【完結】俺が聖女⁈いや、ねえわ!全力回避!(ゲイルの話)  ※番外編不定期更新

をち。「もう我慢なんて」書籍発売中

文字の大きさ
57 / 111
第五章 ゲイルは聖女

式に向けてのいろいろ

しおりを挟む
衣装選びの他にもいろいろとやることができた。

王城でのお披露目で貴族連中への義理は果たすことになるだろう。てか、果たすことにする。
だから結婚式には俺の身内、サフィール家の連中と、お忍びでハルト、それと俺の病院を手伝ってくれている孤児院の子供たちと、ギルドの奴らを呼ぶつもりだ。
貴族平民入り混じるが、それは俺たちの式なんだから好きにさせてもらう。

一応、俺が聖女だとか孕めるってのは王家からの公表までは秘密。招待客には「結婚式」じゃなく「俺とフィオのお披露目パーティー」ってことにして招待状を出すことにした。
ギルド長のクリスにはなんだか世話になったような気がしなくもねえから、俺が直々に持って行ってやることにしよう。




結婚するにあたって、気になることがひとつあった。……元俺のストーカークソ男、セルゲイ・オーレン。俺と同じ爵位のオーレン伯爵家当主だ。こいつの親は反王家筆頭、権威主義のアイクリッド・フィラー公爵。グランディール家の次に高位な貴族なのだ。

フィラー公爵には二人息子がいる。
ひとりはシュバイツ。彼はいわゆるアルビノの一種で、漆黒の髪に真っ赤な瞳をもつ。その真っ赤な瞳が気持ち悪いとフィラー家には受け入れられず、劣勢遺伝子は不要だとして、魔法や魔道具を研究する魔塔の魔塔主のもとに養子にだされた。魔力が非常に多く、王国では俺の次くらいの魔力量を誇り、今では若くして魔塔の塔主だ。
俺も魔道具開発に協力したことがあり、シュバイツとはわりと親しくさせてもらっている。ちょっと言動がふんわりしているが非常に頭はいい。変わり者の気のいいヤツなのだ。

問題はもう一人のほう。劣勢遺伝子を持つ長男の代わりにと、事実上の嫡男として育てられたセルゲル・オーレンだ。奴は、廃嫡されたのに非常に優秀だった長男に歪んだ劣等感を持っていた。そしてそれをごまかすためにか、常に尊大な態度をとり自分の優位を主張する嫌な奴に育った。
幸いというべきか、不幸にもというべきか、セルゲイは非常に見目の良い男だ。波打つような金髪に紫の瞳をもつ神秘的な容姿の美丈夫。その優れた容貌と、高位貴族の嫡男という立場が、彼の横暴をまるで当たり前のように周囲に受け入れさせた。そのせいで、奴は自分が望んだものはすべて自分の手に入るものだと勘違いしていた。

多くの女や時には男と浮名を流していたセルゲイ。俺はたまたま「グランディールは参加しないから、たまには出ろ」とハルトに言われしぶしぶ参加した晩餐会で奴に目をつけられてしまった。
自慢じゃないが、俺の名はそれなりに知られている。だが、俺の名を知ってはいても、姿は知らないものも多い。特にグランディールに近いものにはかかわらないようにしていたから、同じ公爵家であったセルゲイとも会ったことはなかった。
セルゲイも俺も、実家を出てそれぞれ伯爵位にあった。俺は次男だから公爵家を継ぐことはない。伯爵家が正式な爵位になる。だが、セルゲイにとっての伯爵家は公爵家を継ぐまでの一時的な爵位にすぎない。
そのせいか、彼は同じ伯爵位であっても俺のほうを「格下」だと判断したようだ。
自信満々な顔で近づいてきて、勝手に俺の手を取ると手の甲に口付けしてきやがった。同性で対等の相手にしていいことではない。そのうえでこの俺にこうのたまったのだ。

「やあ、きみがゲイルかな? 噂にたがわずお美しい。私はフィラー公爵家が嫡男であり、オーレン伯爵家当主のセルゲイだ。私のことはルーグと呼んでくれ」

この挨拶を聞いただけでこいつはクソだと思った。そもそも、親の爵位をわざわざ口にするところがクソだ。
で、俺はクソにはクソな対応をすることにしている。

「あなたがオーレン伯爵か? すまないが、あなたの噂はろくでもないものしか聞いたことがないんだ。俺はサフィール侯爵家の次男であり、グリフィス伯爵家の当主でもある、ゲルリアス。俺のことはグリフィスと呼んでくれ」

全く同じセリフで、さらに通称で呼ぶことは拒否してやり、「大抵のことはこれで通る」という必殺の笑顔で挨拶を返す。そして、おもむろに懐からハンカチを取り出す。

「失礼」

セルゲイの目の前でヤツの唇のふれた個所を丁寧にふき取る俺に、セルゲイの顔が歪んだ。

「は、ははは! 面白い方だ! 美しいバラにはトゲがあるというが……。私はね。欲して手に入らなかったものはないのだ。モノでも……人でもね」

「それはお幸せな人生でいらっしゃる。挫折があるからこその人生なのですよ。苦みも味わってこそ、人間の深みがでる。私は人生の苦みを知りそれでも立ち上がる人間というものが好きなんです」

暗に「お前みてーな奴は好きじゃねえ」と伝えたつもりだったのだが、自信過剰なセルゲイには伝わらなかったようだ。彼は挑戦的に目をギラリと光らせた。

「では、何度でも立ち上がろうではないか。私はあなたが欲しい」

「 晩餐会に出たのは失敗だったようだ。私はモノではない。
それに私は男ですよ? 目の検査をされたほうが良いのでは? それとも脳の検査が必要でしょうか?」

「おかしなことを言う! あなたのその輝きの前には性別などささいなこと。この場は引きましょう。でも諦めませんよ、私は」




その言葉通り、伯爵家には翌朝豪華なバラの花束が届いた。恋人でもない男にバラを送る神経ってもんが俺には信じられん。せめて寄越すなら食えるものか酒を寄越すべきだ。そういう気障なところも俺がヤツを嫌いな理由のひとつだ。
連日のように花束が贈りつけられ、受け取り拒否しようがしまいが、翌日また新しいものが届く。

そんな毎日に辟易した俺は、先ぶれを出してオーレン家に直接向かった。




オーレン家につくと客間に通され、めったに流通しない珍しい茶葉の紅茶が供された。

「私の商会でもなかなか手に入れられない代物です。どうぞ。あなたのために用意させました。」

こういう恩着せがましいところがなあ。だが、紅茶に罪はない。遠慮なく頂こう。
さすがの高級茶葉。程よい苦みの後に残る果実にも似た甘みとふくよかな香り。セルゲイのところでしか買えないのなら、もうこれを飲むことはねえのか。少し残念に思う。

「オーレン伯爵。どういうおつもりですか? 誘いを断った相手に対してしつこくするのはマナー違反では? それともそこまでお相手がいらっしゃらないのか? 申し訳ないが、私の恋愛の対象は女性だ。君は論外。諦めてくれ」

すると奴は意外にも殊勝な表情を浮かべた。

「私の誘いを断ったのはあなたが初めてだ」
「それはよかった。誰にでも初めてはあるものです」
「私はね、その美しい外見はもちろん、その内から出る輝きに惹かれたのだ。激しい気性すら好ましい。あなたのすべてが欲しいのです」

熱っぽく俺の手をつかむセルゲイの目に、ゾっとした。

と、くらり、とめまいを感じる。

「ふふふ。効いてきましたか? 言ったでしょう? 欲しいものは必ず手に入れると。心配なさらなくても、あなたのことは大切に致しますよ? あなたの望みは全てかなえましょう。あなたは誰とも比べようもない唯一の人だ」

「…………何をした?」

「少々薬を入れさせていただきました。副作用もなにもないものですのでご安心を。身体が敏感になるだけですよ。最高の時間をお約束します。ああ……ようやくあなたが手に入る……」

セルゲイの顔がどんどん近づいてきた。おいおい。俺は男だぞ?
まさか薬まで使って俺を犯すつもりか? 冗談じゃねえ! 

「ヒール! 」

俺は自己ヒールで一気に薬剤を分解、汗として排出させた。
と同時に躊躇なくセルゲイのこめかみに一撃を入れてやる。

ゴッ! 

「!!」

こめかみは人間の急所だ。ここに衝撃を与えられると脳と三半規管が揺さぶられ、しばらく起き上がれなくなる。

無様に床に崩れ落ちたセルゲイの股間に足を乗せ、俺はほほ笑んだ。

「これ、制御不能みたいだからさ。いらねえよな? 」

貴族的対応?知るか!この俺に薬を盛った時点で有罪だ。
少し力を込めればふにゃりとした感触が靴底に伝わる。気持ち悪いが仕方ねえ。セルゲイの顔が紙のように真っ白になった。まるで壊れた機械のようにぶるぶると左右に首を振る。

「俺が最強のゲイルって言われてんの知らねえのか? 最強のヒーラー、最強の医者なんだよ。薬なんて効くわけねえだろ? それとな。それだけじゃねえ。魔法も戦闘力もギルド仕込みで最強なんだ! 」

徐々に足の力を強める俺に、セルゲイは必死で懇願した。

「わ、私に好かれて迷惑だというものはいない! それにあなただけは特別なんだ!大切にするつもりだった!だから、だからあなたも私に堕ちるものと……」

「あのさ、アンタ自分が美形だとか思ってんだろ? 自分が迫った奴はみんな堕とせるとでも勘違いしてんだろ? 俺はそういうやつが一番嫌いなんだよ! 迫るなら花なんて送らずに正々堂々と俺んちに通って来い! 嫌がることをするような奴を好きになるわけねえだろ? 薬なんて論外なんだよ! 」


ダン! 
足を振り上げて股間の間に落とせば、セルゲイは泡を吹いて失神した。
全くなさけねえ。色男も形無しだぜ。





それ以来、セルゲイは俺を諦めた……というわけではなく、俺のうちに酒を手土産に通ってきた。そのたびに俺は「女が好きだ」「男は対象外」だと言い続け、やがて諦めたのかようやく来なくなったのだが……。

ここで俺が男であるフィオと結婚すると公表すれば、セルゲイがまた動き出す可能性があるのだ。



しおりを挟む
感想 107

あなたにおすすめの小説

公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。 8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。 序盤はBL要素薄め。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。

みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。 愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。 「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。 あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。 最後のエンドロールまで見た後に 「裏乙女ゲームを開始しますか?」 という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。  あ。俺3日寝てなかったんだ… そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。 次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。 「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」 何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。 え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね? これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...