【本編完結】悪役令息の役どころからはサクッと離脱することにする。

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第五章

赤病の薬3

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翌日、俺はさっそくシルに動いてもらった。
学校に行っている間に、アルのところに行ってもらい計画を説明、意見が聞きたいので夕方うちに寄って欲しいと伝えてもらう。

もう赤病の流行まで間があまりない。
薬は十分確保できたので、あとはそれを「どう世に出すか」だけなのだ。
これからの動き次第で、この国の犠牲者の数が変わる。
俺の大切な人たちへの危険を少しでも減らすには、すぐにでも動いた方がいい。

一方、俺は俺でルディアスに「重要な相談があるので、放課後に時間を貰えないか」と頼んだ。
ルディアスは「ミルが俺に相談?!」と驚いていたが、「今日にでもミルの家に寄ろう」と約束してくれた。
アレックス兄さんと会う約束をしていたそうで、二人でもいいかという。
アレックス兄さんならば計画を話しても問題ないだろう。




今日が運命の分かれ道だといえる。
俺が前世の記憶を取り戻したのは、もしかしたらこのためではないのかとすら思う。
ひとつも間違えるわけにはいかない。
王家の協力を取り付け、すべての薬を買い取ってもらう。
アルとマージェス家には王家へ定価で一発販売することの許可を。
また、可能ならば我々で一部負担することの許可も。
この我々の負担については、ダメならダメでいいと思っている。その場合はMS商会で負担するつもりだからだ。
だがこの宣伝効果は十分負担するに値する価値があると思っているので、できれば協力してほしい。
王家としても、単に施しを与えるというよりも「商会からの要請に応え」という形を取るほうが資金を出しやすいだろう。なんでもかんでも「王家が無償で配布する」という前例を作るのも良くないからだ。
「無償で当然という風潮を作らない」という意味でも、商会からの申し出、商会も一部負担するという形式が重要なのだ。

出資者すべてにメリットのある計画だとは思うが、あくまでもこれは俺の頭の中での話。
実際にメリットである「ルディアスの評判を良くする」「王家の権威と評価を高める」「商会の名を知らしめ名声を高める」というのは、目には見えない。金銭のように分かりやすいものではないだけに「絶対にこうなる」と確約できるものでもない。
だからこそ、納得してもらえなくても仕方ないと思っている。
これはボランティアではなく商売として計画し始めたものなのだから。
協力が得られない場合、貴族には高額で販売、その売り上げをアルとマージェス家に受け取ってもらう。そして平民のみ病院にて無償配布とし、その分のマイナスは全てMS商会が負担するつもりだ。
これまで我慢してやりたくないことをやってきたのだ。
初めてのわがままをどうか許してほしい。そのために、この頭でいいのならいくらでも下げる。





帰宅すると、すでにアルが家に来ていた。
おまけにオル兄とマージェス伯爵まで!
朝一番でマージェス家まで馬を飛ばし、皆をひきつれとんぼ返りしてくれたらしい。
馬車より速いからと馬で駆けてきたようで、どこかくたびれた様子。

「伯爵!それにオル兄まで!わざわざいらしてくださったのですか?」

驚く俺に、伯爵はにこりと頬を緩めた。

「ミルくん、おかえり。シルくんから大体の話は聞いた。
直接話をした方がよいと思ってね。来てしまったよ」

「いやあ、長距離を駆けるのは久しぶりでな。尻が剥けるかと思った!」

これでマージェス家、マージと出資者が全員揃った。

口火を切ったのは、伯爵だった。

「端的に言おう。我々もミルくんの計画に乗ろう。
王家には国民に対する責任がある。疾病の蔓延を食い止めるというのも、確かにそのうちの一つだ。
幸い流行ると予測した赤病には特効薬がある。いつ流行るのかもわからぬものを準備せよというのは難しいだろうが、『万が一流行った場合、我らが所有する薬を買い取ってくれ』ということは可能だろう。
しかも、ルディアス殿下をそれにかかわらせることで、一連の騒動を好転させることができるのだ。
王家としてもメリットは大きい。国民感情というのは、下り坂を転がりだせばなかなか元には戻らぬものだ。これは良いチャンスとなるだろう。
一方で、すべてを王家に負担させてしまえば、我々が得るのは一時の金銭のみ。無償配布する分の一部を負担することで、商会の名を広め、名声を高めることができるのならば、十分投資の価値はある。
自ら販売した場合の手間や人件費を考えれば、それくらいの負担はどうということはない」

「あ、ありがとうございます!…………でも、本当に良いのですか?」

「俺も父さんと同じ意見だ。
四分の三を王家に直接定価販売できれば、残りの四分の一を我々がふたんしても十分に利益は見込める。
販売する場所や人員の確保、在庫管理、そういった経費も手間も全て省けるんだから、逆に助かるくらいだ。
おまけに王家が無償で宣伝してくれて、名声も高まるうえに王家との縁をアピールできる。
めったにない好条件だと思う」

「オル兄!」

「あーあ!俺の言いたいことは全部父さんやオルが言っちまった。
てことで、マージェス家は総力を挙げてミルの計画に同意する!」

まさか、こんな風にすぐに賛同してもらえるとは思っていなかった。
思わず目が潤み、そっと下を向いて目を瞬く。
彼らはひとりの商売人としてこの俺に対等に向き合ってくれた。
だから、俺もひとりの商売人として、涙などはみせない。

すると伯爵がそんな俺の肩に手を置いた。その強く暖かなまなざしが俺に向けられる。

「たとえ多くの人を救うためだとしても、すべてを無償で提供しようといわれたのならば、商売人としては頷くことはできなかった。
我らにも養うべき雇人たちがいるからね。彼らのためにも、大きな儲けをみすみす手放すことはできないのだ。
私たちは慈善家ではない。貴族であり商売人なのだからね。
貴族の義務として慈善活動にも力を入れてはいるが、商売として投資したものを一時の情により慈善に切り替えるというのは難しいのだよ。
だがね。私たちには情がある。ミルくんの想いに応えたいという情がね。
もしも私たちが断れば、利益は我々に、マイナスは全て君にというつもりだったのだろう?
そのようなことはさせられない。その場合は、私たち個人の資産で協力することになったと思う」

「だな!商人としては頷けないが、弟と見込んだミルを見捨てるほど落ちぶれちゃいねえ」

「だが、ミルくんの提案はそんな必要のないほど非常に理にかなったものだった。
慈善を強要せず、情に訴えることもなく、きちんと我々のメリット、デメリット、利益を考慮した話を持ち掛けてくれた。
ありがとうミルくん。私たちの立場を理解し尊重してくれて。
私は家族としても、商売人としても君を誇りに思うよ」

ぎゅっとその胸に抱きしめられた。
シルとも違う、大きく暖かなその身体。父とはきっとこういうものなのだろう。
力強いその腕から、信頼が、愛情が伝わってくるような気がした。

零れ落ちる涙が伯爵の胸に吸い込まれる。
ああ、諦めずに頑張ってみて良かった。







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