【完結】俺が聖女⁈いや、ねえわ!全力回避!(ゲイルの話)  ※番外編不定期更新

をち。「もう我慢なんて」書籍発売中

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アイデンティティ

思い立ったが吉日

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という訳で。
兄貴んとこに先触れを出し、フィオに支度をさせにまずはグランディールに行くことにした。
グランディール家にはフィオしかいないと分かってるからこそできる暴挙だな。

まあ「初めてのご訪問」なんで、伯爵家ウチの家紋入りの馬車で向かった。
俺も久しぶりに貴族としての正装だ。うちだけに許された深翠を身に纏う。他家の配慮によりこの色を纏うのはサフィール家、グリフィス家のみだ。シルクのように光沢のあるトロリとした素材で作られたシャツに、サフィールの深翠のウエストコートとクラバット。それよりも少し暗い色のジャケットにはびっしりと金糸で刺繡が施されている。飾りボタンには家系の守護獣であるフェンリルを模した巨匠が。
自分で言うのもなんだが正装をしてビシっとキメた俺は、なかなかのビジュアル。貴族連中の言葉を借りるなら「近寄りがたいくらいの美形」だ。堅苦しいのが嫌いなのと、正装すると気持ち悪い輩がわらわらと湧いてくるからこんな正装はめったにしないんだが……今回は特別。
俺なりのグランディールへの誠意のつもりである。

正装した俺を見て、フィオは面白いくらいに狼狽えた。まずは目を見開いて絶句。しばらくそのまま微動だにしなかった。そしてビクッと動いたと思ったら全身がかあっと真っ赤に染まった。
口元を手で押さえひとこと。

「…………誰にも見せたくありません……」

「ふは!似合ってるだろ?変か?」

意地悪く聞いてやれば、慌てたように美辞麗句を並べだした。

「いえ!まるで神が作り出した芸術品のように美しく、到底言葉では言い表せません。眩しくて……目がくらみそうだ……!ああ!このようなあなたを見れば誰もがあなたを閉じ込めてしまいたいと願うでしょう!王族に見初められるかもしれません!ダメだ!やはり許せません!誰にもこんなあなたを見られたくない!あなたは私のものだ!」

こういいながらもどんどん俺に迫ってくるフィオ。ついにドンっと壁に押し付けられてしまった。まさか本当に家から出さねえつもりか?
俺の首筋に額を押し付け、苦悶の表情を浮かべているフィオ。
あまりの勢いに一瞬言葉を失ってしまった。

「お前、そんなにしゃべれたんだな。……いや勢いありすぎだろ?ビビるわ!」

「……すみません。自分でも驚きました。衝撃が強すぎて……」

「あのな。俺、正装って嫌いなんだよ。だからめったにパーティーにも出ないし、たいていはランクを落とした略装なんだ。俺はそれでも許されるしな」

「知っています。サフィールのパーティー嫌いは有名ですから。私を避けていたんですよね?」

「まあ、正確にいえばグランディールを、だけどな」

分かりやすく落ち込むフィオ。

「だけど、今日のこれはお前のために着たんだ。初めてのお宅訪問なんだ。愛する男の家門に敬意ぐらい表させてくれよ」

「私のために?」

「そう。お前のためだよ、フィオ。お前んちの連中に少しでも気にいられねえとな!これから俺も出入りするようになるんだからさ!」

ぎゅうっと無言で抱きしめられた。

「こ、こら!今はよせ!しわになるだろうが!」

「ゲイル……ゲイル……!とても……………嬉しいです」

ああ。フィオ、俺もだよ。まさかこんな気持ちでグランディールに向かうなんて思ってもみなかった。
グランディールとサフィールの関係を「呪い」だなんて思ってたけど。それが「運命」だって思えるくらいにはお前が大切なんだ。

お前をピカピカにして、兄貴んちに凱旋といこうぜ!
そして言ってやるんだ。

「兄上!グランディールとの呪いなんてなかった!これは運命だ!俺、知らずにこいつグランディールを拾っちまったんだ。んで、俺のわんこにしちまった。すんげえかわいいから、俺のにしたからな!俺もこいつのものなんだってさ!まあ、幸せだから許してくれ!父上と兄上のぶんも、俺がグランディールを幸せにしとくから安心しろ!」
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