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ゲーテ
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ゲーテの『若きウェルテルの悩み』を読んだ。
あの「ウェルテル効果」と呼ばれるまでに至った原因の小説で、
ずっと気になってはいたものの、手を出さずにいた。
というのも、影響力の強い本というのは、
軽い気持ちで手を出すと、よくない影響を受けてしまうことを知っているから。
かつて、ヨーロッパで若者の自殺者が増えた原因になったことを考えると
ちょっと怖くて読めなかったのだが、ようやく、読んでもいいかなと
思えるようになったので、読むことにした。
若きウェルテルの悩みは、ざっくり言ってしまうと
婚約者のいる女性を好きになってしまい、その恋に敗れた青年が自殺する話。
だが、こんな一行で説明してしまっていい小説ではなかった。
まず、主人公のウェルテルという男。
こいつは、なんていいやつなんだろう。
多分、女性からモテるタイプだと思う。でも、恋愛のモテるではなく、
おそらく仲良くなった人に「良い人」で止められがちなタイプでもある。
とても真っ直ぐで、感受性が強く、情熱的。
この特徴は、若さゆえのものなのか、ウェルテルの持つ気質なのか、
それとも、ドイツ人というのも関係があるのか。
私は、民族的に性格に特性が多少なり現れるものだと思っている。
アメリカ人がチャレンジ精神が旺盛で、危険なことも平気で挑戦する者がいるのは、
地域によって気候や太陽の日照時間が違うこと。
それによるテストステロンなどの生成と分泌の
量が異なるから、と聞いたことがあった。
それでいうと、日本は海に囲まれた島国で、地震などの
自然災害も多く、陸続きのヨーロッパなんかと比べると、
孤立していて外国人との交流もしづらい。
そのため、日本人は心配症や集団圧力などが強く働きやすいのかもしれない。
そう、だからウェルテルの性格というのは、ちょっと特徴的ではあるけど
ヨーロッパ人特有のブラックユーモアや皮肉っぽさはなく、
あっけらかんとして親しみやすく、好印象を抱きやすいタイプ。
都会から、田舎へ訪れた際に、自然の中にその美しさを見出し、
素直に感動してしまうところ。自然を見て、そこに美しさを捉えるだけの感性が
あって自分はそこそこの階級の身分でありながら、周りの人に対して差別なんかしない。
感受性に優れておきながら、理性でものを考える知性だって秀れている。
なのに、どうしてかロッテのことになると突っ走ってしまうらしい。
恋した若者のありがちな暴走とも言えるが、視野が狭くなった人間は
猪のように突っ走るので、読んでいてヒヤヒヤする。
実際、そんなところを、ロッテに指摘されているのだが、
指摘された直後に、「僕はロッテのために生きるのだ」なんて
また言い出すので、そういうとこだよと突っ込まずにはいられない。
そして、ウェルテルにとっての想い人であるロッテには
アルベルトという、なんとも理性的でいいお相手がいて、後に夫婦となる。
このことは、確かにウェルテルを十分に苦しませたのだと思う。
それはもう死んでしまいたいほどに。
だけれどこの『若きウェルテルの悩み』は、それだけが苦悩のもとではない。
田舎と都会、ロッテから逃げるように、忘れるために、
都会へ帰ったあとに仕事に打ち込もうとするウェルテルだが、
その職場の人間との折りが合わず、結局、その仕事も辞めてしまう。
こんなことは、現代にもよく聞く話だと思う。
当時の考え方で言うと、感情で乱費しまくって
めちゃくちゃになった後始末を科学で補うかのように、
啓蒙思想が流行っていた時代である。
人間は、とても気分屋で、矛盾した行動をとってしまうから、
内輪でも争い、外でも争い、戦争まで起こしてしまったわけだし
もうそんな馬鹿なことはやめて、科学に頼りましょうよ。
理性に頼りましょう。人間には理性があるのだから、本能すらをも
抑えることができるし、そうするべきだ。そう言う考え方をされると、
激情型の、しかも恋に燃えている若いウェルテルには、
どうも反発心が芽生えるようで。
詩人・ゲーテは、その反発の証しなのか、後半に差し掛かると
美しい詩のような文体で、ほら仕上げだと言わんばかりに感情を揺さぶってくる。
これで、まんまと揺さぶられてしまった結果「ウェルテル効果」が起きたのかと
思うと、なんてゲーテという人はしたたかな野郎なんだと思わざるを得ない。
そうやって啓蒙思想に反発した、若者ウェルテルが破滅したところを見る限り、
かえって啓蒙思想を支持しているようにも見える。ウェルテルという人物に
心理学でいう「投影」をさせ、揺さぶり、仕事や恋愛や人間関係という
誰しも悩みうるもので絶望させ、感情移入させ、
そうして、もう救いなど何もないんだと思わせたあげくに殺したのだ。
