10 / 35
Season1 セオリー・S・マクダウェルの理不尽な理論
#010 死の淵で猟犬に問う Crisis
しおりを挟む
砲声と銃声、そして爆音が怒濤の如き響きとなって湾岸倉庫を包み込む。
立ち込める硝煙と燃え盛る炎の中、逃げ惑うセオリーと暁。
追いかけまわされること10分、二人は倉庫の裏手で息を潜め、機動戦闘車をやり過ごす。
「……くそっ! なんであんなものがこんなところにあるんだっ!? どうやって手配したっ!?」
「……流石に……妙ですわね……もうかれこれ10分は過ぎたはずですのに、消防すら来ないなんて……」
湾岸倉庫の周辺は延々と倉庫街が立ち並び閑散としていた。
大規模に火の手が上がっているのにもかかわらず一台の緊急車両が来ない状態にセオリーは違和感を覚えた。
「もういい、俺が囮になるからアンタはこの場から逃げろ、そんで応援を呼んでくれ」
「あら、格好いいこと言ってくれますのね? 賢明な判断で――」
セオリー達のすぐ隣の倉庫が爆散した。
咄嗟に暁が庇ってくれたお陰でセオリーは飛び散る破片から難を逃れたが――
「怪我はないか? 学者様」
「だ、大丈夫ですわ……それより暁、傷が……」
暁の腕に飛び散った破片で切り傷を負っていた。
(掠り傷みたいですわね……)
「問題ない。動けるか?」
「……ええ、もちろん」
セオリーは暁から差し伸べられた手を取り立ち上がる
倉庫のコンクリートの壁が赤外線を遮断していることで機動戦闘車はセオリー達の存在を確認できないのがせめてもの救い。
邪魔なコンクリートの壁の破壊を行い始めるのは時間の問題で、案の定、機動戦闘車は倉庫に目掛けて砲撃を始める。
(悪くないですが……このままではマズいですわね)
暁の手から伝わる温もりに、些か緊張感に欠けると自覚はしたが高揚とした気分に駆られてしまう。
榴弾と爆音、粉砕するコンクリートの雨の中、倉庫を隠れ蓑に二人は逃げ惑う。
相手は時速100km以上の動戦闘車。八輪のタイヤは、倉庫の密林の中でも小回りが利く代物。
行く先々でセオリー達は容易く先回りされて、咄嗟に身を隠してやり過ごしてはいるが、然このままでは遅かれ早かれ殺されるのと二人は考えていた。
「このままじゃジリ貧だな」
「暁、どうしますの?」
倉庫のドアの前に潜むセオリーと暁。
お互い肩で息をし、体力もそろそろ限界に近づいていた。
自分たちが凭れた倉庫の裏手で機動戦闘車が通り過ぎていくのを確認すると、暁の顔が急に意を決したような顔つきへと変わる
「……安心しろ、考えがある」
と、徐に暁は倉庫のドアを破壊して抉じ開けた。
「この中に入っていろ」
「強引なのも嫌いじゃありませんわ」
冗談まじりにセオリーは倉庫へと足を踏み入れる。
「ここに隠れてやり過ごすのですの?」
振り返ると暁の姿はない。しかも扉の向こうから何か引きずる様な音が聞こえ、セオリーは自分が閉じ込められたことに気付いた。
「ちょっと、暁っ!」
扉を叩き、ドアを押してみるがびくともしない。
「……そこでじっとしていろ」
セオリーを倉庫へ匿い、暁は単身機動戦闘車へと向かって行く。
何とかして彼の後を追おうとセオリーは考えるが、暁の決意染みた声色に胸が熱くなり、踏み止まってしまう。
「全くベタなことを……格好つけている場合ですかっ!」
自己犠牲。セオリーはあまりその行為が好きではない。
一見利他的行動に見えるその行為は言うなればチェスのポーン。各個体が集団の幸福の為に犠牲を払う。確かにその方が利己的な集団より絶滅の危険は少ないのは確かだ。それはいい。利他的行動は否定しない。
しかし自己犠牲を払う個体からなる集団で構成された世界では、その利益の主要な受益者が誰になるかといえば、国家。そして利他的集団の中には必ず蔓延る利己的な個体になる。つまりそれは民族主義や愛国心を植え付ける存在が享受することになる。
