている者を見下して、一緒の高さで食らい付いている人間――。
そう、私以上に魔法という存在に苦しめられているフレデリック伯爵の存在なんて気付きもしなかった。
こんなにも共感できる相手がいたというのに、出会わせてくれなかった運命を呪いたくもなる。
いや、それすらおこがましいな。
気付けなかつた自分が間抜けなのだ。
しかし、もしも私の悩みを打ち明ける機会があれば、貴様は私を助けてくれただろうか?
全てを投げ捨てて、愛してくれただろうか?
聖女の奴隷を買う前に――。
「エルフの女は強がりだからな……」
彼の手をそっと掴み、服を捲って晒した胸へと押し当てた。
「昔からこうして、何も告げずに夜這いしていたらしい」
心音が跳ね上がる。
このまま彼の目が覚めて、感触を確かめるようにまさぐられたらと思うと、自然と吐息に色が混じる。
「ふふっ、四大名家どうしの恋愛は、均衡を保つのに御法度らしいぞ。しかし――」
エルフの反乱で四大名家が潰れたら可能性はあるが、オルソン侯爵の計画は、きっと反乱を煽動するものではないだろう。
もしも、反乱が起きてしまい、私たちエルフが敗北することになれば――。
「私が奴隷に落ちたら、貴様が買ってくれないか?」
醜い願いは、静かな部屋に虚しく響いた。
しかし、彼はゆっくりと後ろに倒れ始めて――。
恐らく時間切れ。
追撃は不要だなと減速した時だった。
彼は一本杉に身体を当てると、それを蹴った反動で減速中の私に覆い被さってきた。
一本杉が蹴りの反動で折れ曲がる。
「なっ!?」
こちらは砂煙が舞うほどの減速中で、進行方向を曲げられない。
ちっ、一本杉の利用価値はこれか。
私が攻撃する前に倒れていたら接近はない。
攻撃開始と同時に倒れることによって、私の減速を誘ったのだ。
それでも距離はあったはずなのに、バカ力の反動で一気に0距離まで詰め寄った。
命を懸けない戦いと線引きしていたのは、私。
負けた振りまでして勝つなどと、醜い選択肢を選べないのも私か――。
プライドが捨てられないエルフの私。
森を愛し、たかが試合の勝利の為に木を破壊することを選べなかった。
なら彼はどうだ?
「あの一本杉を試合の為に倒してよかったのか?」
「ああ…………」
フレデリック伯爵は、遠くを見るような目で答える。
「子供の頃の色んな思い出がある。別館なんかの為に伐採するなって駄々をこねた時も。それがどうした…………。今を生きる為ならば――」
彼は最後の力を振り絞り、そして私の胸元で力尽きた。
自然に――。
そう、私の腕は彼を抱き締め、敗北を噛み締めていた。
「その醜さは、私にはマネできない。いや、もしかしたら出来るのだろうか? 森よりも、掟よりも大事なものが見つかれば…………」
「どうだ? こいつなら信用してみる気はないか?」
気が付けばオルソン侯爵が側に立ち、私に尋ねる。
「この試練が成功したら、貴様は計画を話すのだったな」
「ああ、ちょっと壮大過ぎて助けて欲しいんだわ」
「それは、本当にエルフの反乱を鎮められるものなのだろうな?」
「可能性はある。そこに活路を感じたら乗ってくれりゃいいさ」
「そうさせてもらおう。この勝負は私の負けでいい。異論はないな?」
「ああ、問題ない」
こうしてフレデリック伯爵の試練は決着し、私は彼を屋敷へと運んだ。
絶華とオルソン侯爵の申し出も断り、私は静かに彼の汚れた衣服を脱がしてベッドへと寝かせる。
私の変化に気が付いたのか、オルソン侯爵は未だにマリアの屈服を維持したままだ。
「憎らしいな。こんなにも愛は人を変えるのか…………」
外に出ることを嫌い、孤独を選んだ貴族。
薔薇や紅茶を嗜み、気品だって普段のフレデリック伯爵には感じられた。
その全てを賭けてでも成すべきことがあるのだと見せつけられて、自分の孤独さがより一層際立ったのを自覚させられて、私は嫉妬しているのだろう。
「私を見上げる者ではなく、隣にいてくれる存在がいてくれたら、か」
オルソン侯爵は知らないだろうな。
沢山の女子生徒に囲まれていた貴様を遠くから見ていた視線に。
一度でも勝てば、注目されるんじゃないかと期待して、ずっと二位止まりだった私は貴様だけをライバルと認めて――。
貴様はそう思っていないと気付かされて、勝手に男嫌いになっていったことなど。
結局、私は上を見上げていただけだった。
上に登りたくて、必死に食らい付いて、諦めている者を見下して、一緒の高さで食らい付いている人間――。
そう、私以上に魔法という存在に苦しめられているフレデリック伯爵の存在なんて気付きもしなかった。
こんなにも共感できる相手がいたというのに、出会わせてくれなかった運命を呪いたくもなる。
いや、それすらおこがましいな。
気付けなかつた自分が間抜けなのだ。
しかし、もしも私の悩みを打ち明ける機会があれば、貴様は私を助けてくれただろうか?
全てを投げ捨てて、愛してくれただろうか?
聖女の奴隷を買う前に――。
「エルフの女は強がりだからな……」
彼の手をそっと掴み、服を捲って晒した胸へと押し当てた。
「昔からこうして、何も告げずに夜這いしていたらしい」
心音が跳ね上がる。
このまま彼の目が覚めて、感触を確かめるようにまさぐられたらと思うと、自然と吐息に色が混じる。
「ふふっ、四大名家どうしの恋愛は、均衡を保つのに御法度らしいぞ。しかし――」
エルフの反乱で四大名家が潰れたら可能性はあるが、オルソン侯爵の計画は、きっと反乱を煽動するものではないだろう。
もしも、反乱が起きてしまい、私たちエルフが敗北することになれば――。
「私が奴隷に落ちたら、貴様が買ってくれないか?」
醜い願いは、静かな部屋に虚しく響いた。
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