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沈黙の聖女
決意
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朝、穏やかな目覚めが私に訪れました。
我慢を強いられることになった日常の始まりですが、苦痛をまったく感じておりません。
それが不思議でならなかったのですが、すぐに理由は分かりました。
踏み外せば死ぬかもしれない道を、一緒に歩いてくれる人がいるからでしょう。
一時的な魔力総量の底上げによる屈服の魔法の成功。
御主人様の魔力はおそらく私の中に残っておりません。
それがバレたら、御主人様もブラックになってしまいます。
そして、魔力が強すぎて買い手のない御主人様は殺処分されるのです。
それなのに、半信半疑だったとはいえ、リスクを受け入れて買ってくれたのですよ。
こんなに心強いことがあるでしょうか。
私が道連れにしてしまったこの運命、御主人様がどのような選択肢を選ぼうとも付き従うのみです。
この方ならば、きっと私が嫌悪する運命だけは歩まないと信じておりますから。
御主人様の寝顔を眺め、私は決意を胸に起き上がります。
「ふぅ、君も起きたところか」
同時に、御主人様も目覚めてしまったようです。
「ああ……、ええと。君も僕も昨日は限界だったみたいだな」
そう……ですね。
まるで乾いた吐血は初夜の跡のように残されていて、身体の辛さで眠ってしまったのが情事の果てみたいな気分です。
「感情をさらけ出したからか、穏やかに眠れたよ」
そうですね。
私もメイド服のままで眠ってしまいましたし。
「さあ、それでは準備を始めようか」
私は頷いて、御主人様の指示に従いました。
御主人様が気絶しないように配慮して、二手に別れながらベッドメイキング、お風呂、着替え、朝食と段取り良く済ませていきます。
「――で、だ。僕はそろそろ来客があると思うから玄関へ向かうよ。薔薇庭園の世話は後にして一緒に来るかい?」
食器を片付けていた時でした。
来客とは急いでいた理由でしょう。
しかし、段取りでの説明ですと御主人様の親友オルソン侯爵ではない様子です。
時間が早すぎますからね。
頷いて玄関まで行くと、御主人様は農作業していたと思われる身なりの男性を迎え入れました。
「さすが、有事の際は頼れる男だよ。朝の定時連絡の時間きっかりだ」
御主人様は男性を褒めている様子です。
良く分かりませんが、とりあえず私は見守りました。
「まさか、夜以外にあっしが訪ねることになるたぁ、一大事ですな」
「オルソンも狙って泊まったみたいだしね。こうなることは予想していたんだ」
「さすが坊っちゃん。あっしの伝令は一つです。『悩みをぶちまけて、引き籠りを終わらせる覚悟はできたか? 俺の用意したものが無駄にならないことを祈る』だそうで…………」
「なるほど。この様子だと、吉報でもあり、凶報でもあるようだ。ありがとう、バークレー」
「いえいえ、あっしは死ぬまで坊っちゃんの世話係ですからねぇ」
ニコッと笑った男性は、私に視線を向けて会釈をしました。
私も会釈を返すと、「昔の坊っちゃんが帰ってきてくれて、あっしは嬉しいですよ。理由は簡単に想像がつきますがね」と言って去っていきます。
『何だったのですか?』という視線を送ると、御主人様は答えました。
「この丘の下に住む世話係さ。夜の間に屋敷に必要な物資を薔薇庭園の入口まで運ばせている」
ああ、確かに買い出ししなくても配達されるとおっしゃってましたが、あの人が運んでくれていたのですね。
「そして、彼の住む家の近くの宿はオルソンのお気に入りでね。前日に決まって泊まる。そこの女将がいつも彼に知らせてくれるんだ。『坊っちゃんは、明日の訪問を知っているのかい?』ってさ」
ああ、そのやり取りを知ってて伝言を頼んだのですね。
「そして、こんな伝言をオルソンが頼むのは初めてなんだよ」
なるほど、それは一大事ですね。
「でも考えてみて欲しい。緊急ならもっと早く伝えるべき内容だ。夜に玄関を叩いてでもバークレーは知らせただろう。それが、朝の定時連絡まで待ったということは?」
『矛盾している、と?』
私のメモ用紙を見て、御主人様は頷きます。
「ああ、これは親友の性格から矛盾していることを察しろってメッセージだよ。手紙を出したのだってそうだ。いつも出さないから、手紙が来ているとは思わなかった。そして、苦手な人物の願いを素直に聞き入れる男でもない」
ローリエ女侯爵が御主人様に会いたい。
そんな約束を取り付けるわけがないのですね。
「そうさ。これが親友の用意した舞台だとすれば、僕はこれから試されるわけだ。女侯爵を手土産にできるほどの面倒な試練によってね」
御主人様の決意は強固となり、私に向けた笑顔を険しい表情に変えて告げました。
「さあ、彼らをもてなす準備を始めようか」
我慢を強いられることになった日常の始まりですが、苦痛をまったく感じておりません。
それが不思議でならなかったのですが、すぐに理由は分かりました。
踏み外せば死ぬかもしれない道を、一緒に歩いてくれる人がいるからでしょう。
一時的な魔力総量の底上げによる屈服の魔法の成功。
御主人様の魔力はおそらく私の中に残っておりません。
それがバレたら、御主人様もブラックになってしまいます。
そして、魔力が強すぎて買い手のない御主人様は殺処分されるのです。
それなのに、半信半疑だったとはいえ、リスクを受け入れて買ってくれたのですよ。
こんなに心強いことがあるでしょうか。
私が道連れにしてしまったこの運命、御主人様がどのような選択肢を選ぼうとも付き従うのみです。
この方ならば、きっと私が嫌悪する運命だけは歩まないと信じておりますから。
御主人様の寝顔を眺め、私は決意を胸に起き上がります。
「ふぅ、君も起きたところか」
同時に、御主人様も目覚めてしまったようです。
「ああ……、ええと。君も僕も昨日は限界だったみたいだな」
そう……ですね。
まるで乾いた吐血は初夜の跡のように残されていて、身体の辛さで眠ってしまったのが情事の果てみたいな気分です。
「感情をさらけ出したからか、穏やかに眠れたよ」
そうですね。
私もメイド服のままで眠ってしまいましたし。
「さあ、それでは準備を始めようか」
私は頷いて、御主人様の指示に従いました。
御主人様が気絶しないように配慮して、二手に別れながらベッドメイキング、お風呂、着替え、朝食と段取り良く済ませていきます。
「――で、だ。僕はそろそろ来客があると思うから玄関へ向かうよ。薔薇庭園の世話は後にして一緒に来るかい?」
食器を片付けていた時でした。
来客とは急いでいた理由でしょう。
しかし、段取りでの説明ですと御主人様の親友オルソン侯爵ではない様子です。
時間が早すぎますからね。
頷いて玄関まで行くと、御主人様は農作業していたと思われる身なりの男性を迎え入れました。
「さすが、有事の際は頼れる男だよ。朝の定時連絡の時間きっかりだ」
御主人様は男性を褒めている様子です。
良く分かりませんが、とりあえず私は見守りました。
「まさか、夜以外にあっしが訪ねることになるたぁ、一大事ですな」
「オルソンも狙って泊まったみたいだしね。こうなることは予想していたんだ」
「さすが坊っちゃん。あっしの伝令は一つです。『悩みをぶちまけて、引き籠りを終わらせる覚悟はできたか? 俺の用意したものが無駄にならないことを祈る』だそうで…………」
「なるほど。この様子だと、吉報でもあり、凶報でもあるようだ。ありがとう、バークレー」
「いえいえ、あっしは死ぬまで坊っちゃんの世話係ですからねぇ」
ニコッと笑った男性は、私に視線を向けて会釈をしました。
私も会釈を返すと、「昔の坊っちゃんが帰ってきてくれて、あっしは嬉しいですよ。理由は簡単に想像がつきますがね」と言って去っていきます。
『何だったのですか?』という視線を送ると、御主人様は答えました。
「この丘の下に住む世話係さ。夜の間に屋敷に必要な物資を薔薇庭園の入口まで運ばせている」
ああ、確かに買い出ししなくても配達されるとおっしゃってましたが、あの人が運んでくれていたのですね。
「そして、彼の住む家の近くの宿はオルソンのお気に入りでね。前日に決まって泊まる。そこの女将がいつも彼に知らせてくれるんだ。『坊っちゃんは、明日の訪問を知っているのかい?』ってさ」
ああ、そのやり取りを知ってて伝言を頼んだのですね。
「そして、こんな伝言をオルソンが頼むのは初めてなんだよ」
なるほど、それは一大事ですね。
「でも考えてみて欲しい。緊急ならもっと早く伝えるべき内容だ。夜に玄関を叩いてでもバークレーは知らせただろう。それが、朝の定時連絡まで待ったということは?」
『矛盾している、と?』
私のメモ用紙を見て、御主人様は頷きます。
「ああ、これは親友の性格から矛盾していることを察しろってメッセージだよ。手紙を出したのだってそうだ。いつも出さないから、手紙が来ているとは思わなかった。そして、苦手な人物の願いを素直に聞き入れる男でもない」
ローリエ女侯爵が御主人様に会いたい。
そんな約束を取り付けるわけがないのですね。
「そうさ。これが親友の用意した舞台だとすれば、僕はこれから試されるわけだ。女侯爵を手土産にできるほどの面倒な試練によってね」
御主人様の決意は強固となり、私に向けた笑顔を険しい表情に変えて告げました。
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