啓蒙思想なんてものは越えてしまっている。
ああ、読んで良かった。
あの「ウェルテル効果」と呼ばれるまでに至った原因の小説で、
ずっと気になってはいたものの、手を出さずにいた。
というのも、影響力の強い本というのは、
軽い気持ちで手を出すと、よくない影響を受けてしまうことを知っているから。
かつて、ヨーロッパで若者の自殺者が増えた原因になったことを考えると
ちょっと怖くて読めなかったのだが、ようやく、読んでもいいかなと
思えるようになったので、読むことにした。
若きウェルテルの悩みは、ざっくり言ってしまうと
婚約者のいる女性を好きになってしまい、その恋に敗れた青年が自殺する話。
だが、こんな一行で説明してしまっていい小説ではなかった。
まず、主人公のウェルテルという男。
こいつは、なんていいやつなんだろう。
多分、女性からモテるタイプだと思う。でも、恋愛のモテるではなく、
おそらく仲良くなった人に「良い人」で止められがちなタイプでもある。
とても真っ直ぐで、感受性が強く、情熱的。
この特徴は、若さゆえのものなのか、ウェルテルの持つ気質なのか、
それとも、ドイツ人というのも関係があるのか。
私は、民族的に性格に特性が多少なり現れるものだと思っている。
アメリカ人がチャレンジ精神が旺盛で、危険なことも平気で挑戦する者がいるのは、
地域によって気候や太陽の日照時間が違うこと。
それによるテストステロンなどの生成と分泌の
量が異なるから、と聞いたことがあった。
それでいうと、日本は海に囲まれた島国で、地震などの
自然災害も多く、陸続きのヨーロッパなんかと比べると、
孤立していて外国人との交流もしづらい。
そのため、日本人は心配症や集団圧力などが強く働きやすいのかもしれない。
そう、だからウェルテルの性格というのは、ちょっと特徴的ではあるけど
ヨーロッパ人特有のブラックユーモアや皮肉っぽさはなく、
あっけらかんとして親しみやすく、好印象を抱きやすいタイプ。
都会から、田舎へ訪れた際に、自然の中にその美しさを見出し、
素直に感動してしまうところ。自然を見て、そこに美しさを捉えるだけの感性が
あって自分はそこそこの階級の身分でありながら、周りの人に対して差別なんかしない。
感受性に優れておきながら、理性でものを考える知性だって秀れている。
なのに、どうしてかロッテのことになると突っ走ってしまうらしい。
恋した若者のありがちな暴走とも言えるが、視野が狭くなった人間は
猪のように突っ走るので、読んでいてヒヤヒヤする。
実際、そんなところを、ロッテに指摘されているのだが、
指摘された直後に、「僕はロッテのために生きるのだ」なんて
また言い出すので、そういうとこだよと突っ込まずにはいられない。
そして、ウェルテルにとっての想い人であるロッテには
アルベルトという、なんとも理性的でいいお相手がいて、後に夫婦となる。
このことは、確かにウェルテルを十分に苦しませたのだと思う。
それはもう死んでしまいたいほどに。
だけれどこの『若きウェルテルの悩み』は、それだけが苦悩のもとではない。
田舎と都会、ロッテから逃げるように、忘れるために、
都会へ帰ったあとに仕事に打ち込もうとするウェルテルだが、
その職場の人間との折りが合わず、結局、その仕事も辞めてしまう。
こんなことは、現代にもよく聞く話だと思う。
当時の考え方で言うと、感情で乱費しまくって
めちゃくちゃになった後始末を科学で補うかのように、
啓蒙思想が流行っていた時代である。
人間は、とても気分屋で、矛盾した行動をとってしまうから、
内輪でも争い、外でも争い、戦争まで起こしてしまったわけだし
もうそんな馬鹿なことはやめて、科学に頼りましょうよ。
理性に頼りましょう。人間には理性があるのだから、本能すらをも
抑えることができるし、そうするべきだ。そう言う考え方をされると、
激情型の、しかも恋に燃えている若いウェルテルには、
どうも反発心が芽生えるようで。
詩人・ゲーテは、その反発の証しなのか、後半に差し掛かると
美しい詩のような文体で、ほら仕上げだと言わんばかりに感情を揺さぶってくる。
これで、まんまと揺さぶられてしまった結果「ウェルテル効果」が起きたのかと
思うと、なんてゲーテという人はしたたかな野郎なんだと思わざるを得ない。
そうやって啓蒙思想に反発した、若者ウェルテルが破滅したところを見る限り、
かえって啓蒙思想を支持しているようにも見える。ウェルテルという人物に
心理学でいう「投影」をさせ、揺さぶり、仕事や恋愛や人間関係という
誰しも悩みうるもので絶望させ、感情移入させ、
そうして、もう救いなど何もないんだと思わせたあげくに殺したのだ。
啓蒙思想なんてものは越えてしまっている。
ああ、読んで良かった。
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