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沈黙の聖女
覚悟
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薔薇庭園の先。
一本杉のあるその場所は、別館を建てる予定だった空き地だ。
薔薇庭園の垣根側にシートを引いて、座っているのは親友とマリア、それから奴隷の護衛が二人。
のんびりと奴等は紅茶を満喫している。
別に俺は談笑したくてこんな場所にいるわけではない。
だからこそ、マリアが笑みを浮かべながら給仕することに腹を立てた。
いや、それこそ親友の狙い通りだから、俺の怒りは最高潮に達している。
それをぶつける標的も用意したって?
ふっざけんなよ!
その標的、ハエなんかが生易しいと感じるほどにウザったく飛び回るんですけどぉっ!?
「ったく、デケぇ金髪バエだぜ」
俺のぼやきに反応して、上空からの脳天かかと落としが炸裂する。
「隙ありっ!」
「あだっ!」
「何か言ったか?」
偉そうな金髪エルフは、息を切らさずに着地する。そして言葉を続けた。
「貴様より乳牛の方がもっと上手くハエを追い払えるんじゃないか?」
「聞こえてんじゃねーか」
「ふっ、いいのか? 時間を無駄話に使って」
いや、良くねーよ!
こっちは三分しか余裕がねーからな。
二分伸びたところで、短いことには変わりないんだっての!
「ちっ、腹を立てれば隙を見せると思ったんだがな…………」
「まあ、その考えは悪くない。魔法を禁止した魔力内発の格闘戦で、素早さが劣れば必然的に隙を狙いたくなるだろう」
魔力内発とは、体外に解放しないまま肉体を強化する方法だ。
地、肉体硬化。
水、衝撃緩和。
火、威力強化。
風、加速強化。
魔力内発の火は、風と相性最悪。
相当な三下でない限りはスピードがかなりあるからな。
こっちの攻撃が空回ってしまうのさ。
「有利な相性に感謝するんだな。風じゃなければ一撃で消し飛ばしているところだ」
「消し飛ぶか。まあ、そうなんだろうな。当、た、れ、ば、な」
「ちっ、俺の作戦を甘く見るなよ!」
金髪エルフは、俺の主張を鼻で笑った。
「作戦? そんな見え見えの戦法でか?」
「何?」
「この場所を選んだのは、一本杉を障害物にする為だろう? 一本だけというのが肝で、私が不利な条件でも納得させる為だ。そして、障害物のせいで、私は一方向の攻撃を封じられる、と」
「へっ、ご高説ありがとよ。そうやって見え透いた時間稼ぎされるとイライラするね」
「本末転倒だな。じゃあ、さっさと気絶しろ!」
風が吹いて、俺は上半身のクリーンヒットを警戒する。
しかし、相手の軌道は下半身のすねを狙った下段攻撃だ。
「ちっ!」
何とか踏み止まって拳を振るうが、金髪エルフは既に距離を離した後。
カウンターしたくてもタイミングが噛み合わない。
息があがってきた。
限界は近い。
「フリック! そろそろ三分だぞ? 俺がマリアちゃんを寝取ってもいいのか?」
親友のオルソンはマリアをダシに煽る。
屈服の魔法をオルソンがかけて、今のマリアはニコニコと奴に組み付きながら給仕をしている。
そう、俺を怒らせて、金髪エルフと戦わせる試練を与える為に。
「ま、べーたんが限界時間を三分まで引き伸ばしたところで、意味はなかったっすね~」
挑発するように大声でしゃべるのは、薄紫の髪をツインテールにした少女だった。
ベクティア=ストリングとか言ったか。
色んな力をコントロールできる魔法が使えるらしく、俺の魔力を三倍にまで引き上げてくれた。
感謝してやりたいところだが、生意気なのが腹が立つ。
「無意味な戦いだ」
無関心に金髪エルフの勝利を信じているのが霧隠絶華である。
彼女はポニーテールの似合う男装の麗人で、俺のことなど興味はないらしい。
ちっ、目の前の金髪エルフも勝ち誇っててウザいしよぉ…………。
魔法なしのルールだからって調子に乗りすぎだろ。
まったく、魔法ありだったら、近付かれる前に焼き殺してるわ!
