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プロローグ
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歩き始めるとあっという間に日が暮れた。
森の中は暗くなり、夜が来る。
その不自然な時間の流れにユーサは「何かイベントが始まった」と察する。
その予想の通り、暗くなってすぐに茂みの向こうが揺れた。
「戦闘チュートリアルの始まりか」
ユーサが呟くのと茂みの中から三体のゴブリンが飛び出すのはほぼ同時だった。
腰ほどの背丈しかない小人たちが邪悪な笑みを浮かべている。
驚いたのはそのリアルさだ。
不揃いで不衛生な牙が見え隠れし、殺意の籠った目で睨みつける。
ラフクエの革新的な技術によって再現された嗅覚は異臭を捉えた。
似ている。
ユーサは思った。
召喚された異世界で、初めて戦った魔物もゴブリンだ。
どんな偶然か、目の前にいるゴブリンたちの姿はその時のゴブリンたちにそっくりだった。
一体のゴブリンが持っていた棍棒を振り上げる。
それに呼応して、後ろの二体が何かを喋るように呻く。
言葉の意味はわからないが、明らかに会話をしていた。
「なるほど。リアルだ」
よく出来た作り物。
この時、ユーサの認識はまだその程度だったがゲームを始める前のあの億劫な気持ちはすでに消えていた。
その証拠に口角が僅かに上がっている。
ゴブリンたちが同時に飛び掛かる。
ユーサは剣を抜いた。
初期装備として最初から持っていた唯一の武器だ。
一番前にいたゴブリンが振り下ろした棍棒を剣で受け止める。
金属と硬いものがぶつかる音がして、衝撃がずっしりと腕に伝わる。
その感覚はとてもリアルだった。
脳裏に異世界での戦闘の日々が思い起こされる。
「なんの指示もなし……か」
戦闘が始まっても何のチュートリアル表記もない。
大抵のゲームは初めての戦闘の際に何かしらの指示が出るものだがラフクエにそのシステムはないようだ。
「なら、自由に戦っていいってことだよな」
ユーサは剣を振り払い、片方の手で体勢を崩したゴブリンの身体を掴む。
ぐにゃり、と人間とは明らかに違う肌の感触が伝わる。
こんなところまでリアルにしなくても……と気色の悪さを我慢しながら掴んだゴブリンを後ろの二体目がけて放り投げる。
「よし。リアルさを追求しているって言うだけあって戦い方は直感的だ」
VRゲームの中には昔のゲームのシステムそのままに戦闘をコマンド方式にしている物もある。
どちらがいいかは一長一短なのだろうが、ユーサはアクション性の強いゲームの方が好きだった。
現実で身体を動かすのと同じようにゲームの中でも戦えるからだ。
そういったゲームでは現実世界での運動神経が物をいう場合が多い。
昔からゲームが好きなだけあってユーサはこういうタイプの戦闘に慣れているし、現実での運動神経も悪くない。
何より、異世界で戦ってきた二年間の経験が活きている。
過去の自分よりも圧倒的に動きが良くなっていることにユーサは気づいた。
しかし、経験だけではどうしようもないこともある。
武器の耐久値だ。
手にしているのは勇者が使う聖剣でも、王様がくれた高級な装備でもない。
ゲームを始めたプレイヤー全員に等しく配られる質の悪い鈍らの剣だ。
その剣には棍棒の一撃ですら荷が重かったらしい。
攻撃を受け止めた際に僅かにヒビが入ったのをユーサは見逃さなかった。
ゲームによっては武器の耐久値が数値として表示されることもあるが、ラフクエでは違うらしい。
けれど、目に見える剣のヒビを無視することはできない。
「マジかよ……」
ボヤきつつ、ユーサは走り出した。
いくら異世界で魔王を倒した勇者とはいえ武器なしでは戦いようもない。
それに、ラフクエはレベル制のRPGだ。
どんなに運動神経がよく、異世界で戦闘の経験があろうとも超えられない壁はある。
ゲームを始めたばかりのユーサは当然レベル1。
それに対してゴブリンは三体ともユーサより僅かにレベルが高い。
状況を鑑みてユーサは一先ず逃げることを選択したのだった。
森の中は暗くなり、夜が来る。
その不自然な時間の流れにユーサは「何かイベントが始まった」と察する。
その予想の通り、暗くなってすぐに茂みの向こうが揺れた。
「戦闘チュートリアルの始まりか」
ユーサが呟くのと茂みの中から三体のゴブリンが飛び出すのはほぼ同時だった。
腰ほどの背丈しかない小人たちが邪悪な笑みを浮かべている。
驚いたのはそのリアルさだ。
不揃いで不衛生な牙が見え隠れし、殺意の籠った目で睨みつける。
ラフクエの革新的な技術によって再現された嗅覚は異臭を捉えた。
似ている。
ユーサは思った。
召喚された異世界で、初めて戦った魔物もゴブリンだ。
どんな偶然か、目の前にいるゴブリンたちの姿はその時のゴブリンたちにそっくりだった。
一体のゴブリンが持っていた棍棒を振り上げる。
それに呼応して、後ろの二体が何かを喋るように呻く。
言葉の意味はわからないが、明らかに会話をしていた。
「なるほど。リアルだ」
よく出来た作り物。
この時、ユーサの認識はまだその程度だったがゲームを始める前のあの億劫な気持ちはすでに消えていた。
その証拠に口角が僅かに上がっている。
ゴブリンたちが同時に飛び掛かる。
ユーサは剣を抜いた。
初期装備として最初から持っていた唯一の武器だ。
一番前にいたゴブリンが振り下ろした棍棒を剣で受け止める。
金属と硬いものがぶつかる音がして、衝撃がずっしりと腕に伝わる。
その感覚はとてもリアルだった。
脳裏に異世界での戦闘の日々が思い起こされる。
「なんの指示もなし……か」
戦闘が始まっても何のチュートリアル表記もない。
大抵のゲームは初めての戦闘の際に何かしらの指示が出るものだがラフクエにそのシステムはないようだ。
「なら、自由に戦っていいってことだよな」
ユーサは剣を振り払い、片方の手で体勢を崩したゴブリンの身体を掴む。
ぐにゃり、と人間とは明らかに違う肌の感触が伝わる。
こんなところまでリアルにしなくても……と気色の悪さを我慢しながら掴んだゴブリンを後ろの二体目がけて放り投げる。
「よし。リアルさを追求しているって言うだけあって戦い方は直感的だ」
VRゲームの中には昔のゲームのシステムそのままに戦闘をコマンド方式にしている物もある。
どちらがいいかは一長一短なのだろうが、ユーサはアクション性の強いゲームの方が好きだった。
現実で身体を動かすのと同じようにゲームの中でも戦えるからだ。
そういったゲームでは現実世界での運動神経が物をいう場合が多い。
昔からゲームが好きなだけあってユーサはこういうタイプの戦闘に慣れているし、現実での運動神経も悪くない。
何より、異世界で戦ってきた二年間の経験が活きている。
過去の自分よりも圧倒的に動きが良くなっていることにユーサは気づいた。
しかし、経験だけではどうしようもないこともある。
武器の耐久値だ。
手にしているのは勇者が使う聖剣でも、王様がくれた高級な装備でもない。
ゲームを始めたプレイヤー全員に等しく配られる質の悪い鈍らの剣だ。
その剣には棍棒の一撃ですら荷が重かったらしい。
攻撃を受け止めた際に僅かにヒビが入ったのをユーサは見逃さなかった。
ゲームによっては武器の耐久値が数値として表示されることもあるが、ラフクエでは違うらしい。
けれど、目に見える剣のヒビを無視することはできない。
「マジかよ……」
ボヤきつつ、ユーサは走り出した。
いくら異世界で魔王を倒した勇者とはいえ武器なしでは戦いようもない。
それに、ラフクエはレベル制のRPGだ。
どんなに運動神経がよく、異世界で戦闘の経験があろうとも超えられない壁はある。
ゲームを始めたばかりのユーサは当然レベル1。
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状況を鑑みてユーサは一先ず逃げることを選択したのだった。
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