そういった側面が存在し無駄に尊い命を散らすのがセオリーは堪らなく嫌いだった。
(……死に様に生きていた意味を見出すなんて愚かですわ。そんなところにそんなものは決してありはしないのに)
セオリーは重々しい溜息をつく。
「なるべくお淑やかにことを済ませるつもりでしたのにもう面倒くさくなりましたわ」
白状すれば暁を一目見た時から興味を惹かれ、しおらしく見せることで彼を手に入れるつもりだった。
命に代えて庇われたという点だけ見ればセオリーの策略は上手くいったのかもしれない。
(……だけど考えようによっては好機ですわ)
「……その命を私にくれるというのでしたら、好きに使わせて頂きますわ」
勝ち誇ったような顔を滲ませセオリーは倉庫内の階段を駆け上がり、突き当り二階の窓を蹴破った。
暁は愛銃を片手に物陰で潜みながら機動戦闘車の隙を伺う。狙うのは頭頂にある細い四本の受信機。
30式無人機動戦闘車の武装は、7.62ミリ機関銃と52口径ライフル砲。弾数は10発。有人であった頃の16式機動戦闘車などは4発程度であったが搭乗スペースが無くなった分、総弾数は増えた。
「現在は6発使わせたから残りは4発。7.62ミリ機関銃もあるが、それは隙を付くしかないか……」
辺り一面は既に火の海。熱気が海風に乗って暁の肌を焼き付けていく。
「あいつは上手く逃げてくれただろうか……まぁ、大丈夫だろう……」
言動こそ正気を疑うが聡明な女性だ。必ず賢明な判断をして、応援を呼んでくれるだろうと暁は確信していた。
「さて、それまで持ちこたえられるか……やるだけやってみるか」
機動戦闘車が背後を通り過ぎた瞬間、暁は物陰から飛び出した。
狙いを定め暁は引き金を引く。放たれた弾丸は受信機の一本を撃ち抜いた。
砲身が回転するのを見計らい、機関銃から撃ち出される弾丸の雨を掻い潜り、瓦礫の中へと暁は身を隠す。
一撃離脱戦法。この状況で囮の役目を果たしながら生存率を高めるにはこれしかないと暁は考えた。時間も稼げて確実だ。だが問題はどこまで体力が持つか――
「こうしていけば、何れ……」
瓦礫の影から様子を伺っていた暁は機動戦闘車の方針が何故か自分の方を向いていることに気付く。
(なぜ? こっちを向いている? まさか――)
本能的に身の危険を感じ取った暁は飛び込む様にその場から離れるが、放たれた榴弾の衝撃波により吹き飛ばされ、俯せに地面へ叩きつけられる。
「ぐっ!!」
暁は自分がとんでもない勘違いをしていたことに気付いた。人間が操っていると思っていた機動戦闘車は恐らくAIが操っている。
自分の行動を学習され、確率的に潜伏先を割り出し、一番確率の高い場所を砲撃された。
金属が擦り合うような音が背後に迫り、砲身が自分へ向けられるのを感じ取った。
叩きつけられた衝撃で、暁は身体を思うように身体が動かすことが出来ず、死を覚悟する。
(これは……血か……)
自分の眼前に赤いもの垂れ下がってくるのが見え、撃たれる前に命が終わるかもしれない。
「ねぇ? 暁? 助けが欲しくありませんこと?」
流石に暁もその声が幻聴じゃないことが分かった。這いつくばる自分の眼前に、錯覚でも幻覚でもないセオリーの姿があった。
逃げろ――と言いかけるも、どういうわけか自分の声が出ない。
「私の実験体になりなさい。そしたら助けてあげなくても無いですわ?」
しゃがんで頬杖をつくセオリーの顔は実に悪魔的で不気味な微笑みを浮かべていた。
「ほらほら、さっさと選ばないと死んじゃいますわよ? やり残したことがあるのではなくって? 友人の敵を討つのでしょう?」
砲身が下がり狙いを定められる。
機動戦闘車から車内でカタカタと音が鳴り、次弾が装填される音が聞こえる。
死の瀬戸際で、真面な判断力を失っていた暁は、まるで吸い寄せられるようにセオリーから差し伸べられた手を取ってしまう。
それが悪魔との契約にも関わらず――
