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第一章
第四話 それから…
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人里離れた一軒家。そこには、吸血鬼が人と共に住んでいるという。誰が流したのか、信用していいものなのか、噂とは、どこからともなく沸き上がり、いつの間にか消えていく。
村一番の手練れであり、娘、嫁命の市ヶ谷冬矢。彼の朝は娘との手合わせから始まる。昔は圧勝だった冬矢も、年を重ねるにつれ、一筋縄ではいかなくなり、負ける回数も増えていった。
「ハァ、ハァ…、亜矢、強くなったな!」
「お父さんが弱くなったんでしょ!」
「ガハハハッ、俺はこれでも、村に降りれば負け知らずなんだぞ?」
「…私、これ以上強くなりたくないんだけど…」
「そりゃあ、無理な話だな!!」
豪快にガハハッと笑い娘と過ごす朝のひとときを楽しんでいると、亜加莉が笑顔でやって来た。
「さっ、二人ともご飯よ」
「わーい♪飯だ飯!」
「…パパ……」
気が抜けた時、家族三人揃った時だけパパ呼びに変わる亜矢の癖を耳で楽しみ、大好きな嫁の手料理を頬張る。冬矢はこの時が世界で一番大好きだった。ところが…
「亜矢…少しいいか?」
「あ、セシルさん♪」
「……」
今、亜矢を呼んだこの少年。名はセシル・ガーネット。吸血鬼だ。亜矢は彼と契約を交わしており、その契約を果たす為、市ヶ谷家で一緒に住んでいるのだが…。
「セシル」
「…?」
「家族団らんに水を指すのはどうかと思うぞ」
「…あぁ、すまない」
「お父さん!」
「いいんだ、亜矢。急ぐ用じゃない。それに、いつも忙しい父上が家族との時間を大切にしたい気持ちは俺にもわかる」
「セシルさん…」
「失念していた。申し訳ない」
「あ、あぁ…わかればいいんだ、わかれば」
「あとで部屋に来てくれ。待ってる」
「あ、セシルさん!」
セシルはそう言うと、漆黒の翼を広げてどこかへ飛んでいってしまった。その姿が見えなくなるまで黙っていた亜矢は、完全にセシルが視界から消えたことをかくにんすると、ギロッと鬼の形相で冬矢を睨んだ。
「お~と~う~さ~ん…」
「ひっ!ご、ごめんなさーいっ!」
そう叫びながら、冬矢は目にも止まらぬ早さで走り去っていった。
「あ、お父さん!…たく、もう」
「あはははっ、まぁまぁ。ヤキモチ妬いてんのよ、セシルに」
「ヤキモチ?」
「そっ。前の一件からあんた、セシルにべったりだったでしょ?」
「…うん」
「それで、久々に手合わせ出来たのにものの十分でセシルが来ちゃったから…」
「でも、だからってあんな言い方…」
「そうね。セシルは大丈夫として、パパ泣いてると思うから、迎えに行ってあげてくれる?」
「えっ?!パパ泣いてるの!!?」
「フフッ、泣き虫なのよ、あぁ見えて」
「わかった…、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
席を立ち、トボトボと父を迎えに行く亜矢の後ろ姿を見て、亜加莉は亜矢が生まれたばかりのことを思い出し、クスッと笑った。
「後ろ姿、そっくり…」
ー森ー
家を飛び出してきた冬矢は、ブツブツと文句を言いながら、亜加莉の言う通り泣いていた。
「ひっ…うぅ~…、亜矢怒らせちゃった…、どうしよぅ…」
鼻水をすすりながらポロポロと涙を流し、土になにやら読み取れぬ文字を書きながらメソメソして、ひたすら「どうしよう、どうしよう…」と呟いていた。
おそらくセシルが以前話していた村の住人だろう男からの襲撃で命を落としかけたセシル。その後、亜加莉の頼みで爺が傷の治癒を行い、処方として「目が覚めたら血を飲ませること」と言われ、それを行うために亜矢は二週間、セシルにかかりきりだったのだ。
そして、先ほどの家族団らんは、実は二週間ぶりの、冬矢にとっては決して邪魔されたくない大切な時間だったのだ。
「わかるよ、わかるけどさぁ…。俺の…大事な…うぅ~…」
泣き止もうとすればするほどポロポロポロポロ流れてくる涙に冬矢は苛立ちを覚えながらひたすら拭っていた。
「…本当に泣いてる」
やっと追い付いた亜矢は、目の前で大人げなくメソメソ泣いている父の背中を見つけて、思わず呟いていた。
今まで、生まれてこの方見たことのない父の泣きじゃくる姿に思わずかわいい…お思ってしまったことを胸にしまって、よく聞こえるように亜矢は父を呼んだ。
「お父さーんっ!」
「っ!!」
先ほどまでの怒りはどこへやら…、亜矢は泣いている父の背に抱きつき、自身の体重を冬矢に預けた。
「お父さん、さっきはごめんなさい…」
「え、あ…あぁ、いいよ…」
「セシルさんのこと、嫌い?」
「…そんなことはないけど、俺にとって、家族…、血の繋がりがある者っていうのは、何物にも代えがたい存在なんだ…」
「うん」
「家族との団らんっていうのも一緒。だから、セシルに亜矢を盗られたように感じて、寂しかったんだよ…」
「うん。ごめんなさい。…パパ」
「っ!…ん?」
「大好きよ!いつも私たちのために働いてくれてありがとう」
「~~~~~っ!!///」
抱き締められた状態で耳元に響くその声は、冬矢の顔を火照らせ、引っ込みかけた涙を呼び戻すのには充分すぎる破壊力だった。
