【本編完結】悪役令息の役どころからはサクッと離脱することにする。

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第六章

襲撃者

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次に目を覚ますと病院のベッドに寝かされていた。
切ったのが頭だったせいで血が多く流れ、貧血で気を失ったようだ。

「……気が付いたのか、ミル。
大丈夫か?傷ができていたから縫ったんだ。
なかなか目を覚まさないから心配したぞ?
傷以外の異常は認められなかった。
迎えが遅れてすまなかった。………ミルを守れなくてごめん」

俺の手を握り、シルが項垂れる。

「いや、今日は早めに終わったんだ。どう考えても悪いのはシルじゃない。あの馬車の輩だろう」

ゆっくりと起き上がってみた。
打撲によるずきずきした痛みと、縫っただろう箇所に引き連れたような痛みがある。
だがそれ以外は問題なさそうだ。全治1か月といったところか。

「……まさか、ここまでするとは……」

「いつの世も成功を妬むものはいる。出る杭は打たれる、というだろう?」

「しかし、ミルは皆を救ったんだぞ⁈なのにこんなこと!!」

ギリと握られた拳から血が垂れた。

「こら、手を開け!傷ついているじゃないか!この馬鹿!」

慌てて拳をこじあければ、爪が掌に食い込んでいる。その指を一本一本開かせた。

「ちょうど消毒がある。良かったな。沁みるぞ?」

額の消毒のためにおかれた消毒を取り、傷を撫ぜる。シュワシュワと泡が立ち、しみたのかシルが顔を歪めた。

「ははは!痛いか?」

「ミルの方が痛いはずだ」

襲撃された俺よりも落ち込んでいる。

「なあ、シル。俺で良かった。
クラウスたちはともかく、ミルフェとランジェも共にいたんだ。
………最悪、彼女たちに当たったかもしれないんだぞ?
ご令嬢の顔に傷がついたら、終わりだ。
それを思えば、なんてことないさ。
俺も馬鹿だ。俺のせいで皆が傷つく可能性を考えなかったのだからな」

「………ミル。もうこんなことはさせない。誓う。
俺の実家の力、ルディアス、公爵家、使えるものはなんだって利用してやる。
手出しするものには容赦しないと思い知らせてやる」

ギラリと目を光らせるシル。

「……そうだな。黙って待つのはもうやめだ。
相手の馬車には一切の紋章がなかった。家紋も、商会の紋章も、なにもなかったんだ。ただの黒塗り。
しかも、貸し馬車ではなく高価な造りの馬車だった。
町馬車でない個人所有の馬車なのに所有者のことを一切悟らせない馬車は、それ自体が痕跡となる」

「………うむ。家紋がないお忍び用、しかも黒塗り。持ち主を探そう」

「職人をあたり、黒塗りの馬車の購入者を探せばいい。まだ新しかったところを見ると、購入したのは最近。つまり、俺を襲撃するために購入したものだ。おそらくは貴族、もしくは裕福な商人。
学校終わりの時間を知っているところを見ると、近隣に屋敷を構えているか、勤め先のあるもの、
これらの条件に当てはまるものを探してくれ」

「分かった。すぐに手配しよう」

シルの目に光が戻った。きっと高速で頭が回転しているはずだ。
うん。これでシルは大丈夫だな。

「ところでシル……今何時だ?」

「え?……22時だ」

時間を聞けば、あれから5時間経っていた。
もうそんな時間か。どうりで腹が減っているはずだ。

「シル、飯は食べたか?どうせ食べていないんだろう?食事にしよう」

「いや、しかし俺は……」

これから家に帰しても、シルのことだから寝ないに違いない。すぐに犯人捜しをはじめて休もうとしないだろう。
だから俺は強引な手に出ることにする。シルも病室に泊まらせればいいのだ。

「今日くらいは一緒にいてくれるだろう?」

こう言えばシルは断らない。

「食事はミルの分しかないぞ?」
「俺も起きたばかりでそう食べられない。シルも一緒に食べればいい。
ほら、そこのトレーを取ってくれ」





俺用に運ばれていた食事を一緒に分け合う。

「ほらシル。お前の方が酷い顔だぞ?きちんと食べろ」

食欲がないから、というシルの口を無理やりあけさせ、匙を突っ込んだ。
今からでは警邏も店も閉まっているだろう?
なら十分な休息をとって、動くのは明日からだ。

翌日には俺も帰ることを許された。
安全を考慮し、学校はまたしばらく休むこととなった。
残念だが、ある意味ちょうどいい。
俺はいくつか手紙を書いてシルに届けてもらうことにした。

ひとつはアレックス兄さんに。
兄さんはとにかく顔が広い。学生時代は騎士科に所属していたため、騎士や警邏、護衛などの職種に友人が多いのだ。
俺のあげた条件を書き記し、条件に合う下位の貴族に心当たりはないか調べてもらうよう頼んだ。

もうひとつはマージェス家に。
小さな商会で、最近売り上げの落ち込んでいるところ、またあまりたちのよくない輩と付き合いのあるところ、商会や取引先が学校近辺にあるところ。最近新たな馬車を購入したところ。
この条件に合う商会を調べて欲しいとお願いした。

最後はルディだ。
下位貴族の中で治療薬について王家になんらかの不満、陳情をしたものがいないか調べてもらう。

これらの条件の交わるところに犯人はいる。



俺を直接加害したことで満足したのか、相手の動きはしばらくなかった。
その間にも、屋敷には次々と情報が入り始める。
シルもアルから情報屋を紹介してもらい、あちこちにもぐりこませているようだ。

近日中に成果が出るだろう。
卑怯な手段に出た犯人は首を洗って待っているがいい。
友人にも飛び火はさせない。ここで食い止めてみせる。








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