CLUB CHICK STORY

OTA・GEEK PICTURES

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4話

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マサヨシは、驚かせたことをアヤに謝罪した。看護師が家族と勘違いしたそうだ。しかしアヤには、そんなことどうでもよかった。放心状態で、塞ぎ込んでいる。
「……水を飲んでください。少し落ち着くと思います」
 マサヨシは、グラスに水を注ぎ、アヤの手に握らせる。
「さぁ、一口だけでも」
 アヤは、水を飲む。途端、包帯の下からポロポロと涙がこぼれる。
「もうダメ……私の人生は終わりです……」
「終わりなんかじゃない! 諦めるのはまだ早い」
「でも……」
「僕に任せてください。あらゆる手を使って、あなたの目を治す名医を探します」
「マサヨシさん……」
 マサヨシは、アヤをグイッと抱き寄せる。
「あなたの目はきっと治ります。治してみせます!」
 アヤも、マサヨシの背中に手をまわす。
「ありがとう……」
「そのために、ちょっと相談が……いろいろ手続きをするのに、僕がアヤさんの身元引受人になる必要があるんです。そのための書類にサインしていただけますか?」
「サイン……わかりました」
 マサヨシはカバンから書類を取り出し、ベッド脇のテーブルに置いた。そしてボールペンをアヤの手に握らせ、サインをする箇所に誘導する。
アヤは、言われるがままサインをした。
「ありがとうございます。新しい医者が見つかり次第、ここを転院する手続きをします。もう少し待っててください」
 アヤは安心したせいか、とても眠くなってきた。
「すいません……少し眠ってもいいですか……?」
「大丈夫。安心しておやすみなさい」
 アヤは消えゆく意識の中で、微笑んでいるマサヨシの顔を思い浮かべた。

 病院の廊下に、クラブチックの店長であるレオ、ウエイターのユウ、キャストのチヅルが立っている。三人の表情は暗い。アヤの見舞いに来たはいいが、なんと声をかけていいかわらかず、病室の前で立ち尽くしていた。
 ユウが大きくため息をつく。
「お前……さっきから、ため息ばっかだな」
 レオがイライラしながらユウを責める。
「だって失明ですよ? そんなの可愛そ過ぎます……」
 ユウが涙を流す。レオはそれ以上、何も言えない。もちろん、チヅルも同じ気持ちだ。
「なんて声かけていいか分かんないよね……」
 レオは小さく気合を入れて、空気を変えようと試みる。
「こういうときこそ、明るく盛り上げんだよ。行くぞ!」
 そして、ユウとチヅルが止める間も無く、勢いよく病室へ入る。
「ヨォ! 元気か!」
 しかし、ベッドには誰もいない。
「……アレ?」
 あとから入ってきたユウとチヅルも驚く。
「いない……?」
「この部屋で合ってるよね……?」
 すると看護師がやってきて、
「アヤさんなら転院されましたよ?」と言った。
「転院?」
「ええ、旦那さんが手続きをされて」
「旦那!?」と、ユウが思わず大声を出す。
「アヤって結婚してたの……?」
 チヅルはレオに尋ねるが、レオも口をあんぐりと開けて驚いている。
 ユウはショックでボー然としている。
 その様子を見て、看護師が説明する。
「間違いありません。ちゃんと証明書も見せてもらいましたから」

 病室前の廊下でその会話を聞いているのは、先日クラブチックにやってきたカイだった。
(結婚……?)
 カイは、ユウとは違う理由で、結婚という言葉に引っ掛かっている。
 その背後から、廊下を歩いてきた別の看護師がカイに声をかける。
「あら、あなた……アヤさんを病院まで連れてきてくれた人よね?」
 カイは、足早にその場を立ち去った。

 アヤは夢を見ていた。
 何者かに追われれ袋小路に逃げ込んだアヤは、顔に劇薬をかけられる。目が燃えるように熱い。動くこともできず道に倒れて呻き声を出している。
 そこに、一人の男が駆け込んでくる。
「くそ……遅かったか……」
 男はそう言うと、アヤを抱き抱える。
「大丈夫か! しっかりしろ!」
 アヤを呼びかける声が、どんどん遠ざかってゆく。

 アヤが目を覚ますと、体が汗でびっしょり濡れている。今でも心臓がドキドキしている。視界が暗い。何も見えない。顔に手を当てると、目に包帯が巻かれている。
あれは夢じゃない。現実に起きたことだ。あの男の人は誰だったんだろう……?
ふと、アヤの手がベッドのフレームに触れる。
「このベッド……病院のベッドじゃない……」
 アヤは慎重にベッドから降りると、手探りで周りを探りはじめた。
何もないガランとした部屋。タンスが一つだけ。引き出しを開けると服が入っている。ここがどこかは分からない。ただ、病院でないことは確かだ。
アヤは窓を見つける。窓を開けようと手を伸ばすと、そこには鉄格子があった。
「私……監禁されてる……?」
 アヤは鉄格子を握ったまま叫ぶ。
「誰か! マサヨシさん! 助けて!」
 そのとき、部屋のどこかから、クスクス……という小さな笑い声が聞こえた。
「誰……?」
 誰も何も応えない。
「ねぇ、誰なの……?」
 その人物が、どこかへ歩き去る足音が聞こえる。
「あ、待って!」
 アヤはその足音を追いかける。扉が開いて、バタンッと閉まる。アヤが扉に到達したとき、ガチャリと鍵をかける音がする。
「教えて! ここはどこなの!」
 アヤが扉を叩きながら叫んでいると、足元に何かが置いてあるのが分かる。しゃがんで手探りで確かめると、それは食事と水だった。