その後、亜矢と共に家に帰った冬矢は、セシルに謝り、再び、セシルも加え四人で食卓を囲み、団らんを楽しむのだった。
村一番の手練れであり、娘、嫁命の市ヶ谷冬矢。彼の朝は娘との手合わせから始まる。昔は圧勝だった冬矢も、年を重ねるにつれ、一筋縄ではいかなくなり、負ける回数も増えていった。
「ハァ、ハァ…、亜矢、強くなったな!」
「お父さんが弱くなったんでしょ!」
「ガハハハッ、俺はこれでも、村に降りれば負け知らずなんだぞ?」
「…私、これ以上強くなりたくないんだけど…」
「そりゃあ、無理な話だな!!」
豪快にガハハッと笑い娘と過ごす朝のひとときを楽しんでいると、亜加莉が笑顔でやって来た。
「さっ、二人ともご飯よ」
「わーい♪飯だ飯!」
「…パパ……」
気が抜けた時、家族三人揃った時だけパパ呼びに変わる亜矢の癖を耳で楽しみ、大好きな嫁の手料理を頬張る。冬矢はこの時が世界で一番大好きだった。ところが…
「亜矢…少しいいか?」
「あ、セシルさん♪」
「……」
今、亜矢を呼んだこの少年。名はセシル・ガーネット。吸血鬼だ。亜矢は彼と契約を交わしており、その契約を果たす為、市ヶ谷家で一緒に住んでいるのだが…。
「セシル」
「…?」
「家族団らんに水を指すのはどうかと思うぞ」
「…あぁ、すまない」
「お父さん!」
「いいんだ、亜矢。急ぐ用じゃない。それに、いつも忙しい父上が家族との時間を大切にしたい気持ちは俺にもわかる」
「セシルさん…」
「失念していた。申し訳ない」
「あ、あぁ…わかればいいんだ、わかれば」
「あとで部屋に来てくれ。待ってる」
「あ、セシルさん!」
セシルはそう言うと、漆黒の翼を広げてどこかへ飛んでいってしまった。その姿が見えなくなるまで黙っていた亜矢は、完全にセシルが視界から消えたことをかくにんすると、ギロッと鬼の形相で冬矢を睨んだ。
「お~と~う~さ~ん…」
「ひっ!ご、ごめんなさーいっ!」
そう叫びながら、冬矢は目にも止まらぬ早さで走り去っていった。
「あ、お父さん!…たく、もう」
「あはははっ、まぁまぁ。ヤキモチ妬いてんのよ、セシルに」
「ヤキモチ?」
「そっ。前の一件からあんた、セシルにべったりだったでしょ?」
「…うん」
「それで、久々に手合わせ出来たのにものの十分でセシルが来ちゃったから…」
「でも、だからってあんな言い方…」
「そうね。セシルは大丈夫として、パパ泣いてると思うから、迎えに行ってあげてくれる?」
「えっ?!パパ泣いてるの!!?」
「フフッ、泣き虫なのよ、あぁ見えて」
「わかった…、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
席を立ち、トボトボと父を迎えに行く亜矢の後ろ姿を見て、亜加莉は亜矢が生まれたばかりのことを思い出し、クスッと笑った。
「後ろ姿、そっくり…」
ー森ー
家を飛び出してきた冬矢は、ブツブツと文句を言いながら、亜加莉の言う通り泣いていた。
「ひっ…うぅ~…、亜矢怒らせちゃった…、どうしよぅ…」
鼻水をすすりながらポロポロと涙を流し、土になにやら読み取れぬ文字を書きながらメソメソして、ひたすら「どうしよう、どうしよう…」と呟いていた。
おそらくセシルが以前話していた村の住人だろう男からの襲撃で命を落としかけたセシル。その後、亜加莉の頼みで爺が傷の治癒を行い、処方として「目が覚めたら血を飲ませること」と言われ、それを行うために亜矢は二週間、セシルにかかりきりだったのだ。
そして、先ほどの家族団らんは、実は二週間ぶりの、冬矢にとっては決して邪魔されたくない大切な時間だったのだ。
「わかるよ、わかるけどさぁ…。俺の…大事な…うぅ~…」
泣き止もうとすればするほどポロポロポロポロ流れてくる涙に冬矢は苛立ちを覚えながらひたすら拭っていた。
「…本当に泣いてる」
やっと追い付いた亜矢は、目の前で大人げなくメソメソ泣いている父の背中を見つけて、思わず呟いていた。
今まで、生まれてこの方見たことのない父の泣きじゃくる姿に思わずかわいい…お思ってしまったことを胸にしまって、よく聞こえるように亜矢は父を呼んだ。
「お父さーんっ!」
「っ!!」
先ほどまでの怒りはどこへやら…、亜矢は泣いている父の背に抱きつき、自身の体重を冬矢に預けた。
「お父さん、さっきはごめんなさい…」
「え、あ…あぁ、いいよ…」
「セシルさんのこと、嫌い?」
「…そんなことはないけど、俺にとって、家族…、血の繋がりがある者っていうのは、何物にも代えがたい存在なんだ…」
「うん」
「家族との団らんっていうのも一緒。だから、セシルに亜矢を盗られたように感じて、寂しかったんだよ…」
「うん。ごめんなさい。…パパ」
「っ!…ん?」
「大好きよ!いつも私たちのために働いてくれてありがとう」
「~~~~~っ!!///」
抱き締められた状態で耳元に響くその声は、冬矢の顔を火照らせ、引っ込みかけた涙を呼び戻すのには充分すぎる破壊力だった。
その後、亜矢と共に家に帰った冬矢は、セシルに謝り、再び、セシルも加え四人で食卓を囲み、団らんを楽しむのだった。
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