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マサヨシは、驚かせたことをアヤに謝罪した。看護師が家族と勘違いしたそうだ。しかしアヤには、そんなことどうでもよかった。放心状態で、塞ぎ込んでいる。
「……水を飲んでください。少し落ち着くと思います」
マサヨシは、グラスに水を注ぎ、アヤの手に握らせる。
「さぁ、一口だけでも」
アヤは、水を飲む。途端、包帯の下からポロポロと涙がこぼれる。
「もうダメ……私の人生は終わりです……」
「終わりなんかじゃない! 諦めるのはまだ早い」
「でも……」
「僕に任せてください。あらゆる手を使って、あなたの目を治す名医を探します」
「マサヨシさん……」
マサヨシは、アヤをグイッと抱き寄せる。
「あなたの目はきっと治ります。治してみせます!」
アヤも、マサヨシの背中に手をまわす。
「ありがとう……」
「そのために、ちょっと相談が……いろいろ手続きをするのに、僕がアヤさんの身元引受人になる必要があるんです。そのための書類にサインしていただけますか?」
「サイン……わかりました」
マサヨシはカバンから書類を取り出し、ベッド脇のテーブルに置いた。そしてボールペンをアヤの手に握らせ、サインをする箇所に誘導する。
アヤは、言われるがままサインをした。
「ありがとうございます。新しい医者が見つかり次第、ここを転院する手続きをします。もう少し待っててください」
アヤは安心したせいか、とても眠くなってきた。
「すいません……少し眠ってもいいですか……?」
「大丈夫。安心しておやすみなさい」
アヤは消えゆく意識の中で、微笑んでいるマサヨシの顔を思い浮かべた。
病院の廊下に、クラブチックの店長であるレオ、ウエイターのユウ、キャストのチヅルが立っている。三人の表情は暗い。アヤの見舞いに来たはいいが、なんと声をかけていいかわらかず、病室の前で立ち尽くしていた。
ユウが大きくため息をつく。
「お前……さっきから、ため息ばっかだな」
レオがイライラしながらユウを責める。
「だって失明ですよ? そんなの可愛そ過ぎます……」
ユウが涙を流す。レオはそれ以上、何も言えない。もちろん、チヅルも同じ気持ちだ。
「なんて声かけていいか分かんないよね……」
レオは小さく気合を入れて、空気を変えようと試みる。
「こういうときこそ、明るく盛り上げんだよ。行くぞ!」
そして、ユウとチヅルが止める間も無く、勢いよく病室へ入る。
「ヨォ! 元気か!」
しかし、ベッドには誰もいない。
「……アレ?」
あとから入ってきたユウとチヅルも驚く。
「いない……?」
「この部屋で合ってるよね……?」
すると看護師がやってきて、
「アヤさんなら転院されましたよ?」と言った。
「転院?」
「ええ、旦那さんが手続きをされて」
「旦那!?」と、ユウが思わず大声を出す。
「アヤって結婚してたの……?」
チヅルはレオに尋ねるが、レオも口をあんぐりと開けて驚いている。
ユウはショックでボー然としている。
その様子を見て、看護師が説明する。
「間違いありません。ちゃんと証明書も見せてもらいましたから」
病室前の廊下でその会話を聞いているのは、先日クラブチックにやってきたカイだった。
(結婚……?)
カイは、ユウとは違う理由で、結婚という言葉に引っ掛かっている。
その背後から、廊下を歩いてきた別の看護師がカイに声をかける。
「あら、あなた……アヤさんを病院まで連れてきてくれた人よね?」
カイは、足早にその場を立ち去った。
アヤは夢を見ていた。
何者かに追われれ袋小路に逃げ込んだアヤは、顔に劇薬をかけられる。目が燃えるように熱い。動くこともできず道に倒れて呻き声を出している。
そこに、一人の男が駆け込んでくる。
「くそ……遅かったか……」
男はそう言うと、アヤを抱き抱える。
「大丈夫か! しっかりしろ!」
アヤを呼びかける声が、どんどん遠ざかってゆく。
アヤが目を覚ますと、体が汗でびっしょり濡れている。今でも心臓がドキドキしている。視界が暗い。何も見えない。顔に手を当てると、目に包帯が巻かれている。
あれは夢じゃない。現実に起きたことだ。あの男の人は誰だったんだろう……?
