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終章 ずっと一途に。

第45話 間もなく冷戦終了!? 始まる『新』たな関係

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 その日は【霊象獣】の発生はまず無いし、街をもっと知ってもらうのに良い機会になるから、二人で露店を回ることにしたんだ。邪魔も入りにくし。

 不意にパンパンとカサンドラさんが手を叩いて、静まった俺らに声をかける。

「さぁさぁ、話はそれくらいにして、忙しくなるわよ。来週には会合が開かれる予定だから」

 さっきあった【霊話】の内容が、明日領事館にセシルさんがいらっしゃるっので、そこで警備の打ち合わせすることになったんだとか。

 まったく急にもほどがある。

 つまり会合の日まであらかた仕事を片付けなければならなくなったということだった。



 そして迎えた会合日当日。

 現在、シャルとアセナと俺の三人は第二王女を出迎えるため飛行艇発着場にいる。

 例のごとくナキアさんはいない。いったいどこで何をしているのやら。

 明日には帰るとは言っていたけど、それならもう1日ぐらい早く帰ってきてくれてもいいんじゃねぇのって思った。

 ナキアさんなりの事情があるんだと思うけど。

「皆様、お待たせしました」

 端正な顔立ちの女性軍人セシルさんが先導に使節団が到着する。

 彼らに囲まれて一人の女性がその姿を現した。

「こちらが我が国の第二王女ネイシア=ナクシュカ=デズデモーナ殿下です」

 白を基調とした涼しく動きやすいドレスに、顔はヴェールで隠しているので見えないけど。

 褐色肌でウェーブかかった赤い髪で、無駄な脂肪のないスタイルがすげぇ良い。

 こうセシルさんと一緒に並ぶと、ファッション雑誌の表紙みたいな感じだった。

 優雅なたたずまいの彼女につられて俺たちも会釈をする。

 現実離れな光景になんか足元がふわふわしてくる。

 とりあえず落ち着け俺……仕事しろ。

 ふとした瞬間、なにやら王女様はセシルさんに耳打ちしている。

「殿下は、今日はよろしくお願いします、と申しております」

「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします。ウチ――じゃなくて、私の名前は――」

「殿下は、お気遣いなく、貴殿らの名前は聞き及んでいます、と仰っています。さ、時間もありませんし、領事館へ急ぎましょう」

 なんだ? なんだ? 失語症? そうは見えないけど――。

 領事館到着まで少し時間はあったけど、結局自分の口でしゃべらない理由は分からずじまいだった。もちろん聞く余裕も、度胸もないし恐れ多かった。

「どうしたのアセナ?」

 王女殿下を送り届け、会議室前で帝国側の使節団の到着を待っていると、あごにゆびを当ててアセナが何か考えごとをしていた。

「……うん、あの……ネイシア殿下、どこかで見たことがあった気がして」

「やっぱり! ウチもそう思った!」

「そぉか? あぁいう女性――って言っちゃぁいけないけど、いくらでもいるだろ?」

「……ん~、まぁ、確かにね」

「気のせいってことにしとこうぜ。その方が集中できるし」

「……そう、だよね」

 ちょっとした談話の後、早々に1階ロビーがざわついた。どうやらいらっしゃったみたいだ。

 吹き抜けを望む、ろう下に列をなして先方の使節団が歩いてくる。

 中央にはもちろん、フォーマルな黒いスーツを優美に着こなすレアさん――いや、この場は《レアセレーネ=フォン=コーデリア》殿下だな。

 失礼のないよう昨日フルネームを必死で覚えたよ。

 一つ気になるのは使節団の中に、フェイの姿が見当たらないこと。

 殿下の側近は、見たことない深く軍帽を被った女性士官だし。

 もしかしたら会えると思ったんだけど少し残念。多分部署が違うんだな。

「あ! 皆さん、お久しぶりです!」

 人目もはばからず声をかけてきた。ちょいちょい、ここは公式の場。

「はいお元気そうで安心しました。殿下」

「そんな……かしこまらずに、前みたいにレアと――」

「レアさ……じゃなかった、一応ここは公的な会合ですので、終わってからにしましょう」

「そうですね……すいません、私ったら」

 と言いつつ、俺たちに額を集めさせ、ひそひそと『【神凪節】までこっちにいられるので、良かったら案内してください』とささやく。

 つまりお忍びで来るということか。殿下ではなく一般人の少女『レアネラ』として。

「アセナさんも元気そうで、どうですか? そちらの生活には慣れました?」

「はい……この度は奔走してくれてありがとうございます殿下」

 いえ、そんな、と遠慮がちに殿下は答えると、「殿下、そろそろ」と側近に耳打ちされた。

「では、皆さん。後ほど」

 会議室の中へと入っていく。ほんと元気そうでよかった。

 始まる会談。全員が配置に付いた。

 俺はというと会議室前に両隣を固めるポジションという責任重大な持ち場を任されている。

 息のつまる緊張感が漂ってくる中、誰かにちらちら見られる感覚に襲われた。

 でも視線には殺意がみじんもなくて、むしろ興味とか好奇とかそっちの方。

 鼻毛でも伸びていたかなぁって思って鼻をさわってみるけど大丈夫だ。

 一応その視線の主は分かっている。だって俺の隣にいる人物なんだから。

 しかもその人、さっき殿下に耳打ちしていた軍帽を深くかぶる女性士官。

「……えっと、俺の顔になんかついています?」

「いえ、別に……」

 凛とした涼しい声でそっぽを向かれる。なんなんだ。

 確かに薄紫の髪には、それはかとなく見覚えがあるんだけど、タイトスカートだし、完璧女性なんだよなぁ――まぁいいや、別に見られるぐらい。

 途中休憩を挟みながら進められた会談は、2時間15分で幕を閉じた。

 ぞろぞろと会議室から離席する中、その最後に出てきたのはレアセレーネ殿下だった。

「あれ? どうかなさったんですか? 二人とも?」

 いや、レアさんこそどうした? 女性士官さんと俺をキョロキョロと見比べて、なんかおかしいところでもあったのか?

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