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勇者、街に到着する
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しおりを挟む襲われていた男性は商人のトーマスだと名乗った。
隣町のナナラクからユタムの街へと商品を運んでいるところを先程の狼達に襲われたのだと言う。
街道をいく馬車を魔物が襲うことは滅多にないが、先程の狼達はどこか興奮した様子だったとハンクさんが教えてくれた。
どこかで他の魔物か冒険者と戦い、勝てないと踏んで逃げてきたところを馬車と出会したのだろうということだった。
「トーマスさん、こっからユタムの街はまだ少し距離があるでしょう。どうです? 護衛の冒険者がいないなら俺たちを雇いませんか? 乗せてってくれるなら依頼料はタダでいいですよ」
とハンクさんがトーマスさんに持ちかけると、トーマスさんは「それはぜひ」と返事をした。
そのおかげで俺たちは残りの道を歩かずに済むようになり、スペースを開けた荷馬車の後ろに乗せてもらった。
勇者の肉体のおかげであまり疲れずに歩ける俺だが、それでもやっぱり歩くよりも馬車の方が楽だった。
道が綺麗に舗装されているわけではないためか、馬車は車と違ってガタガタと大きく揺れていたが、それはそれで不快ではなかった。
通り過ぎて行く景色を見ながらゆっくりと進む馬車はどこか新鮮で心地が良かったのだ。
「ハンクさん。さっきは凄くかっこよかったです」
と馬車に揺られながら俺はハンクさんに伝えた。
オーガと戦った時に誤解をさせてしまい、その後気を使わせてしまったこともあって俺は申し訳ない気持ちになっていた。
だから、狼と戦っていた時のハンクさん達のカッコよさを素直に伝えたかったのだ。
俺の気持ちがどこまでハンクさんに伝わったのかはわからない。
けれど、ハンクさんは照れ臭くそう顔を赤くしながら
「そうだろ」
と言って笑っていた。
その後馬車は何かに襲われることもなく順調に進んでいき、夕方陽が沈む前にはユタムの街が見えてきた。
「あれがユタムです。街を囲む大きな門は昔の魔法使い達が建てた物で魔物を阻む結界が施されているそうです」
と、馬車から見えるユタムの街を見ながらセーラさんが教えてくれる。
俺はこの世界に来て、魔物以外で初めての異世界感を味わっていた。
街のほとんどは門と壁に阻まれて見えないのだが、その中で一際大きな建物だけが顔を出している。
城のようなその建物はこのユタムの街の領主が住んでいるところらしい。
セーラさんから街の説明を聞きながら俺は自称神のお爺さんに言われたことを思い出していた。
「街に行って貴族と親しくなれ」
その言葉に従うのなら、俺はこのユタムの街でそこの領主と親しくならなければならない。
試しにセーラさんにどうすれば領主に会えるかと聞いてみると
「え? 領主様にですか? うーん……それは難しいと思います。一般人がなかなか会えるような方ではないですし」
と頭を悩ませていた。
やはり、勇者だということを明かすしかないか。
いや、そもそも勇者だと信じてもらえるのかが問題だ。
セーラさん達は俺の姿を見て、俺の「ハル」という名前を聞いても俺を勇者だとは思わなかったようだ。
それは即ち、俺の実力が勇者には見合わないからだろう。
ひょっとしたら街に行って「自分は勇者です」と言っても勇者の格好をした痛いやつだと思われるだけもしれない。
「そういや、ギルド長には領主様と謁見する権利があるって聞いたことあるな」
話を聞いていたタタルさんがそう教えてくれる。
なるほど。ギルド長というのなら、ギルドの偉い人なのだろう。
ハンクさん達について行って冒険者ギルドとやらに行ってそこでギルド長に領主に取り次いで貰えるように頼んでみるか。
なんにせよ、街にはついたのだから後はついてから考えようと俺は呑気に馬車に揺られていた。
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