オタクニートの受難

沖葉由良

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プロローグ

俺という存在

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 俺の名前は中城 拓真なかじょう たくま。今年で二十五になる。
 職業は、ニート。趣味はオタク活動だ。俺がなんのオタクかと言うと、もちろん、アイドルだ。世間の言うオタクダンスももちろん踊れる。が、親には理解しがたいようで、顔を会わせる度に苦虫でも噛んでいるような嫌そうな顔をされる。
 俺だって、好きでこうなったんじゃない。


 俺だって…、俺だって……、俺だって………ーーー。






          *







 人には向き不向きがある。それは、俺も例外ではなく…。
 容姿はさほど悪くはないと思う。だが、性格があまりよろしくないと、親には言われる。自身の性格の良し悪しはみんな自分ではわからないものだ。俺だってわからない。が、生みの親がそう言うのだから、そうなんだろう。
 俺の見た目をざっと述べると、髪は天パー。長さは肩につくかつかないか…。黒淵眼鏡に、鼻は高い方だと思う。口は薄くも厚くもなく、体型はやや痩せ型…と言ったところか。ダンスのお陰か多少の筋肉はある。が、それほどムキムキと言うわけでも、細マッチョってわけでもない。
 まぁ、あれだ。とにかく、全てにおいてどこにでもいるルックスということだ。中の中、キングオブ普通。


「はぁ~…なんか、良いことねぇかなぁ~…」


 俺は、ごろんと寝転がって、天井を眺めながら呟いた。自分で言っといてなんだが、普通と言うのは、わりとつまらん。やることなすこと、周りも出来るわけで、別に俺じゃないといけないことが全くないからだ。
 一日中家に閉じこもりただただ寝て過ごす退屈な日々。それも、親の脛かじり。親は俺が高校卒業して大学にも進まず、仕事も見つけなかったことにわずか半年で見切りをつけ、今では何も言ってこない。
 俺には二つずつ離れた姉と妹、そして、五つ離れた弟がいるが、その誰も俺には寄り付かない。親に言われてるのか、自身の意思なのかはわからないが、こもり始めて一年経った頃から兄弟の誰も、俺に声をかけることはなくなっていた。

 だが、そんな俺の平凡でなんの代わり映えもしない毎日は、ある日突然崩れ、あっという間に変貌する。あれは、そう…あまりに誰とも話さないもんだから、俺が声の出し方さえも忘れかけていた頃、突然やって来たやつの手によって…。



「はじめまして、拓真さん。これから、よろしくお願いしますね♪」


 そう言うと、目を引くほどの美しい笑顔で、天使の顔した悪魔なあいつはニコッと笑って見せたのだった。
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