ふと、アヤの手がベッドのフレームに触れる。
「このベッド……病院のベッドじゃない……」
アヤは慎重にベッドから降りると、手探りで周りを探りはじめた。
何もないガランとした部屋。タンスが一つだけ。引き出しを開けると服が入っている。ここがどこかは分からない。ただ、病院でないことは確かだ。
アヤは窓を見つける。窓を開けようと手を伸ばすと、そこには鉄格子があった。
「私……監禁されてる……?」
アヤは鉄格子を握ったまま叫ぶ。
「誰か! マサヨシさん! 助けて!」
そのとき、部屋のどこかから、クスクス……という小さな笑い声が聞こえた。
「誰……?」
誰も何も応えない。
「ねぇ、誰なの……?」
その人物が、どこかへ歩き去る足音が聞こえる。
「あ、待って!」
アヤはその足音を追いかける。扉が開いて、バタンッと閉まる。アヤが扉に到達したとき、ガチャリと鍵をかける音がする。
「教えて! ここはどこなの!」
アヤが扉を叩きながら叫んでいると、足元に何かが置いてあるのが分かる。しゃがんで手探りで確かめると、それは食事と水だった。
それから、何日が過ぎただろう。
アヤは来る日も来る日も、
「助けて! ここから出して!」と叫び続けた。
一日に何度か、扉が開いて、食事が置かれた。
隙を狙って外に出ようとしたこともある。しかし、力強い男の手で押さえつけられた。
「離して! ここから出して!」
暴れても無駄だった。アヤは男に投げ飛ばされ、扉は無常にも閉まってしまう。
どうやらあの男は、扉の前でこの部屋を見張っているようだ。クスクスと笑っていた女の人は、あれ以来一度も来ていない。
この部屋は、隅にシャワールームとトイレが完備されている。つまり、アヤをここに閉じ込めた犯人の目的は、アヤを健康なまま、ここに閉じ込めて、何かを待っているのだ。
しかし、それが何かは、皆目検討がつかない。分かるわけがない。
やがてアヤは、考えることをやめた。
その日、いつもと違うことが起きた。
いつものように扉がガチャッと開いたが、誰も入ってくる様子がない。食事も置かれない。
アヤは恐る恐る、開いたままの扉から外へ顔を出す。どういうことだろう……?
考えても分かるわけながい。でも……逃げるなら今だ!
アヤは大きく息を吐き、扉から出て走り出した。
建物の中を手探りで進み、玄関らしきドアを開けて、段差で転び、芝生の上に転げ落ちた。幸いどこも痛めてはいない。追ってくる者もいない。アヤは立ち上がり、息を切らせ、暗闇の中を手探りで走り続けた。足や手に、木の枝が当たる。おそらく切り傷から血が噴き出ている。どこをどう走っているか、全く分からない。ただ少しでも遠くへ、人がいる方へ、アヤは必死に走り続けた。
パーン! と大きな音がする。
「なに……? 爆弾……?」
アヤは思わず身をすくめる。しばらくその場でじっとしていると、何発もパーン! という音が上空で鳴る。
「花火だ……花火の音がする……」
そのとき、車の走行音が聞こえた。何台もの車が、アスファルトの上を走っている音……近くに広い道路がある。アヤは希望を抱き、広い道路へ向かって走り始めた。
何とか大通りに辿り着いたアヤは、助けを求めようと、走ってくる車に手を振る。
「助けて!」
しかし車は、速度を緩める様子がない。
「え……?」
ドン! という激しい音がして、アヤは宙を舞い、地面に叩きつけられた。
アヤは頭から血を流しながら、薄れゆく意識の中で叫び続ける。
「どうして……! どうしてこうなったの……?」
そのとき、アヤのすぐ近くに男が立った。男は誰かに電話をする。
「龍ヶ崎様。終わりました。計画通りです」
アヤは衝撃を受ける。龍ヶ崎……!
アヤの目に巻かれた包帯の下から、血が流れてくる。
まるで血の涙のように。
許さない……絶対に許さない!