「契約成立ですわね」
満足そうな顔を綻ばせたセオリーは羽織っていた赤いワンピースを脱ぎ捨てると、ノースリーブのカシュクール姿で、徐に横に置いてあったH形鋼鉄骨を手に取り――。
「Yo-heave-ho!」
その光景に暁は絶句した。
その華奢な腕から想像できない筋力で、セオリーは片手で軽々と持ち上ると、オリンピック選手のようなやり投げの態勢をとった。
「……ジーンオントロジー……筋肉形成、骨格強化、細胞膜強化……アセチレーション……」
ぶつぶつと符牒を呟くセオリー。
左腕から背筋そして足に掛けて一連の筋肉に真紅の輝線が走る。
輝線が刻まれた部位は一気に膨れ上がり、乾いた音と共にボトムの太ももが引き裂かれていく。最終的には腕は赤ん坊のウエストぐらいに筋肉は肥大した。
「ほいっ!!」
機動戦闘車が榴弾を放とうとした瞬間、セオリーは軽快な掛け声とともに重量60㎏はある鉄骨を投げつけた。
撃ち出されるより遥かに速い速度で飛んでいった鉄骨は砲身を潰し、躯体へと突き刺さる。
「命中……」
衝突の衝撃で機動戦闘車は前身が浮き上がった瞬間――爆散。
重々しい響きと網膜を焼き付ける激しい輝きを放って破片が飛び散っていく。
眼前に映るその光景に暁は言葉が出なかった。何が起こったのか全く理解できず本当に幻覚を見ているのではないかと思ったほどだ。
漸く身体が動くようになった暁は身を起こし、まじまじとその光景を見る。
爆散した機動戦闘車からの皮膚を焦がすような熱気は、やはり現実以外の何物でもなかった。
炎を纏って転がるタイヤがセオリーの横を通り過ぎていくのを暁は目で追っていると、彼女の腕はいつもの細くか弱い腕に戻っていた。
振り返ったセオリーは暁へにんまりと子供のような笑みを見せる。
「実は私、意外に力持ちなんですのよ」
といって紅焔を背にしたセオリーが得意気に二の腕を曲げて見せる。
状況が今一つ呑み込めない暁ではあったが、その光景が紛れも無い現実であるという事だけは理解できた。
立ち込める硝煙と燃え盛る炎の中、逃げ惑うセオリーと暁。
追いかけまわされること10分、二人は倉庫の裏手で息を潜め、機動戦闘車をやり過ごす。
「……くそっ! なんであんなものがこんなところにあるんだっ!? どうやって手配したっ!?」
「……流石に……妙ですわね……もうかれこれ10分は過ぎたはずですのに、消防すら来ないなんて……」
湾岸倉庫の周辺は延々と倉庫街が立ち並び閑散としていた。
大規模に火の手が上がっているのにもかかわらず一台の緊急車両が来ない状態にセオリーは違和感を覚えた。
「もういい、俺が囮になるからアンタはこの場から逃げろ、そんで応援を呼んでくれ」
「あら、格好いいこと言ってくれますのね? 賢明な判断で――」
セオリー達のすぐ隣の倉庫が爆散した。
咄嗟に暁が庇ってくれたお陰でセオリーは飛び散る破片から難を逃れたが――
「怪我はないか? 学者様」
「だ、大丈夫ですわ……それより暁、傷が……」
暁の腕に飛び散った破片で切り傷を負っていた。
(掠り傷みたいですわね……)
「問題ない。動けるか?」
「……ええ、もちろん」
セオリーは暁から差し伸べられた手を取り立ち上がる
倉庫のコンクリートの壁が赤外線を遮断していることで機動戦闘車はセオリー達の存在を確認できないのがせめてもの救い。
邪魔なコンクリートの壁の破壊を行い始めるのは時間の問題で、案の定、機動戦闘車は倉庫に目掛けて砲撃を始める。
(悪くないですが……このままではマズいですわね)
暁の手から伝わる温もりに、些か緊張感に欠けると自覚はしたが高揚とした気分に駆られてしまう。
榴弾と爆音、粉砕するコンクリートの雨の中、倉庫を隠れ蓑に二人は逃げ惑う。
相手は時速100km以上の動戦闘車。八輪のタイヤは、倉庫の密林の中でも小回りが利く代物。
