スレイヴイーター

鬼畜姫

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沈黙の聖女

怪力少女と女将

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 御主人様の懸念された通り、ローリエ女侯爵との戦いは避けられなかったっす。
 まあ、御主人様が負けるなんて微塵も思ってないっすから、べーたんは人払いに専念するっす。
 何せ、べーたんは八歳でも有能っすからね。
 御主人様は大役を任せたつもりっすけど、人払いなんてべーたんにとっては朝飯前なんすよね……。

 ――朝食、食べたっすけど。

 どうせ宿の客は我々だけっすから、べーたんが注意すべきは、宿を一人で切り盛りしている女将だけで楽勝っす。

 と、思ったら――。

「ほらほら、あんたはつまみ食いしたけれど、他の三人は朝食まだなんだからね!」

 このままだと朝食が完成してしまうっす。
 せっかく全員に冷飯を食べさせようと奮闘したのに、無駄になってしまうっす。
 台所で邪魔をしていた意味がなくなるってショックっすよ。

 人払い?
 はて、何のことっすかね。

 目の前のスクランブルエッグが美味しそうだったんで、最後の盛り付けに入った料理をパクりと口に放り込むべーたん。

「誰の分が減るっすかねぇ」

 べーたんを見て、『しつけがなっていない』とか言ってたローリエ女侯爵だと嬉しいっすけど、奴隷が一緒に来ている以上は、女性に気遣う御主人様か、あの根暗男装奴隷の二択だろうっすけどね。

「あらあら、またそうやって邪魔をして……」

「また作り直せばいいっすよ」

 指をしゃぶり、ゴシゴシと服で拭いて綺麗にするべーたん。
 大人顔負けの色気っすね。

「あんた、お嬢様みたいな格好してるくせに育ちが悪いんだねぇ」

「悪いっすよぉ……。これでもブラックっすから」

 ピンクのワンピースをヒラヒラさせながらべーたんは答えたっす。

「こんな娘が犯罪者だなんて、世の中間違ってるよ」

 大人って、都合の良い時だけ子供扱いするっすよね。
 年相応に――とか言って。
 で、態度が悪ければ『もっと大人になりなさい』とか言うんすよ。
 だから、べーたんはため息まじりに言ったっす。

「間違ってるんすかねぇ。べーたんは姉ちゃんに捨てられたのは当然だと思ってるっす」

「差し支えなければ教えておくれよ。家族に一体何をしたんだい?」

 別に答え難い質問でもなかったっすから、べーたんは言葉を詰まらせることなく答えたっす。

「姉ちゃんが一生かけて叶えたい夢を取り上げちゃったんすよ。だから恨まれて、家から放り出されたっす」

「それは一大事だったのかもしれないけど、妹を捨てるなんてあんまりだよ」

「そうっすか? おかげでタフな生き方も身に付いたっすし、奴隷っすけど御主人様が乱暴に扱うこともないっすからね。感謝してるくらいっすよ」

「でも、苦労したんだろう?」

「別に普通っす。この敬語だって先輩に教わったし、ひたすら生きる為に盗賊やってただけっすから。ま、命を盗むこともあったっすね…………」

 そ、ただ普通の生活に溶け込めなかっただけで、動物の狩りと一緒なんす。

 喰うか、喰われるか。

 それだけが真理なんすから。

「はぁ……、あんたが昔の坊っちゃんみたいに優しい顔をしているのが不思議なくらいだよ」

「坊っちゃん?」

「今の領主様だよ」

「フレデリック伯爵っすか?」

「ああ、昔は父親にベッタリでねぇ。もともと彼の領地であるキナーシャに何度もついてきては、ここに泊まったんだよねぇ」

「屋敷じゃなくてっすか?」

「母親が厳しい人だったから、世話係を連れて息抜きに町で遊ばせていたんだよ。町の人も皆で可愛がったからねぇ。おかげで薔薇の手入れを覚えたり、紅茶を淹れるのが上手くなっちまったのさ」

「そりゃ、幸せそうな生活っすねえ。御主人様もそうっすけど、べーたんは嫌いなタイプっす」

「まあ、幸せじゃない日もあっただろうけどね」

「そうなんすか?」

 べーたんが首を傾げると、女将はため息をつきながら語ったっす。

「八年前からぷっつりと町へ来なくなっちまったんだ。お家の不祥事なんて当時は騒がれたけれど、領主になった坊っちゃんは町の人を避けてるようでねぇ……。一体、何があったのやら…………」

 どうやら女将は当時を思い出しているようで、作業の手を止めていたっす。

「ああ、べーたんが今のフレデリック伯爵みたいにならないのが不思議ってことっすね」

「そうさ。でも、根は変わらないってことだけが救いさね」

「分かるもんなんすか?」

「そりゃ分かるさ。メイドを解雇したって聞いたのに屋敷の薔薇庭園が綺麗に手入れされてるんだ。ここを領地に選んだことだって、思い出を大切にしているからだろうね」

「ますます嫌いなタイプっすね」

「あんたはひねくれているねぇ……。根は優しそう――」

 言いかけて、女将は腰を押さえながら尻餅をついたっす。
 どうやら腰を痛めているようっすね。

「痛たたたた……。私も年だねぇ」

「ポーション持ってるっすから、まずは女将の部屋に行くっすよ」

「私は結構重たいから、無理に運んでくれなくて大丈夫だよ……」

「ふぅん。ま、べーたんにとっては朝飯前なんすけどね」

 ――朝食、食べたっすけど。

 雑に女将を担ぎ上げ、べーたんは台所を出たっす。
 魔法で腰を痛めないようにコントロールしてるっすからね。
 どんな持ち方しても平気なんすよ。

「あんた、物凄く力持ちなんだねぇ……」

「そう見えるだけっすよ。外国のちょっとした魔法っす」

 今の女将は紙風船くらいにっすからね。
 重さなんて感じないっすよ。

「でも、あんたも根は優しいんだねぇ」

「そんなことないっすよ。これで料理が冷めちまえば、御主人様たちがをした後にガッカリするだろうなと思っただけっすから」

「何をしているのか分からないけど、宿を壊すのだけは勘弁しておくれよ」

「おや、気付いていたんすね」

「あんたが御主人様から離れて不自然につきまとうもんだから、私を二階に上がらせないようにしているんだってのは分かったよ」

「そうっすか」

 ――ま、それでも問題なかったっすからね。

 そして、タイミング良く女将を担いで廊下を歩いていたら、階段から御主人様が下りてきたっす。

「ベクティア。こっちは終わったぞ。って、女将はどうしたんだ?」

「腰をやっただけっすね。女将の部屋でべーたん特製のポーションを使うところっすよ」

「いや、それは聖女マリアの魔法効果のおかげだろ……」

「べーたんの魔力がなければ発動もしないっすけどね」

「そりゃそうだが…………。そういや、朝食の準備は途中なのか?」

 御主人様の質問に女将が答えたっす。

「後は盛り付けだけだよ。中途半端になっちまったが、冷めない内に食べておくれ」

「ああ、そうさせてもうよ」

「まったく、サービスも悪いこんな安い宿に泊まるなんて、あんたたちは相当変わりもんの貴族だねぇ」

「はっ、ガチガチの接客する場所なんて、窮屈なだけだろ。それに、俺はこんな言葉遣いのなってない奴隷さえ買う貴族なんだぜ?」

「確かにねぇ」

 女将はケラケラと笑っていたっす。

「いつでも解雇してくれて結構っすよ」

 魔法水の商売で一枚噛ませているくせに、困るのはどっちなんすかね?

 捨て台詞を吐いて立ち去るべーたんに、御主人様は言ったっす。

「ま、もしかしたらそれは今日かもな」

「はい? 気でもお触れになられましたか?」

 聞き間違いかと思って立ち止まり、べーたんはつい素で語ってしまったっす。
 意識してないと、どうにも素が抜けないのが困りものっすね。

 しかし、御主人様はべーたんの懸念を払拭するように笑っていたっす。

「いいや、ベクティア=ストリング。俺の計画が進めば可能性はあるぞ」

「クビっすか?」

「まあ、悪いようにはしない。それだけは確かだ」

 そう笑いながら言い残して、御主人様の方が先に台所へと消えていったっす。

「貴族さまの考えることは分からないねぇ……」

 べーたんの不安を感じ取ったのか、女将は慰めの言葉をかけてくれたっす。

「本当にそうっすねぇ」

 そしていつもの笑顔を作り、べーたんは女将を部屋まで運んだっす。
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