◇
光の中を蝶々が舞う。
水面に波紋が広がる。
◇
アヤが意識を取り戻すと、そこは小さなギャラリーだった。
「え……?」
壁にはアヤの絵が十数点、飾られている。どれも、蝶をモチーフとした美しい絵だ。大勢の関係者がグラスを手に、アヤの挨拶を待っている。
個展初日の、レセプションパーティーの様子。
「これは夢……? いや違う……時間が戻ったんだ……
私は過去にタイムリープしたんだ!」
そのとき、場違いな大声が響き渡る。
「アヤー!!」
「まさか……」
人をかき分け、ブランド物に身を包んだリサが現れ、アヤに抱きつく。
「久しぶり~! 高校卒業以来じゃない?」
「リサ……」
アヤの脳裏に高校時代の思い出が蘇る。
真っ暗闇の中、ガンッ、ガンッ、という激しい音。そして、「クスクス……」と笑う声。監禁されてる時に聞いた、あの笑い声。笑い声の主は……リサだ!
「……ねぇ、聞いてる? アヤに紹介したい人がいるの。
あ、こっちこっち」
マサヨシが感じのいい微笑みを浮かべながら現れる。
「彼は弁護士のマサヨシさん。若い人の絵に興味があるんだって」
リサに紹介され、マサヨシはアヤに名刺を差し出す。
「初めまして。とても素敵な作品ばかりですね」
アヤは、震える手で名刺を受け取る。
そこには、『弁護士 龍ヶ崎マサヨシ』の文字。
車に撥ねられた瀕死のアヤ。近くに立った男は、電話でこう言った。
「龍ヶ崎様。終わりました。計画通りです」
「どうかされましたか?」
マサヨシが心配そうに、アヤに声をかける。
アヤはクラブチックでの、カイの言葉を思い出した。
「人は笑う時、普通口から笑う。そのあとに目が笑う。
でも、嘘をついている人間は逆だ。
まずは目が笑い……最後に口が笑う」
マサヨシは、ジッと自分を見つめているアヤに、笑いかける。
まず目が笑い……最後に口が笑った。
この人が……
この人たちが、私にあんな酷いことを……!
アヤは、激しい憎しみに満ちた顔で、マサヨシとリサを睨んでいた。
つづく。
「……水を飲んでください。少し落ち着くと思います」
マサヨシは、グラスに水を注ぎ、アヤの手に握らせる。
「さぁ、一口だけでも」
アヤは、水を飲む。途端、包帯の下からポロポロと涙がこぼれる。
「もうダメ……私の人生は終わりです……」
「終わりなんかじゃない! 諦めるのはまだ早い」
「でも……」
「僕に任せてください。あらゆる手を使って、あなたの目を治す名医を探します」
「マサヨシさん……」
マサヨシは、アヤをグイッと抱き寄せる。
「あなたの目はきっと治ります。治してみせます!」
アヤも、マサヨシの背中に手をまわす。
「ありがとう……」
「そのために、ちょっと相談が……いろいろ手続きをするのに、僕がアヤさんの身元引受人になる必要があるんです。そのための書類にサインしていただけますか?」
「サイン……わかりました」
マサヨシはカバンから書類を取り出し、ベッド脇のテーブルに置いた。そしてボールペンをアヤの手に握らせ、サインをする箇所に誘導する。
アヤは、言われるがままサインをした。
「ありがとうございます。新しい医者が見つかり次第、ここを転院する手続きをします。もう少し待っててください」
アヤは安心したせいか、とても眠くなってきた。
「すいません……少し眠ってもいいですか……?」
「大丈夫。安心しておやすみなさい」
アヤは消えゆく意識の中で、微笑んでいるマサヨシの顔を思い浮かべた。
病院の廊下に、クラブチックの店長であるレオ、ウエイターのユウ、キャストのチヅルが立っている。三人の表情は暗い。アヤの見舞いに来たはいいが、なんと声をかけていいかわらかず、病室の前で立ち尽くしていた。
ユウが大きくため息をつく。
「お前……さっきから、ため息ばっかだな」
レオがイライラしながらユウを責める。
「だって失明ですよ? そんなの可愛そ過ぎます……」
ユウが涙を流す。レオはそれ以上、何も言えない。もちろん、チヅルも同じ気持ちだ。
「なんて声かけていいか分かんないよね……」
レオは小さく気合を入れて、空気を変えようと試みる。
「こういうときこそ、明るく盛り上げんだよ。行くぞ!」
そして、ユウとチヅルが止める間も無く、勢いよく病室へ入る。
「ヨォ! 元気か!」
しかし、ベッドには誰もいない。
「……アレ?」
あとから入ってきたユウとチヅルも驚く。
「いない……?」
「この部屋で合ってるよね……?」
すると看護師がやってきて、
「アヤさんなら転院されましたよ?」と言った。
「転院?」
「ええ、旦那さんが手続きをされて」
「旦那!?」と、ユウが思わず大声を出す。
「アヤって結婚してたの……?」
チヅルはレオに尋ねるが、レオも口をあんぐりと開けて驚いている。
ユウはショックでボー然としている。
その様子を見て、看護師が説明する。
「間違いありません。ちゃんと証明書も見せてもらいましたから」
病室前の廊下でその会話を聞いているのは、先日クラブチックにやってきたカイだった。
(結婚……?)