行く先々でセオリー達は容易く先回りされて、咄嗟に身を隠してやり過ごしてはいるが、然このままでは遅かれ早かれ殺されるのと二人は考えていた。
「このままじゃジリ貧だな」
「暁、どうしますの?」
倉庫のドアの前に潜むセオリーと暁。
お互い肩で息をし、体力もそろそろ限界に近づいていた。
自分たちが凭れた倉庫の裏手で機動戦闘車が通り過ぎていくのを確認すると、暁の顔が急に意を決したような顔つきへと変わる
「……安心しろ、考えがある」
と、徐に暁は倉庫のドアを破壊して抉じ開けた。
「この中に入っていろ」
「強引なのも嫌いじゃありませんわ」
冗談まじりにセオリーは倉庫へと足を踏み入れる。
「ここに隠れてやり過ごすのですの?」
振り返ると暁の姿はない。しかも扉の向こうから何か引きずる様な音が聞こえ、セオリーは自分が閉じ込められたことに気付いた。
「ちょっと、暁っ!」
扉を叩き、ドアを押してみるがびくともしない。
「……そこでじっとしていろ」
セオリーを倉庫へ匿い、暁は単身機動戦闘車へと向かって行く。
何とかして彼の後を追おうとセオリーは考えるが、暁の決意染みた声色に胸が熱くなり、踏み止まってしまう。
「全くベタなことを……格好つけている場合ですかっ!」
自己犠牲。セオリーはあまりその行為が好きではない。
一見利他的行動に見えるその行為は言うなればチェスのポーン。各個体が集団の幸福の為に犠牲を払う。確かにその方が利己的な集団より絶滅の危険は少ないのは確かだ。それはいい。利他的行動は否定しない。
しかし自己犠牲を払う個体からなる集団で構成された世界では、その利益の主要な受益者が誰になるかといえば、国家。そして利他的集団の中には必ず蔓延る利己的な個体になる。つまりそれは民族主義や愛国心を植え付ける存在が享受することになる。
そういった側面が存在し無駄に尊い命を散らすのがセオリーは堪らなく嫌いだった。
(……死に様に生きていた意味を見出すなんて愚かですわ。そんなところにそんなものは決してありはしないのに)
セオリーは重々しい溜息をつく。
「なるべくお淑やかにことを済ませるつもりでしたのにもう面倒くさくなりましたわ」
白状すれば暁を一目見た時から興味を惹かれ、しおらしく見せることで彼を手に入れるつもりだった。
命に代えて庇われたという点だけ見ればセオリーの策略は上手くいったのかもしれない。
(……だけど考えようによっては好機ですわ)
「……その命を私にくれるというのでしたら、好きに使わせて頂きますわ」
勝ち誇ったような顔を滲ませセオリーは倉庫内の階段を駆け上がり、突き当り二階の窓を蹴破った。
暁は愛銃を片手に物陰で潜みながら機動戦闘車の隙を伺う。狙うのは頭頂にある細い四本の受信機。
30式無人機動戦闘車の武装は、7.62ミリ機関銃と52口径ライフル砲。弾数は10発。有人であった頃の16式機動戦闘車などは4発程度であったが搭乗スペースが無くなった分、総弾数は増えた。
「現在は6発使わせたから残りは4発。7.62ミリ機関銃もあるが、それは隙を付くしかないか……」
辺り一面は既に火の海。熱気が海風に乗って暁の肌を焼き付けていく。
「あいつは上手く逃げてくれただろうか……まぁ、大丈夫だろう……」
言動こそ正気を疑うが聡明な女性だ。必ず賢明な判断をして、応援を呼んでくれるだろうと暁は確信していた。
「さて、それまで持ちこたえられるか……やるだけやってみるか」
機動戦闘車が背後を通り過ぎた瞬間、暁は物陰から飛び出した。
狙いを定め暁は引き金を引く。放たれた弾丸は受信機の一本を撃ち抜いた。
砲身が回転するのを見計らい、機関銃から撃ち出される弾丸の雨を掻い潜り、瓦礫の中へと暁は身を隠す。
一撃離脱戦法。この状況で囮の役目を果たしながら生存率を高めるにはこれしかないと暁は考えた。時間も稼げて確実だ。だが問題はどこまで体力が持つか――
「こうしていけば、何れ……」