もうすぐ三分――。
ぐらついた身体を止めることさえ難しい。
身体は地面へと吸い込まれていきそうになるが、ぐっと耐える。
「終わりだな」
金髪エルフも最後の一撃にするようだ。
俺の攻撃するタイミングはここしか残されていない。
金髪エルフの姿が消えて――。
この一瞬に全てを賭ける。
一本杉のあるその場所は、別館を建てる予定だった空き地だ。
薔薇庭園の垣根側にシートを引いて、座っているのは親友とマリア、それから奴隷の護衛が二人。
のんびりと奴等は紅茶を満喫している。
別に俺は談笑したくてこんな場所にいるわけではない。
だからこそ、マリアが笑みを浮かべながら給仕することに腹を立てた。
いや、それこそ親友の狙い通りだから、俺の怒りは最高潮に達している。
それをぶつける標的も用意したって?
ふっざけんなよ!
その標的、ハエなんかが生易しいと感じるほどにウザったく飛び回るんですけどぉっ!?
「ったく、デケぇ金髪バエだぜ」
俺のぼやきに反応して、上空からの脳天かかと落としが炸裂する。
「隙ありっ!」
「あだっ!」
「何か言ったか?」
偉そうな金髪エルフは、息を切らさずに着地する。そして言葉を続けた。
「貴様より乳牛の方がもっと上手くハエを追い払えるんじゃないか?」
「聞こえてんじゃねーか」
「ふっ、いいのか? 時間を無駄話に使って」
いや、良くねーよ!
こっちは三分しか余裕がねーからな。
二分伸びたところで、短いことには変わりないんだっての!
「ちっ、腹を立てれば隙を見せると思ったんだがな…………」
「まあ、その考えは悪くない。魔法を禁止した魔力内発の格闘戦で、素早さが劣れば必然的に隙を狙いたくなるだろう」
魔力内発とは、体外に解放しないまま肉体を強化する方法だ。
地、肉体硬化。
水、衝撃緩和。
火、威力強化。
風、加速強化。
魔力内発の火は、風と相性最悪。
相当な三下でない限りはスピードがかなりあるからな。
こっちの攻撃が空回ってしまうのさ。
「有利な相性に感謝するんだな。風じゃなければ一撃で消し飛ばしているところだ」
「消し飛ぶか。まあ、そうなんだろうな。当、た、れ、ば、な」
「ちっ、俺の作戦を甘く見るなよ!」
金髪エルフは、俺の主張を鼻で笑った。
「作戦? そんな見え見えの戦法でか?」
「何?」
「この場所を選んだのは、一本杉を障害物にする為だろう? 一本だけというのが肝で、私が不利な条件でも納得させる為だ。そして、障害物のせいで、私は一方向の攻撃を封じられる、と」
「へっ、ご高説ありがとよ。そうやって見え透いた時間稼ぎされるとイライラするね」
「本末転倒だな。じゃあ、さっさと気絶しろ!」
風が吹いて、俺は上半身のクリーンヒットを警戒する。
しかし、相手の軌道は下半身のすねを狙った下段攻撃だ。
「ちっ!」
何とか踏み止まって拳を振るうが、金髪エルフは既に距離を離した後。
カウンターしたくてもタイミングが噛み合わない。
息があがってきた。
限界は近い。
「フリック! そろそろ三分だぞ? 俺がマリアちゃんを寝取ってもいいのか?」
親友のオルソンはマリアをダシに煽る。
屈服の魔法をオルソンがかけて、今のマリアはニコニコと奴に組み付きながら給仕をしている。
そう、俺を怒らせて、金髪エルフと戦わせる試練を与える為に。
「ま、べーたんが限界時間を三分まで引き伸ばしたところで、意味はなかったっすね~」
挑発するように大声でしゃべるのは、薄紫の髪をツインテールにした少女だった。
ベクティア=ストリングとか言ったか。
色んな力をコントロールできる魔法が使えるらしく、俺の魔力を三倍にまで引き上げてくれた。
感謝してやりたいところだが、生意気なのが腹が立つ。
「無意味な戦いだ」
無関心に金髪エルフの勝利を信じているのが霧隠絶華である。
彼女はポニーテールの似合う男装の麗人で、俺のことなど興味はないらしい。
ちっ、目の前の金髪エルフも勝ち誇っててウザいしよぉ…………。
魔法なしのルールだからって調子に乗りすぎだろ。
まったく、魔法ありだったら、近付かれる前に焼き殺してるわ!
もうすぐ三分――。
ぐらついた身体を止めることさえ難しい。
身体は地面へと吸い込まれていきそうになるが、ぐっと耐える。
「終わりだな」
金髪エルフも最後の一撃にするようだ。
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金髪エルフの姿が消えて――。
この一瞬に全てを賭ける。
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