 それから、何日が過ぎただろう。
 アヤは来る日も来る日も、
「助けて! ここから出して!」と叫び続けた。
 一日に何度か、扉が開いて、食事が置かれた。
 隙を狙って外に出ようとしたこともある。しかし、力強い男の手で押さえつけられた。
「離して! ここから出して!」
 暴れても無駄だった。アヤは男に投げ飛ばされ、扉は無常にも閉まってしまう。
 どうやらあの男は、扉の前でこの部屋を見張っているようだ。クスクスと笑っていた女の人は、あれ以来一度も来ていない。
 この部屋は、隅にシャワールームとトイレが完備されている。つまり、アヤをここに閉じ込めた犯人の目的は、アヤを健康なまま、ここに閉じ込めて、何かを待っているのだ。
 しかし、それが何かは、皆目検討がつかない。分かるわけがない。
 やがてアヤは、考えることをやめた。

 その日、いつもと違うことが起きた。
 いつものように扉がガチャッと開いたが、誰も入ってくる様子がない。食事も置かれない。
アヤは恐る恐る、開いたままの扉から外へ顔を出す。どういうことだろう……?
 考えても分かるわけながい。でも……逃げるなら今だ!
 アヤは大きく息を吐き、扉から出て走り出した。
 建物の中を手探りで進み、玄関らしきドアを開けて、段差で転び、芝生の上に転げ落ちた。幸いどこも痛めてはいない。追ってくる者もいない。アヤは立ち上がり、息を切らせ、暗闇の中を手探りで走り続けた。足や手に、木の枝が当たる。おそらく切り傷から血が噴き出ている。どこをどう走っているか、全く分からない。ただ少しでも遠くへ、人がいる方へ、アヤは必死に走り続けた。
 パーン! と大きな音がする。
「なに……? 爆弾……?」
 アヤは思わず身をすくめる。しばらくその場でじっとしていると、何発もパーン! という音が上空で鳴る。
「花火だ……花火の音がする……」
 そのとき、車の走行音が聞こえた。何台もの車が、アスファルトの上を走っている音……近くに広い道路がある。アヤは希望を抱き、広い道路へ向かって走り始めた。
 何とか大通りに辿り着いたアヤは、助けを求めようと、走ってくる車に手を振る。
「助けて!」
 しかし車は、速度を緩める様子がない。
「え……?」
 ドン! という激しい音がして、アヤは宙を舞い、地面に叩きつけられた。
 アヤは頭から血を流しながら、薄れゆく意識の中で叫び続ける。
「どうして……! どうしてこうなったの……?」
 そのとき、アヤのすぐ近くに男が立った。男は誰かに電話をする。
「龍ヶ崎様。終わりました。計画通りです」
 アヤは衝撃を受ける。龍ヶ崎……!
 アヤの目に巻かれた包帯の下から、血が流れてくる。
 まるで血の涙のように。
許さない……絶対に許さない!



 光の中を蝶々が舞う。
 水面に波紋が広がる。



 アヤが意識を取り戻すと、そこは小さなギャラリーだった。
「え……?」
 壁にはアヤの絵が十数点、飾られている。どれも、蝶をモチーフとした美しい絵だ。大勢の関係者がグラスを手に、アヤの挨拶を待っている。
個展初日の、レセプションパーティーの様子。
「これは夢……? いや違う……時間が戻ったんだ……
私は過去にタイムリープしたんだ!」
 そのとき、場違いな大声が響き渡る。
「アヤー!!」
「まさか……」
 人をかき分け、ブランド物に身を包んだリサが現れ、アヤに抱きつく。
「久しぶり~! 高校卒業以来じゃない?」
「リサ……」
 アヤの脳裏に高校時代の思い出が蘇る。
真っ暗闇の中、ガンッ、ガンッ、という激しい音。そして、「クスクス……」と笑う声。監禁されてる時に聞いた、あの笑い声。笑い声の主は……リサだ!
「……ねぇ、聞いてる? アヤに紹介したい人がいるの。
あ、こっちこっち」
 マサヨシが感じのいい微笑みを浮かべながら現れる。
「彼は弁護士のマサヨシさん。若い人の絵に興味があるんだって」
 リサに紹介され、マサヨシはアヤに名刺を差し出す。
「初めまして。とても素敵な作品ばかりですね」
 アヤは、震える手で名刺を受け取る。
そこには、『弁護士 龍ヶ崎マサヨシ』の文字。

 車に撥ねられた瀕死のアヤ。近くに立った男は、電話でこう言った。
「龍ヶ崎様。終わりました。計画通りです」

「どうかされましたか?」
 マサヨシが心配そうに、アヤに声をかける。

 アヤはクラブチックでの、カイの言葉を思い出した。
「人は笑う時、普通口から笑う。そのあとに目が笑う。
でも、嘘をついている人間は逆だ。
まずは目が笑い……最後に口が笑う」

 マサヨシは、ジッと自分を見つめているアヤに、笑いかける。
 まず目が笑い……最後に口が笑った。

この人が……
この人たちが、私にあんな酷いことを……!
 アヤは、激しい憎しみに満ちた顔で、マサヨシとリサを睨んでいた。

つづく。
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