カイは、ユウとは違う理由で、結婚という言葉に引っ掛かっている。
その背後から、廊下を歩いてきた別の看護師がカイに声をかける。
「あら、あなた……アヤさんを病院まで連れてきてくれた人よね?」
カイは、足早にその場を立ち去った。
アヤは夢を見ていた。
何者かに追われれ袋小路に逃げ込んだアヤは、顔に劇薬をかけられる。目が燃えるように熱い。動くこともできず道に倒れて呻き声を出している。
そこに、一人の男が駆け込んでくる。
「くそ……遅かったか……」
男はそう言うと、アヤを抱き抱える。
「大丈夫か! しっかりしろ!」
アヤを呼びかける声が、どんどん遠ざかってゆく。
アヤが目を覚ますと、体が汗でびっしょり濡れている。今でも心臓がドキドキしている。視界が暗い。何も見えない。顔に手を当てると、目に包帯が巻かれている。
あれは夢じゃない。現実に起きたことだ。あの男の人は誰だったんだろう……?
ふと、アヤの手がベッドのフレームに触れる。
「このベッド……病院のベッドじゃない……」
アヤは慎重にベッドから降りると、手探りで周りを探りはじめた。
何もないガランとした部屋。タンスが一つだけ。引き出しを開けると服が入っている。ここがどこかは分からない。ただ、病院でないことは確かだ。
アヤは窓を見つける。窓を開けようと手を伸ばすと、そこには鉄格子があった。
「私……監禁されてる……?」
アヤは鉄格子を握ったまま叫ぶ。
「誰か! マサヨシさん! 助けて!」
そのとき、部屋のどこかから、クスクス……という小さな笑い声が聞こえた。
「誰……?」
誰も何も応えない。
「ねぇ、誰なの……?」
その人物が、どこかへ歩き去る足音が聞こえる。
「あ、待って!」
アヤはその足音を追いかける。扉が開いて、バタンッと閉まる。アヤが扉に到達したとき、ガチャリと鍵をかける音がする。
「教えて! ここはどこなの!」
アヤが扉を叩きながら叫んでいると、足元に何かが置いてあるのが分かる。しゃがんで手探りで確かめると、それは食事と水だった。
それから、何日が過ぎただろう。
アヤは来る日も来る日も、
「助けて! ここから出して!」と叫び続けた。
一日に何度か、扉が開いて、食事が置かれた。
隙を狙って外に出ようとしたこともある。しかし、力強い男の手で押さえつけられた。
「離して! ここから出して!」
暴れても無駄だった。アヤは男に投げ飛ばされ、扉は無常にも閉まってしまう。
どうやらあの男は、扉の前でこの部屋を見張っているようだ。クスクスと笑っていた女の人は、あれ以来一度も来ていない。
この部屋は、隅にシャワールームとトイレが完備されている。つまり、アヤをここに閉じ込めた犯人の目的は、アヤを健康なまま、ここに閉じ込めて、何かを待っているのだ。
しかし、それが何かは、皆目検討がつかない。分かるわけがない。
やがてアヤは、考えることをやめた。
その日、いつもと違うことが起きた。
いつものように扉がガチャッと開いたが、誰も入ってくる様子がない。食事も置かれない。
アヤは恐る恐る、開いたままの扉から外へ顔を出す。どういうことだろう……?