瓦礫の影から様子を伺っていた暁は機動戦闘車の方針が何故か自分の方を向いていることに気付く。
(なぜ? こっちを向いている? まさか――)
本能的に身の危険を感じ取った暁は飛び込む様にその場から離れるが、放たれた榴弾の衝撃波により吹き飛ばされ、俯せに地面へ叩きつけられる。
「ぐっ!!」
暁は自分がとんでもない勘違いをしていたことに気付いた。人間が操っていると思っていた機動戦闘車は恐らくAIが操っている。
自分の行動を学習され、確率的に潜伏先を割り出し、一番確率の高い場所を砲撃された。
金属が擦り合うような音が背後に迫り、砲身が自分へ向けられるのを感じ取った。
叩きつけられた衝撃で、暁は身体を思うように身体が動かすことが出来ず、死を覚悟する。
(これは……血か……)
自分の眼前に赤いもの垂れ下がってくるのが見え、撃たれる前に命が終わるかもしれない。
「ねぇ? 暁? 助けが欲しくありませんこと?」
流石に暁もその声が幻聴じゃないことが分かった。這いつくばる自分の眼前に、錯覚でも幻覚でもないセオリーの姿があった。
逃げろ――と言いかけるも、どういうわけか自分の声が出ない。
「私の実験体になりなさい。そしたら助けてあげなくても無いですわ?」
しゃがんで頬杖をつくセオリーの顔は実に悪魔的で不気味な微笑みを浮かべていた。
「ほらほら、さっさと選ばないと死んじゃいますわよ? やり残したことがあるのではなくって? 友人の敵を討つのでしょう?」
砲身が下がり狙いを定められる。
機動戦闘車から車内でカタカタと音が鳴り、次弾が装填される音が聞こえる。
死の瀬戸際で、真面な判断力を失っていた暁は、まるで吸い寄せられるようにセオリーから差し伸べられた手を取ってしまう。
それが悪魔との契約にも関わらず――
「契約成立ですわね」
満足そうな顔を綻ばせたセオリーは羽織っていた赤いワンピースを脱ぎ捨てると、ノースリーブのカシュクール姿で、徐に横に置いてあったH形鋼鉄骨を手に取り――。
「Yo-heave-ho!」
その光景に暁は絶句した。
その華奢な腕から想像できない筋力で、セオリーは片手で軽々と持ち上ると、オリンピック選手のようなやり投げの態勢をとった。
「……ジーンオントロジー……筋肉形成、骨格強化、細胞膜強化……アセチレーション……」
ぶつぶつと符牒を呟くセオリー。
左腕から背筋そして足に掛けて一連の筋肉に真紅の輝線が走る。
輝線が刻まれた部位は一気に膨れ上がり、乾いた音と共にボトムの太ももが引き裂かれていく。最終的には腕は赤ん坊のウエストぐらいに筋肉は肥大した。
「ほいっ!!」
機動戦闘車が榴弾を放とうとした瞬間、セオリーは軽快な掛け声とともに重量60㎏はある鉄骨を投げつけた。
撃ち出されるより遥かに速い速度で飛んでいった鉄骨は砲身を潰し、躯体へと突き刺さる。
「命中……」
衝突の衝撃で機動戦闘車は前身が浮き上がった瞬間――爆散。
重々しい響きと網膜を焼き付ける激しい輝きを放って破片が飛び散っていく。
眼前に映るその光景に暁は言葉が出なかった。何が起こったのか全く理解できず本当に幻覚を見ているのではないかと思ったほどだ。
漸く身体が動くようになった暁は身を起こし、まじまじとその光景を見る。
爆散した機動戦闘車からの皮膚を焦がすような熱気は、やはり現実以外の何物でもなかった。
炎を纏って転がるタイヤがセオリーの横を通り過ぎていくのを暁は目で追っていると、彼女の腕はいつもの細くか弱い腕に戻っていた。
振り返ったセオリーは暁へにんまりと子供のような笑みを見せる。
「実は私、意外に力持ちなんですのよ」
といって紅焔を背にしたセオリーが得意気に二の腕を曲げて見せる。
状況が今一つ呑み込めない暁ではあったが、その光景が紛れも無い現実であるという事だけは理解できた。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる