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第9章 聖女のお披露目
ギルドの後ろ盾
しおりを挟む青ざめながらもなんとか笑顔を浮かべてくれるセルゲイ。
俺は本当にこいつを見くびっていたんだなと、申し訳なく思った。
もう少し早く語り合っていれば、ここまで傷つけずにすんだのだろうか。
しかし、今更だ。
クリスが、セルゲイが納得するくらい、俺たちが幸せになるしかねえな。
静まり返った空気をハルトが強引に壊し、式を進めてくれる。
「ほかに異論のある者はおらぬか?……良いようだな。
では、紹介を続けよう。
聖女とその伴侶を守るものも、この場で示しておく。
皆知っての通りゲルリアスもフィオネルも強すぎるほどに強い。
その力の強大さを知るものはよいが、知らぬものがなにかしでかさぬとも限らんのでな。
この国一番のギルドである王国ギルドのギルド長が後ろ盾につくことになった」
ずいっとクリスが一歩前に。
「あー、クリスだ。ゲイルの後ろ盾には、今後俺を含めた全てのギルドが付くことになる。
つまりこれは全ての冒険者が付くことと同意だ。
これまで多くの冒険者がゲイルに救われた。我々冒険者はゲイルに恩がある。
聖女だということだけでなく、それがゲイルだからこそ、ギルドは聖女を守る。
ゲイルに仇なすものは、全ての冒険者を敵に回すことだと知れ!」
堂々たる体躯から放たれた声がビリビリと空間を震わせた。
歴戦の猛者、S級の覇気をぶつけられた貴族たちが、肌を泡立たせる。
幾多の死線を潜り抜け、スタンピートの間も笑いながら魔物を狩るようなヤツの覇気だ。
戦いから遠のいて久しい貴族はひとたまりもない。
無意識に肌をさするものまでいた。
おいおい。ちょいと脅しすぎ……いや、これくらいやっとく方が後で楽か。
うん。よくやったクリス!
だけど、俺たちは別に貴族の敵じゃない。俺だって貴族なんだし、それなりに仲良くやってきたつもりだ。
俺たちが守るのは、この王国。そこには貴族連中だって含まれるんだぜ?
ビビらせたままっつーのも後味が悪い。
そこで俺は、威力がありすぎるってんで兄貴に封印されてた笑顔を解禁した。
いわゆる「全てを包み込むような慈愛の微笑み」だ。
青ざめていた貴族たちの顔が俺に集中し、血の気を取り戻す。
うっとりと見惚れて口を開けちまったやつもいるが、想定内なので問題ない。
俺たちは敵ではないと示し、貴族たちが俺たちの敵に回らなければそれでいい。
「どうか聞いて欲しい。
俺は聖女だが、この王国の貴族であるグリフィス伯でもある。
それに、ヒーラーであり医師でもあることに変わりはない。
聖女とはいえ、俺自身はこれまでどおりのゲイルだ。
同様に、フィオネルも貴族の一員であり、王国の宰相でもあるグランディール公爵だ。
何が変わるわけでもない。
要請があれば治療も引き受ける。まあ、金はとるがな?」
わざと茶化せば、少しの笑いが起こった。
「聖女の癖にがめつい奴め!」
フィラーのオッサンが突っ込んできた。さすが強心臓だ。
「貴族が金をため込むからだろう?俺は聖女様だからな!
金のない平民にも同じ慈愛を注ぐんだよ!取れるとこからとるに決まってるだろ?」
「それでこそゲイル!」
お。辺境伯か。
このオッサンは金も権力もあるのに貴族っていうよりも冒険者に近い感覚を持っている。
たまに依頼で騎士団の治療に行ってやることもあるんだが、気さくな人物だ。
「あんがとよ!」
ひらひらと手を振って声援に応えてやる。
「あー、話はそれてしまったが、特例でフィオネルとの婚姻を認めて貰ったのには理由がある。
実は……聖女は男同士でも子が成せる」
せっかく温まった空気が一瞬で凍り付いた。
何故かみな俺の腹を食い入るように見つめている。
「いや、俺の腹を見るな!まだできちゃいねえからな?!」
こほん、と咳払いし、改めて口調を聖女らしいものに戻す。
「聖女は男女問わず子を成せる。聖獣フェンリル曰く、聖女の血を次代につなぐためなのだそうだ。
俺はフィオネルとの子を望む。
だから俺とフィオネルの子を養子ではなく俺たちの子として正式に認めてもらうため、俺たちの婚姻を正式なものとして陛下に承認してもらった。
あなた方にも承認してもらいたい。
そのために今回俺が聖女であると公表し、フィオネルが伴侶であること、ギルドが後ろ盾となったことをこの場で示させてもらった。
このような事情であることをご理解頂きたい」
誰も言葉を発するものはなかった。
どうやら聖獣だの聖女だのよりも「男が子を産める」ことの衝撃の方が勝ったようだ。
ここで声をあげたのは、空気読まない殿堂入りのルーだ。
ちなみにいつの間にか省エネモードのチビに戻っていた。
「あのねえ、聖女は過去にもいたし、子を産んだ男の聖女もいたんだよお。
ただ、ゲイルほど力は強くなかったけどね。
さりげなあく交わってさりげなあく産んで、それで聖女の血はつながってきたんだよー!」
や、やっぱそうだったか!
じゃあ、あの家系図でグランディールとくっついてた男の「養子」っての、実の子か!
つくづく、俺の相手がフィオでよかったぜ……。あと親父と兄貴。グランディールを避け続けてたの正解だったな!
あの先代に見つかってたらぜってー有無を言わさずあのクソの子を孕まされてたぞ!
兄貴も親父も魔力は多いがあいつほどじゃねえからな。抵抗できなかっただろうなあ……。
貴族たちもビビったろうが俺もビビった。
無意識に隣に立つフィオの手を握っちまってたくらいには。
セルゲイが切ない表情でおかしな位置に視線を寄越してたもんで、その視線をたどって気付いた。
慌てて放そうとすれば「よいのですよ」と苦笑された。
マジでいい奴だった、セルゲイ。改心してたのに気付かず、すまんかった。
「聖女ってすごいでしょお!ゲイルの力は、歴代最強だから!ほぼゲイルがいるだけで大丈夫っていうくらい、最強なの。だからみんな、安心していいんだよー!
その子供だってきっとすごい子になるよ。楽しみだねえ!」
マジで空気読めよ、ルー!
言い過ぎなんだって!
ほおら、見てみろ!貴族連中の目が一気に
「ゲイル、頼んだぞ!」
「子をはやく産め!楽しみにしてるぞ!」
みたいな子づくり推奨モードになっちまったじゃねえか!
い、いたたまれねえ……!!!
おい、フィオ!
任せてください、って俺の肩を抱くな!マジで今はヤメロ!!
オッサン、俺の腰みてニヤつくんじゃねえ!フィオに殺られんぞ!
命が惜しくねえのか!
俺は大声で叫んだ。
「お前ら、俺を何だと思ってる!聖女だぞ!もちっと敬えよ!」
クリスが爆笑した。
これ……王城での正式な式典じゃなかったか?グダグダじゃねえか!
ルーのせいだぞ!このやろう!
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