考えても分かるわけながい。でも……逃げるなら今だ!
アヤは大きく息を吐き、扉から出て走り出した。
建物の中を手探りで進み、玄関らしきドアを開けて、段差で転び、芝生の上に転げ落ちた。幸いどこも痛めてはいない。追ってくる者もいない。アヤは立ち上がり、息を切らせ、暗闇の中を手探りで走り続けた。足や手に、木の枝が当たる。おそらく切り傷から血が噴き出ている。どこをどう走っているか、全く分からない。ただ少しでも遠くへ、人がいる方へ、アヤは必死に走り続けた。
パーン! と大きな音がする。
「なに……? 爆弾……?」
アヤは思わず身をすくめる。しばらくその場でじっとしていると、何発もパーン! という音が上空で鳴る。
「花火だ……花火の音がする……」
そのとき、車の走行音が聞こえた。何台もの車が、アスファルトの上を走っている音……近くに広い道路がある。アヤは希望を抱き、広い道路へ向かって走り始めた。
何とか大通りに辿り着いたアヤは、助けを求めようと、走ってくる車に手を振る。
「助けて!」
しかし車は、速度を緩める様子がない。
「え……?」
ドン! という激しい音がして、アヤは宙を舞い、地面に叩きつけられた。
アヤは頭から血を流しながら、薄れゆく意識の中で叫び続ける。
「どうして……! どうしてこうなったの……?」
そのとき、アヤのすぐ近くに男が立った。男は誰かに電話をする。
「龍ヶ崎様。終わりました。計画通りです」
アヤは衝撃を受ける。龍ヶ崎……!
アヤの目に巻かれた包帯の下から、血が流れてくる。
まるで血の涙のように。
許さない……絶対に許さない!
◇
光の中を蝶々が舞う。
水面に波紋が広がる。
◇
アヤが意識を取り戻すと、そこは小さなギャラリーだった。
「え……?」
壁にはアヤの絵が十数点、飾られている。どれも、蝶をモチーフとした美しい絵だ。大勢の関係者がグラスを手に、アヤの挨拶を待っている。
個展初日の、レセプションパーティーの様子。
「これは夢……? いや違う……時間が戻ったんだ……
私は過去にタイムリープしたんだ!」
そのとき、場違いな大声が響き渡る。
「アヤー!!」
「まさか……」
人をかき分け、ブランド物に身を包んだリサが現れ、アヤに抱きつく。
「久しぶり~! 高校卒業以来じゃない?」
「リサ……」
アヤの脳裏に高校時代の思い出が蘇る。
真っ暗闇の中、ガンッ、ガンッ、という激しい音。そして、「クスクス……」と笑う声。監禁されてる時に聞いた、あの笑い声。笑い声の主は……リサだ!
「……ねぇ、聞いてる? アヤに紹介したい人がいるの。
あ、こっちこっち」
マサヨシが感じのいい微笑みを浮かべながら現れる。
「彼は弁護士のマサヨシさん。若い人の絵に興味があるんだって」
リサに紹介され、マサヨシはアヤに名刺を差し出す。
「初めまして。とても素敵な作品ばかりですね」
アヤは、震える手で名刺を受け取る。
そこには、『弁護士 龍ヶ崎マサヨシ』の文字。
車に撥ねられた瀕死のアヤ。近くに立った男は、電話でこう言った。
「龍ヶ崎様。終わりました。計画通りです」
「どうかされましたか?」
マサヨシが心配そうに、アヤに声をかける。
アヤはクラブチックでの、カイの言葉を思い出した。
「人は笑う時、普通口から笑う。そのあとに目が笑う。
でも、嘘をついている人間は逆だ。
まずは目が笑い……最後に口が笑う」
マサヨシは、ジッと自分を見つめているアヤに、笑いかける。
まず目が笑い……最後に口が笑った。
この人が……
この人たちが、私にあんな酷いことを……!
アヤは、激しい憎しみに満ちた顔で、マサヨシとリサを睨んでいた。
つづく。
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